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性同一性障害になやむ若いMTF当事者に向けてのメッセージです

カミングアウトは戦略的に(移行前の心得⑤)

2008-10-06 23:13:33 | 移行前の心得
 この記事を書く数日前、NHKの「ハートをつなごう」で、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(≒GID))特集をやっており、若い当事者がカミングアウトすることを肯定的に扱っていました。
 しかし、私の頭が古いのかもしれませんが、GIDについては、カミングアウトして理解されて万々歳!・・ではありません。MTFの多くの人の性別の目標は、埋没だと思います。最終ゴール地点は、あなたが過去男性だったことを知っている人がいない場所で生活し、働くことだと思います。極端にいえば、あのパス度の綾菜ちゃんでも、大々的にカミングアウトすれば埋没できません。逆に、(私のように)少々外見のパス度に難があっても、街の中でふつうに埋没しているMTFはたくさんいます。もし、将来後者のようになりたいなら、カミングアウトは計画的に、戦略的に行わなくてはいけません。

 例えば、あなたがGIDであることを、学校のすべての人たちに伝える必要はあるでしょうか。もし、学校で女子として扱って欲しいのであれば伝える必要はあります。けれど、そうでないなら、言う必要はありません。
 また、戦略的と言っても、どうにも苦しくて私のことを分かって欲しい、そういう思いがあるのに、将来不利になるから言わない、これも自分にとってまずいことだと思います。言うことで道が開けることもあります。

 何が言いたいかというと、カミングアウトは、ある目的があって初めて必要になってくると言うことです。勿論その目的の中には、友達に自分のことを知って欲しいという欲求も含まれます。大切なのは、カミングアウトするから目的に近くなるのではなく、目的を達成するためにカミングアウトをするべきということです。

○悩みを相談するために
 まずはじめにカミングアウトをする必要性にかられるのは、「相談」する時だと思います。人によっては相談することなく行動できるかもしれません。もし、「私はGIDだと思うが、どうだろうか?」と悩み、もし、決心がつけば具体的行動に移すのであれば、ある段階で誰かに相談することになるでしょう。それは、ご両親かもしれませんし、学校の先生やカウンセラー、あるいは友人、当事者グループの方かもしれません。
 ばかにされそうで、言うのは勇気がいります。けれども、最悪でも嫌われるだけです。学校中ばらされて嫌な思いをするだけです。とって食われたりしません。一番相談しやすい人に、相談してみましょう。それで、埒があかなかったら、病院を受診することをお勧めします。東京近郊なら、予約後それほど待たずに初診できる有名でしっかりしたジェンダークリニックがあります。

○具体的な目的のために、障害を取り除くために
 例えば家で女性扱いを受けたいとか、ジェンダークリニックに通いたいので保険証が必要とか、そういう場合には、家族へのカミングアウトが当たり前ですが必要になってきます。学校で女子の扱いを受けたいなら、先生やクラスメートへのカミングアウトが必要です。
 けれど、ここで注意したいのは、「女として扱って欲しい」→「カミングアウト」と単純にはならないことです。例えば、カミングアウトしたことで今まで許されていた中性的な趣味や格好が許されなくなるかもしれません。女性化にカミングアウトは絶対必要ですが、カミングアウトそのものは女性化にプラスにもマイナスにも作用します。
 
○自分を知って欲しいという欲求のために
 自分のことを伝えたくて、孤独から逃れたくてカミングアウトするということもあるでしょう。私は、自分もそうでしたし、否定するものではありません。ただ、相手をよく選びましょう。それを聞いて相手がどう思うかは相手の人間性の問題だからです。「これを伝えたがために、嫌われてしまってもばらされていじめられても悔いはない。」そういう思いで打ち明ける覚悟がいります。けれども、理解してくれれば大きな支えになります。

○いいカミングアウト、だめなカミングアウト
 実は、この記事を書くのに少し悩みました。というのも、私の子どもの頃と今では時代が変わってきていますし、また、GIDといっても、本人の趣向、性格、そして家族環境や親の価値観によってさまざまです。ある子にとっていい方法でも、他の子にとってはだめな方法という場合もあるでしょう。また、不適切なカミングアウトが逆に嵐を呼んで数年後結果的に望みの性別で暮らすことができる原因になることもあります。だから、以下に書くことは参考程度にとどめ、自分らしいカミングアウトを模索してください。

・目的を達成するためか、自分の弱さの言い訳か
「将来女性になるために、今猛勉強するから塾に行きたい」
と言うのと、
「心が女だから学校生活が耐えられなくて行けない」
と言うのでは、覚悟の伝わり方が全然違います。
 他のすべては完璧を目指すから性別だけは許して欲しい。のか、性別が食い違っているから他のすべてもできない。のか。正直、勿論後者なのです。けれども、前者を目指してやっていくことが、理解を深めることになります。

・要求は明確に
 カミングアウトして何を求めるのでしょうか。例えば、病院への通院でしょうか。家での女扱いでしょうか。何は(今は)我慢できて何は親がだめと言ってもやるのでしょうか。いつまでに許可がいるのでしょうか。そういうことを明確にしておくと、相手も判断しやすくなります。

・誰が苦しむのか
 カミングアウトすれば、親は例外なく苦しみます。カミングアウトした時点で親不孝なのに、さらに親に「女にさせろ」と要求するのでしょうか。
 親を安心させることです。その他のことで親孝行する。女なんだから料理のお手伝いくらいしましょう。お母さんの愚痴を聞いてあげましょう。
 あなたが親とけんかし、あるいは引きこもってしまったら、「私(親)のせいでこうなってしまった」と親は苦しみます。けれど、もし、あなたが、しっかりと立ち、親の疑問にきちんと答え、「お父さんお母さんごめんなさい、私のせいで悩まないでね」と言えれば、「この子のために、なんとかしてあげたい」と思うものなのです。まあ現実はそんなに簡単ではないですが。どうすれば、性別移行ができ、かつ親の苦しみも最小限に食い止められるのか、それを考えることです。苦しむのはあなたであって、カミングアウトされた相手であってはなりません。

・決めるのは自分の自由、どう思うかは周りの自由
 可能な限り、また時間をかけて話し合った上で、親の理解が得られなくても、18歳まで待てば先に進められます。説得した上で理解が得られなかったら親が反対しても移行する、その決意が大事だと思います。親が理解するしないは親の自由です。親のせいで性別が変えられない・・・なんていう人はいません。勿論、「親が反対するから移行しない」「親を苦しませたくないから移行しない」この結論はありえます。けれど、それは「あなたの判断」であり、無理解な親があなたを苦しめているのではありません。話し合った上で、あなたの責任の下で決めたことです。
 カミングアウトは、
「お父さんお母さんが理解をしてくれないと私は不幸なのよ」
という苦しみの吐露ではありません。
「(理解してくれなくても)お父さんお母さんの子どもとして、めいっぱい幸せになって恩返しします」
という宣言なのです。

 以前ある当事者交流会である精神科医の先生が
「親の理解は長期戦」という趣旨のことをおっしゃっていました。これも、参考にしてください。今の否定や反対が、これからもずっと続くとは限りません。あなたの普段の行動にかかっています。