ありとキリギリス

ありとキリギリスの両面性を持った内面を見つめて交流できれば

「いじめ」との闘い

2019-10-14 18:24:52 | 日記

「いじめ」

小学校時代あまり裕福でなかったけれど読書が好きでした。

同級生に別の学科の校長の娘が在籍していて、文学全集など高額な書籍を貸してくれていましたが。

それを妬んだ、やんちゃ坊主の同級生からいじめられて泣いていたのですが。

中学生になってから「テニス」や「剣道」などスポーツクラブに入ったことから、少し「腕っぷし」に自信がつき

小学校時代にいじめていた、やんちゃ坊主にやり返した思い出があります。

仕返しは良くないことですが、学校生活がスムーズになったことはラッキーでした。

成人してからの事ですが、グループ活動で一緒に活動していた「女の子」が電車に飛び込んで自殺したことを思い出します。

精神的な弱さがあり精神病院に通っていたことは知っていましたが、「自死」の出来事はショックという言葉しか出ません。

「いじめ」が原因で「自死」の道を選んでしまう若者のニュースを目にすることが多くなり、何か手立てはないのかと思案しながら、

「いじめ」の対象にならないように、自らを強固にすることも大切ではないかと思います。

少し昔のアメリカ映画で「ベスト・キッド」というのがあり、何作か続いたのを覚えています。

高齢者の知恵ですが、学校に「合気道クラブ」を作って、いじめられる子どもに参加するのはいかがでしょうか?

攻撃のすスタイルを持たない武道は、相手を傷つけることがないので「ベスト」です。

今、学校にクラブを作れないか関係者と連携模索中です。

添付の「阿修羅」像は正しい教えを守るために戦う守護神ということで。最近フアンになりました。


孔雀物語

2017-09-26 12:06:35 | 映画用作品
「孔雀物語」 (薫)は6時間目の授業を終えると、いつものように同級生の(静香)と帰りながら、2ヶ月 先の「文化祭」の話題で盛り上がっていました。 二人とも、学校のクラブには所属せず、特に裕福な家庭の(静香)は両親が名の知ら れた音楽家で、幼い頃から「バイオリン」を習わせており、高校を卒業すれば「ドイツ」 に留学する予定で、その卓越した演奏技術は先生等には知られていて、今度の「文化 祭」には独奏の時間が組まれていることが、親友の(薫)はうれしくてしかたありません。
 
そんなに仲の良い友人ではあるのですが、少し前までは、(静香)とは全く家庭環境の 違う(薫)とはほとんど会話を交わしたことのないクラスメートでしたが、「ある事」をきっ かけに(静香)の方が(薫)との距離を縮めてきて、学校にいる間は、ほとんど姉妹のよ うに一緒にいるようになっています。
 
「ある事」とは、お嬢さん育ちの(静香)ですが、特にそんな育ちや環境を自慢すること もなく、かえって目立たないように一人過ごすことが多いほうでした。 それは、「バイオリン」の演奏技術を高める事に集中したく、あえて友達をつくって交流 をする時間を惜しんでいたからです。 しかし、そんな態度を逆に「お高くとまっている」と勘違いして思い違いをされるのはあ り得たことかもしれません。
 
その通りに、校内で教師たちにも敬遠され、「白薔薇」というあだなで10人以上の生徒 のグループを作っている中でリーダー格の(美雪)には、時々いじめ的なことをされて いました。 (美雪)は元々弱いものいじめをするような人間ではなかったのですが、自分がもし(静 香)のように裕福な家庭に育っていたら「音楽家」になりたかったのですが、父親が仕 事をせず賭け事にはまってしまい家庭を顧みず、母親の必死の頑張りでなんとか高校 に行かせてもらっているために、趣味の延長のような「音楽家」志望のことは一切口に したことがないのです。恵まれない環境のせいで望むことができないことから 父親を恨むことはありますが、懸命に働き続け自分を学校へ通わせてくれる母親のこ とを考えると、それ以上の気持ちを顕わすことができなかったのです。 その分(静香)に対して特別恨む気持ちがあるわけではないのですが、自分の中に鬱 積した気持ちを紛らわすために(静香)に対する「いじめ」の行動に出てしまっているの かもしれません。 それは、はきはきした性格から授業中も教師の講義の仕方が気に入らないとくってか かり、一歩も引き下がらない態度をとる姿勢は、いつの間にか、学業成績の悪い数人 の生徒から頼られるポジションになってしまった事が、その仲間も(静香)へのいじめを
増幅させていってしまったのでした。
 
(薫)は同じクラスの中で、時々(静香)がいじめ的なことを受けているのは分かってい ましたが、自分の「正義感」から(静香)を護ってやろうとまでは思っていませんでした。 ちいさな子どもが、クラスメートの靴を隠して困らせるような単純な行動だったので、他 人事として知らないふりを続けていたのです。 しかし、夏休みに入る前に(静香)が文化祭での独奏の技術を先生らに観てもらうため に大切な「バイオリン」を朝から教室へ持参した事が発端になり事件が起こってしまい ました。 授業が始まる前に、(静香)が大切そうにケースに入ったバイオリンを持ってきて机の 横に置いたのを見た瞬間(美雪)の目が、恐ろしく怒りで一杯になりました。 学校では、授業での必要なもの以外持ってきてはいけない規則になっているのです。 そのことは、(静香)は十分分かっているのですが、学校側から一度、その演奏技術を 披露してほしいとの要望があり、両親にそのことを伝えたところ、父親が自ら演奏に使 っている「バイオリン」を貸してくれ大切に持ってきたのです。 放課後に校長をはじめ数人の先生が音楽室に集まった前で披露することになってい たので、学校の規則は除外されると思い、さらに、父親の大切な「バイオリン」なので片 時もそばから離さないでおこうと、自分の席までもってきていたのです。 その様子を見た「白薔薇」のメンバーが立ち上がり、(静香)に文句をつけようとしたとき、 当然(美雪)も同調してくると思って構えていた仲間が(美雪)の顔をうかがうと、一瞬そ の目が笑うようになり、顎をしゃくり、メンバーに席へ戻るような仕草を見せたのです。
 
メンバー達は少しいぶかった様子を見せましたが、リーダーの(美雪)の指示なので従 う以外なかったのです。 父親の「バイオリン」は世界の演奏家がうらやむ名器で、まさか自分に簡単に貸し出し てくれるとは思っていなかったので(静香)は放課後の演奏のことで頭が一杯になり、 ほとんど授業の内容が頭に入らず、まさか「バイオリン」を教室に持ってきたことが規則 違反になり、何人かの生徒の気持ちを害しているとは思ってもしなかったのです。
 
午前中の授業が終わり、昼食時間になりました。 この学校では教室ではなく、全生徒が食堂に集まり先生も一緒になり、学校側が用意 した給食的食事をする形式になっているので全員が教室を離れなくてはならないので す。 大切な「バイオリン」がある(静香)は一瞬、食事を抜いて「バイオリン」と一緒におろうと も思いましたが、自分だけ勝手な行動は気が引け、少しだけ食べてすぐに教室へ戻ろ うとしました。
その通り、後ろ髪を引かれる思いながら食堂で少しだけの食事をして、急いで教室に 戻った〈静香〉は目の前にある事が信じられず、現実だと理解したとき立っておられず、 気を失ったように崩れてしまいました。 他のクラスメートが、今食べてきた食堂のメニューの事をあれこれと批評しながら、午後 の授業のために教室に戻ったとき、教室の入り口に死んだように横たわっている人間 がいることに悲鳴をあげながらパニックになったと同時に、それが食堂から先に戻った はずの(静香)である事に気付いたときは、更に大きな声で騒ぎだして、すぐに教員室 へ担任の教員を呼びに行きました。同室の職員も、生徒のただ事ではない様子に走 って後を追いかけ教室へ向かったのです。
 
担任の(大崎先生)がすぐに、倒れている(静香)を抱き起こしたとき、彼女は少しふら ふらしながら立ち上がったのですが、その顔は真っ青で幽霊のように正気を失った様 子に、周りを取り囲んだクラスメートが後ずさりするほどでした。そしてそのまま 取り囲んだ後ろの方にいた(美雪)の前に進んだのです。 その顔は泣いているようにも見えたのですが、その口から発せられたのは誰もが思い もしなかった言葉でした。 (静香)は低く静かに確信の声で(美雪)に向かって  「バイオリンを返して!」と手を差し出したのです。 目の前にたたれた(美雪)は、少し後ずさりしましたが「白薔薇」のメンバーを見渡し 今度は、(静香)の胸をつかみ 「頭、可笑しいのと違う!お嬢さん育ちで、好きなことをさせてもらったあげくに、(せん こう)にちやほやされて、校則に違反して持ってきたものが無くなったからといって、な んで私に矛先を向けるのさ!実際、さっきまで一緒の食堂にいたじゃないか!」といい ながら(静香)を突き飛ばして、「白薔薇」の仲間に目で合図したのです。
 
その合図を待っていたかのように「白薔薇」のメンバーは(静香)に暴力を振るおうとか まえたのです。 その様子に教員達が「白薔薇」のメンバーを制止しようとしましたが、普段から連中に 関わると、後から、暴力団風の男達に因縁をつけられるようになっていたのでその場か ら離れようとしてしまいました。 5,6人の「白薔薇」のメンバーが(静香)を押さえ込み、(美雪)がその顔面に拳を振り 下ろそうとした瞬間、遠巻きにしていた輪の中から飛び出し、(美雪)の腕をつかみ、更 に逆手に関節を締め上げ、痛みに悲鳴を上げた(美雪)を投げ飛ばしたのです。 それは(薫)でした、少したじろいだ他の「白薔薇」のメンバーも目の前の出来事に あっけにとられながら、リーダーを投げ飛ばされて逆上し、一斉に(薫)につかみかかろ うとしましたが、あっという間に(静香)と同じように廊下に投げ飛ばされてしまいました。
 (薫)は「合気道」の有段者で祖父の「合気道道場」の師範格の地位にあったのです。 学校のクラブに所属せず、いつも早く下校するのはそのためで、そのことは学校の先 生を含めてだれも知らなかったのです。 普段クラスの中では目立たなくおとなしい存在だった(薫)がとった行動に、生徒だけ でなく、教職員達も驚きその場にたちつくすだけでした。 暴力から逃れられた事に安堵する様子もなく(静香)は肩をふるわせて泣きじゃくって います。 そのそばに立った(薫)は(静香)に問いかけました。 「バイオリンがなくなったのが(美雪)だと、なんで思っているの?」 泣きながら(静香)はこたえます。 「なぜだか知らないけれど、いつも(美雪)はグループの人たちと一緒になって  私のものを隠したり、試験や体育の時に邪魔したりしていじめるのは(薫)だって 知っているでしょ。今日のことも、本当は大切な「バイオリン」だから、何か、いたずら されるんじゃないかと心配していたから、昼食も行かずに教室に残ろうとまで思って いたのよ。 だから、食事を途中で済まして急いで教室に戻ったら、心配が現実にな ったから、瞬間に(静香)と思ってしまったのよ。」 (薫)は、まだうずくまっている(静香)の前に立って話します。 「(静香)は、最後まで食堂にいたから、バイオリンに関しては違うかもしれないけれど  仲間の(洋子)が調子が悪いといって一寸の間トイレに行ってたよね。」 そう言うと、さっき、(薫)に投げ飛ばされたグループメンバーの(洋子)の前に立って (薫)が言います。 「(洋子)あんたかい?はっきりしなよ!手加減しないよ!」 すっかり気持ちの萎えてしまった(洋子)は、(美雪)の同意を得るように顔を見て、捨て ばちな態度で、 「ああ!そうだよ!」「バイオリンのケースごとつぶしてやろうと、食堂に行くときに(静香) としゃべっていて、私がトイレに行く振りをして教室に戻ったけど、時間がなかったから、 掃除道具入れの棚の上に隠したのさ! あそこにあるよ!」 そのやりとりを聞いていた(静香)は、掃除道具入れの棚に駆け寄りバイオリンケースを 取り出し、赤ん坊を抱くようにケースをしっかり抱えました。
 
そんな出来事があってから、「白薔薇」グループから「いじめ」が無くなった(静香)は (薫)との距離が近くなり、学校の帰りもほとんど一緒になっていました。 そして2,3日後の学校の帰りに(静香)から両親がお礼に自宅に呼びたいと言ってると のことで、環境の違う家庭への訪問は気が進まなかったけれど、申し出を受けることに なり、学校から一緒にもどり、(静香)の自宅で、両親から丁寧なお礼の言葉をもらって
から軽い食事の後、父親と(静香)のバイオリン、母親のピアノの重奏を聴かせてもらい、 少し遅くなってから帰宅の道をもどっていたのです。
 
暗くなってからでしたが、自宅では味わったことのない食事や、親子3人の見事な演奏 を聴かせたもらった心軽やかになっていた後だけに、路地の中から突然人らしい物体 が飛び出してきたのには、さすがの(薫)もかわすことができなく道の端まで突き飛ばさ れてしまいました。しかし、身についた「合気道」の技がすぐに体制を立ち直らせ身構 えたとき、飛び出てきたのが若い男と分かったのを認識する間もななく、2人の男が、 目の前につったっている(薫)を突き飛ばし、最初に飛び出てきた男につかみかかって いました。 (薫)が声を出す間もなく、若い男は2人の男に胸倉をつかまれ、みぞおちを膝られ、 殴られたりしていました。そして、その勢いは、わけのわからなく傍に立ち尽くしていた (薫)に向けられ、 一人の男が「じゃまじゃ!」とさけびながら押しのけようとした手が伸びてきたとき、 その体型は一瞬に崩れ、2、3メートル先に転がってしまいました。 それを見た、若い男に殴りかかっていたもう一人の男の顔が、女子高生らしいものに投 げ飛ばされた仲間の事が信じられない様子になりながら、殴りつけていた若い男の胸 ぐらを離し、(薫)に向き直り、ボクシングのようなスタイルで打撃を加えようとかかってい きましたが、その身体も腕をつかまれ、関節技で地面に転がされ痛みに苦悶の声を出 してしまっていました。 殴られていた若い男は、事情があって逃げてきた様子で、少し気になった(薫)でした が、とりあえず自分への災いを取り除くことができたので、突き飛ばされたとき拍子で手 から離れて地面に転がっていたカバンをひらおうと身をかがめた瞬間、声を出すまもな く腰にするどい衝撃を感じて投げ出されていたのです。そして、すぐ体勢をを立て直し、 その原因であろう正体を直視したとき、今まで感じたことのない威圧感で立っている男 が別にいたことがわかったのです。 (男)は静香に一言発します。 「元気のいい、おねーちゃんだね! 「合気道だな!」さらに「どこの道場?」 男の次の攻撃に構えながらも、すこし穏やかな雰囲気の話し方をされた(薫)は 何故そんなことを聞くのかと訝しく思いながらこたえます。 「三皇だよ!」 その返答を聞いた(男)の眼光が更に鋭くなり「キララ先生か」 (薫)は(男)から「キララ」の言葉が出たことに動揺して、(男)に聞き返します。 そのはずで「キララ」は「雲母」と書き、日本に5世帯くらいしか存在しない名字なので その名前を知っている目の前の(男)を凝視したままでした。 「なんで、おじいさんの名前を知ってるんだよ!」
(男)は、その返答に驚きの様子をさらにふかめ 「おじいさん? じゃあ、おまえは孫の(薫)?」 (薫)は次の攻撃があると身構えながらも、見知らぬ(男)の口から自分の名前が出たこ とに訳も分からずに「なんで?私の名前をしってるのよ!」 (男)はこたえます。 「知らない間に、大きくなったんだな! キララ先生は元気かい?」と少し昔を懐かしむ ような顔になりながら、(薫)に投げ飛ばされた2人の仲間らしい男達に向かって 「女にやられるような情けないやつらと一緒と思われるんじゃ格好悪いもんだ。  (ケン)のことは、もういいから引き上げだ!」 そう言われた2人の男は、半分納得できない様子で「(おやじ)になんと報告するんで すか?」と、兄貴分らしい(男)に訪ねますが (男)は「女子学生に邪魔されて、仕方なく、すごすご逃げてきましたって言えるんか い?」と2人の男達に、さげすむような口調で命令して、更に、先ほどから2人に殴ら れてこわばってうずくまっていた(ケン)らしい若者にも 「調子に乗って、力もないのに俺たちと同じものだと格好つけて、ガキどもの大将にな ってるんじゃないぜ、(おやじ)も許しもしないのに勝手に、名前を使われておこって るのはお前もよく分かてるだろうから、次がないのは腹に収めておけよ!」 そして(薫)に向かって、「キララ先生を大事にしてあげろよ!あんまり女が強いのは格 好良くないな!」と、自分の娘に語りかけるような優しい口調を残して、2人の男をせ かすようにして、その場を離れていきました。 もっと厳しく制裁されるとおびえていた(ケン)らしい若者と(薫)は狐に化かされたような 顔になりながらも、一応難儀なことから解放されたと安堵して互いに顔を見合わせまし たが、元々関係のない(ケン)らしい若者から早く離れたかった(薫)は、少し暴れて汚 れた制服をはらって立ち去ろうとしたとき(ケン)が(薫)に 「余計なことに巻き込んで悪かったな!しかし、強いんだな!びっくりしたよ!」と 自分をほめるような言葉をかけられたことより 少し前までの(静香)の家での楽しかった時間の思い出が、一瞬に壊されたのがこの (ケン)らしい男のせいだと思うと、顔を殴ってやりたいくらいの腹立ちだったけれど、 本当は、道場で小学生などの練習を見る役目だったのを、道場主の祖父に代役して もらっているので、少しでも早く道場に戻りたかったので、駆け足でその場を去ってい きました。 約束していた時間に少し遅れた(薫)は、小走りして息が弾んでいたのを鎮めるために (三皇道場)の前で大きく深呼吸をして、道場の入り口で、丁寧に礼をして中に入りまし た。本来、自分が指導する小学生で熱気のある道場は時間が過ぎており 道場主の祖父が一人、合気道の練習に使う道具を片付けていて少し静かな空間が広 がっていました。
いつもなら、道着に着替えて道場に入るのだが、制服のまま(薫)は祖父である道場主 に「先生!ありがとうございました!」と正座して頭を下げ、代役してもらったことの礼を 述べました。 (薫)から礼を受けて姿勢を正した道場主(雲母 貢三)は、(静香)の家から招待され ていたことを尋ねながら、(薫)の制服の肩に少しの汚れがあることに気づき、 「何かあったのかな!」と(薫)の顔を覗き込みました。 先ほどの事故のような出来事を知られないように、汚れを叩き落としたつもりだったの ですが。わずかな肩の汚れを落とし切っていなかったのを道場主に見つかり、少しバ ツの悪い顔になりましたが、叱責を受けるようなことでもなかったので、先ほどあった事 柄を説明し、さらに自分の師匠である祖父のことや、自分の名前を知っていた(男)の ことを話しました。 そのことを聞いた道場主(雲母 貢三)は、孫の(薫)に特別な事態があったのではな いことで安心しながらも、話の内容に思いついたらしく(薫)を前に座らせて話を始めま した。それは少し昔のことを思い出すようにゆっくした様子でした。
 
「(薫)が2歳くらいだから、15年位前だったかな、時々、お前のお父さんの(浩)と道場   に見学にきていた頃だったかな、(浩)にこの道場を継いでほしいと思って口説いて いた頃だよ。だけど(浩)は美術の方へ進みたいと考えていたので、結局、絵描きに なってしまったよな。まあ!それはそれで良かったのかもしれないし、私の願望を押 しつけていたことで、一時(浩)を苦しめたのかも知れないね。だけど、一緒に来てい たお前が「合気道」にのめり込むとは思っていなかったことだけどね。その頃のことだ から(薫)はほとんど覚えていないだろうけれど、(伊勢田 允){いせだまこと}という 青年が熱心に道場に通うようになり、2 年位で跡継ぎになれるかと思うほどの上達ぶ りだったんだ。だけどお前も分かっているように「合気道」はあくまでも身を護ることが  本質だから、攻撃に対する教えではないんだね、(伊勢田)君はそれに不満らしく退 館して「空手」の道に進んで、元々、素質があったからすぐ上段位になったんだけど、  10 年くらい前に、(巽)という名前の知れている「ヤクザ」の親分が襲われた時に偶然 居合わせて助けた事がきっかけで、気に入られて、そこの配下の身分になったとは 聞いている。今日、お前が会ったのは、その(伊勢田)と思うね。」更に、道場主は続 けます。  「これは、人から聞いた話だから確かではないけれど、(伊勢田)君は、その道に   進んで入り込んだのではなく、田舎のお父さんが身体を壊し、治療費を作るのに相 当苦労してたらしく、その辺の処、(巽)さんが自分のボデイガード役にそばに置きた かったんだろうね。(伊勢田)君もそんな事情から本意ではなかっただろうけれど、親 孝行のつもりだったんだろうけれど、それなりの枠のなかでやりきるしかなかったんだ ろう。それなりの地位に有るようだね。 お前を攻撃できたのだから腕は確かなんだ
ろうよ」 そんな話を聞きながらも(薫)は心底(伊勢田)という男の生き方には納得できない様子 を見せていました。 (薫)の気持ちを、その態度から読み取った(雲母 貢三)」は 「たとえ、少しの間でも(三皇道場)に通ったものが、アウトローの世界にいることが不満 のようだね」 「必死で合気道の道を究めようと頑張っていた(伊勢田)君が、世間から認められにく い処にいることは、私としては喜びたくない けれど、生きるということは難しい事なんだね、まして自分のことでなく、お父さんの命 に関わっていることだからな。  一度世話になった組織は自分の都合で離脱できないことは、はっきりと理解していた はずだから、(巽)さんの誘いを了承するには、ずいぶん苦しんだろうね。」 「今日は(薫)も疲れただろうから、早く帰るんだね。親には今日の出来事は話さない方 がいいと思うよ!」
 
いろいろと昔の事情を祖父から聞かされた(薫)は、祖父と父親がなんとなくしっくりき ていない事情や、今日、おかしな出会いをした(伊勢田)という人物が、わずかながらも 自分に関わりのあることを知り、まっすぐな生き方を教えられてきた若さからか、少し心 のわだかまりを持ってしまったのは仕方のないことかも知れません。
 
思いもかけない事柄があった時間も過ぎ、すぐに「文化祭」の日が来ました。 父兄や地域の名士も招待され、市内の有名なホールを借り切って、学校のエネルギ ーを一気に爆発させるように、先生、生徒が一体になって任された技術を披露し、会 場の人たちの心に感動を与えました。 特に(静香)のバイオリンの独奏は、弦がその音色を発した瞬間から聴衆の気持ちを引 き込み、徐々に演奏が進むにつれ身体ごと天空に登ってゆくほどの不思議な感覚を みんなに与えていました。そしてそれは、普段妬みからいじめをしていた(美雪)をはじ め(白薔薇)のメンバー達の心にも少なからず変化を興させたようでした。
 
全校あげての大仕事の「文化祭」の緊張もなくなり、普段の授業状態に戻ってから (薫)も、任されている小学生の指導だけでなく、「合気道」の全国大会の推薦出場の 機会を与えられているので、体力作りのため早朝5時過ぎから近くの川に沿った堤防 をランニングするようになっていました。
 
4,5日そんな状態の日程のランニングの途中に「合気道・全国大会」出場に向け、気 持ちを整えようと、堤防に備えられたベンチに腰掛け瞑想し始めたその時、急に(薫)
の肩を軽くたたき、「おはよう!」と声をかけられたのです。 その声に目を開け振り向いて、その姿を見たとき(薫)はバネ仕掛けの人形のように立 ち上がり、瞬時に「合気道」の構えをとっていました。 声をかけたのは(伊勢田 允)でした。 (薫)に合気道の姿勢をとられた(伊勢田)は自然と体が反応して緊張の様子を見せま したが、すぐに顔をほころばせ 「(薫)ちゃんだったね!・・・この間はすまなかったね!俺たちのごたごたに巻き込ん で悪かった!」 声をかけられた(薫)は、(伊勢田)の話しぶりに緊張をほぐし、合気道の構えを解いて 「伊勢田」さんて言うんですね!」と返事しました。 (伊勢田)は、少し口元を緩め「(雲母)先生に聞いたんだな!」 (薫)は「少しね! (伊勢田)さんはなんでここにいるんですか?」 (伊勢田)は、応えます。「今の環境は、あまり感心したものじゃないからね、だからたま に早い時間に体の調整に、ここに来てるんだけど、偶然てなものがあるんだね。  ベンチの(薫)ちゃんを見て少し驚いたよ。先生に聞いたんだったら、俺の今の状態 も知ってるわけだな。」 (薫)「ええ!」 (伊勢田)「少し時間あるのかな? 学校は?」 (薫)「今日は、学校の記念日で休校なんです。だから大丈夫ですよ」 最初は、その存在をいぶかり、早くこの場を離れたかったのですが、少し話している内 に、道場主の祖父から聞いた(伊勢田)の過去が「合気道」でつながっているという 親近感がおこり、話す時間をとることに賛同していました。
 
(伊勢田)「俺のいるところは、気ままな生き方のように思われるかも知れないけれど  なかなか自由でもないんでね!まあ!1時間くらいかな!横に座ってもいいかな?」 と言いながら、(伊勢田)は(薫)のいるベンチの横に座ってきました。 (薫)は少し身体を横にずらし(伊勢田)のスペースを空けながら、なにを話すのかと 思いながら、最初出会った時の鋭い眼光の男が優しく声をかけてくれていることが 「合気道」の仲間という意識を持ったからそういう風になったのかもしれません。
 
(伊勢田)が話始めました。  「俺は、山口県の柳井という田舎から出てきたんだ。小さな、旋盤工場に就職できた のは良かったのだけど、負けず嫌いで、すぐに先輩より腕が良くなり、工場主から大 事にしてもらったのが、先輩らに嫌われる原因になって、工具を隠されるようないじ めだけでなく、腕力のあるやつらに無茶苦茶な因縁をつけられて暴力をふるわれた り、金をゆすられたりしていたんだ。いじめ、暴力は辛抱できたんだけど、田舎の親
父が病弱で、精一杯給料の中から治療費にと送っていた金をゆすられるのが辛抱 できなかったんだ。だけど仕事を辞めれず悩んでいたとき、テレビで「三皇道場」の  (雲母)先生の事のドキュメントが放送されていて、道場が近くにある事が分かってす ぐ、入門したんだ。テレビで見た(雲母)先生の技を習得できたら、俺をいじめる先輩 を負かしてやれるんだと思ったからなんだ。素質があったのか先生に見込まれるほ ど上達したんだけれど、攻撃できないことに徹した教えだったから、攻撃主体の空 手に転向したんだが、それが思わぬ道へ入った原因かも知れないと今なら思えるん だけれど、取得した技にうぬぼれさしてしまったんだ。 いつだったか、空手道場の帰りに、すれ違った男の気配が以上に殺気だっていた のが気になり、後をつけてみたら、あるクラブの前で人を待ち伏せしているような殺 気の男に気づいて様子を見ていたら、クラブから店の女に囲まれるように出てきた貫 禄のある男性が出てきて、数人の若い男が迎えの車に誘導するように歩きだしたとき、 俺の前の男が、一気にその前に飛び出し、その手に短刀のように光る物を握ってい たんだ。周りにいた男達がすぐに気付いて、防御の体勢をとったんだけれど、一人 が腕を切りつけられ、他の男がひるんだときに短刀を持った男は更に前に出て、店 から出てきた男性の方へむかっていったのさ。その時、俺は反射的に大声を出して その男に体当たりしたんだが、相当修羅場を踏んだように冷静に俺に対応してきた んだ。 一瞬、これはやられると思ったんだけど「合気道」で習っていたように、着ていたジャ ンバーを脱いで手に巻いて短刀の切り込みを防ごうとしたんだ、だけど、それよりも 素早く短刀で足を切られてしまったけれど、なんとか相手の短刀を握っていた腕を つかむことができ、勢いで短刀をたたき折ったんだ。男は俺が押さえていた腕を振り 払い攻撃の姿勢を見せたんだけれど、あきらめたようにその場から逃げてしまったん だ。 襲われた男の人は有名な「巽」の(巽輝)さんだったんだ。今、俺が世話になっいる 組の親分だよ。 傷のこともあり、そのまま組事務所に一緒について行って処置をしてから、(巽)さん に礼をいわれて、俺がなぜ、あの場所に居合わせたのかと聞かれたので、山口から 出てきたが、父親が病気治療が必要で、経済的に相当難儀している事などを話した ら、これからも今日のようなことがあり得るので「ボディガード」として来てほしいと言わ れたんだ。(雲母)先生や空手で学んだことが、そのようなためでないことは十分分 かっていたことなので、申し出を辞退して帰ったんだが、その後、父親の病状が最悪 になり、治療に思っていた以上の額が必要と連絡があって、考えたあげく(巽)さんに 頼む結果になってしまったのが現状ということなんだよ。」
 
じっと聞いていた(薫)が
「(伊勢田)さんも苦しんだのですね。」とねぎらったとき (伊勢田)はこたえます「自分の状態を正当化するための言い訳みたいで、情けない けれど、これでいいとは思っていないよ!それはお世話になっている(巽)親分も、 心の底では同じかもしれないな!」 「長く、しゃべってしまって、練習の邪魔したかも知れないね。ありがとう!そろそろ帰 るよ!」、 と言って(伊勢田)は離れていきました。
 
(薫)は離れていった(伊勢田)が、遠くに姿が見えなくなっても、話してくれたことを しばらく心の中で反芻していました。女学生の自分の判断力の未熟さを反省しなが ら、優しい両親や祖父の元で育てられている事への感謝を、どこかに置いてきぼ りにしているのだと思っていました。
 
少しの時間、ベンチでの休憩を終えて、自宅へとランニングを再開して堤防にかか る橋桁を通過しようとしたとき、その場所はホームレス状態の者が幾人か根城にし ているところで、(薫)もあまり好ましいところとは思ってなかったので素早く通り過 ぎようと思い、足早になったのですが、いつものホームレスの者達だけでなく、数 人の若い男が、それぞれ手にパイプのような物をもってホームレスのなかの若い 男に詰め寄り危害を加えようとしている風に見えました。 (薫)は、その様子を確認しながらも取り過ぎようと数歩歩き出したとき、危害を加えら れそうになっているホームレス風の若い男の顔に見覚えがあるように思い立ち止 まりました。 パイプをもって取り囲んでいる男達は、怒りにまかせたように殴りかかっていきました。 若い男は、あまり抵抗する様子もなく身体を丸めたままでした。他のホームレスの者 達もかばうことができず、距離を置いて見ているしかないようでした。 (薫)は、危害を加えられているホームレス風の若者が、先日(伊勢田)等に追われて いた(ケン)という名前らしい男である事が分かったので、助けてやろうと思い一歩 まえに出ようとしたとき、パイプを持って攻撃していたグループの動きが止まり視線 が外へ向けられ、おびえたように2,3歩下がりだしたのです。そしてその視線の先 にはいつの間に現れたのか(伊勢田)の姿がありました。 (伊勢田)が押し殺した声を発します。 「お前等、俺のことを知ってるな!」 攻撃していた若い男の一人が、背中を丸めて、小さな声で「はい!」とこたえました。 「この(ケン)はお前等のリーダーじゃなかったのか?なんでこんなことになってるん だ?」 (伊勢田)に問い詰められた若い男は(伊勢田)の事をよく知っているようで、手に持
っていたパイプを放り出し縮こまって話し出しました。 「俺たちのグループは以前からリーダーを作らずに、家出した奴らなんかと集まって 悪さをしていたんだけど、半年くらい前に(ケン)が仲間に入ってきて、 「自分は(巽)さん処に出入りしていてるんで、どんなことでも大丈夫なんだ」 と言い出したので、自然にリーダーみたいになったんですが、最近急に姿が見えな くなって探していたら、こんなホームレス連中の処にいるんで、まるっきり言ってる ことが嘘だと分かって、俺たちみんなが、やってしまおうとここに来たんです。」 (伊勢田)はその話を聞いて(ケン)に問いかけます。 「お前は、嘘でも(巽)の名前を使ってグループのリーダーじゃなかったのか!」 (ケン)は殴られたところをかばいながら応えます。 「このあいだ、(伊勢田)さん等に追いかけられて、自分のしていたことがバレてグル ープにも戻れなくなって、この辺をフラフラしていたとき、このホームレスの人が俺 の様子がおかしいので声をかけてくれたんです。殴られたりして服も破れていた のがひどかったんだと思います。本当ならそんな声をかけられたら馬鹿にされたと 思って殴っていたかも知れませんが、気持ちも身体も行き場がなくなっていたの で、段ボールの囲いのなかで休ませてもらったんです。食べるものも握り飯のよう な物をもらったりしました。2日目くらいからみんなが夜中に空き缶なんかを集めに いくのにも一緒に行かせてもらったりしていたんです。そうしていたら、このグルー プに見つかってしまったんです。」 話を聞いていた(伊勢田)は,こわごわ立ち尽くしていた他のグループの連中に向か って 「お前らも(ケン)が(巽)の名前を使ったことで、いい恰好できたんだろうが!  お前らも(ケン)と同罪じゃないのか!」 そんな風に(伊勢田)の話が自分のほうに矛先が変わってきたので、少し逃げ出しそ うになっていました。
 
(ケン)を助けようと思った状態でいた(薫)に(伊勢田)が話します。 「(薫)さん!こいつ等を(雲母)先生のところに連れて行って、根性を直してやってく れないかな!」 (薫)は突然の(伊勢田)からの提案に驚くように 「え~!」と言うしかありませんでした 「(伊勢田)さん、自分勝手に道場行きを決めていいんですか?」 そして、(ケン)やグループの連中の顔を見渡しながら、その案はいいことかも知れな いし、道場主も賛同してくれそうだと思いだしていました。 そんな (伊勢田)と(薫)のやりとりを聞いていた(ケン)やグループの連中は不足に思いなが
らも(伊勢田)には逆らうことができず、互いに顔を見合わせてどのように応えよう か、下を向いたままでしたが代表するように(ケン)が思い切った様子で(伊勢田) に向かって応えます。 「俺も、こいつ等も家の環境が悪いんだと勝手に決めつけてみんなに迷惑かける事 を正当化してきましたが、本当は、まじめに学校に通っている奴らがうらやましいと 思っているはずです、だけど一本道を外して歩き出したら元にもどす勇気と根性 がないんです。ここにいるホームレスの方達も少しの時間でしたけれど、一緒にい たら、懸命に生きている事を教えてもらいました。もし、その道場で俺たちの根性 をたたき直してもらえるんだったらお願いします。」そして、グループの連中にも同 意を促していました。 (伊勢田)は、その話を聞いて 「俺はお前等に説教できる立場じゃないけれど(雲母)先生の(三皇道場)は、ここに いる(薫)さんのおじいさんが道場主で、昔、俺がずいぶんお世話になった先生だ から、喜んでお前等を歓迎してくれると思うよ!なあ!(薫)さん!」と 自分の方へ矛先を向けてきた(伊勢田)の提案に(薫)は、急な申し出でしたが気持 ちよく納得し、うなずいて了承したのです。
 
4,5日した夕刻、(伊勢田)と(ケン)を含めた5人のメンバーが(三皇道場)を訪ねて きました。 (薫)は、先日の出来事を祖父で道場主、(雲母 貢三)には伝えていなかったので す。 それは、(伊勢田)がどのように祖父に申し込むのかが分からなかったからです。 (伊勢田)が姿勢を正し 道場の入り口で、深々と礼をして道場の奥へ向かって「雲母先生、伊勢田です」と 声を発しました。
 
道場主(雲母)は特別に(薫)に指導していた手を止め、入り口からかかった声の主 を確かめるように振り返り、その姿を確認して一瞬驚いたようでしたが、すぐに(薫) が、意味があるような顔をしたので、表情を緩め 「懐かしい顔だな! 若い者を連れてきて道場破りかな!」と声をかけると (伊勢田)は、久しぶりに会う師匠を前にした緊張を解き、 「お年を召して、冗談が上手になりましたね!」と打ち解けた態度で道場の中へ入っ ていきました。 道場の正面で(雲母)と(薫)が正座したので、(伊勢田)は連れてきた若者を横に並 べて座り、長い間の失礼を詫び、先日の(薫)との出会いや、連れてきた若者の更 生のために、道場での指導を願いに赴いたことを伝えたのです。
自分がアウトローの世界に足を踏み込んでいながらの提案に対して矛盾があること も心苦しいが、流れに任せて落ちやすい心を「合気道」の修練によって、精神の 充実することが更生への道になると思い、力を貸してほしいと述べたのです。
 
聞いていた(雲母 貢三)は、静かに話し始めました。 「この道場を継いでもらえるかと思っていた(伊勢田)君が、事情があるにせよ、世間 から賛同されない世界へ入り込んだことは、決して心穏やかではなかったのは、 君も理解していたと思うね!ただそのような中で苦しんでいただろうとは想像でき るよ!」 「この若者の更生を願って、道を開いてあげることで、君の過去が帳消しにはならな いだろうけれど、その気持ちは君の亡くなったお父さんが一番喜んでおられる よ!お父さんも自分の病気のことが原因で、君が今の世界へ入ってしまったこと は随分悩まれただろうしね」 「君の申し入れは分かったので、責任をもってこの子たちを預からせていただきます よ。」 (雲母)は、若い男たちに話しかけます。 「名前を教えてくれるかな!」 初めて訪れた道場に緊張しながら答えます。 「吉岡 健」よしおか けん 「本間 亮」ほんま  りょう 「岩田 勝」いわた まさる 「佐々木 優」ささき すぐる それぞれの名前をメモにとりながら(雲母)はにっこりして 「みんな名前が一字だね!」「そういえば、伊勢田君も允で一字だったかな」 「そうしたら、帰る家のある者もいるだろうけれど、この際だから、私の懇意にしている お寺の住職がおられるから、一年くらい合宿のように住み込み終業をしてみないか」    「寝起きは、そこにして、ここに通い、合気道の練習だけでなく、心身の訓練もできるよ うにしてみよう!」 さっさと手順を考え、そんな事を言い出した道場主に若い者達は、(伊勢田)の言い出 したことに半分仕方なくつきあい軽い気持ちでついてきたものの、少し思惑が外れ た感じで、お互いの顔を見合わせていましたが、 (伊勢田)は道場主が急な申し入れに対し、快く受け入れてくれたことや、そのほかの ことまで手配してくれたことに満足して、一旦、連中と道場から帰り、2 日後に身のま わりのものをそろえ道場に集まることにしたのです。
 
そんな事で何日か(巽)の事務所を留守にしていた〈伊勢田〉は、久しぶりに、親分の
(巽 輝)から食事へいこうと誘われ、2 人でなじみの寿司屋に出向いてきたのです。 当然のごとく店の前には数人のガードが見護っていました。
 
奥まった座敷で向かい合わせに座った(巽)が、いつもの酒をあけながら(伊勢田)に 話しかけます。高齢の域に入ってきた(巽)は以前のような鋭さを抑え、穏やかな人 格を見せるようになっていました。 「お前の、親父さんが亡くなって何年かな?墓参りの時期だな!」 (伊勢田)は応えます。 「もう、七回忌です。」 (巽)が杯を重ねながら 「そうか!早いもんだな! 俺も年をとってしまったな!」 「あんなにごたごたしていたこの辺りも不思議と落ち着いてきたのも、お前が若い者を 上手く教育してくれているからと思っているんだ。他の組の者も感心しているようだ。」 「ところで、最近、何か変わった事があったのかな?」 若い者から何か(巽)の耳に入っているらしいので、(伊勢田)は(雲母)の道場のことな ど詳細を話してみたのです。自分の置かれている立場を少し外れていると思いなが らも、酒の席を借り、あるがままに説明してみました。 (巽)は(伊勢田)の説明を聞いていると、その内容が気に入った様子で、重ねる杯が 進んできました。 「今日、お前とゆっくり話がしたくてな! お前が、あの時、命を懸けて盾になってくれ なかったら、俺の命は無かったかもしれない。それに親父さんの看病のことがなけれ ば、俺のところにくることがなかったろう。 親父さんの七回忌が吉祥のように思うから、お前さえよければ俺のところから離れて もいいんだぜ!」 思いもしなかったことが(巽)の口から出たことで(伊勢田)は、この世界の厳しさを充分 にわかっているだけに言葉が出てきませんでした。 その様子を見ながら続けて(巽)が話します。 「俺が、ここに来るまでには何度も命を狙われたし、弱いものを平気で潰して、強いもの には服従して自分を護ってきたが、いつまでもこんな勝手な生き方が許されるもんで はないだろう。お前が面倒見てやろうとしている(ケン)がホームレスの人間に見せら れた懸命さも、俺もそうだが、普通に生きていると思っている人間が意識することかも しれないな!」 「ただ、俺がこの生き方が嫌になったからと言って、今までの立場を護るために流され た血や涙を簡単にぬぐい切れるものではないし、 俺の関係者も、まして世間がそ んな都合のいいことを許してくれるはずはない。」 「まあ~久しぶりだから、ゆっくり飲もう!」と言って昔を思い出すように話を始めます・
「俺は、戦時中、韓国から家族と一緒にこの国で一旗あげようと来ていた人間なんだ! 終戦の時すぐに国へ帰ろうとしていたんだが、運が悪く帰国船に乗れなかったんだ、 それで、この大阪で生きていくようになったんだが、当時の韓国人が生きていく事が 難しかったのはお前も聞いたことがあるだろう。日本人の女と一緒になれたのは運 が良かったかもしれないが、まともに生活なんてできるわけもなく、俺がこの世界に はいりこんだのは仕方のないことだったんだ。それに自分の居座るところをまもろうと したら、いらん意地もはらにゃいかんし、邪魔する者は排除しなければ明日はない のが俺等の世界だから、命をはって暴れなければならなかったし、それが正当な生 き方だと思い込むしかなかったんだろうな。ただ、この歳になって違う生き方をしたく なったんだ! だがそれは考えるべきではないし、死ぬまでこの道を歩くしか許されないんだな! いろんな意味で、行き詰まった時、周りの者には話せない弱気の気持ちを、いつも聞 いてくれるお寺の住職が、俺の唯一の逃げ場所なんだ。それで何年か前からその 住職に頼んで、俺の懐からできる範囲で、お寺に「お布施」のようにして出さしてもら った金で、この町から少し離れたところに土地を買ってもらってあるんだ。 住職は、行き場のない人間や、俺等の世界から離れて立ち直りたい奴らを、その場所 で共同生活して普通の生活できる環境を作りたいと願っておられるのを聞いて、で きることをさせてもらおうと思ったんだ。俺の作った金はきれいな物じゃないが、 「仏」さまに差し上げて有意義に使ってもらうのならいいんじゃないかな。
 
お前が、元の状態に戻ることは簡単じゃないけれど、その住職の協力があればできな いことはないと思うから、気持ちが固まったら言ってくれ。」
 
酒を呑みながらではあったけれど、自分を拾ってくれ、父親の代わりをしてくれていた 「巽」の心の中を聞かされた(伊勢田)は、居住まいを正し、深く礼をしてその 申し入れを受け入れることを告げました。 その返事を聞いた(巽)は、「それじゃ!直ぐ住職に会ってもらう手配をするから頑張っ てくれよな!」 (伊勢田)の決心を聞いた(巽)は、心の重荷を下ろしたかのように、店主に更に肴の注 文をしながら、少し遠いところを見るように目を細め(伊勢田)に 「それじゃあ(伊勢田)、この盃で今までの繋がりを洗い流して、新しい伊勢田の将来を 祝って飲もう」 そう言って(巽)は(伊勢田)と自分の盃に酒を満たして互いの顔を見つめて飲み干し たのです。
 
 
文化祭が終わり、心に響く(静香)のバイオリンの響きを堪能した(美雪)は、その音色 が心境の変化を受けたように、クラスの中やグループの連中にも、その存在が無くな ったと思わすくらいに、眼差しも静かになり、担任の先生が驚くほど、授業中も以前 のような勝手な振舞いをすることがなくなり、おとなしくレポートを提出するようになっ ていました。 そんな(美雪)が昼の休憩時間に(薫)に話しかけてきました。 「あんたにあんなに簡単にやられてから、ちょっと、あんたの真似をしたくなってね。別 に合気道を習って、強くなってもっといじめをしようとしてるんじゃないよ!冗談だけ どね! 学校じゃ、強がってるけど、親父は家をほったらかしで、おふくろが2倍頑張ってくれて るから、学校に来れてるけど、家に帰るのはしんどいんだよ!」 「できたら、グループの連中も4、5人も一緒にい行きたいと言ってるしね!あんたの道 場に通わしてくれないかな!」 (薫)はまさか、(美雪)からそんな申し入れがあるとは思ってもいませんでしたが・ 道場主の祖父(雲母)は賛成してくれると思い 「大丈夫と思うから、いい日に、みんなと一緒に道場を覗いて!」と(美雪)に返事をし たのです。
 
今日は、(伊勢田)が(ケン)の仲間を連れて道場に来る日だったので、学校が終わっ て急ぎ足で道場に向かいました。 (薫)が道場についいた時、(伊勢田)や(ケン)は少し前に来ていたようで、道場主の (雲母)が以前からの練習生らに新しいメンバーとして(ケン)等を紹介していたところ でした。 (伊勢田)の事は知っている者もいて、その経歴のために驚いている者もいましたが、 道場主が(ケン)らのことを含め協力してくれるよう丁寧に説明したので、納得し新し いメンバーを暖かく迎えるようになっていたようでした。 そして、少しの説明の後、(雲母)道場主は(ケン)達が精神的修養のために頼んでい た「お寺」に向かう準備をするように話し、早速出かける事になりました。
 
「看正寺」いしょうじ、と読むお寺でした。 「隆延」りゅうえん、と言う住職がみんなを迎 えてくれました。 導かれ本堂に入った者が正面に鎮座している仏像に対座したとき、全員が息を呑む ほどに、圧倒的な神々しさに加え、優しさにあふれた美しさに言葉を失ってしまいま した。 「十一面千手観音」像でした。 「隆延」住職は観音像を背にして、静かに語り出しました。
「あなた達が、ここへ来られた経過は(雲母)先生から聞かせていただいています。  この観音様は、十一のお顔と千の手を備えておられますが、その全ては異なった様 相をしておられます。 特に「手」には「眼」が備わっていて、万民の思いを観察する 力があるのです。(ししょうじ)と読む「看正寺」の(看)は、手をかざして自ら観るという 意味がある文字なのです。万物の現象はそれぞれに意味があり、そのことに備わっ た見方をするために、千の手にそれぞれ(眼)があるんですよ」 「最初から、難しい事を話しましたが、実は、お名前を明かすことはできないけれど この観音様の元に来る人が使えるようにとのご意志で、何年も前から多額のお布施を していただいた方がおられ、このお寺の名前で、近くの広大な土地を購入してある のです。そこは、人生に行き詰まった人が立ち直る再生の場所になってほしいとの 希望がこもっているので、合気道の鍛錬を受けながら、この土地を有意義に生かせ る手助けもしてほしいと思い、(雲母)先生のお申し出に賛同させていただいたので すよ。」 その説明を聞きながら(伊勢田)は、その寄進者が(巽)であると思いましたが、住職に 確認することは控えておきました。
 
(ケン)の仲間達も、最初は固ぐるしく厳しい修業をさせられると思いながらも、解放され るまで適当に時間をやり過ごせばすむはずだと温和しいふりの態度で座っていまし たが、「観音」様の前で、(隆延)住職の話を聞きながら、何か自分たちも真っ当なこ とに力を出すことができそうだと心が解け始めていました。
 
それから3日後に(薫)は学校で(美雪)から、自分を含めて5人で(三皇道場)に来るこ とを告げられていたので、一足先に(雲母)道場主に連絡をして入り口で待っていま した。(美雪)は気持ちを固めていたようでしたが、他の4人は恐る恐るの様子でしり 込みしているように見えました。、道場主から一応の説明があり、とりあえず一日目は 見学することになったのですが、先に(ケン)達の若いメンバーが、先輩の小学生ら に簡単に投げ飛ばされているのをみて、一度に気持ちをほぐしたようでした。 その様子を見ていた(薫)は、 「あの人たちは、ずいぶんヤンチャな人達だったんだけれど、色んなことがあって、  この道場で修練するようになったんだよ、まだ3日目だから、あんた達と同じようなもの ね!」 それを聞いた(美雪)の仲間たちは、安心したように互の顔が緩んだのを喜んでいまし た。 そんな、少し以前より充実した日々を送れるようになった(美雪)が学校と合気道の練 習で少し遅くなって帰宅すると、遅くまで母親が仕事で帰らないために電気の点い ていないはずなのに、明かりが点いていて、いつもとは違うことにためらいながら部
屋に上がったのです。 そこには、布団にくるまった母親と、そばに父親がうなだれて付き添っていたのです。 ほとんど、家にいることもなく、仕事もせず酒を飲みまわったり、賭け事にあけくれてい る父親がそこにいることに理解できなかったことより、無理をして仕事の掛け持ちをし ていた母親が布団に横たわっている事に心が張り裂けそうになり、うなだれたままの 父親を押しのけ、母親に抱きつき、父親を鋭いまなざしでにらみつけたのです。 娘に突き飛ばされた父親は抵抗することもなく、さらに身体を小さくして震えるように嗚 咽を漏らしていました。 その時、布団のなかから母親が漏れるような小声で 「(美雪)ダメだよ!お父さんを責めては!私が仕事場で苦しくなって、救急車を呼ぼう って会社の人が言ってくれたんだけど、後の治療費のことを考えると怖くなって、な んとか仕事を早く終わらせて帰らせてもらったんだけど、苦しさがきつくなってどうし ようもなくなって、お父さんが行ってるだろうお店に電話して帰ってきてもらったんだ よ。」 そして苦しそうではありますが、父親の手を握り、話を続けます。 「お父さん!(美雪)は私がどんなに苦しくても、学校だけは通わせてやりたい気持ち で、なんとか今日までやってきたんです。だけどお父さんのせいだけではないでしょ うけれど、学校であんまり良くない評判を聞くようになってどうしようかと悩んでもいた んですよ。だけどこの頃、急にその様子が変わって優しい女の子になって喜んでい たところなんです。だから、もう少し私が頑張れば(美雪)も卒業できて就職できれば と安心し始めたのに、肝心の私の身体の無理が利かなくなったみたい」 「(美雪)お前は、いつも家を放ったらかしのお父さんを嫌ったり、恵まれないことを お父さんのせいにしているけれど、確かにそんな事はないとはいえないだろうけれど、 結婚する覚悟を決めたのはお母さんだし、こうして立派な(美雪)を与えられたのだ から、最後まで投げ出してはいけないと思うんだよ。」 母親の手をにぎったままの父親の慟哭は、その話を聞いて更に激しくなり、心に雷 が落ちたのごとくに身震いをしていました。 少し重たい空気の時間が過ぎたとき、(美雪)の顔が吹っ切れたように、さわやかに 明るくなり 「お母さん!今晩、私が何か作ろうか! 3人で晩ご飯も久しぶりだしやってみる ね!」 そんな事を言い出した娘のことがうれしくなった母親は身体の苦しみが和らいだよう に、父親の顔を見つめていました。
 
それぞれに、いろいろな出来事を経験した日々が過ぎ、合気道の全国大会で3位に 入った(薫)は、そのための緊張から解放され、逆に卒業後、バイオリンのためドイツ に留学が決まっている(静香)は、その日が近づくために心の高揚が増してきている
ようです。 「看正寺」を修養場として「三皇道場」へ通うようになった若者達は、(雲母)道場主の 厳しい指導のなかにあっても、(ケン)や(美雪)のグループが同世代である事で、サ ークル活動のような雰囲気で、指導者として復活した(伊勢田)もあきれるほど華や いだ道場になっていました。 そんな時間を過ごしながら、(伊勢田)は、合気道の時間が終わってから遅くまで、新し い土地の活用方法を(隆延)住職を交え、企画運営プランを練っていました。 提供された土地は、前所有者の懇意もあり約5000坪の広大なもので、宿泊や道場施 設はもちろん、野菜などの育成も検討できそうで、建築設計のプロも参加しての本 格的打ち合わせが続いていました。 与えられた土地の広さが、思いの外広くなり、(巽)からの寄進だけではまかなわれな いようになり、一般の賛同を得て、資金調達を目指す「クラウドファンティング」を取り 入れる計画も提案されました。
 
道場では、新しい土地で栽培された野菜などを、児童福祉施設や高齢者施設へ車で 届ける仕事を任されている(ケン)はいつの間にか(美雪)と交際するようになってい て、学校の休みの日にはデートのように同乗して楽しんでいました。そして、母親が 倒れたことがきっかけで家にもどった父親が、近くのガソリンスタンドでは働くようにな っていたので仕事の最中でしたが給油に立ち寄ったのです。父親は二人の交際を まだ知らないのです。 スタンドに車を侵入させると、ジャンバーに帽子姿の父親が 「いらっしゃいませ!」と元気な声で車に駆け寄ってきました。 「レギュラーですね!」と窓越しに確認の声をかけながら、助手席に自分の娘がいるこ とに気づき、一瞬戸惑った顔になりましたが、(ケン)のことは、度々給油に来ており、 その仕事もわかっていました。さらに娘が、その基本になる(三皇道場)に通ってい ることも知っていたので、直ぐに現状を理解して、指を丸めて娘にOKのサインを出 したのでした。それを見ながら(ケン)は直ぐに車から降りて、深々と頭を下げ 「よろしく、お願いします!」と挨拶したのでした。
 
その後、多くの試練にも遭いながら、広大な土地の計画は、地域の企業とともに、雇用 の機会を増やすことを考慮した事業の提案を行政関係者とも練り上げて公開したこ とにより、その後押しが生まれ、簡素ではあるが立派な施設がほぼできあがってきた のです。
 
今日は、そのお披露目の時です。 宿舎は200人以上を収容でき、農場はもちろん魚の養殖もできる水槽も完備し、
たものになっていました。それは、この修養施設の設立意義を理解した人たちが参加 してくれたからです。 施設で働くことになった人のなかには、道を外した人や家族に迷惑をかけなければ生 きてこれなかった者も少なからず在籍していますが。同じ人間として暗い過去から脱却 して再生しようと考える者への応援の場所にもなっています。
 
お披露目の時間になって、驚いたのは、主催者側の住職や道場主でした。 特に制限なしに自由に参加できるようにしたことで、見学を含めた参加者が予想をは るかに超え3000人を超えようとしていたのです。 急遽、警察からも警備の人員が手配され、なんとか行事は進むことになりました。 (隆延)住職や(雲母)道場主の挨拶の後、(静香)親子の演奏があり、(薫)も(雲母)と 合気道の型を披露した後、(ケン)や(美雪)も含めた仲間が一緒になり、今、自分たち の参加している事業について発表したのです そして、いつも(隆延)住職から教わっていることも話しました。 自分の過去の生き方はもちろん、過去の戦争や震災で亡くなった人の無念の思いの 上にあって自分が生きていることを何時も思い出し「供養」することの大切さが、将来の 幸せにつながることを理解できるようになったので、誰でもが心にある人の「供養」がで きるように自由に来られるようになっていますと説明すると、何人もの人が案内のパンフ レットをもらっていました。3時間以上に及んだ、お披露目の式典が無事に終わり、参 加者が帰路につき会場の人が徐々に少なくなって来た時、(伊勢田)が会場の後方に、 一人の老人が大きな帽子で顔を隠してたたずんでいるのを見つけ傍によって行き声を かけようとしましたが、その老人は、(伊勢田)に対し、手を前に出し、それ以上近ずか ないような仕草をしたのです。(伊勢田)はその老人が(巽)であると分かったのです、 そして、深々と頭を下げていました。そして頭を上げたとき、その姿は消えていました。
 
式典が終わり、翌日に会場のかたづけをすることになっていたので関係者らの挨拶が 終わると、早く帰宅することになりました。
 
大切な行事が終わり、数日後、本格的な事業が始まりだした日に、(隆延)住職が 「看正寺」に(伊勢田)や(ケン)(薫)(美雪)などを集めて、今回の事業に向け全員の 尽力に対し礼を述べた後、祭壇の「十一面千手観音」の前に進むように促しました。 「今日は、この「観音様」の前で、自分の本心を語ってもらおうと思って集まってもらった んだよ。 みんなで手をつなぎ目を閉じて心の中にあるものを聞いてもらうのだよ。 十一のお顔と眼が備わった千の手を持たれている観音様がどのような会話をされるの かが楽しみだね。」 そんな、おとぎ話のような事を言う住職に少し首をかしげながらも、(伊勢田)を中心に
輪になり「観音様」の前で手をつなぎ眼を閉じたのでした。 しばらくの静寂の後、輪になった若者の身体が少し浮き上がったような感覚をそれぞ れが同じように感じたとき、眼を閉じているはずなのに鎮座している「観音様」の様子が 変わりだしたのが見えたのです。その感覚は全員共有のものでした。
 
そして、その姿は人間の様相になり、CG加工された映像のように動き出し、みんなの 前に進み出てきたのです。 瞬間みんなは声を出しそうになりましたが、こちらを見ている「観音様」の表情が、優し さにあふれていたので、吸い込まれるように眼の前の現象に入り込んでしまいました。 そして思いもしなかった出来事が始まりだしたのです。
 
「観音様」が、それぞれの心の中に語り掛けてこられたのです。 「驚いただろうね!今、あなたたちが体験していることは現実のことではないけれど、  心の中で、全員が同じような思いになり、私と会話できるから話をしてごらん!」 しばらく、理解できない現象の中にありながら、不思議と全員が「安心」の心境に変わ ってくるようでした。 そんな、時間が少し過ぎたとき、(美雪)の心が話し始めました。 「私の家族は父親が家庭を放棄していたから、母親の死ぬ思いの働きで私を学校に 通わせてくれていました。もし私の生まれが(静香)のような家庭だったら、どんなに幸 せかなと考えるようになって、いじめをする生徒になってしまったんです。 (観音様)なぜ、生まれながらに不公平があるのですか? 人間だけでなく、鳥だって、一日中飛び回っている小さな雀より、優雅な孔雀の方が ずっといいんじゃないですか?」 (観音様)は、その話を聞く時は、眼の備わった一つの手をかざしておられました。 そして、にっこり笑顔を見せながら、 「それは、(美雪)だけでなく(伊勢田)も、もっと苦しい時代を過ごしたから、同じように 思っているだろうし、たくさんの人が共通の観念として持っているだろうね。  それじゃあ、今から全員を一つにして、一羽の一番美しい「孔雀」にしてあげよう。 ただ、姿を変えるだけでなく、命の尊さを理解する「知恵」を得ることができるような 力も備えさせるので、一度、自分の存在を忘れて本質の世界へ行ってくるんだね。」
 
そして、目の前に立った「観音様」は、、輪になった若者に向かって大きな息を吹き かけたのです。すると、そこにはまばゆいほどの美しい「孔雀」が一羽現れました。 「観音様」が話しかけます。 この「孔雀」は、お前達全部が集まって一羽になったのだけれど、心の中ではそれぞ れが存在しているから、思っていることを互いに出す事ができるんだよ。!
さあ!飛び出してくるんだ!」 「観音様」から声をかけられた「孔雀」は、美しい羽を縮め、飛ぶため大きく羽ばたい たのです。すると、その飛行は驚くほど早く、一瞬にして大空を飛び越してしまいまし た。そこで観た物は、学校の授業で教わった宇宙のようで、太陽や地球と思えるもの を観ることができたのです。その先には暗黒の世界がありましたが無数の、星が存在 しているのを観ることができました。そこから見えた地球はあまりにも小さく、その中に 無数の命の存在がある事に不思議な思いになったのです。 自由に大きな空間を飛び回った「孔雀」の中にある若者の心には色々な思いが芽生 えたのですが、それはそれぞれの思考によって感じたことなので、互いに思いを述 べないままでした。わずかの経験を経て「孔雀」は元の「観音様」の元に戻ってきまし たが、その姿は以前の「十一面千手観音」になっていて、孔雀に変身していたメンバ ーも眼をあけると手をつないだままの自分本来の姿になっていました。 そこには(隆延)住職がにこにこと、穏やかな顔で座っておられ、若者の顔をのぞき 込んで 「何か、観音様から良い物をいただいてきたようだね!」と楽しげな様子でした。
 
そんな不思議な体験をした(伊勢田)をはじめ若者の日常はいっぺんに忙しくなって きました。 この研修場が多方面に知れるようになり、学校の生徒や、企業の社員も実習に来る ようになったからです。それを経験した者達がその成果を自分の学校や、仕事場で 発揮することが顕れ、また問題を抱え行き詰まっている者への適正なアドバイスとサ ポートを与えられ徐々に解放される者も出てきて、少し土地が狭くなってくるほどでし た。 (薫)や(美雪)達が卒業し、(静香)は予定通りドイツへ旅立って行きました。 (美雪)と(ケン)は将来一緒になれるよう頑張っており、他のメンバーもそれぞれカップ ルになりそうな雰囲気で楽しそうです。 肝心の(薫)は歳が離れていますが(伊勢田)と少しずつ心が寄り添うようになり、 (雲母)道場主が跡継ぎになってもらおうと腹づもりしだしたようです。
 
「これで(孔雀物語)は終わります。小さな雀もきらびやかな孔雀も同等に恵みは降り注 いでいます。眼を見開ければその(宝物)が発見でき、自らの手で磨き上げることが できるのです。それは、それぞれの役目があり、実を結ぶ時期は違うようです。  少しでも早く(宝物)の発見が近づきますよう願います。」 

枚方市・交野市にある七夕伝説

2014-12-23 14:29:54 | 日記

 

比攞太(ひらかた)と読みます。(日本書紀)

大阪府の最北東に位置し隣は京都、奈良に接する「枚方市」ひらかたし

40万の人口を擁するこの街は「枚方菊人形」(枚方パーク)で知られていますが

西暦530年「日本書紀」に顕されています。

この街「枚方」と隣接「交野」には「天の川」伝説があり

「天の川」 「かささぎ橋」 「機織神社」 「星田」 「牽牛石」等々の名前が実在します。

七夕伝説は男女の恋物語のように解されていますが、よく読んでみますと

「織姫」と「彦星」は結婚していながら、本来の家庭生活を顧みなかったことから

神からの戒めを受けたことのようです。

結婚を単なる男女の結びつきのみにすることでなく、本当の「家庭」とは?

を説いているように思います。

  

 

 

 

 


創作童話

2014-12-23 10:36:39 | 日記

     創作童話「九雀物語」第13話

(ジェイ)は(鳳凰)から言われたように、大きな峰を見下ろす大空から更に天空を見上げて羽に力をこめました。

すると、その瞬間(ジェイ)は自分が何処にいるか理解できないようになったのです。
それは、山や海を抱えた(地球)と教えられたところからは全く異なった暗黒の世界でした。 

しかし、よく観てみると遠くに(地球)のようなものが見え、さらに同じようなものが
いくつもあることが見えてきました。

(ジェイ)は(鳳凰)が与えてくれた特別の力で(宇宙)に飛び出したのでした。

心細くなりながら(鳳凰)に問いかけました。
 「私は何処にいるのですか?」

(鳳凰)が応えます。
 「そこは(宇宙)というところだ!
  よく観てごらん!ひとつ明るく燃えるように輝いているものが見えるだろう」
 
(ジェイ)が眼を凝らしてみると、確かに遠くに炎のように明るいものを見つけることが出来ました。



(鳳凰)
 「あれは(太陽)と言うんだ!あの(太陽)を中心に(地球)のような星がいくつか周って小さな宇宙を造っているんだ!」
 「あの(太陽)がなければ、お前たちも人間も生きていけないんだ」

(ジェイ)
 「朝に山の上に昇ってきたり、夕方に森のかなたに沈んでいく(お日様)のことだね」
(鳳凰)
 「良くわかったね! あの(太陽)が(地球)に活きる力を送ってくれるのだよ」
 「驚いただろうが、今、見ている(宇宙)はほんの一部でしかないんだ」
 「こんな壮大な(宇宙)と言われるのものが、この何十倍、何千倍、いや数え切れない大きな世界があるのだ」

 「それなのに、この(宇宙)というものはお互いを護って関係を保っているんだ」
 「(ジェイ)どうだい! もっとおおきな(宇宙)を観てみるかな?」
(ジェイ)
 「ありがとうございます! でも、これで充分です!」

(鳳凰)
 「そうか!賢明だね! それでは、冒険は終わって、今までいた森へ帰ることにしよう。  気持ちを森のほうへ向けてごらん。」

(ジェイ)は言われたように(こころ)を懐かしい森のほうへ向けてみました。
すると、一瞬の瞬きをする間もなく、今までの暗黒の宇宙から緑いっぱいの森の大樹
のところに来ることが出来ました。
そして、その傍には(鳳凰)ではなく、老いた姿の雀が待っていました。

森へもどってきた(ジェイ)に老いた雀が問います。
 「どうだね、冒険は?」
(ジェイ)
 「はっきりはわからないけれど、何か本当のことを知らなければならないと思いました。 だから、もう一度、元の雀に戻って生きていきたいです。」
(老いた雀)
 「それは良いことだ! 他の小雀も(こころ)は同じだね?」
 「では、元の姿に返してあげよう!再び(孔雀)にはなれないよ!」
そう言って大空へ、以前と同じような鋭い声を発すると孔雀だった(ジェイ)の姿は
なくなり、(トキ)(カイ)(キキ)(ダンと五羽)の小雀が現れました。

(老いた雀)がその姿を見て微笑みながら語ります。
 「何が、本当かと言うことは、なかなか難しいことがわかっただろう。
  今、見てきたことは(こころ)の中で感じたことで、本当に体感したのではないのだ! このことは(こころ)をもつ人間だけに与えられた力だが、すべての人間が体感できるのではないのだ。
  同じ人間でも瞬間瞬間に(獣)や(昆虫)のように大切な(こころ)をなくしてしまうことがあって、生きることの中にたくさんの困難をかかえてもがいているものも沢山いるんだ。 お前たちが疑問に思った人間が起こしている(戦争)もその現われだろう。」

 「大切なことは、お前たちが(宇宙)で観た(太陽)もいつかその力を失い、護ってきた小さな(宇宙)もなくなるだろう。
  生まれたからには必ず消滅があるから、そのために与えられた時間を生き抜くことだよ!
  
 そこに立っている大きな樹を見てごらん
 樹は大きな幹が存在感があるけれど、その先には小枝があり沢山の葉があるだろう、そして見ることの出来ない土の中には無数の根が走っていていっぱいの養分を樹に運んでいるんだ。

  もし、葉が自分は幹になりたい、枝になりたいといって好きなようにしたらこの大きな樹は立っていられないし、ここまでになることは出来ないんだ。

  お前たちは、生まれたことを不足に思って(孔雀)になってみたけど、それは
お前たちの役目ではないのだ。 わかったかな?」

小雀に戻った(カイ)が照れながら(鳳凰)だった雀に向って
 「こんな小雀に沢山のことを見せてくれてありがとう。
  また、森へ帰って、親父さんたちと自分らしくがんばってみます。」


そして夕暮れになり九羽の小雀はそれぞれぞれの巣へ戻っていきました。

     創作童話「九雀物語」 終了


創作童話

2014-12-23 10:35:22 | 日記

     創作童話「九雀物語」第12話

(鳳凰)が語りかけてきます。
 「おどろく大きさだろう! この大陸がいくつも連なり、海や川と交わって
  (地球)という星になっている。 
  このほとんどを人間が支配しているのだ、
  いまいる所から、次の大陸に行ってみなさい!」

(ジェイ)は鳳凰が言うように、その羽ばたきの力を増すと、延々と続く大きな峰が現れてきました。 そしてその峰のほとんどが真っ白い雪で覆われていました。

(鳳凰)が話します。
 「ジェイよ! こんなところを見たことはないだろう!」
(ジェイ)がその圧倒的な風景と美しさに感嘆しながらも、経験したことのない偉大なものの存在を実感していると、(鳳凰)が更に話します。


 「こんな壮大なものにも人間は、あの脚で登ってくるんだ」
 「その(こころ)の強さには、(神の使い)の私でも驚くほどだ」
 「そんな優れた人間でも、遠い昔、多くの人を支配し、権力を持った(王様)と呼ばれた者が、その力を誇示するために、空を越えるような塔を建てて(神様)の
  恵みを忘れてしまったのだ。」
 「(神様)はその間違った(こころ)を戒めるために塔を破壊し、人間が人間を統率できないように、互いの言葉を変えてしまわれたのだ。
  そのために、それぞれが(自分)が正しいと主張するようになり(戦争)という
  大きな争いをするようになったのだ。」

「ジェイ」が尋ねます。
 「(神様)はなぜ人間が争うようなことを許されるんですか?」

「鳳凰」
 「そうだな!そう思うだろう! (正しい)というこは難解なことだ。
  そのことを、今わからずとも、私が与えた力で他の世界を観てくれば、わかるときがくるから、その旅をしてきなさい!」
「ジェイ」
 「じゃあ! もっと速く飛んでみよう!」
          第12話終了