有田英光さんは、パリのオペラ
座にバレエを観に行ったとき、
こんなことがあったと言う。
ロビーにたたずんでいた和服
姿の初老の日本人女性の手も
とから、スカーフが床に落ちた。
かたわらをすり抜けようとし
たフランス人女性が、それを
拾い上げて日本の婦人に手渡
した。
日本人女性は、「ありがとう
ございます」と口調のはっき
りした日本語で言い、軽い
会釈をして受け取った。
相手の好意に対して、婦人は
日本語でしかお礼が言えなか
ったのだろうが、そこには
気品が漂っていた。
するとフランス人女性は
ふち立ち止まり、一瞬表情
を引きしめながら「なんで
もないことですわ、
お気に留めることでもござ
いません」とていねいな
フランス語で答えた・・・。
「お互いに言葉の意味はわ
からなくても、二人の心は、
意をあまくなすこなく交流
したに違いなかった」と
有田さんは語る。
コミュニケーションには
言葉が重要な役割を演じ
ます。が、もっと大切な
ことは、
その人の思いではないで
しょうか。
「思いは通じる」と昔から
言いますが、思いさえあれば
言葉はなくても通じます。
逆に、思いがなければ、どん
な言葉を尽くしても真意は
通じません。