佐久市 ヤナギダ 趣味の店

長野県佐久市野沢93番地
ヤナギダ☎0267-62-0220

『ユーモアについて』

2024-09-04 17:26:34 | 日記
 
 
 
「月見座頭」という狂言がある。
谷崎潤一郎や永井龍夫が小説に
書いているので、ご存じの方も
いると思うが、

概略だけを書いておくと、
ある月のいい晩に盲目の男が月見
に出かける。

目が見えないのだから、月なんか
見えはしないのだが、月夜の静けさ
とか虫の声などは、敏感な盲人の
心には、もしかすると常人より

はるかに身にしみる風景として
感じられるに違いない。

彼はその気分をたのしみつつ、
手酌でちびちびやっていると、そ
こへ下京(しもぎょう)の男が
現われる。

盲人が月見をしているのを見て、
これはまた風流なことだと感心し、
いっしょに月見をしようと、持参
の酒肴をともに飲んだり食ったり
し、はては舞い歌いなどして大い
にたのしむ。

やがて、夜も更けたので、下京の
男は名残を惜しみつつ帰って行った
が、途中まで来て、このまま帰った
のでは面白くない、今度はあいつを
なぶってやろうと、先の盲人のところ
へ行き、
さんんざんに打ったり叩いたりした
あげく、いい気持になって家路を
辿った。

「やれやれ、とんだ災難に出会った。
はじめに来た男は親切に付きあって
くれたが、二度目の奴にはひどい目に
会った。

同じ人間でも違うものだなあ」

と、盲人は感慨にふけりクシャミを
一つして去って行った。同じ人間
どころか、まったく同一人物で
あったところがとてもおかしい。

だからといって、私はお説教をする
つもりはない。誰の中にも二つの相
反するものが住んでいる。

盲人を笑うのは悪いことだが、時に
は私たちも盲人同様目をくらまされ
ていることが多いのではないか。

「月見座頭」とはあんた達のことだ
よ、と舞台の上からいっているよう
に聞こえなくもない。

ユーモアとはそうしたものである。

それは心の余裕であり、他人の身
になって考えられることをいう。

それにつけても、日本語にはめくら
という古来のいい言葉
があるのに、禁句になっているとは、
何ともユーモアに欠ける国民であるこ
とか。

身体障害者といえば、差別したこと
にならないと信じているのだろうか。
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