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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 237 飛蓬-141 桂花(キンモクセイ)を詠む 次韻蘇軾「贈刘景文」 

2021-11-15 15:31:24 | 漢詩を読む
 残暑が厳しい折、芳ばしい香りがどこからともなく漂ってくると、あの黄金色の花が枝一杯にぎっしりと付いた金木犀が脳裏に浮かぶ。案の定、遥か彼方に目を遣ると、その樹姿を目撃することができるのである。

 此処北摂では、例年、太陽暦9月下旬から10月初旬ごろが、金木犀の盛開期である。今年は違った。ヤキモキしていたが、11月半ばを迎えようとする頃、やや芳香を放つのが弱い感じであるが、やっと本来の姿に逢えた。暫くぶりに旧友に逢ったような気分である。

2021/11/11撮影

最も好きな詩人は?と問われれば、蘇軾(東坡)と即座に答えるだろう。否、はるかに遠い存在で尊敬の対象である。敬意を表して、同氏の「刘景文に贈る」の詩に、次韻する形で、金木犀の詩を書いてみました。

次韻とは、他人の詩と同じ韻字を同じ順序で用いて詩作すること、またその詩を言います。次韻対象の元の詩を鑑賞しつゝ、試しに作った詩を紹介します。

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 詠桂花 次韻蘇軾「贈刘景文」     [上平声四支韻] 
          桂花を詠む 蘇軾「刘景文に贈る」に次韻(ジイン)す            
馥郁芳香満庭院、 馥郁(フクイク)たる芳香 庭院に満つ、 
金黄丽朵茁総枝。 金黄の麗(レイ)朵(ダ) 総枝に茁(サツ)す。 
共盈天地君須識, 共に盈(ミ)つる天と地 君 須(スベカラ)く識(シ)るべし,
天阙八桂望月時。 天阙(テンケツ)に 八桂(ハツケイ) 望月(モチヅキ)の時を。
 註]  馥郁:よい香りがただよっているさま; 朵:花を数える量詞、此処では 
  金木犀の花; 茁:芽を出す;  天阙:天宮の門; 八桂:月には八本の桂花の 
  木(金木犀)が森を成しており、望月の黄金色は盛開の桂花によるとされる。 
 ※ 蘇軾「贈刘景文」は、[参考]として末尾に添えた。  

<現代語訳> 
 金木犀の花を詠む 
  蘇軾「刘景文に贈る」に次韻する 
金木犀の花の芳ばしい香りが庭いっぱいに満ちて、
黄金色の麗しい花が木の全枝に着いて盛開である。
芳ばしい香りは天地ともに盈ちていることを忘れてはならない、
望月の頃には天宮でも 月八桂の満開になった花の香りで満ちているのだ。

<簡体字およびピンイン> 
 詠桂花      Yǒng guìhuā 
  次韵苏轼「赠刘景文」 Cìyùn Sū Shì “Zèng Liú Jǐngwén”   
馥郁芳香満庭院、 Fùyù fāngxiāng mǎn tíngyuàn,
金黄丽朵茁总枝。 jīnhuáng lì duǒ zhuó zǒng zhī.
共盈天地君须识, Gòng yíng tiāndì jūn xū zhì,  
天阙八桂望月时。 Tiānquè bāguì wàngyuè shí.
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普段なら金木犀は、残暑が未だ厳しいころに盛開の期を迎え、燦燦と注ぐ光と熱に促されるように、強烈な芳香を四方・遠方に放つ。結果、樹姿は目視されなくとも、その存在を強烈に訴えているのである。

今年は違った。いつもの時期、9月半ば頃に、確かに金木犀のほんの数枝で、チラホラと開花しているのを確認でき、顔を近づけて申し訳程度に感受される芳香があった。周囲からは、「剪定の遣り過ぎだ」と責められたが、「余所の金木犀も同様だ!」と やっと納得してもらった。

ところが、涼しい日々が続く11月に入って、再び開花し始めたのだ!! 上の写真は11月11日撮影である。盛期でも心なしか芳香が弱かったように思う。今年は天候不順であった。9月半ばには小雨や曇りがちとなり、清涼な日が多かった。蕾を噴き出すタイミングを失したのであろう。

[参考] 
 贈劉景文  蘇軾 「劉景文に贈る」   [上平声四支韻]  
荷尽已無擎雨蓋, 荷(ハス)は尽きて已に雨を擎(ササ)ぐる蓋(カサ)無く、
菊残猶有傲霜枝。 菊は残(ソコナ)われて猶(ナ)お霜に傲(オゴ)る枝有り。
一年好景君須記, 一年の好景 君 須(スベカ)らく記すべし、
最是橙黃橘綠時。 最も是れ橙(ダイダイ)は黃に 橘(ミカン)は緑なる時。

<現代語訳> 
 劉景文に贈る 
荷の花は散り果て、雨を受けていた傘のような葉もすでにない、
菊の花も盛りが過ぎて、枝のみが霜にめげず傲然(ゴウゼン)と張っている。
君よ、是非とも心にとどめておいてほしい、
一年のうち、最も素晴らしい景色は、まさにだいだいが黄色に熟れ、
 みかんの緑が映えるこの季節だ。
                        [白 雪梅『詩境悠遊』に拠る] 
<簡体字およびピンイン> 
 赠刘景文 苏轼 Zèng Liú Jǐngwén. Sū Shì 
荷尽已无擎雨盖, Hé jìn yǐ wú qíng yǔ gài,
菊残犹有傲霜枝。 jú cán yóu yǒu ào shuāng zhī.
一年好景君须记, Yī nián hǎojǐng jūn xū jì,
最是橙黄橘绿时。 zuì shì chéng huáng jú lǜ shí. 


<解説> 蘇軾(1036~1101)、字は子瞻(シセン)、号は東坡(トウバ)。北宋随一の文学者。官界では新法党の王安石と対立して、度々左遷される憂き目に遭っている。厳しい逆境にありながらも、楽天的で、かつユウーモアを忘れない。詩文のほか、書画もよくした。

当詩は、蘇軾(1090、55歳)が知事として杭州にいた時の作。刘景文は、兵馬都督として杭州にいた親しい友人。人が気づかない初冬の季節の美を詠っている。蘇軾は、絵画にも優れ、自然の美を詠った詩は多い。

蘇軾で忘れてならないことの一つは、配流・蟄居中の貧しい身にあって、“富者は敢えて見向きもしない、貧者は料理法を知らない安価な豚肉”を美味しく頂けるよう工夫して、“東坡肉(トンポーロウ)”なる料理を考案したことである。もっちりとした食感で非常に美味な料理です。

なお、閑話休題のblogは、2015年以来、その第1,2,3報と蘇軾の紹介で始まり、“東坡肉(トンポーロウ)”料理に纏わる話題は、閑話休題45で触れました。興味のある方は、それらをご参照ください。
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