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京大教授の看護師が挑む「がん緩和ケアの究極」

2021-05-10 15:30:00 | 日記

下記の記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です   記事はテキストに変換していますから画像は出ません

心の領域にも踏み込んで、痛みを和らげる
患者のさまざまな「痛み」を和らげる
――「緩和ケア」とはどんな分野、内容でしょうか。言葉そのものは耳にする機会も増えてきたように思いますが。
病気で身体の苦痛が生じたり、こういうふうになったのはどうしてだろうと落ち込んだり。人には普通にあることですね? そうしたさまざまな「痛み」を和らげていくのが緩和ケアの一番大きな目的です。日本では、がんの領域で発展してきました。
がんは、診断されたときから緩和ケアが始まります。治療と並行して緩和ケアを行うわけですね。特に2006年にがん対策基本法ができてからはそうなりました。基本法以前は、緩和ケアには「終末期看護(ターミナルケア)」の意味合いが強かった。
今は違います。がんと過ごすすべての日々で生じるさまざまな苦痛を緩和していくこと、それにより、患者のQOL(Quality of Life、生活の質)をより良くしていくとことが大きな目標です。もちろん、ターミナルケアの役割も含みながら、ですが。
――スピリチュアルケアへの関心をいつから持っていたのでしょう?
1995年ごろから、スピリチュアルケアを研究しています。当時はホスピスで働いていました。日本にはまだ2カ所ぐらいしかない時代です。その間、英国に短期間勉強に行く機会があり、現地で看護師さんたちが自律性をもってケアしている姿を見た。それがきっかけですね。
臨床の場で働いていると、患者さんたちの声を聞くわけです。「悪いことなんてしてないのにどうしてこんな病気になったんだろう」とか、「家族に迷惑をかけるだけだから早く終わりにしたい」とか。日常茶飯事です。
医学や看護学の知識で対応しようと思っても、その精神的な苦悩を和らげることは容易ではありません。ほんとに話を聞かせていただくしかない。医療者として、とっても苦しいなと感じていました。それで、スピリチュアルケアを研究しようと、大学院の修士課程に進んだわけです。
田村 恵子(たむら・けいこ)/1957年生まれ。がんサバイバーらが支え合う場「ともいき京都」代表。NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』(2008年)で紹介されるなど、日本を代表するがん看護専門看護師として知られる(写真:益田美樹)
そうしたら先生からまず「あなた、何年大学院にいるつもり?」と聞かれたんですよ。私が「2年間です」と答えると「じゃあ、このテーマは大きすぎるよね」というご指導を受けた。
そのときに初めて「そんな大きなテーマに取り組もうとしていたんだ」と気づかされた。
スピリチュアルケアは、かなり職人芸なんです。緩和ケアを深めていくことによって、ケアしないといけない、ケアできると思っていた自分が傲慢だったことに気づき、患者さんの傍らにいることができれば、十分ケアになりうるという感覚が持てるようになったんです。
でも、それはたくさんの経験の中で獲得するもの。スピリチュアルケアをもう少しみんなができるように、研究して標準化したいと考えました。
スピリチュアルペインは「うつ」ではない
――心の苦悩、つまり、スピリチュアルペインについては、医療者の間でも認識が広まってきましたね。
オンコロジスト(がん治療に従事する医療関係者)や精神科医の間では、「いや、それはうつの重症化したものでしょう」といったご批判もすごくあったんです。でも私は、うつではなく正常だからこそ感じる「なぜ私が」という苦悩があると感じていました。
「がん」と言われた瞬間、「再発しましたよ」と言われた瞬間、それから「もう残り時間が短いですね」って言われた瞬間、「なぜ私がこんな苦しい思いを抱かなければいけないのだ」と感じる。その苦悩です。それって、正常だから表れる苦悩じゃないでしょうか。
「スピリチュアルペインを和らげないといけない」という医療者の発想も強くなってきました。ただ、そんな医療者の中には「スピリチュアルペインは自分にはよくわからない」という人が多いんですね。「なんでこんな病気になったんやろう」という患者に対し、「そんなこと言わずに頑張りましょう」みたいな方向で励まして終わり。
患者さんにすれば、「誰にもわかってもらえない」ということが増えてきたんです。医療従事者がこういう対応をするようになると、患者さんによってはケアではなく公害。そこをどうにかしないといけない。
――研究はどうやって進めているのでしょうか。
大学では「スピリチュアルペイン・アセスメントシート」というものを開発しています。それを使って医療従事者をトレーニングし、彼らが現場で使えるようにする。そういった枠組みで、ケア方法を研究しています。
この研究は、きっちりしたRCT(ランダム化比較試験)を組めないんですが、科学に基づく方法論にかなり近い。シートには村田久行先生(京都ノートルダム女子大学名誉教授)が定義されたスピリチュアルペインの枠組みを使いました。人間の存在を「時間存在」「関係存在」「自律存在」という3つの軸でとらえる手法です。
これを現場で患者さんに使い、「苦悩があるかないか」「0か1か」みたいな形で聞きながら、苦悩がある場合はどんな苦悩なのかをアセスメントしていくんです。例えば、時間存在を考えれば、人間は終末期になると、「未来がなくなるので生きている意味がない」と感じることがある。それを評価するわけです。
人間の存在を「時間存在」という軸でとらえる方法。画像は『看護に活かす スピリチュアルケアの手引き』(田村恵子など編)より
「スピリチュアルペイン・アセスメントシート」の概念図。画像は『看護に活かす スピリチュアルケアの手引き』(田村恵子など編)より
次のステップは効果の検証です。シートを用いた看護師主導型のスピリチュアルケアを実施しました。その有効性を見ていくと、効果が多少なりともあった。そこで、2年ぐらい前から約200人の患者さんを目標に緩和ケア病棟で調査を続けているところです。
ただ、緩和ケア病棟に入院される人たちは、状態がいっそう悪くなってから病棟に来る。ですから、研究への協力依頼に「いいよ」って言ってくださっても、2週間後には答えられる方が非常に少ない。それ以前に亡くなってしまう、もしくは意識の低下が起こるんです。
――生と死の分岐点での、ぎりぎりの調査ですね。
今はN数(標本数)が少なくても、AI(人工知能)を使った機械学習などで分析ができる方法論が少しずつ開発されています。それらの方法を取り入れ、シートを使ったケアのプログラム作成を検討中です。そこから、緩和ケアのモデルが構築できないか、と。
必要以上のケアはしなくていい
スピリチュアルペインがごく自然な人の営みとするならば、必要以上のケアはしなくていい。スピリチュアルペインにはある程度、患者さん自身で解決できることもある。そうした点は既に逝った人たちの遺産ですから、ちゃんと学び、そのうえで「こんなことをしてみましょうか」「こんなふうにしたら楽ですよ」といった提案を患者さんにすべきだと思うんです。
がんサバイバーと語り合う田村恵子氏(写真:ともいき京都提供)
入院していたある膵臓がんの患者さんの話です。「積極的な治療は中止して緩和ケアへ切り替えませんか」と医師から提案され、受け入れられずにいました。
お話を伺ってみると、受験を控えている娘が大学生になったら、思い出の場所に一緒に旅行に出かけようと、それを心の支えにされていました。そして娘を遺して逝くことへの心残りが、 スピリチュアルペインを引き起こしていると考えられました。
治療を続けると大切な家族と過ごす残された時間に、副作用で弱り動けなくなることもある。そこで「娘さんとの旅行を優先させるなら、積極的な治療ではなく、体調を整える道もありますよ」とお声掛けしました。心残りに注目してケアを実践したんです。患者さんは亡くなられる前に、積極的な治療の中止をご自身で決断し、娘さんとの旅行を実現されました。
――がんを体験した人や医療者などが集い、支え合いながら対話する「ともいき京都」。その代表も務めています。今後はどんな研究や活動を?
がんサバイバーシップの支援に関しての研究を手掛けたいですね。がんが慢性疾患になり、がんになっても病気と共に生き続けられる人が増えたという意味ではいいことだと思うんですが、慢性になればなるほどサポートが必要です。そのサポートがまだ全然充実していない。
サバイバーシップ支援は、がん看護の分野でも非常に遅れています。サバイバーの人たちは、入院中と違ってさまざまな影響を受けて生活しているのでデータも取りにくい。彼らを対象にした研究は非常に難しいんです。
ただ幸いなことに、「ともいき京都」の活動を続けさせていただいているので、そこをベースに研究したいと思っています。
がんサバイバーがともに支え合う基盤を形に
サバイバーの人たちの力をどうやったら引き出すことができるのか。引き出した後の力をサバイバー自身がどんなふうに活用できるのか。そうしたことを可能にするプログラムを作りたい。支え合う基盤の要素を研究によって形にできたらと思っています。
「ともいき京都」の活動風景。設立から今年で5年になる(提供:ともいき京都)
これは私の造語ですけれども、「ケアリング・コミュニティ(共にケアし合うコミュニティ)」。京都では「ともいき京都」の活動がそれに該当すると思いますが、社会全体にこの枠組みを広げるためには、何か必要な要素があるはず。そこを研究で見極めたいと考えています。
現代では、高齢化に伴うさまざまな問題が横たわっています。ケアリング・コミュニティは、そういった中で社会全体を作る基盤になるのではないでしょうか。
本来、日本社会に存在していた「支え合い」の意味を問い、再構築していく。以前と同じ形ではなくても構わないと思います。「ともいき東京」とか、「ともいき横浜」とか。他の地域でもケアリング・コミュニティをつくっていけるよう、必須の要素を見つけて提案できたら、と思います。
取材:益田美樹=フロントラインプレス(Frontline Press)所属



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