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 余命意識する人の最期支える「人生会議」のリアル

2021-07-22 15:30:00 | 日記

下記は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です

「まてまてまて、俺の人生ここで終わり?大事なこと何も伝えてなかったわ」
今から約2年半前の2018年11月、厚生労働省は、自らが望む人生の最終段階の医療・ケアについて話し合う、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を「人生会議」という愛称に決めた。
厚生労働省で2018年11月30日に開かれたACP愛称発表会で「人生会議」が発表された(撮影:牧潤二)
厚労省が普及啓発のために、タレントの小藪千豊さんを起用して作成したPRポスターが「家族を傷つける」と患者団体などから批判を受け、厚労省が自治体への発送を中止したことを覚えている方もいるだろう。結果的にはこれが世の中にACPの認知度を高めることにもつながったといえる。
ACPは患者、その家族と何度も話し合い文書にする
埼玉医科大学病院(埼玉県入間郡毛呂山町、篠塚望病院長、970床)の救急科・緩和医療科の岩瀬哲教授は、人生会議という言葉が出てくる約20年前、東京大学病院(東京都文京区)に勤務し、緩和ケア診療部副部長として緩和ケアチームを率いながらACPに取り組んでいた。2002年4月に診療報酬で一般病床の入院患者に対する緩和ケアチームによる活動を評価する「緩和ケア診療加算」が新設され、東大病院に緩和ケアチームが発足したタイミングだった。
緩和ケアチームとは、緩和ケアを提供するために、身体症状の緩和を担当する医師のほか、心のつらさを和らげる医師、看護を担当する看護師(認定看護師)、薬剤師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなどが、主治医、病棟看護師と協力して働く専門のチームのことを指す。医療職が一丸となって、患者のケアをする。
ペイシェント・ジャーニー(Patient Journey=病気に罹ってから始まる病気を抱えた人としての旅)という言葉がある。局所的な症状緩和にとどまらず、患者の生き方に寄り添って、継続的にケアを続けるのが緩和ケアチームで、その手段としてACPがある。ACPとは、今後の治療・療養について患者とその家族、医療従事者があらかじめ話し合い、それを何度も繰り返す一連のプロセスだ。
この国にACPの考え方がほとんど定着していなかった当時、岩瀬氏が頼りにしたのが、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN=National Comprehensive Cancer Network)のエンド・オブ・ライフ(終末期・寿命の終わり)におけるACPのガイドラインだった。
このガイドラインは、治療中の患者に対して予想される余命を、月・週単位、さらには週・日単位に応じて、医療チームが介入(関係やかかわりを持つ)する手順と、評価(チェック)する方法を明示したものだ。
患者の価値観に合った適切な治療法を提示したり、最期を過ごす場所はどこがいいのかについて、患者のほかに家族に希望を聞いたりする。また、将来に対する恐れや不安を明らかにするだけでなく、心理的なサポートをすることなどが手順として挙げられている。
埼玉医科大学病院救急科・緩和医療科の岩瀬哲教授
一方で、介入するだけではなくて、「患者や家族の心配が軽減できているかどうか」「患者の人生の意義を再定義できているかどうか」「最善の生活の質(QOL=Quality Of Life)が提供されているか」などをチェックすることも必要だとしている。
ACPの特徴は、この手順とチェックを一度で終わらせず、何度も繰り返していくことだ。
NCCNのACPガイドラインに大きく遅れることになったが、厚労省もACPを「人生会議」という愛称に決め、人生会議を進めるための具体的なプロセスを示した。それが、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」だ。
その人生会議のガイドラインでは、まず、本人の意思が確認できる場合と、確認できない場合とを分けている。本人の意思が確認できないならば、家族などが本人の意思を推定するが、それができない場合には医療・ケアチームが本人にとって最善の方針を取ることを基本とするとしている。
人生会議のプロセスの中では、時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更などに応じて本人の意思が変化しうるため、医療・ケアチームが適切な情報提供をすることを前提にして、家族などを含めて話し合いを繰り返すよう求めている。さらに、話し合った内容はその都度、文書にまとめておくことを推奨している。
ACPは、リビングウイル(living will=人生の最終段階・終末期を迎えたときの医療の選択について事前に意思表示しておくこと)と勘違いされるが、岩瀬氏は、「ACPは、プランニングですから、計画ですし、プロセスなのです」と強調する。またACPは終末期のがん患者のみが対象となる印象が強いが、埼玉医科大病院では現状、がん・非がんの割合が4対6で、非がんの患者が増えている。
現場で実践されているACP
ACPの具体的なケースを紹介しよう。
金田幸子さん(70代、仮名)が、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(皮膚の色素のメラニンをつくる細胞やほくろの細胞ががん化したものでメラノーマとも呼ばれる)を患っていた。この患者は2016年8月に埼玉医科大病院皮膚科で全摘手術。転移を心配して脇の下のリンパ節を取り除いた3年後の2019年4月の検査では再発・転移はなかった。ところが、同年8月にCT(コンピューター断層診断装置)で肝転移がわかった。
幸子さんは、同院皮膚科にすぐに入院し、抗がん剤を用いた化学療法を開始したが、呼吸困難の状態が悪化したことから、岩瀬氏が率いる緩和医療科の緩和ケアチームが介入し、ACPを開始した。
ACPのプロセスの中で、▽医学的適応▽患者の意向▽QOL▽周囲の状況―の4つのポイントが繰り返し話し合われた。「医学的適応」では、治療の目的は何か、治療が成功する確率などがテーマになった。「患者の意向」では、幸子さんに判断能力はあるか、幸子さんに治療の利益とリスクが説明され、それらを理解しているか、といったことが問われた。
「QOL」では、治療をした場合としなかった場合に、通常の生活に復帰できる見込みはどの程度かなどが課題になった。「周囲の状況」では、治療の決定に影響する家族の要因はあるか、幸子さんに経済的要因があるかなどのほかに、思想的・宗教的要因があるかなどが話し合われた。
幸子さんはその後、入退院を繰り返し、化学療法を再開したり、放射線治療もスタートしたりした。その間にも、幸子さんの意向などが何度も確認され、2020年5月には放射線治療を中断、幸子さんが在宅医療を希望したので、自宅での療養に移行し、訪問看護や訪問診療に切り替えた。
幸子さんはその1カ月後、家族に見守られながら亡くなった。家族からは「(患者と)一緒に過ごす時間を持てました。家に帰る決断をしてよかった」との声が届いた。
いつ亡くなってしまうかわからないからこそ在宅
岩瀬氏は主治医の「患者さんがいつ亡くなってしまうかわからないから入院が必要だ」という言葉に違和感を覚えるという。岩瀬氏は、「いつ亡くなってしまうかわからないから在宅なのだ」と繰り返す。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で入院患者への面会制限があるため、いったん入院すると患者家族が面会に訪れにくくなる。そのために、残された時間が短い患者ほど、在宅で有意義な時間を過ごすことが大事になってきているというのだ。
岩瀬氏は現在、高齢患者の退院後の日常生活の中で生じる基本的な動作を意味するADL(Activities of Daily Living)を定期的にモニタリングして、ADLが低下した際、地域で適切な介護を受けられるよう介護サービスに円滑につなげる取り組みを推進している。退院した患者のADLの状態を、介護サービスのスタッフなどを通じてチェックするよう努めている。
岩瀬氏には患者が救急搬送されるのは、医療提供者にとって“敗北”との持論がある。「退院後に緊急入院するのは、患者さんが苦しんだ状態で(病院に)帰ってくるので、患者さんの状態管理の面では決していいとはいえません」という。
消防庁がまとめた「救急・救助の現況」調査によると、2019年の年齢区分別の搬送人員の構成比は、子どもや成人が前年比ほぼ変わらずだったのに対して、高齢者は60.0%に達している。20年前の1999年に、高齢者の比率が4割弱だっただけに、急増していることがわかる。そこで、埼玉医科大病院では、救急科と緩和医療科を一つにして、高齢者の救急搬送を減らす取り組みをしている。
同調査の救急搬送を事故種別にみると、高齢者の救急搬送の約8割は、転倒がきっかけだ。この状況は同大病院でも同じで、脱水などを起こして転倒、動けなくなって救急搬送されるケースが増えている。
そういった高齢者の大半は、いわゆるロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態)やフレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)で、治療しないと命に関わる急性期の病気や外傷があるわけではない。急性期疾患ではないので、入院が必要ない「軽症」と判断して自宅へ帰すと、また転倒したり、急激に体調を崩したりして救急再搬送されるという悪循環に陥ってしまうのだ。
退院後の患者の状態をどうすれば適切に管理できるか
同大病院に2017年に救急再搬送された65歳以上の高齢者の初回搬送時の転帰(病気が経過して他の状態になること)を調べたところ、帰宅が61.6%、入院が36.8%で、帰宅患者の再搬送率が高い結果となった。そこで、同大病院では、救急搬送されてきた高齢者の救急の「入口」を救急科が、救急の「出口」を緩和医療科が、それぞれ担当する体制を構築し、高齢者の救急搬送を減らそうとしている。
また、臓器別の診療科で治療が難しいロコモやフレイルの患者は、救急科・緩和医療科の病床に入院してもらい、痛みの軽減や症状緩和などの治療をするとともに、退院後には地域の介護サービスにつなげる支援を継続している。一方で、高齢者のADLのモニタリングを同時並行で進めている。
迫り来る超高齢社会を乗り切るカギは、退院後の患者の状態をどのようにすれば適切に管理できるかに知恵を絞ることにありそうだ。それは、自ら望む医療・ケアを優先しようというACPのプロセスにも大きく影響する。
君塚 靖 : えむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者



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