下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です
患者さんを守る「医療安全」や、「EBM」(Evidence Based Medicine=根拠に基づく医療)に沿ったガイドラインや標準治療について、患者さん自身が情報を入手できるようになったことで、医療者側はよりきめ細かな対応が求められています。何かトラブルが起こってしまったときに、患者さんやその家族がまるでクレーマーのように無理難題を突きつけてくるケースもあります。
もしも自分が患者さんや家族の立場だったら、同じような言葉を口にするかもしれないと思うところもあります。だからこそ、医療者側にはよりきめ細かな医療安全的な対応が必要になってきます。手術や治療を行う前に、起こりうるさまざまなケースを想定してリスクについて丁寧に説明を繰り返し、患者さんや家族に納得してもらえているかどうかが重要です。
仮にあんなトラブルやこんなトラブルが起こったとしたら、それはもう患者さんが日常生活で歩いているときに自分で転んでしまったレベル――そう言えるくらいきちんと納得してもらっておく必要があるのです。
仮に手術して患者さんが亡くなってしまったり、非常に重い後遺症を残すような状況になってしまった場合、家族や患者さん本人はそうそう納得はできません。ですから、医療者側は事前に予測されるリスクについて正直に包み隠さず話しておき、そうしたリスクがあることがわかっていて手術という契約を結ぶという手続きを取ります。その上で、もしも後遺症という新たな問題が起こってしまったら、そちらに対する治療が加えて必要になり、回復の遅延を招くのはそちらであることを理解していただかねばなりません。
患者さん側から見た場合、医療安全にのっとったきめ細かい説明をしてもらえない医療機関では、万が一のときに自分を守ってもらえない恐れもあります。そういうときは、複数の医師に治療方針を聞いてみるセカンドオピニオンを受けてみるのもひとつの方法です。
患者さん自身が「自分を治せるのはこの治療しかないんだ」といった一点集中の思い込みをすることなく複眼的な視点を持ったうえで、実際に説明を聞いて信頼できると感じる病院や、この人が組織するチームなら手術を受けてもいいかなと思える医師を選ぶことが自身を守ることにつながります。
■常に「患者を守る側」に立つ
もちろん、患者さん側から質問したり、要望を伝えたりといった主張をしても問題ありません。その主張を受け入れて、医療機関側が正しく対応してくれるかどうかを判断してください。たとえば、私が患者さんから僧帽弁閉鎖不全症に対する小切開心臓手術「MICS」(ミックス)について、「先生はどれくらいミックスの経験があるんですか?」と聞かれた場合、正直に「30例くらいです」と回答します。数年前までは、手がけてこなかった手術法なので、まだ症例数が少ないのです。
もし、ここで「300例ほどあります」と答えてしまえばウソつきになってしまいます。たとえ患者さんに不安を抱かせないようにしようという意図があったとしても、医療安全の考え方に反しています。これでは患者さんから信頼を得ることはできません。正直に丁寧に説明をすることで、患者さんから「症例数が少なくても、この先生なら安心して任せられる」と信頼されることが大切です。
医療安全という観点から重要なポイントをまとめると次の3つになります。①手術や治療を行う前に、想定されるリスクについて丁寧に説明を繰り返し、患者さんや家族に納得してもらう②もしもトラブルが起こってしまったら、できる限り早く真実を伝える③常に患者さんを守る側に立っている。この3つさえ正しく実行できていれば、大きな問題は起こりません。また、患者さんからしても、予想もできないくらい深刻な事態を招くことは起こらないといえるでしょう。
天野篤
順天堂大学医学部心臓血管外科教授
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