
産業界の「米中戦争」はどうなる?カギを握るのは日本と韓国(釈量子)【言論チャンネル】
幸福実現党党首 釈量子
◆トランプ大統領のG11構想の思惑とは…?
今回は「産業界における米中戦争の勝敗のカギを握るのは日本と韓国」というテーマです。
5月末、トランプ大統領から突如G11構想について、以下のような発言が飛び出しました。
「現行のG7の枠組みは世界の状況を適切に反映しておらず、極めて時代遅れだ。ロシア、オーストラリア、インド、韓国を招待して、G10またはG11にしたい」というものです。
この発言に大喜びしたのが、文在寅大統領の側近でもある李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使です。
李大使は「新たな世界秩序を形成・管理していくにあたり、参加できる招待状を得たのと同じ」。また、「韓国は(米中双方から)選択を強いられる国ではなく、選択できる国だという自負心を持っている」と、かなり不用意な発言をしてしまいました。
これに対しては、韓国国内からも「米中の確執が広がる敏感な時期に、外交的に不適切だ」という批判が出たほどです。
◆韓国に踏み絵を迫る米国
もちろん、アメリカがG11構想を持ち出したのは韓国のご機嫌を取るためではありません。
狙いは「中国と韓国の引き離し」です。
G11構想に先立って、米国は、日韓を含む有志国とサプライチェーンの再編を推進する「経済繁栄ネットワーク(EPN=Economic Prosperity Network)」構想を表明しています。
EPN構想とは、次世代通信システム「5G」を含む、幅広い分野において、自由主義陣営でサプライチェーンを構築しようとするもので、要するに「反中経済同盟」です。
李駐米大使の発言の後、米国は韓国外交部と電話会談を行い、「経済繁栄ネットワーク」について説明して、参加を公式に要求したと言われています。
米国が韓国に対して「米国と中国、どちらを選ぶのですか?」と踏み絵を迫ったと見ることもできます。
◆米国が中国と韓国を引き離したい真相
米国が韓国を引き込もうとする最大の要因は、韓国最大の企業サムスンの首根っこを押さえたいからでしょう。
米国は以前から、5Gから中国企業のファーウェイを外すよう、他国に迫ってきました。
なぜなら、このファーウェイが5Gを構築する上で外せないのがサムスンの技術だからです。
「7nm(ナノ)プロセス技術」という超細密な技術を持っているのは、現在のところ、台湾企業の「TSMC」と韓国の「サムスン」だけです。
この技術レベルの半導体がなければ、次世代通信規格の5GやAIは製造できません。
スマホが5G規格になれば、「超高速」「大容量」「同時多接続」となり、今度産業分野でも、IoTや自動運転技術などに拡大し、更に、安全保障分野、軍事での活用も見込まれています。
実際に、TSMCの技術を利用して製造した米国半導体大手のザイリンクスの製品は、米軍の最新鋭ステルス戦闘機「F35」などにも使われています。
要するに、TSMCとサムスンを中国に取られてしまうと、技術面で米国は敗北してしまうわけです。
◆ファーウェイから距離を取る台湾企業のTSMC
昨年5月になされた米国での輸出規制によって、米国製品が25%以上含まれている製品は、自由に輸出できないことになっていました。
しかし、今後は規制が更に厳格化し、米国製品が10%以上含まれるものから禁輸対象となる見込みです。
この方針を受け、TSMCは、ファーウェイからの新規受注を停止しました。
その理由は、TSMCが米企業の半導体製造装置を使用しているためです。
更に、米国はTSMCに対して、軍事用半導体を米国内で製造するように要請し、より微細な5㎚プロセスの工場をアリゾナ州に建設するプロジェクトが進んでいます。
後編では、サムスンの動向から見て参ります。
(つづく)
◆文在寅大統領の手中にあるサムスンの難しい状況
残りは韓国、サムスンの動向です。
中国も「米国によるサムスン取り込み」の動きに気付いており、自国内での半導体生産体制をしっかりと守ろうと試みています。
年内には、習近平国家主席が韓国訪問を進めるべく、文在寅大統領との電話会談があったという報道もありましたが、中韓のつながりというのは非常に注目されます。
現段階では、サムスンの技術がなければ、最先端の製品を一つも作れず、ファーウェイの天下は一夜にして終焉してしまう状況です。
一般的に、サムスンは親米派と考えられていますが、サムスングループの事実上トップとされるサムスン電子の副会長、李在鎔(イ・ジェヨン)氏が不正疑惑で逮捕されています。
検察に捜査を受けている状況のため、完全に親中・文在寅政権のコントロール下にあります。
そのため、米中のどちらの味方をするのか、企業としては決められない状態にあると言えるでしょう。
◆「米中技術戦争」のカギを握る国・日本
こうした「米中技術戦争」の動向を左右しうる国が日本です。
まず、韓国との関係です。
サムスンが最新鋭の半導体を製造する際には、日本の超高純度のフッ化水素が必要不可欠で、これなしでは製造が止まってしまいます。
ところが昨年7月、軍事転用を防ぐ取り組みが甘いとして、日本は韓国への輸出管理を厳格化しました。
一部輸出も再開していますが、未だ全面的な解禁には至っておりません。
韓国は自国でもフッ化水素を製造できると主張していますが、日本ほどの高純度の製品は難しいようです。
そのため、韓国への輸出管理の強化は、「日米連携での韓国への圧力ではないか」という見方が有力です。
◆決定的な弱点を抱える中国の半導体業界
更に、中国との関係です。
ファーウェイのスマホに、日本企業の部品が多用されていることは知られていますが、中国の半導体専門メディアの報道によると、タブレットを分解したところ部品の8割が日本製だとしています。
ファーウェイ梁華会長へのインタビュー内容によれば、「2019年の日本企業からの調達額が過去最高の1兆1000億円に上る」「日本のサプライヤーとパートナーに感謝を申し上げたい」と述べています。(Business Insider Japan)
ファーウェイに半導体や電子部材を供給している日本企業は、公表されているのは11社ですが、実際は20社に及ぶとも言われています。
また前述の通り、中国は半導体の自前化を進めていますが、中国も韓国と同様に欠点があります。
「中国半導体のゴッドファーザー」とも呼ばれる、新興半導体メーカー芯恩会長の張汝京(リチャード・チャン)氏は、「中国の半導体産業にはいくつか欠点があり、特に材料と設備がサプライチェーンの中でも最も弱い」と述べています。
そして「半導体材料の国産化こそが、半導体全体の国産化の中でも、非常に喫緊かつ困難な仕事である」と中国が抱える決定的な弱点を明らかにしています。
◆既に日米で持ち上がる6G 構想
つまり、現時点においてはサムスンもファーウェイも、日本の技術がなくては成り立たないということです。
しかし、米国の対中規制が強化され、前述の通り25%ルールの基準が10%に変われば、日本からの中国への輸出は困難になる可能性があります。
今後は、中国との取引による経済的なメリットは失われるばかりか、日本も米国から制裁を受けかねないとも言えます。
現在、5Gを一気に飛び越えて、6Gを構築しようという構想が日米の間で持ち上がっています。
実際、昨年10月にはソニー、インテル、が次々世代6Gの通信規格で連携するという日経新聞の報道がありました。
今のところ、2031年に実用化が見込まれていますが、もし6Gの目処が立てば、下位規格の中国を外すことが可能になり、日本がアドバンテージを握る「虎の子の技術」があるというのは非常に朗報です。
最後に、日本は韓国や中国との取引を続けて目先の利益を選ぶのか、それともアメリカとの連携を強化し、中長期の繁栄を選ぶのか、答えは明白です。
そのためにも政治サイドは、サプライチェーンの国内回帰の後押しをして、法人税の減税、未来産業への思い切った投資などを進めるべきです。
幸福実現党としては、日本の高度な技術を、人権抑圧ではなく、世界の自由と繁栄を守るために使われるような環境を整えていきたいところです。

執筆者:釈 量子
幸福実現党党首
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