2018年11月5日、米国を目指してメキシコ南部の道を歩く移民集団(ロイター=共同)
トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味
『舛添要一』 2018/11/09 https://ironna.jp/article/11123 舛添要一(前東京都知事)
11月6日に投票が行われた米中間選挙は、事前の予想通り、上院(全100議席)は共和党が多数派を維持し、下院(全435議席)は民主党が多数派を奪還した。
この結果、議会は「ねじれ」状態となり、今後のトランプ大統領の政権運営が思い通りに行かない可能性が強まった。選挙結果の詳細な分析は、すべてのデータがそろった後になるが、今の段階で説明できる点を以下に記してみたい。
まずは、期日前投票の出足を見ても、今回は中間選挙にしては極めて高い投票率であり、それだけ熱気に包まれていたと言ってよい。トランプ政治は米国社会を二極化、分断させ、それが有権者の政治的関心を高めたものと思われる。
選挙の争点としては、経済と社会保障、とりわけ医療保険が突出していた。経済については、トランプ政権は極めて有利な状況にあったと言ってよい。
米経済は絶好調で、失業率も2000年以降初めて4%を切っており、これがラストベルト(さび付いた工業地帯)の白人労働者らの強固な支持につながったのである。「米国第一主義」を掲げ、外国産品に高関税を課す保護主義も称賛されたし、低賃金で働くことで米国人の職を奪う不法移民を、国境に壁を築いて締め出すという政策も評価された。
その点では、ホンジュラスなど中米諸国から数千人の規模の「キャラバン」と呼ばれる移民たちが、米国を目指して北上していることは、トランプ氏にとって神風が吹いたようなものである。1万5千人の米軍兵士をメキシコ国境に派遣するという大統領の指令は反移民感情に強く訴えた。
最近、正式に移民として認められたヒスパニック系なども、自らの既得権益を守るためにトランプ氏支持に回ったようである。
そのことを象徴的に示しているのが、メキシコと国境を接するテキサス州の上院議員選挙である。共和党現職のクルーズ議員は、2年前の大統領選挙の指名争いではトランプ氏と激しく対立し、罵倒し合ったが、今回は大統領に応援を依頼するほど苦戦を強いられた。
相手の民主党のオローク候補は「オバマの再来」と言われるほどカリスマ性がある候補だったが、接戦の末、クルーズ議員が51%対49%という僅差で勝っている。北上する難民キャラバンがテキサス州民の恐怖心を煽り、共和党に勝利をもたらしたと言っても過言ではない。
ミズーリ、インディアナ、ノースダコタ州では、民主党の現職上院議員が共和党に敗れており、これも「トランプ現象」の波及効果だと言ってよい。若いころ、インディアナ州の大学で教えたことがあり、福音派(エバンジェリカル)も含めキリスト教の信仰に篤い地域の保守性を肌で感じてきたが、人工妊娠中絶やLGBTに反対するトランプ氏の姿勢が支持されたと考えてよい。
知事選も、フロリダ州では、「ミニ・トランプ」と呼ばれる共和党のロン・デサンティス候補が民主党の黒人アンドリュー・ギラム候補に勝ち、ジョージア州では共和党「超保守派」のブライアン・ケンプ候補が民主党の黒人女性のステイシー・エイブラムス候補をリードしている。
これら共和党の勝利であるが、上院については改選議席から見て共和党が過半数を獲得するのは当然であった。改選議席は35で、非改選議席は民主党が23、共和党が42であり、共和党は8議席獲得すればよいという状況であったからだ。
最高裁判事や閣僚、大使などの人事の承認権を持つ共和党が上院を制したことは、トランプ氏にとっては大きな意味を持ち、再選戦略にプラスになる。特に、最高裁判事の人事で保守派判事を任命できれば、三権のうち、行政と司法の二権を握ることになるからである。
また、条約の承認権を持っているのも上院であり、トランプ色の強い貿易協定などを成立させるためにも、上院多数派の確保は大きな意味を持つ。トランプ氏が上院での共和党の勝利に安堵(あんど)しているのは、そのためである。
2018年10月、米フロリダ州マイアミでの集会後、記者らの質問に答える州知事選の共和党候補デサンティス氏(共同)
ところで、下院で民主党が多数派を制した理由は、投票率が高まったことにある。これまでは女性や若者、LGBTなどの少数派はあまり投票所に足を運ばなかった。
ところが、今回は下品な言葉で少数派を侮辱するトランプ氏に反発して、投票に行ったのである。特に若者票が下院での勝利に大きく貢献したと見られている。
中略
日米関係については、「シンゾー・ドナルド」の関係も良好であるし、さほど大きな影響はないと考えてよかろう。しかし、トランプ氏の「米国第一主義」や傍若無人ぶりが修正される可能性はあまりないと見た方がよい。
日本製自動車に対して関税を課してくるような事態は十分に起こりうるのであり、下院での民主党の勝利が日米関係の好転につながるというような甘い幻想は捨てたほうがよい。
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