以下は、『国民新聞』の求めにより認めたものです。掲載にあたり、若干の字句を改め、見出しをつけました。ご参考までに掲載します。
(事務局長 平田文昭 記)
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裁判員制度を廃止しよう
アジア太平洋人権協議会 代表 平田文昭
政府は、来年平成21年5月21日から、裁判員制度を実施するとの政令を定めた。
裁判員法には附則二条二項において、裁判員の参加する刑事裁判が「円滑かつ適正に実施できる」状況にあることを、法施行の前提としている。
〔最高裁ともあろうものが、こんなインチキをやっていいのか〕
しかし、最高裁判所が平成20年1、2月実施の国民調査によれば、参加しても良いという国民は僅かに15・5%にすぎない。一方最高裁は、約六割から参加してもよい、との回答を得たと言っている。この六割の実態とは「あまり参加したくないが義務なら参加せざるを得ない」44・8%を、さきの15・5%に加えた数なのである。これは詐術である。最高裁がこのような数値操作をやっていいものだろうか。
操作と言えば、昨年には「裁判員制度フォーラム」で契約書作成前に事業をはじめた「さかのほり契約」や水増し請求、企画競争入札で五社中三社の金額が一致という談合疑惑、来場者のサクラ動員などの不正が次々と発覚している。同じようなことが道路公団で起こっていたら大問題になるところが、いつのまにか沙汰止みである。
〔最高裁ともあろうものがこんなお笑い台本書きをやっていいのか〕
この四月、最高裁は裁判員を辞退できる事実上の基準となる事例集をつくり各地裁に送った。これがお笑いなのだ。№1ホステス(つまり№2以下は辞退できない)、仕込み時期の杜氏、種付け時期の牡蠣業者、株主総会を控えた経営者、初詣や海水浴時期のコンビニ店員、豪雪地帯の住民(冬)、異物や誤表示のあったときの食品製造業社員、学年始めや末期の教員などが例示されているが、こういうことを言い出せば、誰しも何らかの事情を抱えているのだから、殆ど辞退可能にしなければ筋が通らない。事例集に載っていない場合、裁判所はどう判断するつもりだろうか。
つまり、裁判員になれるのは、かなり限られた人たちでしかないはずなのだ。仕事を休んで朝から夕方まで裁判所にかよって、殺した、強姦した、盗んだ、偽造した、といった話しを聞かされて、事実と刑罰を判断しろ、といわれて「よし、引き受けた」という人がいたら、これはかなり変な人である。そもそも簡単に仕事を休めるのは、大企業の非幹部社員か非幹部公務員か、暇をもてあました年金生活者くらいのものであろう。
最高裁は「精神的ショック」をうけた裁判員のために24時間の電話相談を開設するという。しかも業者委託で。このこと自体、裁判員制度の無理を示すものである。
〔裁判員制度のあらまし〕
裁判員制度とは、有権者のなかから、籤で選ばれた裁判員六人(簡便な事件は四人)が、裁判官三人(簡便な事件は一人)と同等の権限で、重大刑事事件の裁判を行う制度である。重大刑事事件とは、最高刑が死刑・無期懲役・無期禁固である犯罪で、殺人、傷害致死、強姦致傷、覚醒剤取締法違反、危険運転致死、銃刀法違反等であり、年間約3300件である。
裁判員は、有権者がなるので、20歳で世の何のことを何も経験していない者も死刑の判断を下すことがありうる。司法試験秀才の頭でっかち裁判官がいけないからと言って、「小僧」に人の生死を左右させることが許されるか。
最高裁・法務省・日弁連は、殆どの裁判は「数日」で終わると宣伝しているが、そういう裁判は、被告と検察の間に事実の争いがなく(被告が有罪であることは被告側も認めている)、あとは刑をどうするか(実刑か執行猶予か、懲役・禁固何年か)を争うもの、場合によっては実質的にはそれすら争われないような事件である。
〔2/2へ続く〕