裁判員法の廃止を求める会

我が国の刑事司法を崩壊させる裁判員法の廃止を求めます

鑑定重視の司法判断 渋谷・妹殺害判決

2008-05-28 12:28:28 | Weblog

鑑定重視の司法判断 渋谷・妹殺害判決 裁判員制度控え 多様な判断材料を

2008
528日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008052802000104.html

 
殺したことは有罪だが、遺体を切断した行為については無罪-。東京都渋谷区の短大生殺害事件の公判で二十七日、東京地裁が示した判決は、一人の被告の行為を二種類の人格に分けて裁いた。一般人には踏み入り難さが立ちはだかる精神医学の世界。法律の素人が裁判に参加する裁判員制度のスタートが迫る中、また重い課題が浮き彫りになった。

 「どう猛な別人格になっていた」。多重人格を理由に死体損壊を無罪とした二十七日の東京地裁判決は、「心神喪失の可能性がある」と指摘した牛島定信・東京女子大教授の精神鑑定を重視した司法判断となった。

 判決は遺体を左右対称に十五の部位に解体した行為は合理的な説明ができず、別人格を仮定しないと説明がつかない怒り狂っていた殺害時と冷静で整然とした遺体切断時とを比較すれば意識状態が変わっていたとみるべきだ-とし、「人格交代」を説明する鑑定意見を採用した。

 鑑定が信用できないと主張した検察側は、その根拠として「捜査段階の供述内容とかけ離れた問診結果で判断した」と反論。しかし判決は「犯行状況についての供述は不自然で信用できない」と、逆に捜査段階の供述の方を否定した。

 ある検察幹部は「最高裁が先月下旬、公正さに欠けるなどの事情がない限り、鑑定結果を尊重するべきだとの指針を示したことが大きく影響したのだろう」と推測。「裁判所は鑑定を否定する知見がなかったし、検察も論破できなかった」と悔しさをにじませた。

 
一方、刑法学者からは「専門家でも最後は直感で判断する。裁判官が直感した被告の異常性を、鑑定がうまく裏付けたのだろう」との意見も出ている。多重人格で心神喪失を認めることについては、専門家も論議は分かれる。一つの鑑定結果が絶対ではない。

 あと一年に迫った裁判員制度では市民が精神鑑定を判断する局面が何度もあるだろう。法廷での証拠調べや、可能であれば別の鑑定結果との比較などを通じて、判断材料を増やすことが求められる。(出田阿生)

適切に対応したい
 渡辺恵一・東京地検次席検事の話 判決内容を慎重に検討した上で適切に対応したい。

責任能力は慎重に
 福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)の話 ある種の発達障害のある成人が、殺人のような大きな心理的ショックを機にパニック状態となり、解離性同一性障害を引き起こすことは精神医学の観点からも不自然ではない。鑑定結果を踏まえた妥当な判決だと思う。もちろん解離性同一性障害の存在そのものに懐疑的な専門家がいるほどだから、責任能力の判断はよくよく慎重にすべきだ。特に健常者が犯行時にいきなり解離性同一性障害になった、と主張しているようなケースでは詐病の可能性が高い。

被告、深く一礼 言い渡し後
 「妹への謝罪の気持ちを持ち続けながら、前向きに生きていってほしい」。秋葉康弘裁判長は、兄の武藤勇貴被告(23)に「懲役七年」を言い渡した後、そう語りかけた。被告は両手を握りしめ、じっと聞き入っていた。

 「被害者はまだ二十歳という若さで、まさか兄に殺されるとは思ってもいなかっただろう」。判決は被告を非難する一方、生まれつき軽い発達障害があったのに両親には気付かれず、犯行につながる精神障害の発症に至ったと指摘した。

 傍聴席には家族の姿も。裁判長は「社会人としての責任を果たした上で社会に戻り、どういうことに気を付ければいいかを専門家からアドバイスしてもらって生活していく必要がある」と説いた。

 判決文は、市民が司法に参加する裁判員制度開始があと一年に迫っていることを意識してか、終始「ですます調」だった。被告の目を見ながら「あなた」と呼び掛ける場面もあった。言い渡しが終わると、武藤被告は頭を深く下げた。


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