愛愛撫の行為としての接吻。ここではあえてキスと言わずに接吻といいたい。接吻は対話のひとつ。対等な接吻。豊かな人生経験にうらうちされた愛撫としての接吻はつつましくもふくよかな快感をもたらす。
こんなことがあったことを思い出す。中秋の名月を託けての密会。それは三度目の逢い引きだった。
出逢うとともに濃厚な口ずけ。唇が少し開き、舌と舌とが触れ合う。そのまま舌と舌を絡ませながら抱き寄せる。舌が鋭敏になる。喘ぎ声が漏れる。口ではそんなことするなんて、と口走るが、もはや逆らう気持ちが失せている。髪がかきあげられ、そっと耳に熱い吐息が吹き付けられる。思わず身をそらす仕草をする。このままどんどん愛撫がエスカレートしてゆくようで、自分でも制御が効かなくなっていることに気づく。
あの時の鮮烈な記憶が鮮やかに今も胸のうちに澱のように
残る。