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還暦おやじの洋楽日記

「巨人の星」関連図書レビュー

コロナ禍で外出も憚られる事態になり家に篭る日が増えてしまったので、昨年の後半から読書量が一気に上がってしまった。新刊も読んでいるけど、それよりも昔読んだ本の再読が多い。もともと本をなかなか捨てられない性分で、雑誌以外の本を殆ど捨てたことがなかった。きっと「本を捨てたら本の神様に叱られる」という幼い頃の刷り込みが残っているんだろうな。
そんなのが半世紀分ほど溜まって自宅の結構なスペースを占有しているのだが、今こそそいつらを悠久の眠りから覚ましてやるべきだろうと、書棚から目についた本を適当にピックアップして読み返すことにしたのだ。最近読んだのは以下の「巨人の星」関連図書。


「巨人の星に必要なことはすべて人生から学んだ。あっ逆だ。」堀井憲一郎
初出は双葉社の「小説推理」という月刊誌で、1993年から1997年まで連載されていたものだそう。堀井憲一郎って最近は硬めの著作も出しているけど、この頃はおちゃらけキャラで奇抜な題材を偏執狂的に調べてコラムを書いていた。これは著者が幼い頃に多大な影響を受けた「巨人の星」を徹底的に調べて検証したコラムというかエッセイというか。
「巨人の星」は1966年から1971年まで「週刊少年マガジン」に連載されていたが、長期連載の常として物語が進むにつれて辻褄が合わなくなることもあったし、梶原一騎ならではの強引なストーリー展開により不合理な箇所も多々散見されたが、本書ではそういう点を子細に検証している。例えば「星一徹がちゃぶ台をひっくり返したことは一度もない」「花形満は小学4年生でスポーツカーを運転していた」「星飛雄馬の生涯年棒は推定290万円」「星飛雄馬が最後に左腕を壊した症状は医者の所見では単なる肉離れ」等々。まあ、そういうエキセントリックなネタはともかく、読んでいて思い出したのは「巨人の星」って劇中で語られる歴史上の人物の逸話や格言がやたら多いこと。北条時頼の「いざ鎌倉」だの山中鹿之助の「われに七難八苦を与え給え」だのマッカーサーの「老兵は死なず、消えゆくのみ」等々。思えば当時のいたいけな小学生はこういうくだりを読んで、その格調高さに酔い痴れてしまったものだ。しかも幼い頃に得た知識というものはなかなか忘れるものではない。「巨人の星」で得たこういう知識は、同年代の堀井と同様に自分の体の中にもしっかり取り込まれて染みついてしまっているのであった。
但し、この本は企画としてはとても面白いのだが、やたら脱線が多く文体もおちゃらけ過ぎていただけない。この人の著作を何冊か読んでパーソナリティは理解しているつもりでも辟易してしまうぐらい酷い。だから万人向けとは言えない。


「梶原一騎伝~夕やけを見ていた男」斎藤貴男
斎藤貴男は「機会不平等」等で有名な硬派のジャーナリスト。反体制的なスタンスの斎藤と、コワモテで右寄りの印象が強い梶原一騎の取合わせは意外な感じがするけれど、斎藤貴男も堀井憲一郎と同じく1958年生まれ。この世代が梶原一騎から受けた影響というのは本当に強烈だった、ということなのだろう。
これは梶原一騎の生い立ちから始まり、波乱に満ちた生涯を丹念な取材で描いた正統派ノンフィクション。乱暴の度が過ぎて教護院に入れられた少年時代。その後、物書きとしての文才を認められ、漫画の原作者として一躍時代の寵児となるまでの経緯。やがて裸の王様となってしまい、極真空手や映画界とも接点を持ったあたりから徐々に歯車が狂い始め、遂には暴行事件を起こして逮捕。それとともに過去のスキャンダルが暴露され栄光の座から転落し、やがて寂しい死を迎えるまで実に壮絶な人生が綴られている。
梶原一騎の人生そのものがまるでフィクションのようなドラマ、しかも昭和という時代でしか起こりえないドラマになっているところが凄い。読み応え充分の書。


「巨人の星」梶原一騎/川崎のぼる
そして「巨人の星」の再読である。物置部屋の書棚で埃にまみれていた講談社コミックス(KC)19巻を一気読みしたが、やっぱりグイグイ引き込まれる。特に巨人の星を目指して甲子園を戦い、テストを受けて巨人に入団するまでのくだりなんて、子供の頃に何度も読んでストーリーはわかっているのに、それでも何度か涙腺が緩んでしまった。
でも大リーグボールが登場してからはつまんない。それ以降の展開は荒唐無稽で筋立てに強引さが目立つようになってしまった。連載当時、大リーグボール2号の種明かしにひどく失望したことも思い出してしまった。もしも巨人の入団テストに合格する場面で終わっていたら、もっと名作になり得ていただろうに。

今じゃ梶原一騎の代表作と言えば「あしたのジョー」ということになっているけど、当時の感覚では「巨人の星」のほうが人気が高かった。「梶原一騎伝」によると「あしたのジョー」はちばてつやがかなりストーリー構成にも関与しているみたいで、だから風通し良く感じるのかも知れない。梶原一騎のストーリーって濃密すぎて途中で息苦しくなってしまうからな。それに社会の価値観も変わってしまって「巨人の星」のような物語は今の世の中ではもう受け入れられないのかも知れない。根性を礼賛し、男らしさ女らしさを貴ぶような価値観があってこそ成り立つドラマだもの。人生に必要なことを「巨人の星」から学んだ一人としては知らないうちに梯子を外されてたみたいで少々寂しいことだけれど。

(かみ)
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