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還暦おやじの洋楽日記

Live at Pompeii / Pink Floyd [DVD]

1970年代前半、ロックミュージシャンの映像を観ることは至難の業だった。そんな時代にNHKが時折放映していた単発の音楽番組「ヤング・ミュージック・ショー」は当時、貴重な存在。(それにしても「ヤング・ミュージック・ショー」という番組名は当時の感覚からしても随分垢抜けない名前だったな)。中でもピンク・フロイドがイタリアのポンペイ遺跡で演奏した、このフィルムは最も印象深い。
ポンペイは火山噴火で一瞬にして消滅してしまったローマ時代の古代都市。これはその廃墟にある円形劇場の遺跡で1971年に行なわれたピンク・フロイドのライブ。但し、観客は誰もいない劇場の中で彼等の演奏が黙々と進行する。

1. Echoes Part I
2. Careful With That Axe Eugene
3. A Saucerful Of Secrets
4. One Of These Days
5. Mademoiselle Nobs
6. Set The Controls For Heart Of The Sun
7. Echoes Part II

この映像の公開からほどなく「The Dark Side Of The Moon」で頂点に登りつめるのだが、あのアルバムを最初に聴いたときの印象は「妙にわかりやすいプログレ」ということだった。それまでの彼等の音楽はそれほど説明的ではなく寧ろ寡黙で、それ故、聴き手のイマジネーションを喚起するサウンドを聴かせていた。だから僕は「Meddle(おせっかい)」までのピンク・フロイドが好き。その中でも最高の一曲は「Echoes」だ。この映像の核をなす曲でもある。
まず、円形劇場に機材が搬入されるさまを遠景で捉え、ズームインしつつ「Echoes」が始まり、無人の劇場でのパフォーマンスが繰り広げられる。この映像での「Echoes」の印象が強かったせいか、ピンク・フロイドのメインのボーカルはデビッド・ギルモアとリック・ライトだとずっと思っていた。まあ、この時代はロジャー・ウォータースがそれほどリーダーシップを取っている風でもなく、きっと均等なパワーバランスを保っていたのだろうな。「A Saucerful Of Secrets」でウォータースが銅鑼を鳴らすシーンはこの映像のハイライトだし、「One Of These Days」でのニック・メイソンのドラミングは見ていて気持ち良い。リック・ライトが一生懸命マイクで犬の鳴き声を拾っている「Mademoiselle Nobs」は「Seamus」の兄弟曲だよね。そして再び「Echoes」のパート2で場面は遠景へとズームアウトし、エンディングへ。
ポンペイの街並みや壁画をカットインしつつ、静と動、古代と現代が音と映像によってシンクロして、まだ饒舌でなかった頃のピンク・フロイドの荘厳且つ幻想的な世界を堪能できる。

ところで現在入手できるDVDは2003年の「ディレクターズ・カット版」となっており、上記の映像は本編の特典扱いとなっている。この本編のディレクターズ・カット版というのが結構とんでもない代物で「The Dark Side Of The Moon」録音時のメンバーのインタビューが挟み込まれていて、純粋に彼等の曲を聴かせるという趣旨から外れてドキュメンタリー映像となってしまっている。更に宇宙をモチーフとした安っぽいCGが随所に挿入されていて、元の映像をこれでもかというぐらい換骨奪胎して、オリジナルが持っていたコンセプトや世界観を台無しにしてしまっているのだ。ポンペイの映像を素材として別のコンセプトのドキュメンタリーを作ったと言えばまだ良かったのに、これではこの作品の価値をいちばん理解していないのは監督自身だったという悲しいオチになっちゃうよね。だから僕にとってのポンペイのピンク・フロイドは永遠にオリジナルの映像のまま。

(かみ)
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