帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第一 44~48

2009-01-11 08:24:34 | 和歌
  古今和歌集 巻第一 春歌上
        44~48



44
   水の辺に梅の花さけりけるをよめる
                                伊 勢
 年をへて花のかゞみとなる水は ちりかゝるをやくもるといふらむ
   水辺に梅の花が咲いたのを詠んだ歌。
 年を経て、花の鏡となる水は、ちりかかるのを、曇ると言うのでしょうか……疾しを経て、お花が屈身となるひとは散りかかるのを、苦盛るというのでしょうか。

   をみなのあたりにお花がさいたのを詠んだ歌。
 「年…敏…疾し…早過ぎ」「花…木の花…おとこ花」「かがみ…鏡…かが身…屈み」「水…女」「ちり…塵…散り…果てる」「曇る…鏡が曇る…心が曇る…苦盛る」。





45
    家にありける梅の花のちりけるをよめる
                               貫 之
 くるとあくとめかれせぬものを梅の花 いつの人まにうつろひぬらむ

    家にあった梅の花が散ったのを詠んだ歌。
 暮れても明けても、目離さなかったものをなあ、梅の花、何時の間の、人のいぬ間に散ったのだろう……繰るとも飽きるとも、め離れせぬものを、このお花、いつのまにひとの間で、うつろになったのだろうかね。

    いへにあったお花が散ったのを詠んだ歌。
 「家…井へ…女」「あり…有り…在り…健在」。
 
「くる…暮れる…繰る…繰りかえす」「あく…明ける…飽きる…厭きる」「めかれ…目離れ…忘れる…女離れ…め離れ」「梅花…おとこ花」「ひとま…人の居ない間…ひとの間…め」「うつろう…移ろう…衰える…うつろになる」。




46

    寛平御時きさいの宮の歌合のうた
                           よみ人しらず
 梅が香を袖にうつしてとゞめてば 春はすぐともかたみならまし

    寛平の御時后宮の歌合の歌
 梅の香を袖に移して、留めておけば、春は過ぎても形見となるでしょう……お花の香りを、わが身の端に、移して留め置けるなら、はるは過ぎても、偲ぶよすがとなるでしょうけど。

 「梅…男花」「袖…そで…端…身の端」「春…季節の春…春の情…張る」「かたみ…形見…思い出となる遺品」「まし…もし何々ならば何々だろうに…実現できないことを仮想する意を表わす、希望や不満がこもる」。女の歌。





47
                           素性法師

 ちると見てあるべきものを梅の花 うたてにほひの袖にとまれる

 散ると見ているべきものを、梅の花、うんざりな匂い、袖に留まる……散るものと、見るべきなのに、このお花、ひどい匂いが身の端に留まっている。

 「見て…見物して…みている」「見…覯」「あるべきもの…そうあって当然のもの…そうあって適当なもの」「梅花…男花…おとこ花」「うたて…はなはだしい…もうたくさん…いとわしい」「そで…袖…端…身の端」。




48
     題しらず
                          よみ人しらず
 ちりぬとも香をだにのこせ梅の花 こひしき時の思ひいでにせん

 散ってしまっても、香だけは残せ、梅の花、恋しかった時の思い出にするわ……散り果てようとも、香は遺してよ、そのお花、乞いした時の思い出にするわ。 

 「散る…花散る…おとこ花散る」「梅の花…おとこ花」「恋しきとき…恋しかったときの事…乞いした時…求めたとき」「思ひいで…思い出す品…思い出すよすが」。女の歌。

 上五首。梅の花に寄せて、色あるもののはかなさを、男、女、法師が、それそれの立場で詠んだ歌。