わかれうた
貫之、藤原兼茂、平元規の別れ歌。歌には、人を心地よくさせる心におかしきところが添えられてある。併せて、伊勢物語のひとと別れた男を慰める歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第八 離別歌
384~386
384
おとはの山のほとりにて人をわかるとてよめる
貫 之
おとは山こだかくなきて郭公 きみがわかれををしむべらなり
音羽の山の辺にて人と別れるということで詠んだ歌
音羽山、木高く鳴いて、ほととぎす、君の別れを惜しんでるようだ……おと端の山ば、小高く泣いて且つ乞うひとが、君のわかれを惜しんでるようだ。
おと端の山ばのほとりにて、ひと、お、わかれるとて詠んだ
「人を…人に…人と…ひと、お」。「音羽山…山の名。鳥の羽音する山、女の端声する山ば」「鳥…女」「羽…端」「音…声」「鳴く…泣く」「郭公…ほととぎす…かっこうと鳴く鳥…且つ覯且つ乞うと泣くひと」「わかれ…ひととおの別れ…山ばでの別れ」「を…お…おとこ」「をしむ…惜しむ…愛しむ…愛着する」。
上一首。音羽山に寄せて、人との別れに詠んだ歌。ひととおとこのわかれざまの色を添えてある。
385
藤原ののちかげがからもののつかひに、なが月のつごもりがたにまかりけるに、うへのをのこどもさけたうびけるついでによめる。
藤原兼茂
もろともになきてとゞめよきりぎりす 秋のわかれはをしくやはあらぬ
藤原後蔭が唐物の使者として、長月の晦日に下って行ったときに、殿上の男どもが酒を頂いたついでに詠んだ歌
諸共に鳴いて止めよよ、きりぎりす、秋の別れは惜しくはないのか……もろともに、泣いて止めよよ、限り限りすひと、飽きのわかれは惜しくはないか。
藤原後蔭が、おお物の使い手で、長つきの果てのころにも間かっていたので、上の男どもが酒を頂いたついでに詠んだ。
「唐物使…唐よりの舶来物の検査役」「唐…大きい」「物…もの…おとこ」「使…使者…おとこ…使い手」「ながつき…九月は秋の終わり…長つき…飽きの果て」「つごもり…晦日…ことの果て」。「きりぎりす…こおろぎ…秋に鳴く虫…限界限り限りとなる」「鳴く虫…泣く女」「秋…飽き…飽き満ち足りたとき」。
386
平 元規
秋きりのともにたちいでてわかれなば はれぬ思ひに恋ひやわたらん
秋霧が君の出立と共に立ち出て、別れたならば、我らみな晴れぬ思いに恋い続けるだろう……飽き限りの絶つのとともに、君離れれば、晴れない思いに、ひとは乞いつづくだろうなあ。
「秋…飽き…飽き満ち足りた時」「霧…限…期限切れ」「晴れぬ…霧が晴れない…思いが晴れない」「恋ひ…乞い」「わたらむ…広がるだろう…つづくだろう」。
上二首。秋霧に寄せて、ひととの飽きのわかれを詠んだ歌。後陰のおおものの使いぶりが、歌と酒の肴。
別れを嘆く男を慰める歌
「伊勢物語」26。
昔、おとこ、五条わたりなりける女をええずなりにけることとわびたりける人の返ごとに、
おもほえず袖にみなとのさわぐかな もろこし船のよりしばかりに
昔、男、五条辺りの女を得られなくなったことよと嘆いた人への返事に、
思いがけない別れの袖に港で人々騒ぐかな、唐船が寄港したほどに……思わぬ身の端にみな門のさわぐかな、君の大ふねが立寄ったばかりに。
「そで…袖…別れに振るもの…端…身の端」「みなと…港…水門…女」「もろこしふね…唐船…大船…おお夫根…唐もの」。
「おとこ」は業平、「人」も業平、歌も業平、もろこしふ根だったのも業平。つまり自らを慰めたもの語り。
上一首。失恋した「男」を慰めた歌。猛きもののふの心をも慰むるは歌なり(仮名序)。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず