帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第十八雑歌下942~944

2010-01-23 07:18:28 | 和歌
   



 よみ人しらずの歌々。併せて、小野小町集の歌を聞きましょう。


    古今和歌集 巻第十八 雑歌下
         942~944


942
 題しらず
                 よみ人しらず
 よのなかは夢かうつゝかうつゝとも 夢ともしらずありてなければ

 世の中は夢かうつつか、現実とも夢ともわからない、知らずに生きて亡くなるのだから……女と男の夜の仲は夢かうつつか、現実とも夢とも知らない、在ってもすぐに無いのだからね。

 「世の中…男女の仲…夜の中」「うつつ…現…現実」「夢…仮…空」「あり…在り…健在」「な…亡…無」。女の歌。



943
 世中にいづらわが身のありてなし あはれとやいはんあなうとやいはむ

 世の中に、どこにわが身が在るのか、そして亡くなる、哀れと言うか、あゝつらいと言うか……夜の中に、どこなのよ、わが身が在りて君むなし、哀れというか穴憂というか。

 「いづら…どこ…どこへ行ったのよ」「ありてなし…生きていて存在感無し…健在でそして空しく亡くなる」「あな…感嘆詞…穴…女」「う…憂…つらい」。女の歌。



944
 山里は物のわびしき事こそあれ 世のうきよりはすみよかりけり

 山里は物が困窮する事があるけれど、俗世の憂きよりは住み良いことよ……山ばのふもとのさとは、わびしくはあるけれど、夜の憂き野べよりは済みよいことよ。

 「山…山ば」「里…山のふもと…さ門…女」「すみ…住み…済み…澄み」。女の歌。

 上三首。或る小野小町集には小町の歌としてあるという。

 上一首は、藤原公任撰「和漢朗詠集」山家に、「やまざとはものさびしかることこそあれ よのうきよりはすみよかりけり」としてある。詩歌の達人公任お墨付きの歌かも。



 尼の澄む方も浮きめ思ひけり

 小野小町集の歌をもう少し聞きましょう。


88
 わが身こそあらぬかとのみたどらるれ とふべき人に忘られしより

 わが身がよ、無いのかしらと探してる、訪うべき人に忘れられてより……わが身がよ、無いのかしらと手で辿っているわ、尋ね来るべき男に見捨てられてから。


90
 世の中を厭ひてあまのすむ方も うきめのみこそ見えわたりけれ

 世の中を厭いて、あまの住む方も、浮き藻ばかりが見え広がっていることよ……夜の仲を嫌って尼の澄む方も、浮きめばかりが思えつづいたという。

 「あま…海人…尼」「め…海藻…女」「見る…思う」「けれ…けり…気付いて詠嘆する意を表わす…伝え聞いたことを表わす」。


              伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
              聞書 かき人しらず