『地獄の口』は、大きく開いた口の部分からその内に入ることができます。
口の中が、一種のグロッタ(人工洞窟)になっているんですね。
上唇の部分には、朱色の碑文があり、いわく、
“Ogni pensiero vola”=「いかなる思考も飛び去る」。
なんとピッタリの文句じゃないですか!!
高尚な思想も、俗な解釈も、でっかい悩みも何もかにも、こいつの前では消え去って、まっさらな驚異に支配される。
んー、確かに飛び去りますね、この突き抜け感には^m^
中は思った以上に広く、明かりが最小限にしか入らないので暗く、涼しい。
夏はいい涼み場所になったことでしょうね。
中には先客の外人のおばさん2名。
どういう意図でここに来たのか不思議ですが、わざわざ日本から来てる私のほうこそ不思議に思われているに違いないので、お互い様ですかね^^;
中から外を見ると、見覚えのある形…、NHKのBS放送のキャラクターそっくり。
内壁に沿って、奥行き30cmくらいのベンチがコの字型に張り出しています。
ベンチに座って、会話に花を咲かせたのでしょうね。
澁澤の書いたエッセイにあった通り、内部中央には地面から石のテーブルが生えています。
これは、“舌”がモチーフになっている、いわゆる舌ベロのテーブル。
あー、ほんとに舌ベロだぁ、と思わず嬉しくなってしまいました。
中は空洞になっているので、内部でしゃべると声は反響して、その外部に低音で大きく聞こえる仕掛けになっています。
なので、内部で大きな声で叫ぼうものなら、外部からは『地獄の口』の像が、地底からうなり声をあげているかのように聞こえたに違いありません。
こういう仕掛けも、子供っぽいと言えば子供っぽい遊びの要素ですが、お金持ちの庭や建築にはこういった面白い仕掛けがあるようです(例えば人が近づくと水が飛び出す噴水とか)。
もっと中にいたかったんですけど、帰りのバスの時間が迫ってきています。
後ろ髪惹かれる思いで外に出ると、目の前には深い森。
振り向くとそこには、大口開けた『地獄の口』。
また来るぞ、と歩き出すのでありました。
(つづく)