湘南マランドロのブラジルピアノと、オルガン♪

ブラジル音楽専門のピアニスト/オルガニスト今井亮太郎のゴキゲンblog!!

「青と青のトラソス」

2024-04-23 14:00:00 | Story
4/21(日)にひらしん平塚文化芸術ホール多目的ホールにて開催された【永野亮比己×今井亮太郎〜青と青のトラソス】の脚本です♪
オリジナルストーリーで書かせていただきました〜!



「青と青のトラソス」


ただただ続く水平線。二つの青は交わることなく、どこまでも続いている。
僕は悩んでいた。僕は何者なのか。進む道は、今のままで良いのだろうか。この孤独さにどうやって打ち勝ったらいいのだろうか。
あまりに絶対的な二つの青は、僕の前にそびえ立っている壁のようにすら感じる。
僕は一枚の貝殻を拾った。何かの記憶に呼び戻されるように頭痛がする。



気がつくと、そこは貝殻で一面に敷き詰められた海岸だった。
とてつもなく懐かしく、愛おしい感覚。来たことがある、見たことがある風景。
何か重要な、そして温もりある記憶を思い出しそうになっては、その度に激しい頭痛に襲われる。
やがて目の前の水平線は、色濃くなった群青に吸い込まれ、二つの青は一つになった。



どのくらいここに佇んでいるのだろう。
まんまるの月は、海に白い道を描き出した。あまりの神秘的な光景に、殻を割って出ようとする遠い記憶がまた騒ぎ出す。
頭痛の片隅で、断片的に少しずつ見えてくるセピア色の時間。記憶の奥にいる、美しい女性のシルエット。
月はただただ優しく、僕を照らし続ける。




いつのまにか、吸い込まれた記憶のさらに奥に自分がいることを感覚で理解していた。
あの夜、月明かりの元で、彼女は踊った。美しい愛の舞。潮騒の響く群青の中、月に照らされた彼女は、どこまでも美しく、どこまでも儚く、どこまでも透明だった。手を伸ばして触れたら、貝殻を積んで作った城のように崩れてしまいそうだ。
愛おしい。
そうだ、僕はこの人を愛していたんだ。群青の海と空よりも、深く、高く。



あの頃、僕は真っ直ぐすぎた。あまりに純粋で、激しかった。目の前の道に必死で、なんとかチャンスを掴もうともがいていた。激しくぶつかり、何も恐れずに目の前を壊してでも突き進んだ。
夢を掴むために。自分が何者かを知るために。
痛々しかった僕を、彼女はいつも横で優しく見守ってくれた。コントロールできない激しい情熱の感情を、時にはぶつけてしまうこともあったのに。



先ほどまで強烈なエネルギーで照らしていた月は、いつのまにか群青の間に姿を消していた。見上げれば、空は無数の星で埋め尽くされている。
二人は貝殻でいっぱいの砂浜に座り、大声で笑いながら未来への夢を無邪気に話したんだ。満天の星の下、どのくらい話したのだろう。
強烈な眠気に襲われて、まどろんでいるその時だった。
彼女は僕の手を優しく包んで自分のお腹に当てながら、告白した。
「私には時間がないの。この子をお願いね。」



あまりに広く大きく、あまりに絶対的な青の前で、交わした刹那で情熱的な時間。もう時は止まらないことはわかっている。終わりがあることはわかっている。だから、この今だけの時間を永遠に心の奥底に刻んでおきたい。二人は夢中になって愛し合った。そこまでの優しい時間を全て、強く刻み込むのだ。
激しい頭痛がまた僕を襲う。
頭痛の中で、確信した。今見ているのは父の記憶だった。
僕は母の思い出はまるでない。自分の道を突き進みすぎて身体を壊し、幼い頃に他界してしまった父の思い出も、淡くしかない。
しかし、父と母が遺してくれたものは、今の僕に強く生きている。だから、この道を選んだんだ。
父と母は命をいっぱいに使って愛し合ったんだ。



「今」に戻ってきた時は、もうあたりは明るく、目の前は真っ直ぐの水平線に遮られて、また二つの青が大きく広がっている。
砂浜をゆっくりと歩く。
波の音、頬に当たる風…。なんだかどこまでも優しくて、心地良い。先ほどまでは僕の前に立ちはだかっているように思えた絶対的な二つの青も、今は僕を見守ってくれているように感じられた。
後ろを振り返ると、砂浜には長い足跡ができていた。
そうだ、この足跡は一人じゃない。
握りしめた貝殻を、そっとポケットに入れた。
そして、この先どんなに困難なことがあっても歩んでいけると、なんだか確信できた。







コメント
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