先日から家の近くの公園でカシムネアブラムシの観察をしているのですが、そこにアリやら、ハエやらがやってくるので、この季節、絶好の観察場所になっています。小さなアリがやってくるので、何だろうと思っていたのですが、先日、一匹だけ捕まえてきて調べてみました。
捕まえたアリの写真は撮っていなかったので、これは12月4日に撮った写真ですが、たぶん、同じ種ではないかと思います。アリの検索にはいつもの本を用いました。
寺山守、江口克之、久保田敏、「日本産アリ類図鑑」(朝倉書店、2014)。
腹柄節が1節なので、たぶん、ヤマアリ亜科までは確かだろうと思い、その先の属の検索からやってみます。この本に載っている検索表に従うと、このアリはケアリ属になります。その過程を書いてみると以下のようになります。
①腹柄は1節からなる;腹部末端の背板は単純で、微小な刺の列はない;頭盾前縁側方に小突起はない
②腹柄節は小さく、側方から見て丘部の幅は狭い;腹部第1節と第2節の間はくびれない;腹部第1節の背板と腹板は融合していない;腹部末端に刺針をもたない
③腹部末端は円錐形で丸く開口し、多くの属ではその周囲が毛で取り囲まれる ヤマアリ亜科 Formicinae
④胸部に突起や刺はない;腹柄節に突起や刺はない
⑤大腮は通常の三角形状
⑥触角は12節からなる
⑦中胸気門は背面もしくはごく背方寄りに位置する
⑧前伸腹節の気門はほぼ円形
⑨前胸は短い
⑩複眼は頭部側面の後方よりに位置する;前・中胸背面には軟毛や剛毛が不規則に乱立する
⑪頭部後縁は直線状かわずかにへこむ;大腮に7歯以上の歯を具える ケアリ属 Lasius
一応、亜科の検索も載せておきました。今回は④から先を確かめてみます。
体が折れ曲がっていたのですが、折れ線で近似して体長を測ってみると、3.4mmになりました。検索項目の④、⑨、⑩はこの写真からだいたい分かります。
次は複眼の位置についてです。この写真からも分かりますが、頭部の後方よりに付いています。
頭部後縁はほぼ直線的です。
大顎は三角形状です。
歯の数を数えるために少し拡大してみました。数えると何とか8個ほどは見えます。従って、この項目はOKです。
触角は12節で間違いありません。
気門に関する記述も書いてある通りです。
腹柄節に関する④の項目もOKでしょう。ということで、このアリはケアリ属であることは間違いなさそうです。
次は種の検索です。属の検索と同じ調子で調べていくと、最後はハヤシケアリか、トビイロケアリかというところに到達するのですが、たぶん、トビイロケアリであることは間違いないのではと思っています。上と同じようにトビイロケアリに至る検索表の項目を書き出してみると、次のようになります。
⑫体は褐色から黒褐色;小腮鬚は長く、頭部と胸部の関節部に達する ケアリ亜属 Lasius
⑬触角柄節に多数の立毛がある
⑭前伸腹節後側縁の中央部付近に立毛はない;1本の触角柄節の外縁に見える立毛は、触角鞭節の屈曲方向から見て25本以下;腹柄節は高く薄い;胸部は頭部とほぼ同色
⑮a 頭部と胸部は明褐色、腹部は暗褐色;腹柄節の頂部はより鋭角的に鋭く細く尖り、前縁に明瞭な角をもたない;触角柄節の長さは頭幅よりわずかに短い ハヤシケアリ hayashi
⑮b 全体的に暗褐色(胸部は頭部・腹部に比べて多少淡色になる場合が多い);腹柄節の頂部はより鈍角的で前縁は角張る;触角柄節の長さは頭幅とほぼ同じ トビイロケアリ japonicus
これも写真で確かめていきたいと思います。
まずは体色に関するもので、ハヤシケアリか、トビイロケアリかは色でおおよそ見分けられそうです。
次は小腮鬚に関するものです。写真ではやや見にくいのですが、かなり長いことが分かります。
触角の柄節の長さはほぼ頭幅と等しいことが分かります。これもハヤシケアリとの区別点になります。
触角柄節の立毛の数がなかなか難しいのですが、次の論文に立毛の定義が載っています。
E. O. Wilson, "A Monographic Revision of the Ant Genus LASIUS", Bull. Mus. Comp. Zool. Harv., 113, 1 (1955). (ここからダウンロードできます)
これによると、「立毛とは鞭節を含む面内で見て、柄節の前面にあって、表面から45度以上の角度で生えている毛」という定義になっています。この定義に従って、立毛の数を数えてみると、おおよそこの写真のようになります。少なくとも25本はなさそうなので、⑭はOKでしょう。(追記2019/12/18:立毛の向きが違うのではと心配になってきました。上の本によると、「触角柄節の外縁に見える立毛」とあり、Wilsonの論文によると、"the anterior scape surface viewed in line with the plane of funicular flexion"となっています。いずれも柄節の今回数えた面とは逆の面を指しているようです。そう思って、逆の面での立毛の数を数えてみるとせいぜい2-3本しかありません。こうなると検索項目の⑬が引っ掛かります。もう一度検索表を見直して、立毛がほとんどないという方を選択すると、ヒゲナガケアリか、ヒメトビイロケアリになるのですが、注釈として「トビイロケアリの初期コロニーの個体は立毛が少ないので注意」とも載っています。「日本産アリ類全種図鑑」の記述を見てみたのですが、分布的にはヒゲナガもヒメトビイロも大阪には生息しています。ただ、ヒゲナガは柄節が頭幅の1.12倍以上、ヒメトビイロは体長が2.0-2.5mmというので、たぶん、両方とも違うのではと思います。そこで、⑬については特に立毛の方向を指定していないと解釈し、文章そのままをとれば、上の検索の通りになります。⑭については今回とは逆方向に生えた立毛を数えて2-3本なので、一応、OKになるのではないかと思います。いずれにしても、立毛の数を数えるときの立毛の方向をもう一度文献で見直してみる必要があります)
最後は腹柄節の形状に関してで、たぶん、ハヤシケアリとトビイロケアリの区別点で一番はっきりするのではと思っています。この写真の個体では、黒矢印で示すように、腹柄節の前縁部分がゆるい角を成していて、従って、頂上部分の角度が少しだけ鈍角側にシフトしています。この条件からたぶん、トビイロケアリで間違いないのではと思っています。
捕まえたアリの写真は撮っていなかったので、これは12月4日に撮った写真ですが、たぶん、同じ種ではないかと思います。アリの検索にはいつもの本を用いました。
寺山守、江口克之、久保田敏、「日本産アリ類図鑑」(朝倉書店、2014)。
腹柄節が1節なので、たぶん、ヤマアリ亜科までは確かだろうと思い、その先の属の検索からやってみます。この本に載っている検索表に従うと、このアリはケアリ属になります。その過程を書いてみると以下のようになります。
①腹柄は1節からなる;腹部末端の背板は単純で、微小な刺の列はない;頭盾前縁側方に小突起はない
②腹柄節は小さく、側方から見て丘部の幅は狭い;腹部第1節と第2節の間はくびれない;腹部第1節の背板と腹板は融合していない;腹部末端に刺針をもたない
③腹部末端は円錐形で丸く開口し、多くの属ではその周囲が毛で取り囲まれる ヤマアリ亜科 Formicinae
④胸部に突起や刺はない;腹柄節に突起や刺はない
⑤大腮は通常の三角形状
⑥触角は12節からなる
⑦中胸気門は背面もしくはごく背方寄りに位置する
⑧前伸腹節の気門はほぼ円形
⑨前胸は短い
⑩複眼は頭部側面の後方よりに位置する;前・中胸背面には軟毛や剛毛が不規則に乱立する
⑪頭部後縁は直線状かわずかにへこむ;大腮に7歯以上の歯を具える ケアリ属 Lasius
一応、亜科の検索も載せておきました。今回は④から先を確かめてみます。
体が折れ曲がっていたのですが、折れ線で近似して体長を測ってみると、3.4mmになりました。検索項目の④、⑨、⑩はこの写真からだいたい分かります。
次は複眼の位置についてです。この写真からも分かりますが、頭部の後方よりに付いています。
頭部後縁はほぼ直線的です。
大顎は三角形状です。
歯の数を数えるために少し拡大してみました。数えると何とか8個ほどは見えます。従って、この項目はOKです。
触角は12節で間違いありません。
気門に関する記述も書いてある通りです。
腹柄節に関する④の項目もOKでしょう。ということで、このアリはケアリ属であることは間違いなさそうです。
次は種の検索です。属の検索と同じ調子で調べていくと、最後はハヤシケアリか、トビイロケアリかというところに到達するのですが、たぶん、トビイロケアリであることは間違いないのではと思っています。上と同じようにトビイロケアリに至る検索表の項目を書き出してみると、次のようになります。
⑫体は褐色から黒褐色;小腮鬚は長く、頭部と胸部の関節部に達する ケアリ亜属 Lasius
⑬触角柄節に多数の立毛がある
⑭前伸腹節後側縁の中央部付近に立毛はない;1本の触角柄節の外縁に見える立毛は、触角鞭節の屈曲方向から見て25本以下;腹柄節は高く薄い;胸部は頭部とほぼ同色
⑮a 頭部と胸部は明褐色、腹部は暗褐色;腹柄節の頂部はより鋭角的に鋭く細く尖り、前縁に明瞭な角をもたない;触角柄節の長さは頭幅よりわずかに短い ハヤシケアリ hayashi
⑮b 全体的に暗褐色(胸部は頭部・腹部に比べて多少淡色になる場合が多い);腹柄節の頂部はより鈍角的で前縁は角張る;触角柄節の長さは頭幅とほぼ同じ トビイロケアリ japonicus
これも写真で確かめていきたいと思います。
まずは体色に関するもので、ハヤシケアリか、トビイロケアリかは色でおおよそ見分けられそうです。
次は小腮鬚に関するものです。写真ではやや見にくいのですが、かなり長いことが分かります。
触角の柄節の長さはほぼ頭幅と等しいことが分かります。これもハヤシケアリとの区別点になります。
触角柄節の立毛の数がなかなか難しいのですが、次の論文に立毛の定義が載っています。
E. O. Wilson, "A Monographic Revision of the Ant Genus LASIUS", Bull. Mus. Comp. Zool. Harv., 113, 1 (1955). (ここからダウンロードできます)
これによると、「立毛とは鞭節を含む面内で見て、柄節の前面にあって、表面から45度以上の角度で生えている毛」という定義になっています。この定義に従って、立毛の数を数えてみると、おおよそこの写真のようになります。少なくとも25本はなさそうなので、⑭はOKでしょう。(追記2019/12/18:立毛の向きが違うのではと心配になってきました。上の本によると、「触角柄節の外縁に見える立毛」とあり、Wilsonの論文によると、"the anterior scape surface viewed in line with the plane of funicular flexion"となっています。いずれも柄節の今回数えた面とは逆の面を指しているようです。そう思って、逆の面での立毛の数を数えてみるとせいぜい2-3本しかありません。こうなると検索項目の⑬が引っ掛かります。もう一度検索表を見直して、立毛がほとんどないという方を選択すると、ヒゲナガケアリか、ヒメトビイロケアリになるのですが、注釈として「トビイロケアリの初期コロニーの個体は立毛が少ないので注意」とも載っています。「日本産アリ類全種図鑑」の記述を見てみたのですが、分布的にはヒゲナガもヒメトビイロも大阪には生息しています。ただ、ヒゲナガは柄節が頭幅の1.12倍以上、ヒメトビイロは体長が2.0-2.5mmというので、たぶん、両方とも違うのではと思います。そこで、⑬については特に立毛の方向を指定していないと解釈し、文章そのままをとれば、上の検索の通りになります。⑭については今回とは逆方向に生えた立毛を数えて2-3本なので、一応、OKになるのではないかと思います。いずれにしても、立毛の数を数えるときの立毛の方向をもう一度文献で見直してみる必要があります)
最後は腹柄節の形状に関してで、たぶん、ハヤシケアリとトビイロケアリの区別点で一番はっきりするのではと思っています。この写真の個体では、黒矢印で示すように、腹柄節の前縁部分がゆるい角を成していて、従って、頂上部分の角度が少しだけ鈍角側にシフトしています。この条件からたぶん、トビイロケアリで間違いないのではと思っています。
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