下記の記事はプレジデントオンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
32歳の会社員の男性が交際中の女性に結婚を申し込んだところ、女性の親が難色を示した。理由は男性の妹(29歳)がひきこもり状態で収入がないこと。結婚しても「ウチの娘が将来的に経済に苦しむ」と憂慮したのだ。しかし、男性は1億円の資産を持つ両親とファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんの助けを得て、なんとか結婚にこぎつけることができた。そのプロセスを全公開しよう――。
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妹のひきこもりが原因で、予定していた結婚が暗礁に
相談者は、3歳下に妹がいる吉田道夫さん(仮名・32歳)。
吉田さんの妹(29歳)は、進学した高校になじめず、高校1年生の夏休み明けに退学した。退学後は自室にひきこもり、家族ともほとんど会話をせずに、3年あまりを過ごした。
妹は18歳を過ぎた頃、通信制の高校へ進学したいと言い出し、膠着状態を解消したいと願っていた親の後押しもあり、通信制の高校へ進学することになった。この通信制には、週に1回の通学日もある。同級生より少し年上ということもあって、友達の輪に入れず、通学日には「お腹が痛い」「頭が痛い」と、体調不良を訴えるようになった。
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結局、通信制の高校を卒業できないまま退学することになってしまった。退学後は再び、自室にひきこもりがちの日々を送ったが、通学日などに外に出たこともあってか、家族と食事はできるようになっていた。
吉田さんによると、「妹の段取りの悪さを考えると、何らかの障害を持っているのかもしれないが、今まで精神科や心療内科を受診した経験はない」とのこと。
妹のひきこもり状態に、長年悩まされてきた吉田さんだが、自身のプライベートでは、2年間、付き合っている彼女がいる。彼女はもうすぐ30歳を迎えることもあり、そろそろ結婚に進展させたいと、吉田さんは考えていた。
彼女へプロポーズすると彼女は快諾してくれた。それを受けて、先方の両親へ挨拶をしたいと申し出ると、喜んで迎え入れてくれた。面会の日、和やかな雰囲気の中で食事をしていると、「妹さんは今、なにをされているんですか?」と聞かれた吉田さん。
虚をつかれ、とっさに「妹は人づきあいが苦手なので、あまり外には出ませんが、ときどきアルバイトをして、自分の小遣いくらいは稼いでいます」と、真実を言うことができなかった。高校を中退したまま、家にひきこもっている現実を、結婚を許してもらおうとしている席で話す勇気は、出なかったのだ。
両親は1億円以上の資産に加え、月9万円の家賃収入も
[家族構成]
父親 62歳(会社員・継続雇用で勤務中)年収350万円
母親 59歳(ときどきアルバイト)年収20万~30万円程度
長男(相談者)32歳(会社勤め・最近結婚して独立・それまでは月に4万円を家に入れていた)
長女 29歳(高校1年生から、ほぼひきこもり・就業経験なし)[資産状況]
父親:7700万円(退職金や親からの相続など)
母親:1200万円
自宅:築25年(評価額1300万円)
家賃収入:月9万円(父親が親から相続した家を賃貸に出している)
「将来は結婚相手の妹の面倒まで見ることになるから、諦めろ」
もちろん彼女も、吉田さんに働いていない妹がいることは知っていたが、家に遊びに行っても、部屋からは絶対に出てこないので、顔すら合わせたことがない。「働いていないことはわかるが、どうして働いていないか」までは、しっかり話を聞いたことがなかった。
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彼女は、食事の場では吉田さんの妹について言及しなかったが、数日後、彼女から連絡があり、「この結婚は少し待ってほしい」と伝えられた。食事を終えて彼が帰ったのち、両親に問い詰められた彼女は、自分が知っている妹の現状を親に伝えたのだ。すると、親は次のように言って、諭されたという。
「この結婚を許したら、将来は結婚相手の妹の面倒まで、おまえも一緒に見ることになる。おまえが苦労するのは目に見えているから、この結婚はあきらめたほうがいいんじゃないか」
衝撃を受けた吉田さんは「妹のことで結婚をあきらめるなんて、そんなことは絶対にしたくない」と考え、彼女の親が結婚を渋っていることを、自分の親に正直に伝えることにした。
相手の親から結婚の許しをもらえない状況について、吉田さんの両親(父62歳、母59歳)は大きなショックを受けたが、彼女を気に入っていることもあり、吉田さんの結婚は何としても実現させてあげたいと考えた。
結婚できるようになるには、「妹の生活の面倒を見なくてすむことを証明するのが、確実なのではないか」と考えた吉田さんと両親は、ファイナンシャルプランナーである筆者の元を訪れた。
両親の資産は総額1億円、親亡き後の妹の生活は成り立ちそう
ここからは、吉田家の資産状況を説明しよう。
定年後も継続雇用で働いている父親には、退職金を含めて、7700万円の金融資産がある。この7700万円には、親から相続した資産も含まれている。
そのほか、親から相続した家を賃貸に出しているので、月に9万円の家賃収入を得ている。継続雇用になってから、父親の収入は半分以下に減っているが、家賃収入があることと、吉田さんが結婚するまで家に入れてくれていた月4万円のおかげで、資産は退職時から減っていない。
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母親はときどきアルバイトをしていて、年間で20万~30万円くらいの収入がある。この収入は自分の小遣いとして使っている。そして、母親も1200万円くらいの金融資産を保有している。両親と妹が住む家は築25年だが、評価額1300万円。両親の全資産は、家を含めれば1億円以上となる。
さらに今後、家賃収入を引き続き得られれば、年金生活(夫婦で月24万円の予定)に入ってからも、父親の資産はほぼ減らないまま現状維持できることが両親の生活費(支出)と照らし合わせて確認できた。
2人の子供への相続配分を、長男1500万円:長女4500万円にする
この先、資産が減りそうなのは、吉田さんへの結婚資金の援助や、孫が生まれたら、教育資金の援助もしてあげたいと考えている分だ。吉田さんへの援助金に加えて、人生の最後に「もう1回」と考えている車の買い替え費用も見積もっておく必要がある。
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援助費用と車の買い替え費用を合計で1200万~1500万円程度と見積もり、医療費や介護費用などとして、1000万~1200万円程度取り置くと、残りは6000万円台になる。
仮に相続財産が6000万円だとして、その金額を4分割して、吉田さんに1500万円、長女に4500万円を相続させるプランを考えた。吉田さんが「1」、妹が「3」の分割割合である。
兄弟姉妹の相続割合は、2人であれば、2人の持ち分の50%ずつになる。仮に相続財産を6000万円とすれば、3000万円ずつが、本来の相続割合である。
ところが、吉田さんが本来の持ち分の50%に当たる3000万円を相続してしまうと、長女の生活が成り立たない可能性が出てくる。そこで、「遺留分」に当たる、本来の相続分の半分を、吉田さんと妹の相続割合の目安にしてみた。
だが、金融資産をまるまる相続できるとは限らない。父親が他界した際、その相続で母親が財産のすべてを受け継げば、「配偶者の税額軽減の特例」によって、1億6000万円まで(相続財産の半額がこれより多い場合は、その半分)までの相続財産には相続税はかからない。
ところが、吉田さんや妹が相続する際は、そのような特例は使えない。つまり、相続対策をおこなわず、現金のまま相続すると、吉田家では相続税を支払うことになるはずだ。
父親の相続の際、母親だけが相続すると、母親の相続の際には相続税が発生するため、現実には住宅資金贈与や教育資金贈与などを相続対策の一環として検討する必要もあるだろう。
また、賃貸に出している家は築年数が30年近く経っているため、この家をアパートに建て替えて現金を減らし、相続対策をおこなう方法も考えられた。アパートに建て替えれば、現金で持っているよりは、相続財産としての評価は下げられる。かつ、将来、妹を大家さんにすることで、親亡き後の生活費を確保できる。
アパートを建てるなどして相続財産としての現金が減った場合でも、相続時点の金融資産を「4分の1と4分の3に分ける割合は同じ」とした。
妹の老後までの算段がついたことで結婚相手の両親も承諾してくれた
ちなみに、大学を卒業してから10年近く実家で暮らしてきた吉田さんには、自分名義の貯蓄も1000万円くらいある。住宅資金贈与や教育資金贈与なども検討してもらえることもあり、「金額の分け方だけを見れば、不公平かもしれないけれど、自分にとっては妹に金銭援助をしないでいいという、保証が得られることのほうが安心できる」と筆者に答えた。
吉田さんは両親と交えて話し合って得られた結果(親が残す資産で、親亡き後の妹の生活は成り立ちそう)を、結婚相手の両親が理解しやすいようにメモにまとめることにした。
吉田さんにとっても、自分の家の資産状況を相手方に公開するのは気が引けたが、金銭面での話し合いの結果を説明したところ、「それなら」と、相手の親も承諾をしてくれた。
それから、半年後。吉田さんは無事に彼女とゴールイン。妹のことが気になりながらも、実家を離れて別の所帯を持ったことから、少しずつ現実の生活のほうに軸足が動いている。
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吉田さんの話からは、妹が働けるようになるとは思いにくかったが、親亡き後の金銭問題については、取りあえずめどが立ったことで、吉田さんの両親も、妹の話題に触れる際、少し穏やかになった気がすると、吉田さんは言う。
兄弟姉妹のひきこもりが原因で結婚が破談になるのは珍しくない
結婚が破談になったケースは別にもある
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筆者は過去に4~5回、兄弟姉妹のひきこもりが原因で、結婚が破談になったケースに出会った経験がある(いずれも破談後、筆者の元に来訪)。
結婚が破談になった兄弟姉妹は、ひきこもっている兄弟姉妹との仲が、それ以前よりも悪化していた。中には、ひきこもり続けていることを容認している親に対して、「甘やかしすぎる」などと、激しい感情をぶつけるケースもあった。
家にひきこもりの兄弟姉妹がいるのは、日常の生活でも気を使う機会が多い。そのうえで、自分の結婚について、兄弟姉妹のひきこもりが障壁になってしまったら、やりきれないとしか言えないだろう。
今回の吉田家は、資産に余裕があり、親が持つ資産で「金銭面での解決」は図れそうだが、資産に余裕がない家庭の場合は、ひきこもっている人の「親亡き後の生活費」について、早急に考えなければならない。
親が遺せそうな資産だけでは、ひきこもっている人の生活が成り立たないとしたら、少しでも働いて収入を得ることはできないかを検討したいところだ。一般就労が難しければ、障害者枠での就労を目指す方法を取れないか――など、はたらきかけるべきこともある。
障害などが原因で、どうしても働くのが難しい場合は、生活保護の申請を考えることになるだろう。とはいえ、生活保護を受けようとする場合、全財産がひと月の生活費の半分くらい、金額でいえば5万~7万円くらいまで減っていないと申請が難しい。
「生活保護を受けさせる」という親に会う機会は多いが、申請のタイミングの難しさを理解していないケースがほとんどである。
生活保護の申請をするしか手立てがないのであれば、どの時点で生活保護の申請をすべきか、申請に同行してくれる人はどうやって探すべきかなども検討しておく必要があるだろう。
- 畠中 雅子(はたなか・まさこ)さん
- ファイナンシャルプランナー
- 「高齢期のお金を考える会」主宰。『ラクに楽しくお金を貯めている私の「貯金簿」』など著書、監修書は60冊を超える。