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Booklog 内田麟太郎の本棚
絵本「まっくろ」 作・高崎卓馬 絵・黒井健 講談社 1600円+税
黒井健さんは「違う」といわれるかもしれませんが、世間から見たら絵本界の大御所です。
その黒井さんが新しいスタイルに挑戦をされているようだと、黒井さんのFBを読みながら感じていました。
だれがこの絵本の画家の名を隠し、その名前を当てられたでしょうか。私も当てられなかったでしょう。多くの作家(画家)はほぼ50代でスタイルが定まり、あとはひたすらに名人芸になっていきます。上手いんだけど ……。
物語は先生が「みんなのこころに うかんだことを かいてみましょう」と黒板に書かれたときから始まります。一人の男の子が、画用紙をただひたすらに黒く塗っていきます。何枚も何枚も。私は読みながらこの子は心を病んでいるのだろうかと思いました。ちがいました。みんなの心が解放される素晴らしい絵を描いていたのです。
黒井さんは、なんども試行錯誤されたにちがいありません。子供たちの描き方に。それが一番感じられます。「なぜ?」と不安になっていくまわりの子供たち。それは恐怖ではなく不安です。いいえ不安ではなく心配です。このビミョーな差をどう表現するのか。
黒のタッチも一枚一枚違います。真っ黒ではありません。ある軽さが感じられます。少年のこころの現れたタッチです。用紙の選択にもこまかい心配りが感じられます。
新世界へ。黒井さん、若いなあ。
あちらこちらへ礼状を。
絵本美術館の開館まで、何度かつぶやいている言葉がありました。「行蔵は我に存す 毀誉は他人の主張」。勝海舟がいっていたようです。今日、美術館への私の思いが、その人に通じていたことを知り、その喜びに「至誠 天に通ず」とつぶやいていました。