日本史大戦略 ~日本各地の古代・中世史探訪~

列島各地の遺跡に突如出現する「現地講師」稲用章のブログです。

【東国を歩く会】世田谷区内に奇跡的に残った野毛大塚古墳【第14回歩く日 その1】 

2017-12-12 08:29:53 | 歴史探訪
 前回の記事では先週の土曜日に催行したクラブツーリズム主催の群馬古代史ツアーについてお伝えしましたが、本日はその翌日に行った、東国を歩く会の「第14回歩く日」の様子をレポートします。

 実は群馬のツアーの前日の夕方、会社から帰ってきたら喉が痛いことに気づき、喋るのが仕事なのに喉が痛いのはまずいなあと思いつつ土曜日は出かけて、喉の薬を舐めつつバスの中でも史跡の前でも喋りまくりました。

 日中はどうも熱が出てきたような感覚もあったのですが、そんなことを気にしていては仕事はできません。

 個人で仕事を請け負っている人間は多少の体調不良で仕事を休んだり手を抜いたりすることは許されないのです。

 そして喉が痛いまま東京に帰ってきて、それでも帰りがけにビールを飲みながら夕飯を食べ、帰宅後は風呂に入ってすぐに寝ました。

 翌日の日曜は「歩く日」で、幸いなことに喉の痛みは和らいでおり、とにかく今日一日は頑張ろうと思い外出したわけです。

 東国を歩く会も私がいないと成り立たないわけで、多少の体調不良などは歴史の楽しさで吹き飛ばすべく、東急大井町線の等々力まで出張りました。

 それではレポートの開始です。

*     *     *


 等々力駅に最近来たのは、もう3年くらい前だと思いますが、ここから歩いて結構遠い場所にダスキンの支店があり、そこへ研修で来たことがありました。

 東国を歩く会のメンバーは多摩地域にお住まいの方が多いので、等々力駅はまあまあ遠いのです。

 でも、立川か分倍河原から南武線で武蔵溝ノ口まで来て、大井町線に乗り換えてすぐなので、通勤だったら嫌でしょうが、遊びで来る分にはあまり負担にならないと思います。

 東急はあまり乗らないので記念に撮影。



 日の丸構図になってしまった・・・

 ヒラさんが山手線の遅れのため、迂回して来るそうでやや遅れるということだったので、9時ちょっとすぎにスタートしました。

 本日めぐる予定の場所はこちら。



 等々力駅からスタートして多摩川左岸の古墳を贅沢に味わった後、丸子橋で多摩川を渡り、中原街道を西へ進み、川崎市市民ミュージアムを見学した後、橘樹(たちばな)郡の郡衙跡とその郡寺であった影向寺まで歩きます。

 まあ、実際はどこまで行けるか分からないのですが、行けるところまで行きましょう。

 まずは等々力渓谷に降ります。



 思い返せば、私が生まれて初めて生で見た芸能人は、子供のころに海水浴場でテレヴィ番組の撮影をしていた轟二郎さんでした。

 うわっ、地形マニアにはたまらない解説。



 等々力渓谷の「等々力」は「轟く」が語源だとも言われていますが、戦国期の世田谷吉良氏の「兎々呂城」という城が語源だという説もあります。

 いずれにしても、轟二郎さんとの近縁性は確認できませんが、何かご存知の方がいらっしゃいましたらご教示ください。

 だた一つ言えるのは、轟二郎さんの顔を思い出そうとすると毒蝮三太夫さんの顔が浮かんでしまうことです。

 ところで、等々力渓谷は看板に「23区内で唯一の渓谷」と書かれていますが、それじゃあ、北区の音無渓谷は何なんだ!と言いたい。

 音無渓谷も渓谷だと思うのですが、数に入らないんですかねえ。

 まあ、それはそれとして、なかなか雰囲気の良い場所ですね。



 私たちの街歩きの特徴はかなりペースが遅いことです。

 これは歩く速度が遅いわけではなく、皆さん好奇心が旺盛なので何かを見つけるとすぐに引っかかってその場から動かなくなってしまうからです。



 しかし私たちは趣味の集まりなので、私は一向に構わないと思っています。

 その代わり、旅行会社が企画する街歩きよりも長時間歩くし、休憩も少なかったりしますよ。



 そうこうしているうちに、ヒラさんが合流しました。

 このまま進むと等々力渓谷3号横穴が見れるのですが、まずは野毛大塚古墳を見たいと思います。

 なので、この辺で道路に上がる道はないかなあと思い古山さんに尋ねると、道路沿いのイタリアンレストランに上る階段を教えてくれました。

 府中歩きのとき以来の参加の古山さんはこの近辺にお住まいなので今日はとても心強いです。

 道路に上がり玉川野毛町公園内にある野毛大塚古墳へやってきました。



 今日は天気も良くて、しかも下草もきれいに刈られているので、墳丘がとてもきれいに見えますね。



 下草を刈るのはボランティアの方々でしょうか。

 本当にありがとうございます。



 説明板にも書かれている通り、野毛大塚古墳は墳丘長82mの帆立貝形の前方後円墳で、3段築成です。



 往時は葺石で覆われ、埴輪も立っていました。

 5世紀前半の築造ということで、埼玉古墳群で最も古い稲荷山古墳の築造の50年から80年くらい前になるでしょうか。

 この頃はまだ南武蔵の多摩川下流部の有力者は相当な力を持っていたことがこの古墳の大きさを見れば分かります。

 帆立貝形でこの大きさは関東では大型の部類に入るのです。

 野毛大塚古墳の周りにはポコポコとたくさんの古墳があり(大多数が隠滅)、野毛古墳群を構成していました。

 そして、野毛古墳群はこれから行く予定の田園調布古墳群と合わせて荏原台古墳群という大きな塊として認識されています。

 多摩川下流の大型古墳の分布はこんな感じです。



 この図の右上には多摩川とは関係ありませんが、東京タワーの下にある芝丸山古墳をプロットしてあります。

 もちろん今日は探訪しませんが、芝丸山古墳は墳丘長125mの都内で最大の古墳です。

 芝丸山古墳もその北の上野公園にある摺鉢山古墳も海から見た景観を意識していははずで、多摩川両岸の古墳もやはり東京湾から多摩川に船で入ってきた人びとから見られることを意識して築造したはずです。

 なんたって、日本人は海洋民族ですからね!

 では、墳丘に上がってみましょう。

 関東の5世紀の古墳の石室はまだ竪穴式です。

 調査の結果、4つの主体部(棺を納めた場所)が見つかりました。



 墳丘にあるこの説明を見ると、主体部が重なってしまっていますが、これは高低差があるからです。

 中心の主体部がこの古墳の本来の被葬者で、もっとも深い場所に眠っており、他の被葬者はその人物の家族などの近親者でしょう。

 墳頂からは富士山が見えますね。



 (トリミング)



 古代人も私たちと同じように富士山を眺めていたんですね。

 さて、この古墳の次の首長墓はこの後訪れる予定の御岳山古墳なのですが、御岳山古墳は形状は帆立貝形を維持するものの大きさは54mと縮小されて、それ以降大き目の古墳はこの地域に造られなくなります。

 そしてそれにちょうど合わせるかのように、武蔵国内最大の埼玉古墳群の築造が始まるわけです。

 つまり、武蔵国内での勢力の中心が南部から北部へ移動してしまったわけですね。

 この考古学的事実により、『日本書紀』に記されている「武蔵国造の乱」と結び付ける考えもあります。

 武蔵国造の乱では、武蔵国内で2つの勢力が武蔵国の国造(くにのみやつこ)という今でいう地方自治体の長をめぐって対立したとされており、その二大勢力が、ここ荏原台古墳群の主と埼玉古墳群の主という考えです。

 ちなみに国造がいたのは6世紀で、その当時は武蔵を「无邪志」や「无射志」などと表記していました(「武蔵」に文字を変更したのは奈良時代で、「武蔵」に「むさし」の「し」は含まれておらず、無理やり2文字にしたために「し」が落ちてしまいました)。

 では、墳丘を降りて次へ行きましょう。



 周溝も一部分がきれいに残っています。



 おや、発掘中ですね。



 何か見つかることを期待しています!

 ⇒この続きはこちら 


知識ゼロからの古墳入門
広瀬和雄
幻冬舎




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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お天気よく良かったです。 (りひと)
2017-12-12 15:46:57
野毛ってあの辺りの古墳なんですね。横浜にも野毛がありましてふふふ、南から北へですね!そっちは崖、こっちは渓谷。好きそうな民族いますね。

で吉良さん出てきましたね。そう思って10日は吉良さんに会いに行っておまいりしてきましたよ。縁ある方ですので。ちょうどお祭りもやってました。御線香の香りが物凄くなってました。
等々力駅の逆の方のお寺とか色々行った事あります。

あと古墳ですが、三段で葺石、造り出し、円筒埴輪、木棺の種類とかなり好きなタイプです。埼玉までの間とはいい感じですね。バッチリです。

あと武蔵っていうのも、ドイツ人に指摘されたんですけど日本語って母音と子音のセットでできていると。あ行以外はそうですね。他の言語は子音が重なったり、読まない子音があったりです。

なので音から文字が出来ていると考えると武蔵は三文字がベストですね〜。私宮本武蔵嫌いです。
なのでムサシって若干怖い人というイメージです。ただお役目はそれぞれ特徴もそれぞれなので好き嫌いは正直でもお付き合いはしないとと。すれば何か自分の方も理解出来るとも思います。

あとなんだっけなあ?
そう発掘調査中の場所あるんですね?
ならば見学会開催も今後あるかもしれませんね、気にしておきます。

そうイタリアレストランの上へ上がる所なんか分かるかもしれません。
懐かしいです。

行った気になってます。ありがとうございます。
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