合気拳法 猿田会

新しく誕生した合気道の拳法
静岡県伊東市にて活動中

四心多久間見日流和の概要 その7

2011-08-06 16:41:45 | 一隅を照らす
一隅を照らす 第四節 遺稿 94ページ

(七) 高岡先生若かりし頃の想い出話

高岡先生から伝授をして戴く余暇に先生の若い頃の想い出話を聞いたことがある。

当時の武士の中にも無頼漢がいて日が暮れると時々酒食の資料をタカリに来るのであった。町内ではちゃんと心得ていて、来たということが判ると御互に合図をして「ヒトミ」を卸して仕舞う。「ヒトミ」というのは今では一寸見掛けなくなったが雨戸のことで板戸を横にしたも二枚(これが一組であるが間口の広さに応じて幾組でも増やすことが出来る理けである)軒の内側の上に止めて置き、夜になると一枚宛卸して横に二枚を継ぎ戸締りをするものである。夜買い物の御客には臆病窓と称する小さい戸を開けていてそれと確かめてから潜り戸を開けて客を入れ求められる品物を売り渡すといったものであった。

この無頼漢武士は眼星を付けている家の『ヒトミ』をドンドンと叩いて呼び出すので家の人は仕方なく渋々臆病窓を開けて外を覗くとその窓へ手をニューッと突込んで、魚屋ならおい蒲鉾三本呉れとか、酒屋なら酒一升呉れとかいうので後難を恐れて乞われる幾分宛かを呉れてやるといった状況であった。若者であった高岡先生の弥平はその頃市内餌指町にあった一魚屋に奉公しながら同じ町内の黒田正好先生の道場に通って、腕にすっかり自信が出来ていたから何んとか無頼漢武士を懲らしめてやらなければならぬと内心期するところがあった。ある日暮れてから町内の見張りの者の来たぞーッという合図の声がすると隣近所の『ヒトミ』が、がたがたと相次いで卸ろされて行く。弥平も主家の『ヒトミ』を卸し終って間も無くのことであった。ドンドンドンと『ヒトミ』を叩いて案内を乞う者の声は正しく無頼漢武士に相違無いので奉公人の他の一人と示し合せて黙って潜り戸を開けさせるとその武士はのっそり這入って来た。それを見届けると同時に潜り戸をぴたりと締めて鍵を掛けさせて仕
舞った。武士は様子が尋常でないことを感じながらも例の調子で蒲鉾三本呉れというのに対し、弥平は「おまはんにやる蒲鉾はないよ」と突堅貧(ツッケンドン)に答えると、武士は最初から異様の空気にカンカンに怒って仕舞った。いきなり刀を引き抜いて床板に突き立て、おのれ無礼な奴その分には捨て置かぬぞとばかり腕捲りをして威嚇し出した。その間髪を入れず、飛び込んで捻じ伏せ当身を入れて気絶させ、床板に突き立ててある刀を取って漬け物石に叩きつけて刀の刃を引き取って仕舞い相手の若者に刀を持たせ自身番へ連れ出そうとして活を入れ息を吹き返させていると、ドンドンドンとまた『ヒトミ』を叩く者があるので臆病窓を開けて覗かせると今懲らしめている無頼漢武士の相棒であった。この武士は外で待っていて家の中の気配が尋常でないのに気がついて案内を乞うたのであったが、これから自身番へ突き出してやるのだということを聞くとその武士は、どうかそれだけは勘弁して呉れと誠意を披瀝して平謝りにあやまるので、今後二度とこの様なことをして迷
惑を掛けぬことを誓わして許してやった。余程それに懲りたものか爾後二度と来なくなったといって笑いながら話されるのであった。

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