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すずらん

2005-05-17 04:24:49 | ラーメン店調査 (46~50点)
一昔前は東京中心部における有力エリアのひとつであった渋谷がフリーク達の間からラーメン不毛地帯とまで揶揄されるようになったのは果たしていつの頃からであろうか。かれこれ10年以上ほど前、私が上京した当時の渋谷は「壱源」「喜楽」「亜寿加」「桂花」「チャーリーハウス」などの数々の(当時の)話題店を擁する一大ラーメン激戦区であった。私も当時はこれらのラーメン屋に足繁く通い詰めたものだ。

ところがその後、時の流れとともに最新の技術を用いたより旨いラーメン屋が続々と誕生し、それとともにこれらの店の地位はどんどん低下していった。一昔前の方法に固執し、味を改良することを忘れた店に未来はない。そのような店は時代の流れに敢えなく取り残されるほか術はないのである。

もちろん、渋谷にも新しい店がオープンすることはあった。「香月@恵比須」や「山頭火」「○金ラーメン@白金」の支店などが代表的な例である。だが、他のエリアに本店を持つ店の支店が何軒オープンしてもそれは渋谷の実力を根本的に底上げする性質のものでは決してない。しかもラーメンの世界において頻繁に囁かれている噂として「支店を出せば出すほどそのラーメン屋のクオリティは低下する傾向にある」のだ。たとえば「香月」や「山頭火」も支店を出すまでは、その時期におけるラーメン業界の雄であった。しかし支店を出してから以降は、少なくともフリークからは見向きもされないという状況に陥っている。

簡単に言えば、その当時の有名店は、渋谷に支店を出す頃には最盛期から衰退期へと移行する曲がり角へと差し掛かっており、渋谷に支店を進出させた直後あたりから本店の地位も低下。それとともに渋谷にある支店の地位も地に落ちるという悪循環を辿るわけだ。なぜか渋谷に店を置くラーメン屋にはそのような種類のものが極めて多く、そのことが渋谷の地位を下げた最大の理由のひとつではないかと私は考えている。そしてこの傾向は今現在の渋谷にも垣間見ることができる。例えば、この度大久保から渋谷の「麺喰王国」に店を移転した「竈」などがその悪しき慣習に新たな1ページを加えることになるのではないかと私は想像するのだが、果たしてどうなるのであろうか。

もちろん、数は少ないながらも渋谷にも純然たる新店がオープンすることはあったし、東京都内に本拠を持たない地方の御当地ラーメンの店が東京初進出の場所として渋谷の地を選ぶこともあった。こうした店の代表例としては、タレントのデビッド伊東がプロデュースした「でび」や「唐そば」などが挙げられるが、これらも渋谷の窮状を根底から打破するだけの実力は持ち合わせてはいなかった。結果として現在「でび」は渋谷から他の地に移転、「唐そば」は辛うじて渋谷に踏みとどまってはいるものの店内は閑古鳥の惨状となっている。

以上のような要因が複合的に折り重なったため、ここ数年の間、渋谷はフリークからラーメン不毛地帯、ラーメン砂漠などの不名誉なレッテルを貼られることとなり、誰もがこのような状況はあとしばらくは続くのだろうと思っていたのであった。

ところが、このような渋谷に微かな希望の灯が点りつつある。「すずらん」と「はやし」。久方ぶりに渋谷に登場したこの2軒の新店が今、フリークからの熱い注目の視線を浴びているのだ。いずれも純然たる新店であり、しかも現在の首都圏のラーメンづくりの最先端を行く技術力でハイレベルなラーメンを作ることで評判の店である。

いずれもまだマスコミなどにはそれほど露出していないため「知る人ぞ知る店」といった状況であるが、場合によっては一気にブレイクする可能性も高い注目店である。今回私が向かったのはその中の一軒「すずらん」であった。

場所はJR渋谷駅の南口の改札から徒歩2分程度。アクセスは至便なのであるが、細い路地に入ったところにあるため判りにくいかも知れない。端的に渋谷警察署の裏にあると言う方が判りやすいかもしれない。

コの字型のカウンターは15席程度。ラーメン屋としては狭くもなく広くもないちょうど良い規模である。私が訪問した平日の夕食時で先客は3名。ブレイクを迎える前の食べ手にとっては平穏な状況であることを窺わせる。

客数から一瞬「ちょっとディナータイムにしては客が少なすぎはしないか」との懸念も胸を過ぎったが、その心配が単なる杞憂であったことが店主の佇まいやラーメンを作る時の熱意を目の当たりにしてすぐに判明した。全神経を集中させて黙々と麺を茹で上げる店主の表情には鬼気迫るものすらあり、この店が間違いなくこれまでの渋谷のラーメン屋とは似て非なるものであることを伝えてくれる。

私はラーメンを茹で上げる店主の邪魔にならぬよう、細心の注意を払いつつ「手打ワンタンメン」と「肉みそ飯」をオーダーした。

供された品は、透明度の高い茶褐色のスープの上に数ミリ単位とも思しきラード油の層が折り重なっているものであり、この店のラーメンが間違いなく渋谷にとっては「新種のラーメン」であることが一目でわかる。

スープを一口啜れば、ラード油の層に守られた熱がシュワっと口の中で炸裂し、その直後に、アッサリした見掛けとは大いに異なる濃厚な醤油の味わいが味蕾から大脳の味覚中枢にまで鮮やかに伝達されてくる。この店のラード油の層は熱を逃さないために設けられた工夫であると思われるがもうひとつ重要な役割を担っており、上品で淡泊になりがちな透明系のスープの味わいを適度に下品なものへと変質させている。魚介類を用いているが、魚介類任せにはなっていないところも好感度大。醤油の味わいをメインに据え、魚介類はあくまでもスープに彩りを添えるアクセントとしての位置づけに収まっている。もはや色々なジャンルのラーメンが出尽くしたとの感が強い首都圏においても、なかなかありそうでなかった新感覚のスープだ。

このスープに合わせている麺がまた面白い。通常、透明度の高いスープにはスープをより絡めやすい縮れ麺を用いるのがセオリーであるが、この店の麺は中細ストレート麺。しかもかなり硬めに茹で上げられており食感も極上だ。どれだけ食べても飽きが来ないと思わせるような絶品である。

つまり、ビジュアルはスープ表層に湛えられたラード油の層を除けば、どちらかと言えばアッサリした支那そばに近い雰囲気を醸し出しているのであるが、実際に食べた時の感覚は、まさに骨太かつ男性的・野性的なラーメンといえ、それはまさに食べ手がラーメンとの「1対1の真剣勝負」を挑まされているような様相を展開させる。いい意味で事前の予想を覆されることは間違いないだろう。

具のワンタン、チャーシューともに首都圏の一流店の水準に到達しており、問題はない。

評価として麺:12点、スープ:17点、具:4点、バランス:8点、将来性:9点の合計50点を進呈したい。

これまでの渋谷のラーメン屋とは明らかに基礎体力が違う高い実力を誇っており渋谷の救世主になる可能性も大いに秘めた期待の新店である。今後の推移を温かく見守っていきたいと感じた。


所在地:渋谷
実食日:2004年2月

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