他人が、今日は寒さが緩んでいるね、と話しかけてくる。
そうですね。と、答えておく。分厚い肌着を着込み、背中の上下にホカロン貼って、おなかにも一枚貼って、タートルネックセーター二枚着込んで、その上にダウンジャケット着込んで、それでも鳥肌をたてているあたしに聞くなっつーの!と思うが、この病的な寒がりはわかってもらえんので、あきらめている。だが、社交辞令というものは大事である。そーかい、今日は昨日より暖かいんかい、とその違いもわからず、首に鳥肌をたてながら笑顔で答える。
毎朝寒い。三月になっても変わらず、あたしは、寒い。
そんな朝だった。
いつものように寒風に立ち向かうべく歯をくいしばっての出勤途中。見るともなくいつものように駅裏の花壇を見た。ら、「おおっ!」と、思わず立ち止まるほどの感動と遭遇。
昨日まで(たぶん)冬だったはずの花壇に、親指くらいの長さの緑発見。
水仙である。
おおっ!
違う場所にはチューリップの葉が!
ああっ! その下の方には、なんとオオイヌノフグリが三輪、寒さにも慈悲を注ぐように可愛い花を咲かせているではないか!
ビュンと去った一陣の風に顔中鳥肌たてながら、それでもこの花たちの春のお知らせに心が和んだ。
春、来てるんだねえ。こーんなに寒いのに、ちゃんと来てるんだねえ。花たちは日々の気温の差なんぞに惑わされることなく、ちゃんと芽を出すんだねえ。
人間なんてさ、毎日天気予報見てさ、今日明日の気温の差ばかり話題にしてさ、煮てさ、焼いてさ、喰ってさ……じゃなくて、目先の気温に振り回されてるじゃん、情けないねえ。
「でっ、寒っ!」
寒いけどさ、春だなんて信じられねーくれー寒いけどさ、こうして花が知らせてくれるとさ、ああ、春、来てるんだなあって信じられるから不思議だね。ムカつかず、素直に「わかりましたよ」って思えちゃうんだもん。
「らきさん、今日はちょっと昨日よりあったかいねえ」
『知らねーよ、そんなこたあ、あたしは変わらず寒いわっ!』と思いつつ、そーですね、と今日も答える。
数日後、チューリップだと思った芽は、どうやら違う花のようだ。それでも腹は立たん。
そーゆー花の力って偉大だなあと、近頃の朝は顔がにやける。
そうですね。と、答えておく。分厚い肌着を着込み、背中の上下にホカロン貼って、おなかにも一枚貼って、タートルネックセーター二枚着込んで、その上にダウンジャケット着込んで、それでも鳥肌をたてているあたしに聞くなっつーの!と思うが、この病的な寒がりはわかってもらえんので、あきらめている。だが、社交辞令というものは大事である。そーかい、今日は昨日より暖かいんかい、とその違いもわからず、首に鳥肌をたてながら笑顔で答える。
毎朝寒い。三月になっても変わらず、あたしは、寒い。
そんな朝だった。
いつものように寒風に立ち向かうべく歯をくいしばっての出勤途中。見るともなくいつものように駅裏の花壇を見た。ら、「おおっ!」と、思わず立ち止まるほどの感動と遭遇。
昨日まで(たぶん)冬だったはずの花壇に、親指くらいの長さの緑発見。
水仙である。
おおっ!
違う場所にはチューリップの葉が!
ああっ! その下の方には、なんとオオイヌノフグリが三輪、寒さにも慈悲を注ぐように可愛い花を咲かせているではないか!
ビュンと去った一陣の風に顔中鳥肌たてながら、それでもこの花たちの春のお知らせに心が和んだ。
春、来てるんだねえ。こーんなに寒いのに、ちゃんと来てるんだねえ。花たちは日々の気温の差なんぞに惑わされることなく、ちゃんと芽を出すんだねえ。
人間なんてさ、毎日天気予報見てさ、今日明日の気温の差ばかり話題にしてさ、煮てさ、焼いてさ、喰ってさ……じゃなくて、目先の気温に振り回されてるじゃん、情けないねえ。
「でっ、寒っ!」
寒いけどさ、春だなんて信じられねーくれー寒いけどさ、こうして花が知らせてくれるとさ、ああ、春、来てるんだなあって信じられるから不思議だね。ムカつかず、素直に「わかりましたよ」って思えちゃうんだもん。
「らきさん、今日はちょっと昨日よりあったかいねえ」
『知らねーよ、そんなこたあ、あたしは変わらず寒いわっ!』と思いつつ、そーですね、と今日も答える。
数日後、チューリップだと思った芽は、どうやら違う花のようだ。それでも腹は立たん。
そーゆー花の力って偉大だなあと、近頃の朝は顔がにやける。