らき太な日常

『樹萄らき』のある日の出来事 

只今から、春をお知らせします

2008-03-16 | Weblog
 他人が、今日は寒さが緩んでいるね、と話しかけてくる。
 そうですね。と、答えておく。分厚い肌着を着込み、背中の上下にホカロン貼って、おなかにも一枚貼って、タートルネックセーター二枚着込んで、その上にダウンジャケット着込んで、それでも鳥肌をたてているあたしに聞くなっつーの!と思うが、この病的な寒がりはわかってもらえんので、あきらめている。だが、社交辞令というものは大事である。そーかい、今日は昨日より暖かいんかい、とその違いもわからず、首に鳥肌をたてながら笑顔で答える。
 毎朝寒い。三月になっても変わらず、あたしは、寒い。
 そんな朝だった。
 いつものように寒風に立ち向かうべく歯をくいしばっての出勤途中。見るともなくいつものように駅裏の花壇を見た。ら、「おおっ!」と、思わず立ち止まるほどの感動と遭遇。
 昨日まで(たぶん)冬だったはずの花壇に、親指くらいの長さの緑発見。
 水仙である。
 おおっ!
 違う場所にはチューリップの葉が!
 ああっ! その下の方には、なんとオオイヌノフグリが三輪、寒さにも慈悲を注ぐように可愛い花を咲かせているではないか!
 ビュンと去った一陣の風に顔中鳥肌たてながら、それでもこの花たちの春のお知らせに心が和んだ。
 春、来てるんだねえ。こーんなに寒いのに、ちゃんと来てるんだねえ。花たちは日々の気温の差なんぞに惑わされることなく、ちゃんと芽を出すんだねえ。
 人間なんてさ、毎日天気予報見てさ、今日明日の気温の差ばかり話題にしてさ、煮てさ、焼いてさ、喰ってさ……じゃなくて、目先の気温に振り回されてるじゃん、情けないねえ。
 「でっ、寒っ!」
 寒いけどさ、春だなんて信じられねーくれー寒いけどさ、こうして花が知らせてくれるとさ、ああ、春、来てるんだなあって信じられるから不思議だね。ムカつかず、素直に「わかりましたよ」って思えちゃうんだもん。

「らきさん、今日はちょっと昨日よりあったかいねえ」
『知らねーよ、そんなこたあ、あたしは変わらず寒いわっ!』と思いつつ、そーですね、と今日も答える。

 数日後、チューリップだと思った芽は、どうやら違う花のようだ。それでも腹は立たん。
 そーゆー花の力って偉大だなあと、近頃の朝は顔がにやける。
コメント (10)
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雪かき

2008-02-23 | Weblog
 今年は何回か続けて雪が降り、その降り方は前回の雪が解けないうちに次が、という降り方だったので、ひどくムッとした。ああ、積もるな、という降り方を見てうんざりし、これで雪かきは避けられないなと思うと、更に気が滅入る。
 小池家に転がり込んでもうすぐ五年になる。通常は孝一さんが雪かきをするのだが、夜勤明けの朝はせめて車が入ってくる所だけでもかいておかないと、可哀そうだなあなどと思ってしまう。それに雪かきができるのは、ほかはあたししかいない。まさか八十七歳の方に「お願いします」とは言えない。だが、ああ、このくらいなら雪かきしなくても大丈夫かな?と思ったときに限って、「ちょっとかいておかないとね」と雪かきをはじめられるのである。「ああ、すみません、あたしがやります」と言わなければいけないのだが、実は出勤時刻だったりする。やばいなあ、雪かきで体調を崩されないといいんだけど、と思いながらも、目測をあやまってしまったことで、自分が悪いことをしたような気分になって、これも滅入る。以来、二ミリ以上積もったら、雪かきを実行しようと心に誓う。で、そういう時に限って、降るんだよ、雪が、ちまちまと。
 朝から降り始めたのならまだいい。が、降り始めたのが夕方からだったりすると最悪で、雪かきは翌朝となる。目覚ましをセットし、いつもより一時間早く起床。外を見れば間違いなく雪かきが必要なほど積もっている。それでも助かるのは、今現在はやんでいるということだ。パジャマの上に防寒パンツをはき、フリースを着込み、マフラーをし、耳まである毛糸の帽子をかぶり、ロングジャンパーを着込み、手袋を嵌める。ブーツをはき、雪かきを手に鬼に金棒ポーズを取り、気合を入れる。ふと。
 今日は、ごく一般的なスタイルだぜ、とつぶやく。
 何年前になるだろうか。今回よりもというか話のほかというほど雪が降った年があった。その頃はアパートで一人暮らしだったし、車も持っていなかったので(ってか、免許がない。今もだけど)駐車場に雪があろうがなかろうが、車を持っている人がかけばいいと本気で思っていた。なにせ八部屋のアパートに二軒だけしか住んでいなかったので、お気楽だった。が、しかし、そのときばかりは雪の量が半端ではなく、ときどき来る友人のためにも、こりゃ雪かきしなくちゃいかんか、と思った。
 だが、しかし、雪かきは重労働である。おまけに人並みな体力がないので、十回も掬えばもうへとへとである。それを車一台分の範囲をやらなければいけないのだ。やるまえから卒倒しそうである。
 普通の感覚でやったら、嫌になる。
 それがまず思い浮かんだことだ。
 では、普通ではない、とは? 
 人は、お前のやることはほとんど全部普通じゃない、というが、本人はいたって普通の範囲だと思っているので、そこのところが微妙である。
 しばらくコーヒーを飲みながら考え、ひとつ、思いつく。そして、買ったばかりの茶色いシマウマ模様の着ぐるみパジャマを着た。ちゃんとシッポ付きである。フードもたてがみと耳がついている。ふむ。気分はちょっと着ぐるみショー。どこから見てもちょっとおかしい奴である。
 アパートは奥まった所に建っているので、近所の人意外は見えない場所だ。その日は平日で、あたしは休日。近所の人に見られる可能性も少ない。人に見られる心配が少なく、嫌な事を変な格好で乗り切ろうという自己満足も満たされる、一石二鳥の日和である。
 が、現実の作業は想像を絶していた。とにかく、まず、雪かきが重い。それに水分が含まれた重めの雪を掬うのだからたまらない。三回救って、二回は同じ地点に雪が落ちた。
「…ふざけんじゃねーぞ、コラ」
と雪にガン飛ばしても、・・・である。
 埒が明かない。
 再び小休憩でコーヒーを飲む。
「持ち上げようとするから、落ちる、のか」
 無い頭では、それが答えである。それでも自分では大発見をした気分で、有頂天。コーヒーを飲み干すと、再び雪かきに挑戦。
 ザザッと雪に雪かきを突っ込み、柄のほうに体重をかけると、適量?の雪が皿に乗る。それを後ろ向きのまま雪を積む場所まで引きずる。こうすると、持ち上げる力はいらない。名案とばかりイイ気になって三往復したところで、息が切れた。腰を曲げて下を向いたまま後ろ向きに歩くというのは、腰に負担をかけ、頭へと血を運び、なのに貧血状態を引き起こしたのだ。
「うえっ」
 吐かないが、気持ち悪くなって雪を布団に横になる。
 空を見て、雪の布団に横になる茶色いシマウマ、って、異常、だよな? と思う。でも、普通の恰好でこうするより、すごく変な格好でこうするほうが何となく救われるような気がする、って、やっぱし、変? とも思いながら、この「変」になぜか救われているのは事実だと思った。
 さて、飲むか、コーヒー。
 寝ころびはしなかったが、五回雪運びをしてはヘタり、コーヒーを飲む、ということを延々繰り返し、半日かかってやっとこさ車一台分の雪かきを終えた。
 終わった時、達成感などというものは湧き起こらず、二度とごめんだ、と思うだけであった。
 この日の午後、雪かき持参で来てくれた孝一さんが、この努力をことのほか褒めてくれて、ご褒美にステーキハウスへと連れて行ってくれたのである。
 雪かきの跡と、馬なのかシマウマなのか中途半端な着ぐるみを着て死んでいる物体を見て、彼が最初にやったのは、
「こら、ケツを濡らしたままだと風邪ひくぞ」
と、大事な尻尾を引っ張り、ぶち切ったのである。
 すっかり妖怪「茶シマウマ」になりきっていたあたしは、尻尾が取れたことにひどくショックをうけ、パンツと座布団がグショグショになっていることよりも嘆き、馬鹿にされた。
が、
「よく頑張ったな、ステーキ食いにいくぞ」
の一言で、ちゃっちゃと機嫌を直し、
「とにかくパンツをはきかえろ」
にも素直に従い、ついでに?服装も普通にして、おでかけ顔に変身した。
 しかし、やはり尻尾は悲しい。うらめしそうにすると、彼は安全ピンで応急処置をしてくれた。で、これで納得する自分が少し・・・と思ったが、頭の中は99%ステーキになっていたので、それでよし、とした。
 今も、雪かきのために普通の完全装備をすると、つい、安全ピンで尻尾を付けたくなってしまう。だがここは、普通の人のおうち。自我を抑え、猫を被るほうを優先する。そんな自分を、褒めてあげたい。

コメント (1)
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ごあいさつ

2008-02-13 | Weblog
 ここにこうして入力するまでに、一時間も要してしまった。はあ。本当に学習能力がないと思うよ。
 ま、次からはまとも?なエッセーに入りますので、まずはごあいさつ。
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