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『夕凪の街 桜の国』(こうの史代)

2007-04-12 23:19:22 | 本・マンガ・雑誌
夕凪の街桜の国

双葉社

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ときどき
まだ桜が残っているうちにこれを。
帯の「戦後マンガ界最大の収穫」という惹句の是非はともかく、傑作であることに変わりはありません。

「ヒロシマと原爆」を扱ってはいますが、いわゆる「社会派」作品ではなく、描かれているのは、あくまでも「個人にとって原爆とは何か」、更に言うなら「あなたにとって原爆とは何か」ということです。
スクリーントーンを用いない、シンプルな、ともすれば稚拙にさえ見えるタッチで淡々と描かれた物語は、重く痛切に響いて来ます。

ややネタバレになりますが、空白のコマの連続に主人公の独白だけが聞こえる、33ページの最後のひとこと。
「……とちゃんと思うてくれとる?」
とは、「そう思ってほしい」ということでしょう。
「科学の進歩」のためでも「戦争の早期終結」のためでもなく、あれはまさにその目的のために作られたものだと、ごまかさず認めてほしい、と。
そして、それを問われているのは、この物語を読むあなたや私自身でもあるのです。

第1刷発行は2004年10月。私が初めて読んだのは2年くらい前だったと思いますが、今年の夏、映画化作品も公開されます。
3月末にオープンしたばかりの公式サイトはこちら↓。

映画『夕凪の街 桜の国』公式サイト

サイトをあけると美しいハープのメロディが聞こえてきますが、あまりお涙頂戴の演出にはしてほしくないですね。
「詩情あふれる」と形容されそうな表現を用いながらも、原作は決して情緒に流れず、きわめて理知的に構成されているのですから。

たとえば、最初のエピソード「夕凪の街」と、次の「桜の国(一)」との関連は、細かい部分まで注意深く見なくては判りません。
また、その「桜の国(一)」で本当は何が描かれていたかを知るには、次の「桜の国(二)」を読むことが必要となって来ます。
そして「夕凪の街」では名前とシルエットしか出て来なかった或る人物が、「桜の国(二)」の中心的役割を担う存在だったと気づいた瞬間、読者は再び「夕凪の街」へとページを戻さずにはいられないでしょう。

その人物の最後の(正確には最後から二つ目の)台詞──軽い感じでさりげなく呟かれるその言葉には、登場人物すべての背負う歴史、そしてそれでも「愛」へ、そして「希望」へと向かおうとする思いが感じられました。

流し読みしただけでは見落としがちな伏線や、後になって生かされるさりげない描写が散りばめられて、実質90ページ程度とは思えないくらい内容の濃い作品ですが、それらの読み解きは下記のサイトさんで詳細に行なっています。
http://sho.tdiary.net/20041109.html

寄せられた多数のコメントも併せて、たいへん興味深く充実した内容ですので、原作既読のかたは是非ご覧になって下さい。

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