goo blog サービス終了のお知らせ 

Loomings

映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

人体の不思議展もしくは回想のヴェサリウス

2006-06-04 15:37:59 | 雑記
謎の解剖学者ヴェサリウス

筑摩書房

このアイテムの詳細を見る



本日はこのタイトル通りの内容。
何しろ人体解剖図や標本についての話題だし、後半はそれが自分の子供時代の思い出話に繋がったりもするので、その手の話題が苦手な人や、お読みになりたくない人は、この先お進みにならない方がよろしいかと思います。

という訳で、
人体の不思議展公式サイト

先日、我が家の中学生が学校の遠足で行って来た。
またの名「人体の輪切り展」。どういう意味なのかは、同ページ内「趣旨」をご覧になればお判りになると思う。
くれぐれもいきなり「標本」や「詳細」などクリックなさらぬように。
展示してある標本は模型ではなく、早い話加工された「死体」そのものである。
蒼ざめる子たちも当然いたようだが、うちの中学生は普通に「ああ、体の中はこうなっているのか」と思って見ていたらしい。

これまで各地で開催され、その都度盛況であるらしいこの展覧会、私自身はあまり行く気がしない。
「怖い」「気持ち悪い」等の理由ではなく、その昔の「衛生博覧会」のように、学術的研究に名を借りた見世物小屋としか思えないからだ。
それらの展示物から、逆説的に「人間の尊厳」に思い到る人も中にはいるだろう。
しかし私自身は、単なる「怖いもの見たさ」の気持ちや、或る種の志向(嗜好?)が自らの中にあることを自覚している。また、それらはその先に思考を巡らすことをブロックしてしまうかも知れない。だからこれは見たくないと思う。

さて、この公式サイトの背景に使われているのは、ルネッサンス期の医学者アンドレアス・ヴェサリウス著『ファブリカ』の図版である。
近代解剖学の基礎となった大著であり、収められた数々の図は、医学的にはもちろん美術的にも高く評価されている。
そして、その『ファブリカ』こそ、子供時代の私の愛読書の一つであったのだ。
もちろん当時は外国語の文章など読める訳もなく、ただ図版(たぶん銅版画だと思う)のみを「こわい絵本」として眺めていただけだが。

私の父、そして同居していた母方の祖父は医者であり(但しどちらも開業医ではない)、そういう書物が家庭内にあってもおかしくはなかった。
レオナルドの解剖図集もあったはずだが、こちらは私にとって「絵本」とはなり得なかった。
祖父は臨床医ではなく、生理学と医学史を専門としていた。実は日本で最初にヴェサリウスの評伝を書いたのは、おそらくこの人である。また、「人体の不思議展」サイト内でもちらっと触れている「ホメオスターシス」論を早くから取り上げていた人でもあった。
今でも、「ヴェサリウス」と祖父の名を併せて検索すると、ちゃんと引っかかる情報があることに、驚くと共に感動も覚える。

そういう環境に育ったからと言って、私自身が医療関係の仕事に就いた訳ではない。理科系、特に数学が苦手だった為だが、これについては父の教育法にも責任はあったと思っている。
しかし、ずっと以前にも書いたことだが、父がやたらと熱心だった学科教育ではなく、ただ単に本人が「好き」だった外国映画やスタンダード音楽の基礎的な知識を叩き込んでくれたことには、今でも(と言うか今になって)感謝している。
ともあれ、父方母方双方から受け継いだものは、理科系的頭脳ではなく、妙にマニアックな性向だけであったということだろう。

実家にはかつて「洋間」と呼ばれる部屋があった。
古いテーブルやソファ。威圧するように壁を占領する背の高い書架。そこに収められた数々の古い書籍。それらの発する黴臭く、どこか懐かしい香り。分厚いカーテンの向こうから薄暗い室内を満たす西日。
何となく「子供がはいってはいけない」雰囲気を漂わせていたその部屋にそっとはいり込み、祖父の肖像画やモナリザの複製画(このヒトと目が合ってしまうのは怖かった)に見下ろされつつ、『ファブリカ』の人体解剖図をどきどきしながら眺める子供。それがかつての私だった。

怪奇趣味的に誇張して書いている訳ではない。かつて本当にそういう日々があったというだけのことだし、自分にとってはそれも日常の一断面だった。
だが、今でも私の一部はまだあそこにいるのだろうという気もする。
薄暗い静かな部屋の中で、一人でひっそりと、飽きもせず「異界」に没入する。
今でも自分はそれを続けているのかも知れない。

そういう訳で、ヴェサリウスの名は私にとって特別なものだ。
展覧会を見に行く気はしないし、祖父の書いた本は今では絶版となっている。が、上で紹介した本を読んでみようかという気にはなった。
こちらもどのネット書店でも入手不可または困難で、アマゾンでもこれだけのユーズド価格が付いているが、図書館にはあるかも知れない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヒューヒュー!・210 帰国そ... | トップ | ヒューヒュー!・211 ヒュー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

雑記」カテゴリの最新記事