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世界遺産級

2021-09-29 19:02:16 | 日記

 

 

 

 

 

旅行記(ブログ) より。

 

 

東チベットの旅2 2019年 幻のラルンガルゴンパの現状 (2019 The road to Larung Gar )

 

 

 2019 東チベットのチベットゴンパを目指す旅

 

 

 

 

 

 

東チベットと呼ばれる四川省西部のチベットエリア(チベットではカム地方とも呼びます)を旅してきました。旅の目的は今となっては幻と言われるラルンガルゴンパ、アチェンガルゴンパ等のチベット寺の佛学院を訪問、および6000m級の山を眺めることです。

 

この旅行記では、2019年のラルンガルゴンパの現在を紹介します。ラルンガルゴンパは四川省西部の山奥に隠れるように存在する世界最大の佛学院で、かつて10000人の僧が学んでいました。ラルンガルゴンパを囲む無数の家並みは世界遺産級で、フォトジェニックな光景が広がります。かつてはチベット文化の学びの中心として繁栄したのですが、中●政府の影響が大きくなるにつれ、新しい開発が計画され教育内容も変わってきました。そのためにチベット側と衝突が度々発生する様になり、ラルンガルゴンパは外国人に非開放地区となりました。しかしこれは政府公式の規制ではなく、実際に行けるのかはその時の政情のサジ加減一つです。2017年前半まではラルンガルゴンパに到達可能でした。しかし2017年後半から検問での監視の強化後は、行けたという情報はネット上にも殆どありません。かつては秘境好きやバックパッカーの聖地とも言われたラルンガルゴンパですが、今では訪れる事が困難な幻の場所となりつつあります。この旅行記は2019年6月時点の久しぶりの最新状況のレポートです。

 

この計画には心配もありました。私は検問で止められたり地元の人に迷惑がかかりそうなリスクがあるなら、ラルンガルゴンパ行きは中止するつもりでした。中●政府の監視技術は世界一なので、それに対抗できる見込みなど全くないからです。出発前はラルンガルゴンパへの到達率は10%、アチェンガルゴンパへは90%と思っていました。しかし前編1の旅行記のとおり、近くまで行くも結局どちらのゴンパにも到達できず、チベット自治区の省境デルゲまで来てしまいました。計画失敗の可能性が高くなりましたが、あるきっかけでラルンガルゴンパへ再度目指してみる事になりました。

 

注:これは旅行記なので政治的なコメントは一切控えたいと思います。またラルンガルゴンパ訪問を推奨する意図もありません。

 

 

 

 

3日目の朝、四川省の省境デルゲ(徳格)の先はどこへも進めないことが分かり、バスでひとまずマニガンゼまで引き返します。ここは住民の殆どがチベタンの小さな町で居心地はよさそうです。ここから先はどちらに行くかは決まっていません。西に向かい青海省に入りシーニン(西寧)経由に大きく一周するか、東に戻り四川省の南西部に向かうか、、しかしそんな選択肢はないことに気がつきます。こういった小さな町では、移動するためには道端で通りかかるバスかシェアタクシーを待つしかないのですが、そのバスは殆ど朝しか走っておらず、更に幹線道路は町を迂回しているので、どちらの方向へも全くバスはやってきません。シェアタクシーは外見からは普通の車と全く区別がつきません。困りました。

 

 

 

町外れの幹線道路の検問まで行き、そこで通りかかる車をヒッチハイクすることに。検問にいた人の手助けもあって3分もしないうちにヒッチハイクに成功。なんとBMWに乗せてもらいます。四川省の田舎でも道の状態は良く、気が付いたらBMWは時速130キロで走っていたりして快適です。乗せてくれた人はセルタへ向かう漢族のビジネスマンです。中●語が全く話せない外国人を快く乗せてくれるとはとても親切な人です。何とか少し会話して彼が言っていた事は「セルタは良いところ、来てみる?」。一度諦めたラルンガルゴンパを思い出します。そこで訊いてみると「ラルンガルゴンパ?知らないね」恐らく彼はビジネスでセルタに滞在するけどチベット人には興味はない様です。このままセルタまで連れて行ってもらおうか悩みましたが、もし検問で捕まったら彼に迷惑をかけてしまうので、やめておきます。

 

 

 

ガンゼでBMWを降ろしてもらいます。まだ次の行き先も決まっておらず、ラルンガルゴンパに行ける再チャンスはないかを調べるため、またガンゼの旧バスターミナルへ向かいます。着くなりチベタンのシェアタクシーの運転手5人ほどに囲まれるので「セルタ」と言ってみます。昨日の経験から、もし外国人が行けない場所であれば、彼らは断ってくる筈ですが、セルタに関しては迷いもなく「大丈夫。行こう!」と言います。隣の公安でも念のため訊きますが「ラルンガルゴンパ?(よく知らないけど)オッケイ~」との事。昨日のアチェンガルゴンパの「絶対ダメ」とは随分違う答えです。ガンゼとセルタは州が違うので、公安は他の州の事は知らないのかも知れません。疑心暗鬼ですが何か皆に背中を押された感じで、それなら行ってみようかという気になります。

 

 

 

シェアタクシーでセルタ(色達)へ向け出発。ガンゼからセルタへ直行する道は、昨日通らなかったワンダの検問には行きません。この道は標高4000m以上で森林限界を超えた高所を走ります。雄大な景色で、この時は景色を楽しむ余裕があります。峠の麓にチベット寺があり、ドライバーの友人がいたので、ここで少し休憩。するとその友人「セルタの郊外で検問があり、君は通れないよ」と身振りで言うではないですか!私は取り乱します、話が違うと。でも友人はほぼ毎日検問を通るので確かだと言います。そしてこうも言います「でも大丈夫、検問は夜8時には終わるから」。このまま行くとセルタには7時前には着くので、しばらくここで待つ事にします。

 

 

 

しかし10分後にはドライバーが出発しようと言い出します。私は更に混乱します。今まで身振りと漢字を使った筆談で会話していたのですが、もしかしたらチベタンには筆談が通じてなく、大きな誤解をしていると思うように。中高年のチベタンの殆どは漢字が読めない様ですし。友人も言う事が変わり「大丈夫だから行こう」と急かします。さっきのバツの身振りは何だったんだと思いましたが、もし置いていかれたら、ここで身動きが取れなくなるので覚悟を決めます。友人の車と一緒に出発し、峠を延々と登り標高4500mを超えます。私の心臓の鼓動もこれ以上に高まります。

 

 

 

1か所しか分岐がない道でこのドライバーは道を間違えて、地元民に道を訊いて引き返します。もしかしたら彼はセルタに来たこともないのに大丈夫と言っていたのかと不安は最高潮になります。そしてしばらく進んでセルタまで東にあと5kmほどの何もない場所で、先ほどの友人の車が停まっています。友人が来て「検問はなかった」と言います。今は夜7時過ぎ、よく分かりませんが今日は検問は終わっていたのでしょうか。少し安心した私はセルタ郊外のチベットゴンパに歓迎された気分になります。セルタ郊外にはラルンガルゴンパ以外にも大きなゴンパが幾つかあります。チベット仏教ニンマ派が中心です。

 

 

 

そしてセルタの町に着きます。これが今では幻の町セルタです。標高は3800m。まだしっかり写真を撮る心の余裕もありません。撮った写真全てブレています。

 

 

 

セルタの中心には他のチベット地区とは違う装いのチベット寺もあり興味深いですが、私はまだ不安があり車外には一切でません。他の乗客を降ろす間、車内から撮ったセルタのモニュメント。

 

 

 

セルタから南東に20kmほど離れた山中にラルンガルゴンパがあり、その麓に小さな町があります。ドライバーは外国人も泊まれる所を知っていると言うので、連れられるままそのホテルに行きます。2日前のマルカムではホテルを見つけるのに苦労したのですが、ここではあっさり宿泊OKをもらいます。ドライバーにはセルタまでの料金100元と、途中混乱はありましたがここまで無事に連れてきてくれて感謝のため追加で100元をチップで払います。ホテルの受付で、ラルンガルゴンパについて訊いてみます。ホテルの漢族のスタッフもとても親切で、スマホの翻訳アプリを使って、詳しく教えてくれます。その話を要約すると、

- この先ラルンガルゴンパ入口に検問があるが夜9時から朝9時まで検問はやっていない。

- ラルンガルゴンパ入口での検問は車のみをチェックしており、歩行者は検問のすぐ左側の駐車場を通って中に入れば検問を通過しない。

- なので夜9時以降の夜景見学バスか朝7時からの早朝バスがお勧め。

と情報を得ました。この時は夜8時過ぎですが雨が降っており、明日の早朝に決行することにします(写真は翌朝8時の麓の町並みです)。

 

 

 

4日目、日が昇る前の朝5時15分にホテルを出発します。バスは不安に感じたので、歩いて目指すことに。ラルンガルゴンパ前の検問を歩いて通過する時が来ます。緊張の瞬間です。教わった通り、検問の左脇の駐車場を抜け、その一番奥に人しか通れない扉があり、扉は何と開いており無事中に入ります!つまり、西側からセルタの町に入る前と、ラルンガルゴンパ前にある2か所の検問は、誰にも会うことなく通過することができます。本気で検問をしていない事から、政情は安定しており入場は黙認されていると理解します。

 

検問を超えて歩いて坂を登ること45分、ラルンガルゴンパが見えてきます。しかし、一番手前に見えるのは、恐らく最近新築された整然とされた建物群です。。噂通り昔の絶景の街並は壊されて、モダンな建物に建て替えられたのでしょうか。。

 

 

 

 

 

 

しかし更に奥が見えてくると、それは杞憂だと分かります。山奥に突如として現れる一面に広がる赤い建物群、これが秘境ラルンガルゴンパ!まさに世界遺産級です。

 

 

 

ラルンガルゴンパの内部はまるで映画の様です。ほぼ100%の住人が僧で、皆が僧服を着ています。ちょうど朝6時ごろは皆が動き出す時間で、町中に僧が溢れています。なかには漢族の公安もいませんし、北京など都市部には100m毎にある監視カメラもここにはありません。世界最高の監視技術を誇る中国政府がこんな手抜きをするとは思えず、2019年6月現在チベット側と合意がとれてある程度の自治が認められている雰囲気があります。2017年後半の完全シャットダウンの最悪な状況からは改善されて、少なくとも表面的には平和が保たれています。もっともなかでは誰とも会話をしておらず一瞥しただけの印象なので、本心で皆がどう思っているのかは知る方法はありませんが。

 

 

 

丘に登ってラルンガルゴンパを一望します。フリーチベット系のメディアでは古い建物の多くは壊されたと報道されていますが、2019年6月現在その90%はそのまま残っています。中●政府の計画では人口を5000人に抑えるとの事ですが、恐らくまだそれ以上がここに住んでいます。なのでフリーチベット系のメディア報道が全て正しいという訳ではない様です。そこまでチベット側が一方的に抑えられてはおらず、お互い協議はされているとの印象です。

 

 

 

残念ながら天気には恵まれず雨が降るなかの訪問でしたが、ラルンガルゴンパの2019年の現状について自分の目で確かめることができたのは大きな収穫です。来る前は、中●人観光客向けに改装されテーマパーク化したラルンガルゴンパにリスクを冒してまで来る価値があるか疑問でしたが、それは杞憂でした。

 

 

 

ラルンガルゴンパのすぐ外には、赤色に塗られていない家並みがあります。この坂道を下りて朝8時ごろには下山します。この目に焼き付け目的を達成したので、ラルンガルゴンパには1時間ほどの滞在で去ることにします。せっかく憧れのラルンガルゴンパに到達したのに、何故かは分かりませんが早く離れるよう無意識に指示されていた感じです。

 

 

 

これが今回の旅行記の地図。デルゲ Degeからガンゼ Garzeまで来た道を戻り、セルタ Sertarを経由してラルンガルゴンパ Luoruoxiangへ到達。四川省の成都からは遠く離れた山中です。

 

ラルンガルゴンパに訪問できたのはとても運が良かったですし、なにしろ周りのサポートがあったから到達できたと思います。BMWのビジネスマン、タクシードライバー、ホテルのスタッフもすごく親切で中●語、チベット語ができない自分には本当に助かりました。誰かの迷惑になったり自分自身にもリスクがあれば計画は中止するつもりでしたが、ガンゼやセルタでは誰にも行くなとは言われませんでした。このままラルンガルゴンパから発信されるチベット文化が将来にも残ってくれることを祈ります。

 

(👩ラルンガルゴンパは、地図にない町)