NPO法人POSSE(ポッセ) blog

2010年度 産業カウンセラー協会「働く人の電話相談室」の結果について

10年度 産業カウンセラー協会「働く人の電話相談室」の結果について

今回は産業カウンセラー協会が行った「働く人の電話相談室」の結果について考察します。
社団法人日本産業カウンセラー協会―働く人の電話相談室結果速報リリース
http://www.counselor.or.jp/media/news/pdf/100929b.pdf
JILによる分析
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/doukou/20101001.htm


「うつ・死にたい」が多数

今回、相談の分野で最も多いのが「メンタル不調・病気」(21.5%)。さらに、この中の内訳で最も多いのは「うつ」が84人。希死念慮(死にたいと願うこと)の75人が続きました。
わずか3日間の相談期間に75人もの人が死にたいと訴えている状況にカウンセラー協会は「その背後にはさらに膨大な数の希死念慮者がいることは明らか」と分析しています。

働く人々がなぜうつ病になるまで、果ては死にたいと思うまでに追い詰められてしまうのでしょうか。ここでは2つの観点から考えてみたいとおもいます。1つは、働く人の巻き込まれている近年の競争の激化、もう一つは職場でトラブルを抱えたとしても辞められない環境です。

強まる競争
競争の激化に働く人が巻き込まれているといってもイメージを持ちづらいかもしれません。しかし、身近なところにこれが現れているのを見ることができます。24時間営業など広まる営業時間の長時間化は従業員の長時間労働に支えられている、運送業の即日・翌日配送、時間指定配送はトラック運転手の労働強度を高めている、驚くような低価格の商品は従業員の低賃金や人員削減によって可能になる――といった具合です。

また各企業は近年グローバルな競争にさらされています。世界中の製品が容易に国内に入ってくる環境で、なお生き残ろうとする企業はジャスト・イン・タイム方式の導入や工場の海外移転など、効率化の取り組みを進めています。こちらもまた、労働者のストレスを増したり、国内の雇用を減らしたり、雇用されているものの労働条件を下げる要因になっています。

企業のサービス向上、効率化の追求の結果、長時間労働で体調を崩す人や納期厳守のストレスでメンタルに不調をきたす人を生み、ノルマを達成させようという上司の焦りが行きすぎた指導(パワハラ)を誘発し、部下をうつに追いやってしまう、あるいは、人員削減、非正規の活用が少数の正社員の責任を増大させるという状況がみえます。

実際に今回は人員が不十分であるためにひとりの管理職に大きな負担がかかっているという事例の相談や残業のために過労、眠れないという相談が寄せられています。


・ 8月末からストレスによる内臓疾患で会社を休んでいる。製造業で管理職的な立場。職場の正社員は自分だけであとは50代のパート・アルバイトばかり。人が少ないので製造と管理と両方やっている。会議のたびに会社に人手不足を訴えるが応じてもらえない。さらに人を減らすことを考えているようだ。(30代・男性・正規従業員)

・ 会社がサービス残業をするように圧力をかけてくる。就業時間が終わっても、タイムカードを押してからまた残業をしている。過労がたまり、眠れない。一度病気にもなったが、労災申請をすると賞与にもひびくのでできなかった。(30代・男性)

辞めることができない

うつになってしまえば治るのに時間がかかるうえ、場合によっては治らないかもしれあせん。死を選ぶことは最悪の選択です。
そこで、「うつになるくらいなら/死ぬくらいなら、仕事をやめるという選択ができないものか。」という思いが湧いてきます。

しかし、日本はとても就労意識の強い国です。その原因を考えます。
失業時に備えるために、加入している雇用保険ですが、現在雇用保険は失業者の約5人に1人しかもらえていません。つまり、5人に4人は仕事をやめてしまえば次の日から収入がまったくない状況になっているのです。

さらに最後のセーフティネットとなるはずの生活保護も機能しているとは言いがたいものがあります。うつ病であってもなお、役所の人に求職活動をするよう言われたという相談が寄せられています。

・ 生活保護を受けている。役所のひとに1時間も個室で「求職活動をしろ」と言われ、辛い。「死にたい」と漏らすと急に「死んだらいかん」。本当に気持ちを分かってくれて言っているのではないのが分かり辛い。眠れない、食べられない。働けるものなら他人に言われなくても働きたい。うつから回復したい。(40代・男性・無職)

雇用保険の受給を絞る、生活保護の運用において働くことを求めることによって、どんな形であっても働いていなければ生きていけないという状況を生み出しています。

仕事を辞めた場合、社会保障がないために、失業の期間は極力短くしなくてはなりません。そこで、条件の悪い仕事であってもすぐに飛びつかざるを得なくなります。現実に、正社員であったひとが次の職も正社員になることは難しく、多く人が非正規の仕事にやむをえず就いています。

次の職が納得のいくものにつけるかわからない、失業が長引けばすなわち生活が立ち行かなくなってしまうという恐怖が、たとえ現在の職場で大きな問題を抱えていても辞めることができないという現状を生んでいます。


以上、産業カウンセラー協会の相談窓口の結果をもとに、企業の競争激化が働く人のメンタル不調や希死念慮を生み、そうした困難に陥ってもなお、仕事を辞められない状況があるということを記述しました。

本来、企業の競争が異様に進んでさまざまな弊害が出ることのないようにしたり、職場で過労やうつなどの問題を抱えた場合にも生活が成り立つ制度を整えることが国の役割です。これまでの政治は、むしろ規制を緩和し、なにか仕事を続けられない、続けるべきでない状況が生まれても助けない方向に進んできたと思います。

NPO法人POSSE(ポッセ)は個別の相談解決や、雑誌などをとおした提言を行うことによって、こうした方向を変えるよう活動していきます。



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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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