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仮設住宅の見回り報告1 仮設住宅の住環境の劣悪さ


 NPO法人POSSE(ポッセ)仙台支部では、仙台市内の仮設住宅の各戸を宮城野区を中心にして訪問し、何か困っていることはないか、NPO法人POSSE(ポッセ)で出来ることはないか聞きとりを行っています。8月15日現在で、私たちが行った見回りの件数は60件を超えています。
 住民の方たちの意見で最も多いのは、住環境に関する不満です。これは仮設住宅への入居が開始された6月当初から問題視されていたことですが、一向に改善される見込みがないのが現状です。以下、私たちが見聞きした住環境の問題を挙げていきたいと思います。

 一つは玄関と遣り戸口に雨どいがなく、家の中に雨水が入り込んでしまうことです。出入りするときに人も濡れてしまうし、外に靴やものを出したままにしておくことができません(かといって室内に靴箱などを置くスペースすら十分に確保できません)。雨が降れば玄関も遣り戸も閉めなくてはならないため、換気が困難になります。

 また遣り戸口と地面との段差が大きく(約50センチメートル)、足の悪い人はそこからなかなか外に出られません。洗濯物を干すにも不便であり、もしも地震が来てとっさに遣り戸口から外に出ようとした時に、けがをする方も出てくるのではないかと考えられます。
 足場に関して言えば、風呂場の段差も足の悪い人には酷であると聞きました。風呂場の入口に設けられている段差は幅が狭いため足を踏み外す人も出ているという話もありました。浴槽に関しても、深く作られているため入るのが怖く、シャワーで済ませるようにしているという人も見受けられました。玄関の段差も、足の悪い方には相当不便なものとなっています。スロープがつけられ、玄関と地面の段差がないようにしてある棟が仮設住宅の中に設けられているところも多いのですが、足の悪い家族を抱えているにもかかわらず「通常の」(段差のある)仮設に入居を決められた方もいます。

 仮設住宅によっては、遣り戸口がなく、あまり大きくない窓しか設けられていないところもあります。日があまり差し込まず、風通しも良くありません。加えて窓と玄関を結ぶ直線を壁が遮るようにして作られていたり、そもそも窓が玄関と直線で結ぶことのできない位置に作られていたりします。それゆえ夜寝苦しく、あまり寝られていない方も多いようです。エアコンを使うにしても、仮設住宅では光熱費が自己負担となるので、節約のためと使用を控える家庭が多く、夏には熱中症の危険が伴います。また外からの声が聞こえにくく、誰が入ってきたかすら分からないこともあるため、防犯上の心配をしている方もいました。一戸に数部屋設けられているところで、一部屋にしかエアコンが着いておらず困っている家庭も見受けられました。

 窓に網戸がついていない仮設住宅もあり、ホームセンターかどこかで網戸を買おうにもサイズが一般的なものではないため、特注する必要があるとの声もありました。玄関にも網戸が欲しいという意見はどの仮設住宅でも多く聞きました。窓や戸を開けているとハエやアリなどの虫が入り込んでくると苦情を述べていた方が多かったのですが、それは網戸が備え付けられていないからなのです。締め切れば湿気と熱気で到底室内では過ごせないと感じます。しかし光熱費が自己負担であることによって、クーラーをつけるよりは虫の方を我慢しよう、ということになるのです。また風呂にもトイレにも窓がなく、閉塞感があって使うのが嫌だとの意見もありました。

 そして、仮設住宅が建てられている土地の地面は、大抵が砂利を敷き詰めたものとなっています。若い人であっても大変歩きづらく、実際に転んで捻挫してしまった高齢の方にも会いました。この方はこの怪我がきっかけで家に引きこもりがちになってしまった、と近所の方がおっしゃっていました。
 
 暑さ対策についても、屋根が平坦であるため熱が拡散されず室内にこもってしまうとか、棟と棟が近接しているため風通しが悪いなどの問題があります。断熱材が十分に使用されているのかなど、暑さ・寒さ対策が十全に取られているのか疑問が残ります。

 以上、仮設住宅の問題点を挙げれば切りがありません。震災後に着手され、短期間で建設された仮設住宅が、元住んでいた住居よりも優良であることがあったとすれば、元々住んでいたところの住環境の劣悪さを問う方が健全でしょう(津波で被災した地域は広大な土地を持った農家であった方が多いため、広い家に住んでいた人が多いのです。そして揺れで移住を余儀なくされた方でも、仮設住宅の狭さ・不便さには閉口している方がほとんどです)。
 避難所生活から、出来るだけ早急に移住先を確保する必要性はあったと思いますが、国や自治体が基準を設けて一定水準以上の住環境を整備することは可能だったのではないでしょうか。例えば窓ではなく、遣り戸口を設けた方が良い(風通しや利便性という点でも、孤独死の防止という点でも)ことは阪神淡路大震災の際に明らかにされていたことです。一定の建築基準はあるにしろ、各業者がバラバラの設計で建設を進めた結果、各仮設でその劣悪さにも「差」が出てきてしまっているのです。
 仮設への入居当初から住民の方からの不満は出ていたことですが、行政が雨どいや縁台を作るなど住環境の改善に着手する動きはありません。少しずつ、住民が自主的に雨どいや縁台を作ったり買ったりする動きは出ていますし、POSSEでも縁台作りを行っているところです。しかし住環境の改善は、本当ならば行政が全仮設住宅に対してとるべき措置ではないでしょうか。被災者なのだから「このくらい我慢しろ」という水準なのか、それとも、被災者であっても人間らしく生活を送ることができる水準であるのか、仮設住宅の設備や行政の支援の「質」が問われています。まさに今この社会が人間らしさをどの程度保障するのかが問われており、そして、その度合いがこの社会の健全さの指標となるのです。


■NPO法人POSSE(ポッセ) 被災地支援の取り組み
 NPO法人POSSE(ポッセ)では、仙台に拠点を置き、現地のNPOと連携しながら、仮設住宅(みなし仮設を含む)への移転支援や、仮設住宅住民への生活支援などに取り組んでいます。また、今後、被災学生への進学支援や就労支援、被災地の実態調査などに着手する予定です。被災地支援にご興味のある方は、お気軽にスタッフにお声をおかけください。
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