目次
4階ドルコルド国。
マルーン教皇は椅子に揺られながら静かに本を読んでいた。彼の愛読書は伝記、聖書ともなっている、太陽神と絶望神の戦いの本。毎日読んでいても飽きることはなかった。
扉を叩く音。マルーンは本を閉じて振り向いた。
「ロンシュか」
「はい」
扉の向こう側から、女の声がする。
「入れ」
眼鏡をかけた女性が入ってきた。マルーン教皇と恋仲であるロンシュタットであった。彼女はマルーンの右腕として全てを担ってる。
「そんなことしなくとも、普通に入ってくればいいではないか」
「いいえ、これは、周りの目もありますので、はっきりしておかないといけません。今は、貴方は聖国ドルコルドの指導者なのですから」
厳しい顔でロンシュタットは言った。
「わかった、わかった。…で、今は仕事なのか?」
「はい、先程、ブランチから報告が入りました」
ブランチとはドルコルド国の戦士で、今回の警備として呼ばれている部下である。
「計画通り、シールとカインドは動いているようです」
「そうか…では問題なかろう」
「ですが、あとは神殿の方の…」
「いや、ヴィジョンズも大丈夫であろう」
「…だといいのですが」
マルーンはグラスを手に取った。ロンシュタットがそれを見てワインを注いだ。マルーンは一気に飲み干した。
「明日の会議で世界が変わる。再び混沌の闇へと時代は進むだろう」
グラスを回しながらマルーンは言う。
「闇という闇で覆いつくされて、絶望という言葉が人々の脳裏に刻み込まれた時…」
グラスが手から離れて、地面に落ち、粉々に割れた。
「我がドルコルドが世界の指導者となる時だ」
マルーンの顔が歪む。
ロンシュタットは何も言わずに頷いた。
「さあ、仕事はいいだろう?ロンシュ。女に戻るがいい」
マルーンはロンシュタットの手を取り、身体を引き寄せた。服に手をかけゆっくりと脱がしていく。ロンシュタットは微笑み、柔らかな唇をマルーンの唇と合わせた。
「静かにしろよ、いいな」
赤髪の女、カインドが言った。
施設フライの近く。神殿に行くためにはどうしてもこの前を通り過ぎなければならない。カインド本人は容易いが心配なのは相方のシールである。『黙る』ということがシールに出来るのか、カインドの心配はまさにその1点だった。
カインドに諭された金髪の男、シールは手で口を大げさに押さえた。
「その行動がイライラするんだ」
カインドは怒ったが、大きな声が出せないために迫力に欠けている。
施設フライを素早く通り過ぎた。
同時に感極まったのか、シールが口を開いた。
「やった、やったよ!カインド!通り抜けた!大成功だ!」
速攻でカインドの強烈な蹴りが、シールの顔面を捉えた。
「ぶっ」
シールはその場に転げた。
「ひっ、酷いよ、カインド~。蹴るなんて。酷いよ~、カイちゃ~ん」
「うっさい、静かにしろと言っただろ、口で言ってもわからないのなら、こうするしかないだろう」
カインドはそのままシールを無視して先へ進み始めた。
「ああ、待ってよ~、早いよ~」
その後をシールが追いかけていった。
エグリアースは外で待機しているのも苦痛だと感じ始めていた。
相変わらず喋らないステューとアリシェが寝ているのを確認して、そろそろ自分も寝ようかと思っていた。
僅か2日で毎日の日課のように思えてならないが、エグリアースは座禅を組んでいる男の方を確かめる意味を持って見た。
「…なに?」
エグリアースは呟いた。奇妙な男はその場にはいなかった。忽然と消えてしまっていたのだ。
思うよりも身体が先に動いていた。男のいた場所へと歩み寄る。いない。辺りを見回しても何の痕跡も見当たらない。
だが、元々勘の鋭いエグリアースだったからこそ感じ取ることができたのだろうか。意識が、もう1人の自分が、奥の方で呼んでいるように聞こえた。
エグリアースはいつでも戦闘体勢に移れるように腰の剣に手をかけた。
ゆっくりと奥へ進む。誰も通ることのない薄暗い場所。
そこでエグリアースは目にした。有り得ない光景を。
「……そんなまさか」
これはもう会議どころではない。そう判断したエグリアースはすぐにファミリストン達への報告を決断した。
まずは門番を説得しなければならない。
それはこの光景を見せれば納得するであろう。地面から静かに生まれつつある、あの怪物の姿を。
今はまだ活動までは至っていない。今なら間に合う。踵を返そうとしたその時。
「おまえ…見たな」
後ろから冷酷な男の重い声。
エグリアースは瞬時にあの奇妙な男だと理解した。
振り返るのと同時にエグリアースは剣を抜いた。振り向きざまの勢いで横一閃するつもりだった。
剣は男の身体に斬り当たる瞬間に、ぱあっと光ったかと思うと跡形もなく消え去った。
「…!」
驚く間もなく男の拳がエグリアースの腹にめり込んだ。
「がふっ…」
呼吸が一時的に不可能になった。エグリアースは意識を失い、倒れ込んだ。
男はエグリアースを放り投げ、その場に座り、引き続き座禅を組んだ。
~ 第3章 沈黙の施設フライ 終 ~ 第4章につづく
登録してしまったのですけど。よろしくです。
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4階ドルコルド国。
マルーン教皇は椅子に揺られながら静かに本を読んでいた。彼の愛読書は伝記、聖書ともなっている、太陽神と絶望神の戦いの本。毎日読んでいても飽きることはなかった。
扉を叩く音。マルーンは本を閉じて振り向いた。
「ロンシュか」
「はい」
扉の向こう側から、女の声がする。
「入れ」
眼鏡をかけた女性が入ってきた。マルーン教皇と恋仲であるロンシュタットであった。彼女はマルーンの右腕として全てを担ってる。
「そんなことしなくとも、普通に入ってくればいいではないか」
「いいえ、これは、周りの目もありますので、はっきりしておかないといけません。今は、貴方は聖国ドルコルドの指導者なのですから」
厳しい顔でロンシュタットは言った。
「わかった、わかった。…で、今は仕事なのか?」
「はい、先程、ブランチから報告が入りました」
ブランチとはドルコルド国の戦士で、今回の警備として呼ばれている部下である。
「計画通り、シールとカインドは動いているようです」
「そうか…では問題なかろう」
「ですが、あとは神殿の方の…」
「いや、ヴィジョンズも大丈夫であろう」
「…だといいのですが」
マルーンはグラスを手に取った。ロンシュタットがそれを見てワインを注いだ。マルーンは一気に飲み干した。
「明日の会議で世界が変わる。再び混沌の闇へと時代は進むだろう」
グラスを回しながらマルーンは言う。
「闇という闇で覆いつくされて、絶望という言葉が人々の脳裏に刻み込まれた時…」
グラスが手から離れて、地面に落ち、粉々に割れた。
「我がドルコルドが世界の指導者となる時だ」
マルーンの顔が歪む。
ロンシュタットは何も言わずに頷いた。
「さあ、仕事はいいだろう?ロンシュ。女に戻るがいい」
マルーンはロンシュタットの手を取り、身体を引き寄せた。服に手をかけゆっくりと脱がしていく。ロンシュタットは微笑み、柔らかな唇をマルーンの唇と合わせた。
「静かにしろよ、いいな」
赤髪の女、カインドが言った。
施設フライの近く。神殿に行くためにはどうしてもこの前を通り過ぎなければならない。カインド本人は容易いが心配なのは相方のシールである。『黙る』ということがシールに出来るのか、カインドの心配はまさにその1点だった。
カインドに諭された金髪の男、シールは手で口を大げさに押さえた。
「その行動がイライラするんだ」
カインドは怒ったが、大きな声が出せないために迫力に欠けている。
施設フライを素早く通り過ぎた。
同時に感極まったのか、シールが口を開いた。
「やった、やったよ!カインド!通り抜けた!大成功だ!」
速攻でカインドの強烈な蹴りが、シールの顔面を捉えた。
「ぶっ」
シールはその場に転げた。
「ひっ、酷いよ、カインド~。蹴るなんて。酷いよ~、カイちゃ~ん」
「うっさい、静かにしろと言っただろ、口で言ってもわからないのなら、こうするしかないだろう」
カインドはそのままシールを無視して先へ進み始めた。
「ああ、待ってよ~、早いよ~」
その後をシールが追いかけていった。
エグリアースは外で待機しているのも苦痛だと感じ始めていた。
相変わらず喋らないステューとアリシェが寝ているのを確認して、そろそろ自分も寝ようかと思っていた。
僅か2日で毎日の日課のように思えてならないが、エグリアースは座禅を組んでいる男の方を確かめる意味を持って見た。
「…なに?」
エグリアースは呟いた。奇妙な男はその場にはいなかった。忽然と消えてしまっていたのだ。
思うよりも身体が先に動いていた。男のいた場所へと歩み寄る。いない。辺りを見回しても何の痕跡も見当たらない。
だが、元々勘の鋭いエグリアースだったからこそ感じ取ることができたのだろうか。意識が、もう1人の自分が、奥の方で呼んでいるように聞こえた。
エグリアースはいつでも戦闘体勢に移れるように腰の剣に手をかけた。
ゆっくりと奥へ進む。誰も通ることのない薄暗い場所。
そこでエグリアースは目にした。有り得ない光景を。
「……そんなまさか」
これはもう会議どころではない。そう判断したエグリアースはすぐにファミリストン達への報告を決断した。
まずは門番を説得しなければならない。
それはこの光景を見せれば納得するであろう。地面から静かに生まれつつある、あの怪物の姿を。
今はまだ活動までは至っていない。今なら間に合う。踵を返そうとしたその時。
「おまえ…見たな」
後ろから冷酷な男の重い声。
エグリアースは瞬時にあの奇妙な男だと理解した。
振り返るのと同時にエグリアースは剣を抜いた。振り向きざまの勢いで横一閃するつもりだった。
剣は男の身体に斬り当たる瞬間に、ぱあっと光ったかと思うと跡形もなく消え去った。
「…!」
驚く間もなく男の拳がエグリアースの腹にめり込んだ。
「がふっ…」
呼吸が一時的に不可能になった。エグリアースは意識を失い、倒れ込んだ。
男はエグリアースを放り投げ、その場に座り、引き続き座禅を組んだ。
~ 第3章 沈黙の施設フライ 終 ~ 第4章につづく
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