はなから組織に属せない、あるいは外された者たち(つまりは個人)の“非力さ”を描いて容赦がない。裏返せば、それは組織の権威に従属さざるを得ない脆弱批判でもある。この“弱き者たち”への忖度なしの仕打ちには大森立嗣のオリジナル『タロウのバカ』に通じる“冷たい挑発”を感じる。
ここ数年に観た邦画のクライム&アクション系映画で、エンタメを志向してサービス過剰に走らず、弱者(落ちこぼれ)を描いてウエットに堕さない、これほど潔のよい映画はなかったように思う。大森立嗣の焦点を絞った簡潔な語り口に手練の俳優たちが適材適所で過不足なく応え、メリハリの効いた無音、有音、音楽使いが心地良い緊張感を持続する。
タランティーノの飄々としたダメな奴らの群像劇を踏襲しつつ、最後には『仁義なき戦い 頂上作戦』の広能(菅原文太)と武田(小林旭)がたどり着いた徒労のすえの抒情の投合すら許さぬシビアさも潔かった。
特に印象に残った俳優が二人。『惡の華』(2019)でもそうだったが、覚悟を決めたのときの玉城ティナのあどけないファニイフェイスに張り付いた虚ろな冷酷さのギャップ。捕らわれの身となった玉城がカウンターで食事する後姿の崩れ落ちそうなしどけなさが醸す無力感と喫茶店での享楽的にすら見える蛮行のギャップ。玉城のギャップは魅力的だ。
もう一人は、どん詰まりの狂気をほとばしらせて半端なかった奥野瑛太の鬼気迫る形相の怪演。私が初めて奥野を意識したのは、やはりどん詰まり野郎を好演した『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)だった。去年は『空白』(2021)で元スーパー店長(松阪桃李)に声をかける通りすがりの顧客役で映画のラストを締めていた。先日観た『激怒』(2022)では、あてがわれた形式的でつまらないキャラの刑事役を、形式的に実につまらなく(=正直かつ的確に)演じていた。それはともあれ奥野瑛太が本作で今年の助演男優賞を総なめしても誰も異論を挟まないだろう。
(9月14日/TOHOシネマズ南大沢)
★★★★★
【あらすじ】
暴力団の資金洗浄現場を男女五人組の強盗(西島秀俊/斎藤工/玉城ティナ/宮川大輔/三浦友和)が襲い大金の強奪に成功する。奴らは互いに名前も素性も知らないその場かぎりの強盗団だった。組幹部のオガタ(鶴見辰吾)は、配下の蜂谷(大森南朋)を使って強奪現場にいたチンピラたちを追及し一味を追い始める。理論的で冷静な蜂谷の尋問はまるで刑事のように的確で、まず現場ホテルの従業員(宮沢氷魚)に目を付けた。手繰り寄せられた奴らの行方の先々では、どうしようもないクズどもの容赦のない潰し合いが待っていた。高田亮のオリジナル脚本による大森立嗣監督のクライム&バイオレンス・エンターテインメント。(127分)