ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ 鄙より都会へ (1917)

2022年09月29日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

のどかな丘陵地帯を颯爽と馬を駆る牧童たち。そこに都会の青年が乗用車で乗りつける。本作のテーマとなる田舎と都会の文化、経済、精神性のギャップを凝縮した見事なシーン。そして恋人を追って“馬”で都会に向かう牧童はすんでのとことで列車に追いついて最後尾に飛び移る。

そんな懸命さに思わず頬が緩む。ついに田舎者のプライドはブロードウェイを馬で駆け抜ける仲間たちの雄姿となって成就するのだ。たわいのない恋愛話にカウボーイたちの意気地がこもる。

(9月25日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★


【あらすじ】
ワイオミングの若きカウボーイ・ハリー(ハリー・ケリー)は、牧場主(L.M.ウェルズ)の娘ヘレン(モリー・マローン)にプロポーズ。気むずかしい父親の許しも得てはれて婚約した。ところがヘレンは、都会から馬の買い付けに来たスマートなソーントン(ヴェスター・ペグ)に誘惑され気もそぞろに・・・。ついに駆け落ちするようにソートンと一緒にニューヨークに行ってしまった。落胆する父親の姿を見たハリーは、意を決して単身で大都会へ乗り込むが、右も左も分からず途方に暮れてしまう。ジョン・フォード監督の6作目の長編映画。邦題の「鄙より」は「いなかより」と読む。(白黒/スタンダード/サイレント/54分) 

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■ 手 (2022)

2022年09月28日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

原作がどうなのかは知らないが、脚本に映画的な綾や山場がなく演出するほうも見せどころに困ったのではないだろうか。“平凡さ”と“特異さ”のギャップを飄々と好演する福永朱梨の魅力が活かしきれずもったいない。結末へ向かう段取りも途中からみえみえで「やっぱりね」以外に特に感想はない。

ロマンポルノ50周年記念企画だそうだが“性”へのアプロ―も取って付けたよう。別にこれ「記念」なんて銘打たなくて、だたのR18指定映画でいいですね。

(9月25日/ヒューマントラスト渋谷)

★★★


【あらすじ】
24歳の会社員さわ子(福永朱梨)は、20歳になったころから年上の“おじさん”に開眼。今まで付き合ってきた相手も中年男ばかり。唯一の趣味も“おじさん”を観察し写真に撮ってアルバムを作り眺めること。今も会社の上司・大河内(津田寛治)と付かず離れずの食事デートを重ねていた。一方、家では屈託ない高校生の妹リカ(大渕夏子)と違って、父親(金田明夫)と上手く接することが出来ず関係はぎくしゃくしていた。そんなさわ子に会社の先輩・森(金子大地)が盛んにアプローチしてくるのだった。ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」のなかの松居大悟監督による1作。原作は山崎ナオコーラの小説。(99分) 

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■ 神田川のふたり (2022)

2022年09月27日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

可愛らしい映画だった。川を遡行する前半のロングテイク(40分)で起きる現実の中の“非現実”の謎が、後半のベタで青臭い恋バナを爽やかに結実させる。そう、謎は解かれるのではなく“結ばれる”のだ。56歳にして監督いまおかしんじの頭はまだまだ柔らかい。上大迫祐希ちゃんの溌剌ぶりが印象に残る、

(9月18日/UPLINK吉祥寺)

★★★★


【あらすじ】
別々の高校へ通う舞(上大迫祐希)と智樹(平井亜門)は、中学時代の友人“神田”の葬儀で久しぶりに再会した。二人は中学時代から意識し合いながらも互いに気持ちを確かめられずにいた。住宅街を縫うように流れる神田川沿いを自転車を押しながら歩く二人。高校生活のこと。進路のこと。亡くなった神田のこと。時間を忘れて会話は弾む。ところが途中で出会った変なオジサンに導かるように夢とも現実ともつかない不思議なことが起き始めた。そして舞と智樹は、とげられなかった神田の思いを叶えるために川の水源、井の頭公園を目指すことに。川崎龍太と上野絵美のオリジナル脚本によるいまおかしんじ監督の心優しい弔い青春映画。(83分)

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■ ドンバス (2018)

2022年09月24日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

一番目と最終章の連環が、戦争という暴力を正当化する狡猾さを総括して本作の肝なのだろう。きっと各エピソードにもタネ明かし的ポイントが仕込まれているのだろうが、それが何となく理解できるものとよく分からない話が混在していて、ちょとフラストレーションがたまった。

それはおそらく本作の瑕疵ではなく、ドンバスという土地において歴史的に重要であり、近親憎悪の象徴にもなり得るはずのウクライナ語とロシア語の区別が私につかないからだろう。例えばヴァレンチン・ヴァシャノヴィチの『リフレクション』や『アトランティス』では、字幕でそれぞれの言語が分かるように表記されていたと思う。本作の配給会社の配慮不足を恨む。

(9月18日/下高井戸シネマ)

★★★


【あらすじ】
ロシア系住民が多く住むウクライナ東部のドンバス地方で2014年から続く内戦。親ロ派分離主義勢力が占拠する地区で実際に起きた出来事をもとに構成された13章の風刺エピソード集。やらせ動画の役者たち。政治家の集会へ乱入する女。院長が物資を隠匿する病院。問答無用の検問風景。外国人記者と不衛生な地下シェルターの市民たち。街中で連鎖する裏切り者への集団リンチ。兵士たちに祝福される新郎新婦。屁理屈による一般車両の強制没収など。プロパガンダのための暴力まみれの蛮行と滑稽なフェイク茶番劇が皮肉を込めて描かれる。監督はベラルーシ生まれでウクライナ育ちの気鋭セルゲイ・ロズニツァ。カンヌ映画祭・ある視点部門監督賞。(121分) 

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■ グッバイ・クルエル・ワールド (2022)

2022年09月20日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」

はなから組織に属せない、あるいは外された者たち(つまりは個人)の“非力さ”を描いて容赦がない。裏返せば、それは組織の権威に従属さざるを得ない脆弱批判でもある。この“弱き者たち”への忖度なしの仕打ちには大森立嗣のオリジナル『タロウのバカ』に通じる“冷たい挑発”を感じる。

ここ数年に観た邦画のクライム&アクション系映画で、エンタメを志向してサービス過剰に走らず、弱者(落ちこぼれ)を描いてウエットに堕さない、これほど潔のよい映画はなかったように思う。大森立嗣の焦点を絞った簡潔な語り口に手練の俳優たちが適材適所で過不足なく応え、メリハリの効いた無音、有音、音楽使いが心地良い緊張感を持続する。

タランティーノの飄々としたダメな奴らの群像劇を踏襲しつつ、最後には『仁義なき戦い 頂上作戦』の広能(菅原文太)と武田(小林旭)がたどり着いた徒労のすえの抒情の投合すら許さぬシビアさも潔かった。

特に印象に残った俳優が二人。『惡の華』(2019)でもそうだったが、覚悟を決めたのときの玉城ティナのあどけないファニイフェイスに張り付いた虚ろな冷酷さのギャップ。捕らわれの身となった玉城がカウンターで食事する後姿の崩れ落ちそうなしどけなさが醸す無力感と喫茶店での享楽的にすら見える蛮行のギャップ。玉城のギャップは魅力的だ。

もう一人は、どん詰まりの狂気をほとばしらせて半端なかった奥野瑛太の鬼気迫る形相の怪演。私が初めて奥野を意識したのは、やはりどん詰まり野郎を好演した『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)だった。去年は『空白』(2021)で元スーパー店長(松阪桃李)に声をかける通りすがりの顧客役で映画のラストを締めていた。先日観た『激怒』(2022)では、あてがわれた形式的でつまらないキャラの刑事役を、形式的に実につまらなく(=正直かつ的確に)演じていた。それはともあれ奥野瑛太が本作で今年の助演男優賞を総なめしても誰も異論を挟まないだろう。

(9月14日/TOHOシネマズ南大沢)

★★★★★


【あらすじ】
暴力団の資金洗浄現場を男女五人組の強盗(西島秀俊/斎藤工/玉城ティナ/宮川大輔/三浦友和)が襲い大金の強奪に成功する。奴らは互いに名前も素性も知らないその場かぎりの強盗団だった。組幹部のオガタ(鶴見辰吾)は、配下の蜂谷(大森南朋)を使って強奪現場にいたチンピラたちを追及し一味を追い始める。理論的で冷静な蜂谷の尋問はまるで刑事のように的確で、まず現場ホテルの従業員(宮沢氷魚)に目を付けた。手繰り寄せられた奴らの行方の先々では、どうしようもないクズどもの容赦のない潰し合いが待っていた。高田亮のオリジナル脚本による大森立嗣監督のクライム&バイオレンス・エンターテインメント。(127分) 

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