厚い唇のせいか、あん(河合優実)は、いつも口が半開きのようにみえる。彼女の存在は始終受け身で河合が唯一意識している“芝居”はこの口元だけのように思えた。何かを訴えようにも言葉が見つからないとか、自分が置かれた境遇に呆然としているとか、そんな意思の表れではなさそうだ。
彼女は、だらしなく状況に流されているだけのバカにみえる。河合のたたずまいは世間的なバカを演じてとてもリアルで、引き算の芝居として素晴らしい。そんな「あん」の無知ゆえの無力を笑ったり責めたりするバカにだけは、私はなるまいと思う。
終盤、映画(物語)の意志(力)が拡散してしまっているように感じたのが残念。
(6月30日/新宿武蔵野館)
★★★