11月の市川崑の特集上映、6本観ることができた。
●「天晴れ一番手柄 青春銭形平次」(53)
●「愛人」(53)
●「わたしの凡てを」(54)
●「女性に関する十二章」(54)
●「青春怪談」(55)
●「あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は」(59)
1950年代の前半は、小津、黒澤、成瀬、木下ら戦前からの巨匠たちがまだブイブイ言わせながらキネ旬ベストテンを席巻していた時代で、市川崑作品のベストテン入りは56年の「ビルマの竪琴」からだ。以降、58年の「炎上」、59年には「野火」と「鍵」と文芸作でのベストテン入りが続く。今回観た6作品は、いわゆるプログラムピクチャーでいづれも軽量級なのだが、そのぶん自由奔放で、30代の市川崑の才気があふれていた。50年代後半の文芸作品群より、このエンターテインメント群の方に私は魅力を感じる。
「愛人」、「わたしの凡てを」、「女性に関する十二章」の3作品には、有馬稲子が出演している。有馬稲子と市川崑といえば、今年4月の日本経済新聞に連載された有馬さんの「私の履歴書」ショックが思い出される。市川との不倫関係と、いまだに失せぬ恨みつらみを語ってみせた女の執念の壮絶さには驚かされた。あのとき、森本薫の戯曲「華々しき一族」の映画化作で年の差17歳の監督と恋に落ちたと有馬さんが書いていたが、その映画がこの「愛人」だ。
これまであまり有馬稲子の出演作は観ておらず、小津作品で何度か見かけたのと61年版「ゼロの焦点」での熱演が印象に残っている程度だったのだが、この市川作品での彼女の存在感はすごかった。「愛人」では、自由奔放で闊達だが恋に関しては未熟で舌っ足らずなお嬢さんを、おそらく地のままではないかと思えるあどけなさで活き活きと演じていた。「愛人」とはいささかスキャンダラスな題名だが、なぜこんなタイトルにしたのか不思議なほど話しの内容と一致していない。まさか脚本を担当した市川夫人の和田夏十があてつけに付けたわけでもあるまい。
「わたしの凡てを」は、ミスユニバース世界3位の伊東絹子が目玉で、ご都合主義満載の典型的メロドラマなのだが、有馬稲子が演じた伊東の恋のライバル役の特異な存在感がすべての映画だった。社長令嬢でありながら父をもたしなめ、関西弁で男たちをリードする豪快かつユーモラスなキャリアウーマンぶりは自信に満ちあふれていた。「女性に関する十二章」では主役(津島恵子)の後輩バレリーナ役で、出番こそ少ないのだが、嬉々として先輩の恋人(小泉博)と結婚しようとするドライな娘ぶりが、やはり強烈な印象を残す。
有馬稲子はこの3作以降、市川崑の映画には出ていない。そういえば、先にふれた61年版「ゼロの焦点」で薄幸の女の哀切を好演したころが、ちょうど市川と別れて中村錦之助(萬屋錦之介)と結婚した時期とだぶる。恋する女優のすさまじさ。

上原謙と池部良の軟弱イケメン相手に怖い顔の社長令嬢有馬稲子。
扉の向うは伊東絹子か。「わたしの凡てを」より
●「天晴れ一番手柄 青春銭形平次」(53)
●「愛人」(53)
●「わたしの凡てを」(54)
●「女性に関する十二章」(54)
●「青春怪談」(55)
●「あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は」(59)
1950年代の前半は、小津、黒澤、成瀬、木下ら戦前からの巨匠たちがまだブイブイ言わせながらキネ旬ベストテンを席巻していた時代で、市川崑作品のベストテン入りは56年の「ビルマの竪琴」からだ。以降、58年の「炎上」、59年には「野火」と「鍵」と文芸作でのベストテン入りが続く。今回観た6作品は、いわゆるプログラムピクチャーでいづれも軽量級なのだが、そのぶん自由奔放で、30代の市川崑の才気があふれていた。50年代後半の文芸作品群より、このエンターテインメント群の方に私は魅力を感じる。
「愛人」、「わたしの凡てを」、「女性に関する十二章」の3作品には、有馬稲子が出演している。有馬稲子と市川崑といえば、今年4月の日本経済新聞に連載された有馬さんの「私の履歴書」ショックが思い出される。市川との不倫関係と、いまだに失せぬ恨みつらみを語ってみせた女の執念の壮絶さには驚かされた。あのとき、森本薫の戯曲「華々しき一族」の映画化作で年の差17歳の監督と恋に落ちたと有馬さんが書いていたが、その映画がこの「愛人」だ。
これまであまり有馬稲子の出演作は観ておらず、小津作品で何度か見かけたのと61年版「ゼロの焦点」での熱演が印象に残っている程度だったのだが、この市川作品での彼女の存在感はすごかった。「愛人」では、自由奔放で闊達だが恋に関しては未熟で舌っ足らずなお嬢さんを、おそらく地のままではないかと思えるあどけなさで活き活きと演じていた。「愛人」とはいささかスキャンダラスな題名だが、なぜこんなタイトルにしたのか不思議なほど話しの内容と一致していない。まさか脚本を担当した市川夫人の和田夏十があてつけに付けたわけでもあるまい。
「わたしの凡てを」は、ミスユニバース世界3位の伊東絹子が目玉で、ご都合主義満載の典型的メロドラマなのだが、有馬稲子が演じた伊東の恋のライバル役の特異な存在感がすべての映画だった。社長令嬢でありながら父をもたしなめ、関西弁で男たちをリードする豪快かつユーモラスなキャリアウーマンぶりは自信に満ちあふれていた。「女性に関する十二章」では主役(津島恵子)の後輩バレリーナ役で、出番こそ少ないのだが、嬉々として先輩の恋人(小泉博)と結婚しようとするドライな娘ぶりが、やはり強烈な印象を残す。
有馬稲子はこの3作以降、市川崑の映画には出ていない。そういえば、先にふれた61年版「ゼロの焦点」で薄幸の女の哀切を好演したころが、ちょうど市川と別れて中村錦之助(萬屋錦之介)と結婚した時期とだぶる。恋する女優のすさまじさ。

上原謙と池部良の軟弱イケメン相手に怖い顔の社長令嬢有馬稲子。
扉の向うは伊東絹子か。「わたしの凡てを」より