goo blog サービス終了のお知らせ 

ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■恋する女優

2010年12月03日 | ■銀幕酔談・雑感篇「映画の近所にて」
11月の市川崑の特集上映、6本観ることができた。

●「天晴れ一番手柄 青春銭形平次」(53)
●「愛人」(53)
●「わたしの凡てを」(54)
●「女性に関する十二章」(54)
●「青春怪談」(55)
●「あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は」(59)

1950年代の前半は、小津、黒澤、成瀬、木下ら戦前からの巨匠たちがまだブイブイ言わせながらキネ旬ベストテンを席巻していた時代で、市川崑作品のベストテン入りは56年の「ビルマの竪琴」からだ。以降、58年の「炎上」、59年には「野火」と「鍵」と文芸作でのベストテン入りが続く。今回観た6作品は、いわゆるプログラムピクチャーでいづれも軽量級なのだが、そのぶん自由奔放で、30代の市川崑の才気があふれていた。50年代後半の文芸作品群より、このエンターテインメント群の方に私は魅力を感じる。

「愛人」、「わたしの凡てを」、「女性に関する十二章」の3作品には、有馬稲子が出演している。有馬稲子と市川崑といえば、今年4月の日本経済新聞に連載された有馬さんの「私の履歴書」ショックが思い出される。市川との不倫関係と、いまだに失せぬ恨みつらみを語ってみせた女の執念の壮絶さには驚かされた。あのとき、森本薫の戯曲「華々しき一族」の映画化作で年の差17歳の監督と恋に落ちたと有馬さんが書いていたが、その映画がこの「愛人」だ。

これまであまり有馬稲子の出演作は観ておらず、小津作品で何度か見かけたのと61年版「ゼロの焦点」での熱演が印象に残っている程度だったのだが、この市川作品での彼女の存在感はすごかった。「愛人」では、自由奔放で闊達だが恋に関しては未熟で舌っ足らずなお嬢さんを、おそらく地のままではないかと思えるあどけなさで活き活きと演じていた。「愛人」とはいささかスキャンダラスな題名だが、なぜこんなタイトルにしたのか不思議なほど話しの内容と一致していない。まさか脚本を担当した市川夫人の和田夏十があてつけに付けたわけでもあるまい。

「わたしの凡てを」は、ミスユニバース世界3位の伊東絹子が目玉で、ご都合主義満載の典型的メロドラマなのだが、有馬稲子が演じた伊東の恋のライバル役の特異な存在感がすべての映画だった。社長令嬢でありながら父をもたしなめ、関西弁で男たちをリードする豪快かつユーモラスなキャリアウーマンぶりは自信に満ちあふれていた。「女性に関する十二章」では主役(津島恵子)の後輩バレリーナ役で、出番こそ少ないのだが、嬉々として先輩の恋人(小泉博)と結婚しようとするドライな娘ぶりが、やはり強烈な印象を残す。

有馬稲子はこの3作以降、市川崑の映画には出ていない。そういえば、先にふれた61年版「ゼロの焦点」で薄幸の女の哀切を好演したころが、ちょうど市川と別れて中村錦之助(萬屋錦之介)と結婚した時期とだぶる。恋する女優のすさまじさ。


 上原謙と池部良の軟弱イケメン相手に怖い顔の社長令嬢有馬稲子。
  扉の向うは伊東絹子か。「わたしの凡てを」より



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■新たなる決意

2010年10月27日 | ■銀幕酔談・雑感篇「映画の近所にて」
今日の東京は寒い。気温15℃だそうだ。
昨日より5℃、そして長かったあの夏より20℃も低いということだ。
北風に背を丸め、猛暑が懐かしくすら感じる、身勝手さ。

短い秋とともに、渋谷でやっていた「川島雄三」の特集上映も終わってしまう。
行く気満々、上映予定表に赤丸をいっぱい付けて持ち歩いていたのに、
ことごとく野暮用発生、一度も足を運べなかった。

11月は「市川崑」だ。



市川崑といえば1960年代の作品の世評が高いが、
今回は50年代中心の初期作品特集だ。
未見、多数。

上映予定表をまえにし赤鉛筆片手に作戦を練る。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■やっぱり、しぶといクマシロ人気

2010年06月07日 | ■銀幕酔談・雑感篇「映画の近所にて」
「来年は神代辰巳没15年だ。どこかの奇特な館主や、酔狂な企画屋がまた特集を組むかも知れない」
・・・と去年の7月、ここに書いた。

やはり今月、「池袋新文芸座」で特集が組まれていた。
http://www.shin-bungeiza.com/schedule.html

学生時代、東武東上線の安下宿に住んでいたので、
旧「文芸座」と「文芸座地下」には入りびたりだった。

その後、池袋方面とは疎遠になったこともあり
実は新文芸座にはまだ行ったことがない。

久しぶりに「黒薔薇昇天」と「棒の哀しみ」も観てみたいのだが、
この日程だとちょっと難しいかもしれない。
・・・残念。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■神経症的出なおし・続報

2010年05月11日 | ■銀幕酔談・雑感篇「映画の近所にて」
石井裕也の「川の底からこんにちは」、
日をあらためて無事に観ることができました。
整理券の番号は16で「俺のあの席」を確保。

それにしてもこの映画、
平日の初回でも席の3分の1以上は埋まっていました。
東京では1館でしか公開されていないとは言え、
これは、なかなかのヒットでしょう。

PFFスカラシップ作品だと言うのに、
客層も若い人より、やや年配者が中心というのも驚き。

出来の方も心地よくクスクスと笑わせてくれて、
おそらく今年の十指には入る面白さ。

出なおしたかいがありました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

■神経症的出なおし

2010年05月10日 | ■銀幕酔談・雑感篇「映画の近所にて」
この映画館の場合は、
この席というように俺は座る場所を決めている。

気に入ったいつもの席か、
それに準じたポジションに座るためには、
もちろん館の総座席数にもよるのだが、
整理券の番号は10番台か、せいぜい20番台まででないと不安だ。

そんな性分なので
せっかく映画館まで行っても、
お目当ての席がとれそうにないと
映画を観るのをやめてしまうことがたまにある。

今日が、まさにそうだった。
平日の真っ昼間だというのにロビーが妙に混んでいた。
しかも、客層は韓国映画と同じようなオバハンばかりだ。

開映30分前に着いたのに、整理番号は30番台だという。
切符売りの姐さんは、何故かはっきりと番号を言わなかった。
被害妄想が膨らむ。30番台とは言っても、きっと39番に違いない。

ここの総座席数は145だ。
いつも座る「俺のあの席」は、
たちまち占拠されてしまうに違いない。

どうして「川の底からこんにちは」なんていう
(失礼ながら)マイナー映画がこんなに混んでいるのだ。
オバハン向けの強力なプロモーションでもかかっているのだろうか。

屈託なき熟女集団による数の威圧を前にして、
神経症的脅迫観念に支配された俺は、自分でもいささか呆れつつ、
ベストポジションを求めての出なおしを余儀なくされたのであった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする