afvaxccxa

czvzz

でちびちびと酒をなめている

2013-09-27 14:11:15 | 日記
 ところが、座の端でちびちびと酒をなめている太郎の様子を、上総介が目に留めた。
「おい、こましゃくれ」
 と、にやついている。
「牛の子になって幾年だ」
 よりにもよって、上総介の口から牛太郎の名前が出てしまい、太郎は、何かを企んでいるらしき顔つきの主人に恐れつつ、頭を垂らしながら言った。
「十年にはなると思いまする」
「ほう」
 と、相好を崩したのは丹羽五郎左衛門。
「もう、そんなに経つのか」
 重臣一同の視線が集められてしまって、太郎はうつむきがちに苦笑を浮かべて恐縮する。
「そういえば、おやかた様」
 佐久間右衛門尉が口端を歪めながら、どこかわざとらしく言った。
「出陣より気になっておったのですが、羽州はどうしたのでしょうかな」
「知るか。女房怖さに逃げ回っているんじゃねえのか。あいつが天下で一番恐れているのは俺じゃねえ。鬼夜叉の梓だからな。むしろ、越前にはあいつよりも梓を連れていかなければと俺は考えていたのだがな」
 珍しい上総介の冗談に、げらげらと笑い上げる一同。太郎、それに柴田権六郎だけは、申し訳なさそうに縮こまる。
「まあ、しかしだ」http://www.watchsrarely.com
男性 時計 ランキング
レディース 時計 ブランド 人気
 上総介が口を開けば、笑いはぴたりと止む。
「あんな放浪癖のある男を、いつまでも織田重臣の末席に加えているのはいかがなものだ。ということで、おい、こましゃくれ。お前、家督を継げ」
「えっ、い、いやっ、それはしかし」
 さっきまで騒いでいた藤吉郎が、口を噤んでじっと太郎を見つめてきている。
「父がいない席でそのようなことは」
「それはいい!」
 丹羽五郎左が躍り上がった。
「右近とて、羽州が隠居の身となれば、父が出陣していないことに気兼ねせずに済むだろう」
 五郎左の一言に、他の重臣たちもうんうんと頷いた。そんななかで、末席の佐々内蔵助、それに前田又左衛門は、ただただ黙って、つまらなそうに酒をすすっている。
「しかし――」
「しかしじゃねえ」
「水を差すな、右近」
 佐久間が細目の瞼で睨みつけてくる。
 太郎は息の詰まる思いであった。上総介の命令は絶対であるが、牛太郎ががむしゃらになって作り上げた簗田家というものを、血の繋がりのない自分が、父の存命中、父の不在の中、こうも易々と家督を継がされてしまうのには抵抗があった。恩義がまったく皆無のように感じられた。
 だが、高みの峰から睨み下ろしてくるような上総介の威圧に、
「わかったな、こましゃくれ」
 従う他ない。

「小僧」
 厠から出てきたところ、前からやって来た佐々内蔵助に太郎は呼び止められた。太郎は脇に逸れて内蔵助に道を譲ったのだが、内蔵助がそこでふいに立ち止まり、吊り上がった細瞼の中の瞳を横に転がせてきたのだった。
「牛野郎はどこにいる」
「恥ずかしながら、存じませぬ」
 この男は太郎の中では馴染みの部類である。八歳のころから知っており、侍大将になってからは殴り合いの喧嘩もしたし、かと思えば共に部隊を率いて姉川前哨戦のしんがりを務めたこともある。
 典型的な猪武者の内蔵助は、家中ではあまり好ましく思われていないほうだが、しかし、太郎は内蔵助がどこか好きだった。この筋肉だけで出来ているような男のみっともなさも知っているし、それでいて世間に突っ張っている豪気な男臭さは憎めない。重臣たちに見せるような萎縮した太郎ではなく、内蔵助をしっかりと見つめて、つい今しがたのことへの迷いを生真面目な眼差しで訴えた。
 そんな太郎の視線から避けるように、内蔵助は瞳を前方へと逸らす。
「臭えとは思わねえか」

コメントを投稿