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司法修習について(民事裁判起案)

2016-09-17 21:57:52 | 司法修習
2.民事裁判

(1) 事件記録の概要

当事者が裁判所に提出する訴状・答弁書・準備書面等の主張書面と、甲号証・乙号証、そして証人尋問・当事者質問調書から構成されます。


(2) 設問の概要

大まかには、①主張整理と②事実認定とに分かれます。

①主張整理では、当事者の主張書面から、要件事実に基づき、両当事者の主張を分析したうえで、争点となる事実を洗い出す作業です。原告については、主張する訴訟物及びそれを裏付ける主要事実、被告については、それらへの認否や抗弁として主張する事実を解答します。
近年の出題傾向では、当事者の主張の中で、失当となる主張(法律的に成立しない主張)についても指摘することが要求されます。

②事実認定では、①主張整理で洗い出した争点となる主要事実の有無について、証拠及び調書上認めらるかを検討します。

また、小問として、審理が進んでいく中で当事者が行った主張の撤回や変更につき、その理由を問われるものもあります。


(3) 解答のポイント

①主張整理では何よりも、訴訟物を間違えないということが重要です。
問題の構造上、ここで間違えると、以下の設問に点数が全くつかなくなります(2回試験の民事裁判の不合格要因として最も多いとされます)。
ただ、事件名や訴状のよって書きを見て、そのまま素直に解答すれば、ほとんど間違えることはないと思います。

訴訟物が決まれば、要件事実の知識に基づきブロックを組んで、請求原因事実、抗弁、再抗弁・・・という順に主張を整理していきます。要件事実はある程度暗記しておけば対応できますが、たまに白表紙や教科書にも載っていない訴訟物が問題となり、その際は実体法の要件から自分で要件事実が何かを考えないといけません。やる気のある人は、要件事実の暗記にとどまらず、何故その事実が主要事実となるのかを実体法を根拠に説明できる程度に教科書を読みこんでおけば心強いです。

なお、認否については範囲を間違えないように注意しましょう。準備書面中の認否対象となる文章に下線を引いて、相手方が認めるなら○、不知は△、否認は×をつけて見やすく整理する方法がオススメです(裁判官の中にも同様の手法をやっている人がいます)。

②事実認定では、主張整理の段階で当事者間の争いのある事実を絞っていき、かかる事実の存否について判断することになります。
頻出となるのが契約(当事者間の合意)の存否で、契約書の署名押印部分の二段の推定に紐付けた出題がなされることが多いです。いずれにせよ、証拠から認められる間接事実を挙げていく作業を行うことになり、それぞれについての推認力の強弱を検討して、最終的に争点となる主要事実が認定される・されないを判断することになります。

間接事実の整理の仕方としては、争点となる主要事実の存在を裏付けるもの(積極的事実)と、主要事実の存在を否定する方向に作用するもの(消極的事実)とに分け、主要事実との関係でそれぞれがどのような推認力を有するかを分析します。

答案上は、例えば1.契約前の事情、2.契約時の事情、3.契約後の事情というような項目に分け、それぞれの項目内で、積極的事実・消極的事実をあげて行く形でOKです。
契約前の事情からすれば、契約の存在を認める方向の事実が多いという結論で書く場合には、契約締結の事実を推認させる積極的事実をいくつか挙げたうえで、

「積極的事実としては以上のものが考えられ、契約締結に向けて当事者が準備をしていたことが推認される。他方、消極的事実としては●●や××が認められるが、反対仮説としては△△の可能性もあり、積極的事実の存在を覆すに至らない。したがって、契約前の事情は、契約締結の事実を相当程度推認させる。」

というようなまとめ方になります。

そして、各項目で結論をまとめたうえで、最後に総括として、争点となる主要事実が認められるか否かを結論付けます。
この点、各項目でも主要事実に対する推認力は異なります。例えば、契約前の事情として、当事者に契約締結の動機があったという事実や、準備をしていたという事実を認定しても、契約締結時までに覆っている可能性もあるわけなので、主要事実との関係では類型的に証明力が弱いということになります。他方、売買代金を受領していたなどの契約締結時の事情は、売買契約締結の事実を類型的に強く推認させるものとなります。

ですので、各項目間の推認力の関係も意識しつつ、答案上で悩みを見せることも大事なのかなと思います。積極的事実と消極的事実との推認力の強さの比較になるわけですが、積極(消極)方向の結論とする場合は、消極(積極)方向の事実が認められるけれども、●●のような反対仮説が成り立つ可能性があるため、積極(消極)的事実の証明力を覆すに至らない、というように、自分の結論と反対方向の事実がなぜ結論に影響しないかを、具体的かつ説得的に答案に示すことが必要です。

間接事実は多く挙げれば加点方式で点が伸びていくという話も聞きます。主張書面中でも裁判官に着目してほしい間接事実を当事者がふれているので、その誘導に従えば十分網羅できます。

また、事実を挙げる際は、客観的証拠より得られる「固い事実」から先に書いていくことも、理解していることのアピールになります。民事裁判では客観的証拠が重視されるので、くれぐれも裏付けのない事実をあげないよう注意しましょう。


なお、小問は判例を含めた民法の基礎知識を問われることが多いですが、司法試験からブランクがあると結構答えられなかったりします。仮に間違えてもAを採る人もいるので、こだわりすぎる必要はありません。


(4) 対策用文献

私が起案対策として使っていたテキスト等を紹介します。

ア.白表紙(研修所から配布される教材)

要件事実は「問題研究」、事実認定は「事例で考える~」(いわゆる「ジレカン」)が基本となります。最低限の知識や考え方はこれらでカバーされると思います。
現在は配布されていませんが、「類型別」と呼ばれる教科書も「問題研究」より情報量が多く、よく使われています。

イ.完全講義民事裁判実務の基礎(上・下)

情報量としては白表紙よりも多く、上巻の要件事実については民法の知識に照らした丁寧な解説がなされているので、こっちをメインで使っても良いかもしれません。
下巻の事実認定についても、二段の推定を中心とした解説が非常にわかりやすく、純粋にオススメです。
最近この「入門編」なる新刊が出版されたようなので、要チェックです。

ウ.ステップアップ民事事実認定

事実認定のテキストとしてはメジャーなものです。ただし、抽象論が多いので、事実認定の考え方を理解するのには役立ちますが、起案対策に直結するかというと必ずしもそうではない気がします。

エ.要件事実マニュアル

マイナーな要件事実をフォローしており有用なテキストですが、辞書的な使用が前提とされています(それでも私は気合で通読し、ある程度暗記するという暴挙に出ていました)。
変化球的な出題にも対応したいという方は一度目を通しておくと安心です(実務に出てからも使える文献です)。

オ.要件事実問題集

こちらも岡口裁判官の著書で、研修所起案に近い言い分形式の主張整理に関する事例が20問ほど載っています。
内容としては複雑・高度なものですが、このレベルをこなしておけば二回試験対策としても十分かと思います。



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