「華」のアメックスと「質実剛健」のダイナース
与信評価は利用額より「T&E」の占有率で決まる
選ぶべきカードはアメックスか、それともダイナースか?、アメリカン・エキスプレス、ダイナース・クラブ――“プラスチック”における「T&E系カード」の双璧と言えばこの両者なのを今さら改めるまでもない。本来、クレカなるものは、T&Eが原点であり、出発点である。それは昔も今も変わりない。
クレジット・カードはTravelとLeisureのためにその存在価値があるもので、単なるショッピングでカードを切るのは提供元から低敷居な行為と見なされる。つまり利用者への評価値は下がらなくも上がらないということだ。具体例を示そう。
今日の「キャッシュ・レス時代」ではスーパーでの買物やコンビニ利用なども当たり前になった、とはいえ、たとえば小さな“トラベル・アンド・レジャー”でカードを使うのと、たとえ大きな額の“ショッピング”でカードするのとではカード会社の「評価」は前者に軍配が上がる。仮にの話、一拍二日のT&Eでの使用が運賃とホテル代で5万円ほどだったとして、それが年に3回程度なら15万円をカードで使用したことになる。一方、何かの買物や巷の飲食で年間合計50万円使った場合との比較では、評価値は後者が劣るのだ。使用額は3倍も多いのに、3分の1の方がカード会社からの評価値は高い、というのがカード会社におけるの「与信」の実情である。これはアメックス、ダイナースといった「高級カード」に限らず、流通系や、楽天カードなどの「大衆カード」にも言えることで、T&Eでの利用比率が高くなれば、ゴールド・カードへの切り替えや銀行系カードからオファーが届くことはよくある。つまり、カード会社はあらゆる情報を通して、TravelとLeisureでカードをどれだけ使うかを“査定”している。
ポイント保有数と評価値は別物
よくカードを選ぶポイントに「ポイントの還元率」が第一のメリットに挙げられることがある。カードによって結構な差異があり、それにより有利なカードを選べば、使うほどにポイントが溜まり、それらは現金として買物ができる。そこでカードで買物を繰り返してポイントが溜まり、“大トク”したとしてもカード会社からの評価値は下がることはないが上がることもない。高めの同趣の商品を複数、現金でなくカード決済などすると、ポイント狙いとか換金化目当てなど、逆にカード会社から警戒される場合もあるし、与信度が下がることもあるが、T&Eを何度繰り返しても、繰り返すほどに評価は増し、与信はどんどん上昇する。
こんなことを書いてしまったが、実は私自身、現在のカード会社からの評価値はかなり低いと思う。会社員時代は毎月のように出張があり、とくに多い月は週ごとだった。広告会社では一泊なら運賃やホテル代とは別に5万円程度は「出張手当て」として支給される。二泊なら8万円、三伯なら10万円がいわば仕事とは別枠の“小遣い”として支給されるわけだ。さらに出張先での飲食は“経費”扱いとなるので、金銭的な自己負担は何もない。広告会社によって一様ではないだろうが、当時、同業者から耳にしたところどこもそんな按配だった。したがって、たとえば東京から大阪への一泊二日コースの出張なら、90000円が支給される。新幹線往復25000円と宿泊費15000円をカードで支払うと、手元には現金9万円がそっくりそのまま残り、カード会社から次の請求で4万円が来る。飲み食いも会社持ちなので、これらT&Eの4万円+飲み食いの代金は決して“自腹”ではないが、カード会社からはその利用属性はT&Eでの総額と査定され、より高い与信を得ることになる。
繰り返すが、これはプライベートのT&Eではないため身銭を切っているわけではないが、カード会社からは額面上、同じ扱いになる。
そんな経緯からか評価値と与信度は急上昇したと思える月や年があった。そして約一年後――。
ダイナースからオファーが届く
ある日、「ダイナース・クラブ」から一通のダイレクト・メールが届いた。入会申込書だった。しかし、このメールの封を切ることはしなかった。
理由は、これは個人的なある若い日の経験と想いによっている。クレジット・カードのブランドは「アメックス」のみ、と決めていたからだ。
与信評価は利用額より「T&E」の占有率で決まる
選ぶべきカードはアメックスか、それともダイナースか?、アメリカン・エキスプレス、ダイナース・クラブ――“プラスチック”における「T&E系カード」の双璧と言えばこの両者なのを今さら改めるまでもない。本来、クレカなるものは、T&Eが原点であり、出発点である。それは昔も今も変わりない。
クレジット・カードはTravelとLeisureのためにその存在価値があるもので、単なるショッピングでカードを切るのは提供元から低敷居な行為と見なされる。つまり利用者への評価値は下がらなくも上がらないということだ。具体例を示そう。
今日の「キャッシュ・レス時代」ではスーパーでの買物やコンビニ利用なども当たり前になった、とはいえ、たとえば小さな“トラベル・アンド・レジャー”でカードを使うのと、たとえ大きな額の“ショッピング”でカードするのとではカード会社の「評価」は前者に軍配が上がる。仮にの話、一拍二日のT&Eでの使用が運賃とホテル代で5万円ほどだったとして、それが年に3回程度なら15万円をカードで使用したことになる。一方、何かの買物や巷の飲食で年間合計50万円使った場合との比較では、評価値は後者が劣るのだ。使用額は3倍も多いのに、3分の1の方がカード会社からの評価値は高い、というのがカード会社におけるの「与信」の実情である。これはアメックス、ダイナースといった「高級カード」に限らず、流通系や、楽天カードなどの「大衆カード」にも言えることで、T&Eでの利用比率が高くなれば、ゴールド・カードへの切り替えや銀行系カードからオファーが届くことはよくある。つまり、カード会社はあらゆる情報を通して、TravelとLeisureでカードをどれだけ使うかを“査定”している。
ポイント保有数と評価値は別物
よくカードを選ぶポイントに「ポイントの還元率」が第一のメリットに挙げられることがある。カードによって結構な差異があり、それにより有利なカードを選べば、使うほどにポイントが溜まり、それらは現金として買物ができる。そこでカードで買物を繰り返してポイントが溜まり、“大トク”したとしてもカード会社からの評価値は下がることはないが上がることもない。高めの同趣の商品を複数、現金でなくカード決済などすると、ポイント狙いとか換金化目当てなど、逆にカード会社から警戒される場合もあるし、与信度が下がることもあるが、T&Eを何度繰り返しても、繰り返すほどに評価は増し、与信はどんどん上昇する。
こんなことを書いてしまったが、実は私自身、現在のカード会社からの評価値はかなり低いと思う。会社員時代は毎月のように出張があり、とくに多い月は週ごとだった。広告会社では一泊なら運賃やホテル代とは別に5万円程度は「出張手当て」として支給される。二泊なら8万円、三伯なら10万円がいわば仕事とは別枠の“小遣い”として支給されるわけだ。さらに出張先での飲食は“経費”扱いとなるので、金銭的な自己負担は何もない。広告会社によって一様ではないだろうが、当時、同業者から耳にしたところどこもそんな按配だった。したがって、たとえば東京から大阪への一泊二日コースの出張なら、90000円が支給される。新幹線往復25000円と宿泊費15000円をカードで支払うと、手元には現金9万円がそっくりそのまま残り、カード会社から次の請求で4万円が来る。飲み食いも会社持ちなので、これらT&Eの4万円+飲み食いの代金は決して“自腹”ではないが、カード会社からはその利用属性はT&Eでの総額と査定され、より高い与信を得ることになる。
繰り返すが、これはプライベートのT&Eではないため身銭を切っているわけではないが、カード会社からは額面上、同じ扱いになる。
そんな経緯からか評価値と与信度は急上昇したと思える月や年があった。そして約一年後――。
ダイナースからオファーが届く
ある日、「ダイナース・クラブ」から一通のダイレクト・メールが届いた。入会申込書だった。しかし、このメールの封を切ることはしなかった。
理由は、これは個人的なある若い日の経験と想いによっている。クレジット・カードのブランドは「アメックス」のみ、と決めていたからだ。
ダイナースはステイタスはアメックス同様に(日本ではそれ以上に)高いかもしれないが、他のいかなるハイ・バリューな“プラスチック”と比べても、それらに「ブランド」という認識はない。私の中ではアメックスのみがエルメスであり、プラダであり、ヴィトンであり、クリッツィアであり、MCMである。
実際、手紙に返信し、申し込んで資格を得たかどうかはわからないが、両方持ったところで、使うのはアメックスだから同じ属性のものは邪魔と考えたのかもしれない。


一度も開封されることなく…
ダイナースよりアメックスを望んだ経緯
まだ私が広告代理店に入る前のことだ。とある新聞社系の広告代理店がクーポン雑誌を企画した。お店の紹介と一緒に「割引クーポン」を付け、読者はそのクーポンを利用して掲載のお店の商品を20パーセント引きで購入できるという内容(もしかすると10%引きだったかも…忘れています)。
まだ私が広告代理店に入る前のことだ。とある新聞社系の広告代理店がクーポン雑誌を企画した。お店の紹介と一緒に「割引クーポン」を付け、読者はそのクーポンを利用して掲載のお店の商品を20パーセント引きで購入できるという内容(もしかすると10%引きだったかも…忘れています)。
店の掲載費用は無料で、店主に承諾を得て、店の外観写真とクーポン付きの短い紹介文を掲載する。現金払いだけでなく、クレジット・カード払いも可能というもので、当時の代表格、JCB、DC、UC、VISAに日本信販などのいくらかの信販系カード、加えて、取り扱いがあればAMEX、Dinersも可能というもの。もっとも当時、アメックスやダイナースは高級店に限られ、一般のお店では取り扱いはわずかだった。
この雑誌のアルバイト要員に友達から誘われた私は指定の地域のお店、喫茶店やレストラン、酒場、服屋などを手当たり次第にかけ回ったところ、印象的なエピソードがあった。当時はクレジット・カードと言えばCFでの石坂浩二のJCBか岸本加世子のオリエントファイナンスくらいしか知らず、アメックスがアメリカン・エキスプレスの略称などまったく知らなかったし、ダイナースは名前も知らなかったし、まだ所有に値の身柄でもなかったのだが、ある象徴的な話を店のオーナーから聞いた。どちらも偶然に「洋装店」で、一軒は紳士服のオーダー・メイド専門、もう一軒は婦人服ブランドの専門店だった。
この雑誌のアルバイト要員に友達から誘われた私は指定の地域のお店、喫茶店やレストラン、酒場、服屋などを手当たり次第にかけ回ったところ、印象的なエピソードがあった。当時はクレジット・カードと言えばCFでの石坂浩二のJCBか岸本加世子のオリエントファイナンスくらいしか知らず、アメックスがアメリカン・エキスプレスの略称などまったく知らなかったし、ダイナースは名前も知らなかったし、まだ所有に値の身柄でもなかったのだが、ある象徴的な話を店のオーナーから聞いた。どちらも偶然に「洋装店」で、一軒は紳士服のオーダー・メイド専門、もう一軒は婦人服ブランドの専門店だった。
白髪混じりの年配の店主は雑誌への掲載をきっぱりと断った。写真撮影も記事掲載も無料、全国書店で発売、店には何の負担もないが、その代わりに20パーセント引きを了解してもらうものだが、店主は値引き以前の次元として、客層の質を指摘した。その店の客は大半がオーダー・メイド志向で紳士用Yシャツ一枚に3~5万円を費やすという。背広なら20~30万円の支払いは珍しくもないらしい。そしてそういった客は大半が現金でなくダイナース払いと言った。そしてそんなクーポンを握って、ダイナースの客が来るとは思えないと一蹴したのである。
二軒めの婦人服店では香水のにおいをプンプンさせた貴婦人が主だった。その女主は、
「いくら大きな新聞社が発行する雑誌だからと言っても、うちのお客さんはブランドか一点もの主義で、こんなクーポン雑誌なんて見ないと思いますから」と最初からとりつく暇もない様子だった。私がサンプルを示すと、「ジェーシービー…ね…」とポツリと呟き、興味もないとばかり奥に引っ込んでしまった。あきらめて外へ出て店を振り向くと見たこともないアメックスのサイン・プレートが視界に入り、ブランド商品や婦人服の一点ものというのはアメックスで支払うものなんだ、とこの経験から思うようになった。
そしてずっと後にブランドが好きになった私はブランドではダイナースよりアメックスと考えるようになった。そのように紳士服の店はやや閉鎖的な空間に生地のにおいが漂っていたのに対して、婦人服店はガラス張りで日差しがあった。この時、ダイナースの「質実剛健」より、アメックスの「華」が私の心を掴んでいたのだ。
ちなみにこのクーポン雑誌、企画倒れに終わり日の目を見ることはなかった…ということをずっと後に誰かから聞いて知った。今でも残された当時の空名刺(名前のカ所は自分で手書きで書き込む)やペンタックスで撮った様々なお店の白黒写真を見ると、懐かしくその頃が浮かぶ。
二軒めの婦人服店では香水のにおいをプンプンさせた貴婦人が主だった。その女主は、
「いくら大きな新聞社が発行する雑誌だからと言っても、うちのお客さんはブランドか一点もの主義で、こんなクーポン雑誌なんて見ないと思いますから」と最初からとりつく暇もない様子だった。私がサンプルを示すと、「ジェーシービー…ね…」とポツリと呟き、興味もないとばかり奥に引っ込んでしまった。あきらめて外へ出て店を振り向くと見たこともないアメックスのサイン・プレートが視界に入り、ブランド商品や婦人服の一点ものというのはアメックスで支払うものなんだ、とこの経験から思うようになった。
そしてずっと後にブランドが好きになった私はブランドではダイナースよりアメックスと考えるようになった。そのように紳士服の店はやや閉鎖的な空間に生地のにおいが漂っていたのに対して、婦人服店はガラス張りで日差しがあった。この時、ダイナースの「質実剛健」より、アメックスの「華」が私の心を掴んでいたのだ。
ちなみにこのクーポン雑誌、企画倒れに終わり日の目を見ることはなかった…ということをずっと後に誰かから聞いて知った。今でも残された当時の空名刺(名前のカ所は自分で手書きで書き込む)やペンタックスで撮った様々なお店の白黒写真を見ると、懐かしくその頃が浮かぶ。