2021年ノーベル物理学賞は、「 複雑な物理系の理解への 画期的な貢献 」に対して、3人に授与されました。
3人のうち、単独の受賞理由で、パリージ博士が、ノーベル物理学賞を授与されました。
( ほかの2人の受賞者(共同理由かつ共同受賞)は、後述 )
🔵パリージ博士のノーベル物理学賞(2021年)受賞 (単独)理由:
「 原子スケールから惑星スケールまでの物理系における、無秩序と揺らぎ(変動)の相互影響の発見 」
パリージ博士(ジョルジョ・パリージ( Giorgio Parisi )、1948年生)は、イタリア出身で、フランスでも活躍していたのでフランスでも著名な、イタリアの物理学者です(専門は、理論物理学(凝縮系物理、統計物理、力学系物理、素粒子物理)。
パリージ博士は、スピン・グラス( 下記の図を参照。 非磁性体に電子スピン磁性を持つ原子が低濃度で混ざっている、それぞれの電子スピン(電子が持つ 量子力学的な固有の角運動量)の向きがランダムな固体)という無秩序系に対して「 レプリカ法 」という統計力学の手法( 多数の「レプリカ」を仮設することによって分配関数を計算する方法 )を、適用することに成功し、スピン・グラスの「シェリントン-カークパトリック・モデル」(1975年にD.SherringtonとS.Kirkpatrickによって導入された、長距離フラストレーションを持つ強磁性と反強磁性の結合を持つイジング・モデル(二つの状態を取り得る格子点から構成され、最隣接する格子点だけの相互作用を設定する格子状のモデル)であり、磁化の遅いダイナミクスと複雑な非エルゴード平衡状態を記述するスピン・グラスの平均場近似に相当する) の厳密解を得ることができました ( 以上は、 原子スケールの物理系の研究 )。
また、(太陽系の惑星の一つである)地球における気候変動(その一種である 氷河期の周期性)の研究において、複雑系(complex systems)の観点から、「確率共鳴」(stochastic resonance。或る確率分布をなす信号にノイズを印加すると、その信号が検出される度合いが増幅する現象)という概念を導入し、その周期の導出などに成功しました ( 以上は、 惑星スケールの物理系の研究 )。
これらの業績により、パリージ博士は、2021年ノーベル物理学賞を受賞しました。
↓ 下の図は、上述の「スピン・グラス」と「磁性体(磁石など)」の簡易な概念図。
図(b)は、複数の電子スピンの向き(青い矢印)がそろっている「磁性体」の概念図。 図(a)は、電子スピンの向きがランダムになっている、上述の「スピン・グラス」の概念図。
パリージ博士は、ほかにも、下記のような主要な研究業績があります。
🔵素粒子物理において:
DGLAP発展方程式 ( Dokshitzer–Gribov–Lipatov–Altarelli–Parisi evolution equations ) と呼ばれる、量子色力学における、パートン( 部分子(ぶぶんし)とも言われる。ファインマンによって提唱された、ハドロン(バリオン(陽子や中性子など)と中間子など)衝突を解析するための概念であり、現在では、クォークやグルーオンに相当するものと見なされている )の分布関数を記述する方程式を提唱しました( Dokshitzer、Gribov、Lipatov、Altarelli、Parisi (パリージ)の5人によって提唱されたので、上記の名前が付いています )。
その方程式の成果としては、例えば、
CERN( Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire。ヨーロッパ原子核研究機構)によるLHC( Large Hadron Collider。大型ハドロン衝突型加速器 )実験において、陽子の構造(陽子内のパートン (つまり クォークとグルーオン)の分布)を記述することがてき、陽子・陽子衝突実験において、「ヒッグス粒子(素粒子に質量を与える スピンがゼロの粒子)の発見」(2013年3月。この発見により、ヒッグス博士が同年のノーベル物理学賞を受賞)につながる解析に重要な役割を果たしました。
また、パリージ博士は、超弦理論においても研究業績があります。
🔵力学系物理において:
凝集の確率過程を記述する、KPZ方程式( Kardar–Parisi–Zhang equation )を、Kardar、Zhangらと共同で、1986年に提唱しました。この方程式は、非線形な確率偏微分方程式であり、その確率変数をウイック積で考えると、繰込み群の方法を適用でき、量子場理論と同様の形式になるので、
エデン成長モデル(Eden growth model。細菌増殖によるコロニー形成や、物質の沈殿など、クラスターの成長を表すモデル)などのような、力学系(Dynamical system)の一種である表面成長(surface growth)の様々なモデルにおける「場の理論」とみなすことができます。
🔵凝縮系物理において:
流体を扱う動力学(dynamics)である流体力学(fluid dynamics)において、
「乱流における間欠性」現象を記述する「マルチ・フラクタル(多重・自己相似的) 」モデルを、U.Frischと共同で提唱しました。
🔵統計物理において:
上述のスピン・グラスの研究に関連して、最適化理論や生物学に基づいた統計力学のモデルをも考案しました。
また、複雑系(complex systems)の観点から、鳥などの動物の(渦巻く)「群れ」における集団運動(collective motion)を研究しました。
以上のように、パリージ博士は、私の恩師であるドゥジェンヌ先生(1991年ノーベル物理学賞(単独)受賞)と同様に、
物理学の多くの分野で、大きな業績を挙げています。
🔵 パリージ博士のノーベル賞授賞対象になった研究に関連している、
ほかの2人の 2021年ノーベル物理学賞受賞者(共同理由かつ共同受賞)は(アルファベット順で)、
アメリカ人の S.Manabe(真鍋 淑郎。1931年生)博士と、
ドイツ人の K.Hasselmann( ハッセルマン。Klaus Ferdinand Hasselmann。1931年生)
であり、2人は 共同理由で、共同受賞しました。
(共同)受賞理由:
「 地球の気候変動を定量化し、温暖化を確実に予測する、物理学的モデルに対して 」
以上
3人のうち、単独の受賞理由で、パリージ博士が、ノーベル物理学賞を授与されました。
( ほかの2人の受賞者(共同理由かつ共同受賞)は、後述 )
🔵パリージ博士のノーベル物理学賞(2021年)受賞 (単独)理由:
「 原子スケールから惑星スケールまでの物理系における、無秩序と揺らぎ(変動)の相互影響の発見 」
パリージ博士(ジョルジョ・パリージ( Giorgio Parisi )、1948年生)は、イタリア出身で、フランスでも活躍していたのでフランスでも著名な、イタリアの物理学者です(専門は、理論物理学(凝縮系物理、統計物理、力学系物理、素粒子物理)。
パリージ博士は、スピン・グラス( 下記の図を参照。 非磁性体に電子スピン磁性を持つ原子が低濃度で混ざっている、それぞれの電子スピン(電子が持つ 量子力学的な固有の角運動量)の向きがランダムな固体)という無秩序系に対して「 レプリカ法 」という統計力学の手法( 多数の「レプリカ」を仮設することによって分配関数を計算する方法 )を、適用することに成功し、スピン・グラスの「シェリントン-カークパトリック・モデル」(1975年にD.SherringtonとS.Kirkpatrickによって導入された、長距離フラストレーションを持つ強磁性と反強磁性の結合を持つイジング・モデル(二つの状態を取り得る格子点から構成され、最隣接する格子点だけの相互作用を設定する格子状のモデル)であり、磁化の遅いダイナミクスと複雑な非エルゴード平衡状態を記述するスピン・グラスの平均場近似に相当する) の厳密解を得ることができました ( 以上は、 原子スケールの物理系の研究 )。
また、(太陽系の惑星の一つである)地球における気候変動(その一種である 氷河期の周期性)の研究において、複雑系(complex systems)の観点から、「確率共鳴」(stochastic resonance。或る確率分布をなす信号にノイズを印加すると、その信号が検出される度合いが増幅する現象)という概念を導入し、その周期の導出などに成功しました ( 以上は、 惑星スケールの物理系の研究 )。
これらの業績により、パリージ博士は、2021年ノーベル物理学賞を受賞しました。
↓ 下の図は、上述の「スピン・グラス」と「磁性体(磁石など)」の簡易な概念図。

図(b)は、複数の電子スピンの向き(青い矢印)がそろっている「磁性体」の概念図。 図(a)は、電子スピンの向きがランダムになっている、上述の「スピン・グラス」の概念図。
パリージ博士は、ほかにも、下記のような主要な研究業績があります。
🔵素粒子物理において:
DGLAP発展方程式 ( Dokshitzer–Gribov–Lipatov–Altarelli–Parisi evolution equations ) と呼ばれる、量子色力学における、パートン( 部分子(ぶぶんし)とも言われる。ファインマンによって提唱された、ハドロン(バリオン(陽子や中性子など)と中間子など)衝突を解析するための概念であり、現在では、クォークやグルーオンに相当するものと見なされている )の分布関数を記述する方程式を提唱しました( Dokshitzer、Gribov、Lipatov、Altarelli、Parisi (パリージ)の5人によって提唱されたので、上記の名前が付いています )。
その方程式の成果としては、例えば、
CERN( Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire。ヨーロッパ原子核研究機構)によるLHC( Large Hadron Collider。大型ハドロン衝突型加速器 )実験において、陽子の構造(陽子内のパートン (つまり クォークとグルーオン)の分布)を記述することがてき、陽子・陽子衝突実験において、「ヒッグス粒子(素粒子に質量を与える スピンがゼロの粒子)の発見」(2013年3月。この発見により、ヒッグス博士が同年のノーベル物理学賞を受賞)につながる解析に重要な役割を果たしました。
また、パリージ博士は、超弦理論においても研究業績があります。
🔵力学系物理において:
凝集の確率過程を記述する、KPZ方程式( Kardar–Parisi–Zhang equation )を、Kardar、Zhangらと共同で、1986年に提唱しました。この方程式は、非線形な確率偏微分方程式であり、その確率変数をウイック積で考えると、繰込み群の方法を適用でき、量子場理論と同様の形式になるので、
エデン成長モデル(Eden growth model。細菌増殖によるコロニー形成や、物質の沈殿など、クラスターの成長を表すモデル)などのような、力学系(Dynamical system)の一種である表面成長(surface growth)の様々なモデルにおける「場の理論」とみなすことができます。
🔵凝縮系物理において:
流体を扱う動力学(dynamics)である流体力学(fluid dynamics)において、
「乱流における間欠性」現象を記述する「マルチ・フラクタル(多重・自己相似的) 」モデルを、U.Frischと共同で提唱しました。
🔵統計物理において:
上述のスピン・グラスの研究に関連して、最適化理論や生物学に基づいた統計力学のモデルをも考案しました。
また、複雑系(complex systems)の観点から、鳥などの動物の(渦巻く)「群れ」における集団運動(collective motion)を研究しました。
以上のように、パリージ博士は、私の恩師であるドゥジェンヌ先生(1991年ノーベル物理学賞(単独)受賞)と同様に、
物理学の多くの分野で、大きな業績を挙げています。
🔵 パリージ博士のノーベル賞授賞対象になった研究に関連している、
ほかの2人の 2021年ノーベル物理学賞受賞者(共同理由かつ共同受賞)は(アルファベット順で)、
アメリカ人の S.Manabe(真鍋 淑郎。1931年生)博士と、
ドイツ人の K.Hasselmann( ハッセルマン。Klaus Ferdinand Hasselmann。1931年生)
であり、2人は 共同理由で、共同受賞しました。
(共同)受賞理由:
「 地球の気候変動を定量化し、温暖化を確実に予測する、物理学的モデルに対して 」
以上