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マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【自作恋愛小説】 『忘れられない時間』 ~ふたりの出会い~

2015-03-13 21:34:40 | 自作小説
今朝からちょっと時間があったので書いてみました。
なんか勢いだけで書いたからいろいろバラバラだし、続きいつ書くかわかんないけど
よかったら読んでやってくださいませ。

エロは少々あり。
でもそこまでねちっこい描写は無いです。


↓ ↓ ↓


 その日の待ち合わせ場所は、新宿駅東口前の巨大な交差点だった。
 1月下旬、平日の午後七時。
 ちょうど駅に着いた頃から雪がちらちらと舞い始め、じっとしていると足元から凍りついてしまいそうになる。
 ……まだかなあ。
 こういうのって、たいていは男の人のほうが早く来ているものだけど。
 早川桃子(はやかわとうこ)は薄汚れた電柱に背をあずけながら、ぼんやりと視線をさまよわせていた。

 大勢のサラリーマンやOL、それに制服姿の学生たちがせわしなく行き交う街角。
 あちこちの店から流れてくるわけのわからない音量の音楽が耳に障る。
 だいたい、顔も知らない相手と待ち合わせをするのに、こんな場所を選ぶ男の気が知れない。
 もうちょっと人の少ない駅の改札口だとか、いっそカフェやファミレスにしてくれたらわかりやすいのに。
 約束の10分前から同じ場所に立っているけれど、どうにもそれらしい相手の姿は見えない。
 ……来ないつもり?
 まあ、たまにはそういう相手もいる。
 こっちだって急に気のりしなくなって行かないときだってある。
お互い様、かな。
 明日はまた朝一番から必修の講義も入ってる。
 あと10分だけ待って来なかったら帰ろうか。
 つらつらとそんなことを考えているうちに、ポケットの中でスマートフォンが軽快なメロディを鳴らし始めた。

 画面に表示された名前はユウ。
 今日の待ち合わせ相手。
 耳が痛くなるようなノイズと共に、なんとも不安げな男の声が流れてくる。
『桃子? あのさ。いま着いたんだけど……人が多くてわかんないや』
「もう! だから言ったのに、もっとわかりやすいところにしようって」
『……だって、コンビニ以外の場所に行くのって久々なんだ。こんなに混んでると思わなかったし』
「なにそれ、いきなり引きこもり自慢? いいから早く来て」
『きついなあ……いま信号渡ったところ。えっと、グレーのコートだっけ? 桃子みたいにこういう出会い系みたいなので何十人も会ってるわけじゃないからさ、緊張してるんだよ』
「そう、グレーのコートに黒のブーツ。髪は黒くて肩よりちょっと長いくらい。っていうか、何十人も会ってないよ。失礼なヤツ」
『どうしよう、やっぱり何処にいるのかわかんないや。桃子に見つけてもらった方が早いかな……こっちは黒いコートにジーンズ、スニーカー』
「わかった、そこから動かないで」
 ああもう、いらいらする。
 桃子はスマートフォンをポケットに突っ込み、出来の悪い弟を探すような気持ちで周囲をぐるりと見回した。

「黒いコートにジーンズね……」
 なんだ、近くにいたんじゃない。
 それらしき男はすぐに見つかった。
 桃子のちょうど斜め後ろで、所在なさげにきょろきょろしている。
 ……うーん、まあまあ標準点ってところかな。
 すらりとして背が高く顔立ちもそれなりに整っているのに、心細そうな表情と顔色の悪さがすべてをだいなしにしている感じがした。
 桃子より2歳上、23だと言っていた年齢はおそらく本当だろう。
 生理的嫌悪感を抱くほどでもないが、こちらから進んで抱かれたいと思うほどでもない。
 第一印象は、当たりとハズレのちょうど中間といったところか。
 一緒に食事をして飲みに行って、手をつないだりハグするくらいまでならアリ。
 ホテルに誘われたら今日は断ろう。
 軽いキスくらいまでなら許せる。
 一瞬でそこまで考えてから、桃子はにっこりと微笑んで男のそばに駆け寄った。
 この顔を気に入らないと帰った男はいまのところひとりもいない。
 勝率100%、自慢の笑顔だ。

「ユウ?」
 顔をのぞきこみながらポンと腕を叩いてやると、男は心底驚いたように目を見開いて慌ただしく首を上下に振った。
 よく見ると、青白い唇が震えている。
 おそらく「桃子?」と聞き返したいのだろうが、まったく言葉になっていない。
 手も足もカクカクしてロボットみたい。
 なんともぎこちないしぐさに、思わず笑いがこみあげてくる。
「ちょっと、どうしたの? まさか、本当に緊張してる?」
「……うん、ごめん。カッコ悪いのわかってるけど、緊張し過ぎて息苦しいし……は、吐きそう」
「えっ、大丈夫なの? ねえ!」
 初対面の女の子を前にして、いきなり吐きそうってどこまで失礼なの。
 そう茶化す隙もないほど、ユウは本当に体調が悪そうに見えた。
 寄りかかっている壁がなければ、いまにも倒れてしまいそうなほどフラフラしている。
 これは、笑っている場合じゃないかも。
「ごめん、ほんとカッコ悪くて……でも……気持ち悪い……」
「馬鹿、カッコとかどうでもいいよ! とりあえずどこか座ろうか? ほら、いいからつかまって」
 まだ本名も知らないような相手とはいえ、こんなに具合の悪そうな人間を放置したまま帰る気にはなれなかった。
 あーあ、標準点から大幅減点。
 今度こそ運命のイケメンに出会えるかと思ったのに、面倒なのにひっかかっちゃったな。
 桃子はユウを支えるようにして手を貸しながら、頭の中で小さくため息をついた。



「あはは、そうだったっけ? 全然覚えてないなあ……なんとなく風邪ひいてたのもあって体調悪かったような気もするけど」
「よく言うよ、ほんとあの日は散々だったんだから!」
初対面の日の話をすると、ユウはいつもきょとんとした顔をする。
 まだ2カ月しか経ってないというのに、あの夜のことはユウの脳内から綺麗に削除されてしまったらしい。
 まったく、腹が立つ。
 あの後ユウが落ち着くまでカフェで長時間付き合い、結局こらえきれなくなって盛大に床の上に吐いたのを店員さんに平謝りし、極寒の中を連れ歩くこともできず仕方なく入ったホテルで童貞までもらってやったのはいったい誰だと思っているのか。
 ベッドの上での行為もそれは酷いものだった。
 キスをさせてみれば歯はガチガチ当ててくるし、力まかせに触ろうとするからちっとも気持ちよくなくて痛いし。
 結局は桃子の方が上になってリードして、どうにか無事に繋がり合えた。
 一度覚えたら今度は猿のように夢中になってしまい、桃子が泣き出すまで体を離してくれなくなった。
 減点に次ぐ減点。
 もう2度と会うものかと思っていた……のに。
 
不思議なもので、桃子以外の女性を知らない男なのだと思うと妙な情が湧いた。
 わからないことをわからないという素直さも好感が持てる。
 年上なのに、自分の手で育てていくような感覚が面白い。
 たまたまアパートが近所だったこともあって、あれからお互いの部屋を行き来するようになり、週のうち2日か3日は一緒に眠るようになった。
 今夜は桃子の部屋。
 狭いシングルベッドに潜り込んで男と裸で抱き合っていると、たいていのことは許せるような気持ちになる。
 それでもわざと怒ったような表情を崩さずにいると、ユウが不安そうにしがみついてきた。
 細身とはいえ身長180センチの体にのしかかられると、桃子の華奢な腰骨は悲鳴をあげる。
「ちょっと、重いよ! 苦しい」
「ごめん……覚えてないけど、でもすごく緊張してたと思う。だってほら、そもそも他人と会話するのが何年ぶりかっていうレベルだったし」
「もう知ってるから。ユウが筋金入りの引きこもり青年で、キスのひとつも上手にできない純情童貞クンだったっていうのは」
「うわ、なんだよ。そんな言い方ないだろう」
「だって本当のことじゃない。どこに入れたらいいのかワカンナイーって泣きそうになってたくせに」
「……でも、いまは違うよ。桃子が教えてくれたから」
 
そっと額に口づけられる。
 あの日とは別人のように手なれたキス。
 こめかみから頬、そして首筋へ。
 ぞくっ、と肌が泡立つ。
 はやくもいやらしい声が出てしまいそうになるけれど、悔しいから歯を食いしばって我慢する。
「んもう! さっきしたばっかりなのに、またするの?」
「だめ? こうしていると、何回でも桃子が欲しくなる」
 ゆっくりと肌を慈しむように唇が移動していく。
 骨ばった大きな手が、胸のふくらみを優しく包み込む。
 力を入れ過ぎることなく、手のひらで上手に桜色の乳首を転がしていく。
 肌の裏側から柔らかな羽毛でくすぐられているようだった。
ビクン、と背筋が震える。
 だめ、って言ってやりたい。
 でも彼の手が脚の間に伸びてくるころには、どうしてだかいつもその気にさせられている。

「ユウは、他に彼女作らないの?」
 熱を帯びていく吐息にまぎれさせて桃子が呟くと、ユウが顔をあげて首をかしげた。
 意味がわからない、とでも言いたげに。
「僕には桃子がいるから、他に彼女なんていらないよ」
「ふうん。それで、ユウが平気ならいいけど」
「平気ってわけじゃないけど……いいよ、しょうがないと思ってる。桃子のこと、ひとりじめにできないのは最初からわかってるから」
「昨日はあの赤いバイクの子とヤッてきたの。その前はベンツのおじさん、明日はたぶんあの広告代理店の人。ねえ、そういうのほんとに平気?」
「……わかってる、でもわざわざ口に出さなくたっていいじゃないか。もう黙れって」
 わかっているというわりには声に不機嫌さが混じり、手の動きが乱暴になる。
 強引に脚を開かせて、まだじゅうぶんに潤いきっていないあそこに突き立ててこようとする。
 まるで、そこさえ繋ぎ合わせていれば桃子がどこにも逃げないとでも思い込んでいるようだった。
 ほら、やっぱり純情だ。
 ユウと一緒にいると他の誰といるよりも安心できる気がするのに、何か悪いことをしているような気持ちにもさせられる。
 ただ寂しさを埋めるためだけの、くだらない関係。
 こんなものは、恋でも愛でもない。
 早めに終わらせないといけないな、と思う。
 お互いにのめりこまないうちに。
 できるだけ、傷が浅くて済むうちに。
 けれどもユウが必要としているのと同じように、桃子もまたユウを失うことが日に日に怖くなりつつあった。
 長続きなどするはずがない関係だと、最初からわかっていたのに。


 桃子が出会い系サイトを使った遊びに手を出すようになったのは、ユウに会う半年ほど前のことだった。
 大学3年になったばかりの頃、田舎の両親が相次いで亡くなり、ほとんど同じタイミングで婚約までしていた彼氏を親友に寝取られたのが最初のきっかけ。
おまけにその彼氏と親友に騙されて売られるような形で、同じサークルの先輩に性的な暴行を受け、それまで真面目一筋で頑張っていた桃子の中で何かが切れてしまった。
 田舎の両親には資産などいっさい無く、むしろ借金だけが残されている。
 当然、相続は放棄した。
 大学は学校側の温情で卒業までの学費を免除してもらえることになったものの、どうにも勉強などする気になれない。
 まわりからの好奇心と同情が入り混じった視線も癪に障った。
 気の弱い女の子であれば自殺を考えてもおかしくない状況かもしれないが、桃子はそういうタイプではない。
 もともと親とはちょっと普通では考えられないくらい不仲だったし、べつに無理やりヤラれようが何だろうが、セックスはしょせんただのセックスだし。
 あっさり寝取られるような男となんて、だらだら付き合っててもしょうがないし。
 どこまでが強がりでどこまでが本心なのか、自分でもよくわからなかった。
 ……とにかく、高校卒業するまでほとんど遊んだこともなかったんだよね。
 両親は異常とも思えるほど厳しかった。
 世の中にはもっと楽しいことがいくらでもあるはずなのに、このまま死んじゃったら美味しいところを味わわないまま終わっちゃうことになる。
 もう失うものなど何もないのだから、どうせなら男の子たちと思い切り遊んでから死にたい。
 出会い系サイトは危ないというし、適当に遊んでるうちに殺されるのなら自分で死ぬ手間がはぶけるというものだ。
 うん。
 気が済むまで、遊ぼう。
 それが、絶望のどん底にいた桃子の出した結論だった。

 そう決めてから、桃子は卒業に必要な最低限の日数しか学校に通わなくなった。
 幸い2年生までにほとんどの単位は取得してしまっていたので、気が向かなければ少々講義を欠席したところで問題はない。
 ついでに遊ぶだけではなく出会い系サイトのチャットやメールの相手をするアルバイトでもすれば、一石二鳥ではないか。
 桃子は空いた時間のすべてをそういう類のアルバイトに注ぎ込み、興味を惹かれた男性には躊躇することなく会いに行った。
 もちろん最初は緊張したけれど、回を重ねるごとになんとも思わなくなってくる。
 男性側も心の中はともかく、表面的には優しく常識的で普通の人が多かったし、期待したほど危険な目に遭うこともなかった。
 年齢層は大学生から上は40代くらいまで。
 見た目は中の下から、おおっ! と目を惹かれるようなアイドル級の男の子まで様々。
 これまでに10数人と会い、気が向けばセックスをし、さらに仲良くなれそうだった数人とは継続した関係を持っている。
 現在続いているのは、ユウも含めて7人。
 月に一度程度しか合わない人もいれば、ユウのように頻繁に会いたがる男もいる。
 余計な揉め事を起こさずに済むよう、それぞれの男に複数人と関係を持っていることをあらかじめ伝えてある。
 いまのところは7人とも了承してくれているし、むしろユウ以外は積極的に他の男たちの話を聞きたがった。
 どんなふうにヤルの? なんて。
 桃子は特別にセックスが好きというわけでもないが、そういうときは適当に男たちの話に合わせてやる。
ついでに「あなたが一番上手」という言葉も添えて。


「……あのさあ」
「え? なに」
「ぼんやりしてる。また他の男のこと考えてた?」
 奥まで挿入したまま腰の動きを止め、なんとなく寂しそうな目でユウが見下ろしてくる。
 最近は桃子と一緒に外に出ることが増えてきたせいか、ずいぶん肌の色が濃くなってきたように思う。
 このまま夏になると、黒人のようなチョコレート色の肌になるのだろうか。
 うん、それも悪くない。
 ユウの出身地は、九州の南のほうにある聞いたこともない小さな島らしい。
 本名は風見勇気(かざみゆうき)。
 高校時代まで受験勉強ばっかりさせられていて、やっと念願の東大に合格したくせに1年だけ通った後ぽっきりと心が折れて引きこもりになった変わり種だ。
 両親がびっくりするくらい彼を溺愛していて、毎月30万以上の仕送りをもらっているらしい。
 うらやましいような、情けなくなるような話。
 ……やっぱり、お金持ちの子ってちょっと上品な顔になるんだ。
 そういえば、この前会った人も実家が金持ちだとか言ってたっけ。
 まあ、無いよりは金でもなんでもあったほうがいい。

「うん、そう。いっぱい他の男のこと考えてた」
「はっきり言うんだ、そういうこと」
 組伏せられているのは桃子の方なのに、ユウはめいっぱい傷ついたような顔をする。
 いっそ、この子が怒り狂ってこのまま絞め殺してくれないだろうか。
最後の瞬間、自分は命乞いをするのだろうか。
くだらないことばかりが、くるくると頭の中を駆け巡る。
 あんまり悲しそうにしているものだから、桃子は仕方なく両手を伸ばして彼の短い髪をよしよしと撫でてやる。
「ユウ、大好き。いま付き合ってる男の人たちのなかで一番好き。わたし、ユウがいないと生きていけない」
「嘘ばっかり。誰にでもそんなことばっかり言ってるんだろ……そのうち、ほんとに刺されても知らないからな」
 突き上げてくるスピードが速まっていく。
 ベッドが不安になるような音をたてて軋む。
 とうとう堪えることもできなくなって、桃子が声をあげはじめるとユウは初めて安心したように笑みを浮かべる。

 いつか終わると知っている。
 けれども、いまはそんなことどうでもいい。
 
 これから始まるのは、生きるのに不器用な二人がやっぱり不器用な時間を過ごした、そんな時間のお話。

(つづく)


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