どら焼きを焼く時、精神科病院に勤めていた時に担当していた患者さんのことを思い出します。
その方は数十年入院していました。
当時支援する親戚等も誰もいなかったので、少ない障害年金から、入院にかかる費用を抜いた本当にわずかなお金の管理も含めて私は手伝っていました。
私とお金の管理について相談する中で使えるわずかなお金の中からパック入りの羊かんを買うことが楽しみだと教えてくれました。
お金を渡される日、受け取ったお金を大切に握りしめ、売店に向かう様子を今でも鮮明に覚えています。
薬の副作用でおぼつかない歩き方が、いつもより弾んでいるように見えました。
その後売店で羊かんを買った患者さんが階段を登っていく姿を見かけました。
窓がない暗い階段のはずなのに、その患者さんにだけ日が差しているような明るい表情でした。
数十年ほとんど変わらない入院生活の中で、お菓子がどれだけその方を慰めてきたのだろうと考えさせられました。
あの患者さんの事を思い出すと、私にとってはたくさん作ったお菓子の一つであっても、その一つが誰かを喜ばせ、活力につながる大切な物だと思えます。
お菓子の販売やお菓子作りを淡々と続ける事の大切さを教えてくれた原点の一つです。
今日、4月4日はどら焼きの日です。
4と4が合わさり、どら焼きを食べて幸せ(4合わせ)にという想いから決められた日だそうです。
私の焼いたどら焼きが、今日どこかで誰かに食べてもらえて、その方が幸せになってもらえていると想像するだけで、本当にとても嬉しい事です。
そして、いつか偶然にでもあの患者さんが食べて喜んでくれれば良いなと思いながら、これからも淡々と一つ一つを丁寧に焼いて行こうと思います。