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ニセコのダチョウ牧場(第2有島だちょう牧場)

ダチョウの孵化から解体まで行い、命を頂く事、牧場を営む事で得た、学びや気づきを記録しています。

だちょうさんがヒグマに襲われない訳

2025年08月16日 | 日記

「だちょうさん、ヒグマに襲われませんか?」

だちょうさんを昼夜放牧している事を伝えると、最近お客さんに良く聞かれます。

クマの被害や目撃情報がニュースになることが増えているためでしょう。

数十年この方法で飼っていて、だちょうさんがヒグマにおそわれたことはありません。

ニセコ町にヒグマは居ますし、牧場の近くにヒグマが出たらしいという噂話なら聞いたことも何度かあるのでヒグマがいないから襲われていないとは言えません。

ではなぜ襲われないのかを私なりに考察して「多分割に合わないから襲われないですよ。」と答えています。

なぜ割に合わないかというと、まず走る速度が違います。

ヒグマは最高時速60kmほどと言われていますがだちょうさんは50-70kmで、しかも30分から1時間走るスタミナがあります。

はっきりとしたデータはありませんが、ヒグマは全速力でだちょうさんを追いかけても3間ほどで体力切れになる可能性があります。ですから、まず先制攻撃をしなくてだちょうさんを倒せません。

そこで問題になるのはどうやってだちょうさんに気付かれずに近づいて、先制攻撃をするのかという事です。

私は夜、だちょうさんの寝ている写真が撮りたいと思い、何度か忍び寄った事があるのですがすぐにバレます。

私が全然忍べていない可能性も大いに有りますがだちょうさんは夜でも警戒を怠っていないと思います。




まずだちょうさんは群れで眠りますし、睡眠時間が短いということもあって誰かが必ず起きています。

視野がほとんどの哺乳類より広く、視力に優れ、その上見通しの良い所で寝るので死角がないです。

しかも何か異変を察知するとオスが警戒の遠吠えをして、群れ全体に脅威を共有します。

その為、ヒグマの様に大きな体でだちょうさんに気付かれずに接近するのはほぼ不可能でしょう。

牧場ではだちょうさんのオスをたくさん飼っており、夜間数時間毎に遠吠えしています。

「ボォッーボォッー、ボオォーー」と重低音で良く響き渡る音はとても存在感があります。

遠吠えは仲間に注意を促すと同時にヒグマや多くの野生動物に対して自分の存在を伝えていると考えられ、頻繁に遠吠えを聞いている動物は牧場に近寄りがたいと感じることでしょう。

ここまで書いた内容で十分かと思いますが、もし万が一追い詰めたとしても、だちょうさんにはライオンも撃退するという1トンから4.6 トンといわれている威力の蹴りがあり、ヒグマでも容易に近寄りがたいということが考えられます。

私が何度もだちょうさんと闘った経験と、オス同士のケンカを長年観察した結果から言うと、体当たりをして蹴りを繰り出し、さっと相手の攻撃が届かない場所まで数メートル離れ、様子を見てからまた体当たりして蹴りをしてくるといういやらしい戦法をしてきます。胸の骨が衝撃を吸収する形状で胸肉も付いていないので、胸はさながら鎧のようになっていて攻撃が効きません。

蹴りをする際は急所である首を限界まで後ろに反らして攻撃するので、3メートル以上の体長があるヒグマでも効果的な反撃が難しいです

しかも負けそうになったら戦っていただちょうさんはさっさと逃げて、今度は違うだちょうさんとまた一から戦うハメになるかもしれません。

一般的な牛や豚等の家畜を飼う牧場と違い、ふ化する力のある有精卵を採るためにオスを沢山飼っており、春は血気盛んにケンカを繰り返して、ボスが決まり、その下にゆるやかなヒエラルキーのある群れとして落ち着いています。

私の想像ですが野生に近い環境でケンカ慣れしただちょうさんたちはヒグマが接近してきた際、物音などで気づき、観察しながら距離を取り、襲ってきたらすぐ逃げ出すでしょう。接近されたとしても強力な蹴りを放ちながら牽制し、隙をみてまた逃げ出すので、そう簡単には仕留められないでしょう。

もし私がヒグマだったら、たくさんいて、たまに遠吠えしているだちょうさんをちょっと近寄りがたい存在だと認識するでしょうし、フットワークは軽いのに一撃が強そうなだちょうさんを、どうやって怪我しないで効率良く狩るのか考えるより、森でどんぐりやヤマブドウを食べたり、ニセコの美味しい野菜を狙って徘徊している鹿等を狙ったりした方が疲れないかなと思います(笑)。

以上が割に合わないという理由ですが私の想像を越えないのでご了承ください。

今年はヒグマの怖いニュースが多いためかだちょうさんたちのことをお客さんが心配しているようなので、少しでも安心してもらえればと思います。

だちょうさんたちはいつも警戒を欠かしませんし、何かあればあっという間に駆け出して、逃げ出しています。

私は彼らを見ていて、自分はいつの間にか情報を見たり、頭を使うことばかりに気を取られ、本来持っている音や匂い、変化に気づく感覚が鈍っていることに気づかされます。

彼らのようによく食べ、よく休み、よく運動する健康的な生活を心がけて、少しでも人間が本来持つ健やかさを保ちたいなと思います。

ちなみにニセコの山歩き等を予定しているけれども、ヒグマが怖いなぁという方はJRニセコ駅の観光案内所や五色温泉インフォメーションセンターで熊スプレーのレンタルが有るそうです。

是非お調べになって、万全の準備をして、気を抜かずにニセコの自然を満喫してくださいね!

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ダチョウはまだ20年早かったと言われて2

2025年07月14日 | 日記
「ダチョウは20年早かった」
これは以前にも書いた私の印象に残っている言葉です。

あるダチョウ牧場を閉じた方が私に言いました。

とある農機具のメーカーを一代で築いた方で、ダチョウの飼育方法に関してもとても熱心に研究され、世界中のダチョウ牧場を見て回った方でした。

その方と出会ったのは私が牧場で働き始めた頃でした。

戦時中のお話や人生の歩み、ダチョウの飼育や経営についてのお話は時々思い出して、参考にしています。

北海道にはかつてダチョウを飼う農家さんがたくさんありましたが、私が働き始めた時はほとんど無くなっており、ダチョウ産業の未来は暗かったです。

色々と試行錯誤しながら今まで続けてきましたが、
日本中のほとんどのダチョウ牧場は規模を縮小するか辞めてしまい、いつの間にかここは日本最古の部類に入る牧場になっていました。

その間、日本の農業を取り巻く環境は大きく変わり、暑さや異常気象、様々な要因によるコストの上昇で今までの方法ではうまくいかない事例が増えているようです。

一方でニセコのだちょうさんはむしろ元気になってきていて、今年の厳しい暑さに負けないどころか例年以上にたくさんの卵を産んでくれています。
過酷な環境でも生き抜く能力や治癒力の高さにも助けられています。
水資源が乏しい地域や暑くなった地域でも飼える為、世界では数万羽単位で飼う牧場もあると聞きます。

こういった気候変動リスクに対して農業は10年20年というある程度長い期間の気候予測が大切だと考えられていて、今まで育てていなかった様々な作物が日本中で試験的に栽培されたり、新しい農法が使われたりしています。

けれども、対処療法的に環境の変化に対応し続けていくだけではいけない気がしています。

社会全体に倫理的な考え方が広まる必要が有るのかなと思います。

マハトマ・ガンジーという人は、「世界には全ての人間に必要なものは十分にある。しかし、全ての人間の欲望を満たすだけのものはない」と言いました。

「貪欲にとっては、自然界すべてでさえ足りない」
という言葉は紀元前にセネカという哲学者が残した言葉です。古い時代の言葉ですが今を生きる私達に色々と教えてくれているように感じる言葉です。

人間が持つもっと、もっとという欲求が悪いとは思いませんが、どこかで足るを知ることが無ければ、常に空腹で食べても食べても永遠に満たされないで、最後は自分自身も食べてしまう中国神話の怪物トウテツのように、人間社会全体がもっと悪い状態になってしまうのではと思います。

現在、だちょうさんの生態や食品ロスを無くすことや産業廃棄物になる物を資源として使う牧場の環境に対する取り組み、動物福祉や命との向き合い方等を体験に来る学生さんや訪れる方に話し続け、少しずつ共感して頂ける方を増やしてきました。
最近は真剣に聞いて頂けているなと実感できる事が増えてきました。

ハチドリのひとしずくという絵本のストーリーが私は好きなのですが、日本の片隅にある小さな畜産牧場の小さな取り組みが、少しずつですが人々の心に届き始めていて、きっともっと大きな実を結ぶだろうと感じています。
これからも楽しみながら良いと思える事を淡々と続けていき、この牧場だから効果的に伝えられる事や伝え方を学んでいきたいと思います。

最後になりましたが皆さんはだちょうさんほど暑さに強くないでしょうから、身体には本当にお気をつけてお過ごし下さいね!
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どら焼きを焼く時、精神科病院で担当していた患者さんのことを思い出します。

2025年04月04日 | 日記
どら焼きを焼く時、精神科病院に勤めていた時に担当していた患者さんのことを思い出します。

その方は数十年入院していました。

当時支援する親戚等も誰もいなかったので、少ない障害年金から、入院にかかる費用を抜いた本当にわずかなお金の管理も含めて私は手伝っていました。
私とお金の管理について相談する中で使えるわずかなお金の中からパック入りの羊かんを買うことが楽しみだと教えてくれました。

お金を渡される日、受け取ったお金を大切に握りしめ、売店に向かう様子を今でも鮮明に覚えています。
薬の副作用でおぼつかない歩き方が、いつもより弾んでいるように見えました。
その後売店で羊かんを買った患者さんが階段を登っていく姿を見かけました。
窓がない暗い階段のはずなのに、その患者さんにだけ日が差しているような明るい表情でした。
数十年ほとんど変わらない入院生活の中で、お菓子がどれだけその方を慰めてきたのだろうと考えさせられました。

あの患者さんの事を思い出すと、私にとってはたくさん作ったお菓子の一つであっても、その一つが誰かを喜ばせ、活力につながる大切な物だと思えます。
お菓子の販売やお菓子作りを淡々と続ける事の大切さを教えてくれた原点の一つです。

今日、4月4日はどら焼きの日です。
4と4が合わさり、どら焼きを食べて幸せ(4合わせ)にという想いから決められた日だそうです。

私の焼いたどら焼きが、今日どこかで誰かに食べてもらえて、その方が幸せになってもらえていると想像するだけで、本当にとても嬉しい事です。

そして、いつか偶然にでもあの患者さんが食べて喜んでくれれば良いなと思いながら、これからも淡々と一つ一つを丁寧に焼いて行こうと思います。


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あけましておめでとうございます

2025年01月06日 | 日記
あけましておめでとうございます。

旧年中は誠にお世話になりました。

皆様のおかげで質も量も充実したご飯をあげられています。

冬至を過ぎたばかりの寒いニセコでもだちょうさんは元気に卵を産んでくれています。



最近は雪を求めてニセコに多くのお客さんがいらっしゃって色々買っているようですし、年末年始にかけて地元の方の消費も増えているよう、オカラやビール粕、寿司屋さんの貝殻等がたくさん頂けます。他にも冬に仕込む日本酒の酒粕やニセコの秋を彩ったハロウィンカボチャ、パン屋さんの廃棄パンも美味しそうに食べています。














夏には八百屋さんからは毎日のように軽トラいっぱいの廃棄お野菜等をいただいてましたし、色々な農家さんからたくさん廃棄予定のお野菜をいただきました!





ここに挙げきれていない方々も含めて本当にお世話になりました!


牧場の由来である有島武郎さんがニセコに遺した「相互扶助」という考えがあります。

彼は土地を小作人に無償解放する時に私達生産者はその土地に責任を感じ、互いに助け合ってその生計を計るようにと願いました。

ニセコの産業発展に伴って増えるゴミを資源として利用し、自然に負荷をかけないようにする事は彼の願いに沿うことでしょうし、助け合う事が地域と牧場がこれからも発展し続ける為に必要なことだと思っています。

現在、牧場では年間数百トンの産業廃棄物になるはずのものを有価物に変えられていて、これは本来かかっていたであろう処理コストや飼料に費やしていたであろうコストに加えて、処理や飼料を生産、運搬する為にかかったであろう自然への負荷を減らせたといえます。

助け合いながら発展し、経済的に自立する事と生産の大本であるその地域や環境を守る事の両立を有島武郎さんは「その土地に責任を感じ」というメッセージに託しているように思います。

こういった「相互扶助」という考えに根ざした取り組みは持続可能な畜産に繋がりますし、食料の安定供給に繋がります。

例えば、飼料をほとんど外国からの輸入に依存してきた日本の畜産業界において、円安や日本の購買力低下による飼料の値上がりが深刻な問題となっています。

利益を大きく出来ると見込んで、海外からの飼料に頼って経営規模の大きくした事業者や農家は現在苦しい経営を強いられているようです。

むしろ放牧酪農や規模を絞って無理のない経営に注力してきた農家の方がこの難局でも苦しむことなく持続可能な農業を続けられる展望を持っているように思えます。

こういった地域で資源を循環させる取り組みはこれからも拡がっていって欲しいと思います。


現在、世界中からニセコにたくさんのお客さんが訪れており、それを見込んで様々な事業者さんが新しい取り組みを始めています。



パークハイアットニセコHANAZONOさんでは、数年前からお声かけ頂いたご縁から牧場のどら焼きをデリにて取り扱って頂いております。

ご好評いただいており、ニセコの好景気を一事業者として実感してします。

ニセコの景気が良い状況を体感していると新商品を作ったり、規模を拡げていったりする事等も魅力的に思えてしまいますし、その方が賢いのかもしれません。

けれど、これからも自然や動物達への感謝と尊敬を忘れず、身の丈にあった経営を泥臭くても淡々と続けながら、お世話になっている皆様や地域に還元出来るよう励んでいきたいと思います。

またいつものように長くなってしまいましたが、今年も宜しくお願い致します。

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お店は今日から冬季休業に入ります

2024年11月24日 | 日記
お店は今日から冬季休業に入ります。

どら焼きやお菓子を今年もご愛顧いただきまして、誠にありがとうございます。

例年以上にお買い求めいただいたので、現在どら焼きは一部店舗様を除き委託販売、通信販売共に休止しております。

もうすぐ無くなると伝えてしまうとどら焼きを買い占める方もいるかと考え、販売休止の連絡が遅くなりましたこと、ご容赦いただければと思います。

なお、ダチョウの卵マドレーヌの製造と販売は継続しておりますので、道の駅さんなどで是非お買い求めください。

当牧場ではお肉を含めて製造、販売する商品の99.9%を売り切るということを実践しており、今年も無事にほぼすべての商品を売り切ることができました。

だちょうさんたちを飼わせてもらい、その命を頂いて商品を作り、販売させていただく責任として、毎年の目標にしていることが皆さんのおかげで今年も達成できたことを大変有難く思っています。

幼かっただちょうさんたちも成長して、卵をたくさん産んでくれるようになったのですが、それ以上にたくさんのお客さんにご来場いただき、お買い求めいただけたという事実に私自身が一番驚いております。

ダチョウという鳥は鳴かず飛ばずを体現する珍しい鳥なのですが、この牧場も長い間その言葉通りの状況であったことを牧場を10年以上前からみてきた皆さんはよくご存じかと思います(笑)

今ではとても認知していただけるようになり、様々なメディアからの取材にお断りしなくてはならないことも増えました。

各メディアの方々には本当にお世話になってきているので、大変心苦しいのですが、牧場で昔から楽しまれている方、これから牧場を訪れて楽しい思い出を作られるかもしれない方、メディアを通して牧場の様子を楽しまれる方、だちょうさん、働く私たち、それらすべてにとって良い形で持続できる方法を模索している最中でして、これからもお断りさせていただく際はご容赦頂ければ幸いです。

なお、媒体がどれだけ有力かどうかで出るメディアを選んでいるわけではもちろんございません。

時期によって協力する事が難しい場合やご要望頂く内容がダチョウの生態について誤解を招くと考えられる等、当方で総合的に考えてお答えしておりますので、これからもどのようなメディアの方でもお気軽にご連絡ください。見られる方が楽しんだり、喜んだりしてくれる物を作るお手伝いをすることはとても勉強になります。

ダチョウ事業の存続が難しいと思える時期を越えて、今までこうして経営を続けていられることはひとえに注目してくださっているお客様からのご厚情の賜物と考えております。

これからも日々だちょうさんのお世話や牧場の仕事などをしっかりこなし、楽しみにしてくださっている皆さんに楽しく、良い思い出となるお店を作っていきたいです。
皆様に少しでも恩返しができるよう、精進していきたいと思いますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。

また来年の春、皆さんにお会いできる事を楽しみにしております。

それまで皆さんもお元気でお過ごしください。


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