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ニセコのダチョウ牧場(第2有島だちょう牧場)

ダチョウの孵化から解体まで行い、命を頂く事、牧場を営む事で得た、学びや気づきを記録しています。

ダチョウはまだ20年早かったと言われて2

2025年07月14日 | 日記
「ダチョウは20年早かった」
これは以前にも書いた私の印象に残っている言葉です。

あるダチョウ牧場を閉じた方が私に言いました。

とある農機具のメーカーを一代で築いた方で、ダチョウの飼育方法に関してもとても熱心に研究され、世界中のダチョウ牧場を見て回った方でした。

その方と出会ったのは私が牧場で働き始めた頃でした。

戦時中のお話や人生の歩み、ダチョウの飼育や経営についてのお話は時々思い出して、参考にしています。

北海道にはかつてダチョウを飼う農家さんがたくさんありましたが、私が働き始めた時はほとんど無くなっており、ダチョウ産業の未来は暗かったです。

色々と試行錯誤しながら今まで続けてきましたが、
日本中のほとんどのダチョウ牧場は規模を縮小するか辞めてしまい、いつの間にかここは日本最古の部類に入る牧場になっていました。

その間、日本の農業を取り巻く環境は大きく変わり、暑さや異常気象、様々な要因によるコストの上昇で今までの方法ではうまくいかない事例が増えているようです。

一方でニセコのだちょうさんはむしろ元気になってきていて、今年の厳しい暑さに負けないどころか例年以上にたくさんの卵を産んでくれています。
過酷な環境でも生き抜く能力や治癒力の高さにも助けられています。
水資源が乏しい地域や暑くなった地域でも飼える為、世界では数万羽単位で飼う牧場もあると聞きます。

こういった気候変動リスクに対して農業は10年20年というある程度長い期間の気候予測が大切だと考えられていて、今まで育てていなかった様々な作物が日本中で試験的に栽培されたり、新しい農法が使われたりしています。

けれども、対処療法的に環境の変化に対応し続けていくだけではいけない気がしています。

社会全体に倫理的な考え方が広まる必要が有るのかなと思います。

マハトマ・ガンジーという人は、「世界には全ての人間に必要なものは十分にある。しかし、全ての人間の欲望を満たすだけのものはない」と言いました。

「貪欲にとっては、自然界すべてでさえ足りない」
という言葉は紀元前にセネカという哲学者が残した言葉です。古い時代の言葉ですが今を生きる私達に色々と教えてくれているように感じる言葉です。

人間が持つもっと、もっとという欲求が悪いとは思いませんが、どこかで足るを知ることが無ければ、常に空腹で食べても食べても永遠に満たされないで、最後は自分自身も食べてしまう中国神話の怪物トウテツのように、人間社会全体がもっと悪い状態になってしまうのではと思います。

現在、だちょうさんの生態や食品ロスを無くすことや産業廃棄物になる物を資源として使う牧場の環境に対する取り組み、動物福祉や命との向き合い方等を体験に来る学生さんや訪れる方に話し続け、少しずつ共感して頂ける方を増やしてきました。
最近は真剣に聞いて頂けているなと実感できる事が増えてきました。

ハチドリのひとしずくという絵本のストーリーが私は好きなのですが、日本の片隅にある小さな畜産牧場の小さな取り組みが、少しずつですが人々の心に届き始めていて、きっともっと大きな実を結ぶだろうと感じています。
これからも楽しみながら良いと思える事を淡々と続けていき、この牧場だから効果的に伝えられる事や伝え方を学んでいきたいと思います。

最後になりましたが皆さんはだちょうさんほど暑さに強くないでしょうから、身体には本当にお気をつけてお過ごし下さいね!
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どら焼きを焼く時、精神科病院で担当していた患者さんのことを思い出します。

2025年04月04日 | 日記
どら焼きを焼く時、精神科病院に勤めていた時に担当していた患者さんのことを思い出します。

その方は数十年入院していました。

当時支援する親戚等も誰もいなかったので、少ない障害年金から、入院にかかる費用を抜いた本当にわずかなお金の管理も含めて私は手伝っていました。
私とお金の管理について相談する中で使えるわずかなお金の中からパック入りの羊かんを買うことが楽しみだと教えてくれました。

お金を渡される日、受け取ったお金を大切に握りしめ、売店に向かう様子を今でも鮮明に覚えています。
薬の副作用でおぼつかない歩き方が、いつもより弾んでいるように見えました。
その後売店で羊かんを買った患者さんが階段を登っていく姿を見かけました。
窓がない暗い階段のはずなのに、その患者さんにだけ日が差しているような明るい表情でした。
数十年ほとんど変わらない入院生活の中で、お菓子がどれだけその方を慰めてきたのだろうと考えさせられました。

あの患者さんの事を思い出すと、私にとってはたくさん作ったお菓子の一つであっても、その一つが誰かを喜ばせ、活力につながる大切な物だと思えます。
お菓子の販売やお菓子作りを淡々と続ける事の大切さを教えてくれた原点の一つです。

今日、4月4日はどら焼きの日です。
4と4が合わさり、どら焼きを食べて幸せ(4合わせ)にという想いから決められた日だそうです。

私の焼いたどら焼きが、今日どこかで誰かに食べてもらえて、その方が幸せになってもらえていると想像するだけで、本当にとても嬉しい事です。

そして、いつか偶然にでもあの患者さんが食べて喜んでくれれば良いなと思いながら、これからも淡々と一つ一つを丁寧に焼いて行こうと思います。


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あけましておめでとうございます

2025年01月06日 | 日記
あけましておめでとうございます。

旧年中は誠にお世話になりました。

皆様のおかげで質も量も充実したご飯をあげられています。

冬至を過ぎたばかりの寒いニセコでもだちょうさんは元気に卵を産んでくれています。



最近は雪を求めてニセコに多くのお客さんがいらっしゃって色々買っているようですし、年末年始にかけて地元の方の消費も増えているよう、オカラやビール粕、寿司屋さんの貝殻等がたくさん頂けます。他にも冬に仕込む日本酒の酒粕やニセコの秋を彩ったハロウィンカボチャ、パン屋さんの廃棄パンも美味しそうに食べています。














夏には八百屋さんからは毎日のように軽トラいっぱいの廃棄お野菜等をいただいてましたし、色々な農家さんからたくさん廃棄予定のお野菜をいただきました!





ここに挙げきれていない方々も含めて本当にお世話になりました!


牧場の由来である有島武郎さんがニセコに遺した「相互扶助」という考えがあります。

彼は土地を小作人に無償解放する時に私達生産者はその土地に責任を感じ、互いに助け合ってその生計を計るようにと願いました。

ニセコの産業発展に伴って増えるゴミを資源として利用し、自然に負荷をかけないようにする事は彼の願いに沿うことでしょうし、助け合う事が地域と牧場がこれからも発展し続ける為に必要なことだと思っています。

現在、牧場では年間数百トンの産業廃棄物になるはずのものを有価物に変えられていて、これは本来かかっていたであろう処理コストや飼料に費やしていたであろうコストに加えて、処理や飼料を生産、運搬する為にかかったであろう自然への負荷を減らせたといえます。

助け合いながら発展し、経済的に自立する事と生産の大本であるその地域や環境を守る事の両立を有島武郎さんは「その土地に責任を感じ」というメッセージに託しているように思います。

こういった「相互扶助」という考えに根ざした取り組みは持続可能な畜産に繋がりますし、食料の安定供給に繋がります。

例えば、飼料をほとんど外国からの輸入に依存してきた日本の畜産業界において、円安や日本の購買力低下による飼料の値上がりが深刻な問題となっています。

利益を大きく出来ると見込んで、海外からの飼料に頼って経営規模の大きくした事業者や農家は現在苦しい経営を強いられているようです。

むしろ放牧酪農や規模を絞って無理のない経営に注力してきた農家の方がこの難局でも苦しむことなく持続可能な農業を続けられる展望を持っているように思えます。

こういった地域で資源を循環させる取り組みはこれからも拡がっていって欲しいと思います。


現在、世界中からニセコにたくさんのお客さんが訪れており、それを見込んで様々な事業者さんが新しい取り組みを始めています。



パークハイアットニセコHANAZONOさんでは、数年前からお声かけ頂いたご縁から牧場のどら焼きをデリにて取り扱って頂いております。

ご好評いただいており、ニセコの好景気を一事業者として実感してします。

ニセコの景気が良い状況を体感していると新商品を作ったり、規模を拡げていったりする事等も魅力的に思えてしまいますし、その方が賢いのかもしれません。

けれど、これからも自然や動物達への感謝と尊敬を忘れず、身の丈にあった経営を泥臭くても淡々と続けながら、お世話になっている皆様や地域に還元出来るよう励んでいきたいと思います。

またいつものように長くなってしまいましたが、今年も宜しくお願い致します。

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お店は今日から冬季休業に入ります

2024年11月24日 | 日記
お店は今日から冬季休業に入ります。

どら焼きやお菓子を今年もご愛顧いただきまして、誠にありがとうございます。

例年以上にお買い求めいただいたので、現在どら焼きは一部店舗様を除き委託販売、通信販売共に休止しております。

もうすぐ無くなると伝えてしまうとどら焼きを買い占める方もいるかと考え、販売休止の連絡が遅くなりましたこと、ご容赦いただければと思います。

なお、ダチョウの卵マドレーヌの製造と販売は継続しておりますので、道の駅さんなどで是非お買い求めください。

当牧場ではお肉を含めて製造、販売する商品の99.9%を売り切るということを実践しており、今年も無事にほぼすべての商品を売り切ることができました。

だちょうさんたちを飼わせてもらい、その命を頂いて商品を作り、販売させていただく責任として、毎年の目標にしていることが皆さんのおかげで今年も達成できたことを大変有難く思っています。

幼かっただちょうさんたちも成長して、卵をたくさん産んでくれるようになったのですが、それ以上にたくさんのお客さんにご来場いただき、お買い求めいただけたという事実に私自身が一番驚いております。

ダチョウという鳥は鳴かず飛ばずを体現する珍しい鳥なのですが、この牧場も長い間その言葉通りの状況であったことを牧場を10年以上前からみてきた皆さんはよくご存じかと思います(笑)

今ではとても認知していただけるようになり、様々なメディアからの取材にお断りしなくてはならないことも増えました。

各メディアの方々には本当にお世話になってきているので、大変心苦しいのですが、牧場で昔から楽しまれている方、これから牧場を訪れて楽しい思い出を作られるかもしれない方、メディアを通して牧場の様子を楽しまれる方、だちょうさん、働く私たち、それらすべてにとって良い形で持続できる方法を模索している最中でして、これからもお断りさせていただく際はご容赦頂ければ幸いです。

なお、媒体がどれだけ有力かどうかで出るメディアを選んでいるわけではもちろんございません。

時期によって協力する事が難しい場合やご要望頂く内容がダチョウの生態について誤解を招くと考えられる等、当方で総合的に考えてお答えしておりますので、これからもどのようなメディアの方でもお気軽にご連絡ください。見られる方が楽しんだり、喜んだりしてくれる物を作るお手伝いをすることはとても勉強になります。

ダチョウ事業の存続が難しいと思える時期を越えて、今までこうして経営を続けていられることはひとえに注目してくださっているお客様からのご厚情の賜物と考えております。

これからも日々だちょうさんのお世話や牧場の仕事などをしっかりこなし、楽しみにしてくださっている皆さんに楽しく、良い思い出となるお店を作っていきたいです。
皆様に少しでも恩返しができるよう、精進していきたいと思いますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。

また来年の春、皆さんにお会いできる事を楽しみにしております。

それまで皆さんもお元気でお過ごしください。


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だちょうさんがすぐ逃げることから私たちが学ぶべきこと

2024年09月23日 | 日記
牧場ではだちょうさんが急に走り出すことがあります。
良く理由を尋ねられますが、注意深く観察していないと気付かないような些細なことでも走り出します。
一羽が走り出すと近くにいる子が一斉に走り出すことが多いです。
些細な理由で走り出すことや走り出した理由を覚えていないということから、だちょうさんは頭が悪いといっているお客さんが最近は増えています。

これは大きな誤解があると思います。
自然界において、群れを作る動物は周りの仲間の緊張している様子や逃げる動作等から危機を察知しています。自分の眼や耳といった感覚器官の情報にだけ頼っていては命が守れません。
周りが逃げれば自分も逃げるのは当然のことで、その逃げる理由などをいちいち考えていては逃げ遅れてしまいます。
また、だちょうさんは眼の良さでは他の陸上動物より優れていますが嗅覚や聴覚は他に優れている動物がいます。そういった動物が逃げ出したなら、自分たちが原因を何も分からなくても逃げ出した方が安全です。
速く長く走る能力で他の陸上動物に決して負けないので、走り出してしまえば先に逃げ出した動物よりも生き延びる可能性が高くなります。
走り出した理由を覚えていないから頭が悪いという考えは、走って逃げだすことに理由が必要な人間ならではの発想ではないでしょうか。

私たち人間は自分の生きてきた数十年程の知識や経験に基づいたバイアスや先入観といったものがあり、自分の生命の危機が迫っている時に適切な行動がとれない場合があります。
例えば火山が噴火した際、映像を撮ろうとして逃げ遅れて死亡する人や落雷する様子や水が溢れる川を動画で捉えている人がいます。
また、自然災害が発生する恐れがある際に避難を勧める情報が出ていたとしても迅速に避難しない人が一定数います。
「自分は大丈夫」だとか「これぐらいは大丈夫」という正常性バイアスと呼ばれる心の動きに従った行動をしたり、今まで大丈夫だったという経験による先入観によって避難しないとも考えられます。

逃げる事に理由が必要な人間が陥りがちな間違いのように思えます。

「〇十年ここに住んでいてこんなことになったのは初めてだ」という言葉はテレビや新聞で聞いたり読んだりしたことがあるのではないでしょうか。

人間が生きる数十年の年月から得られる知識や経験があまり参考にならないことは皆さんもご存知だと思います。

ある時牧場に雷を伴う強い嵐がきました。
だちょうさんは雷鳴が近くで聞こえだすとみんなその場に座り込み、首を地面に伏せて出来る限り体を低くしました
落雷から身を守る理にかなった無駄のない動きにとても関心しました。彼らが生きてきたサバンナのような環境で、雷鳴が聞こえたらすぐ身を伏せた者が生き延びたのかもしれませんね。

これから地球温暖化に伴う地球環境の変化が数十年に一度の頻度といわれていた規模の自然災害を頻発させるといわれています。
数十年程度の経験や知識によってもたらされる先入観によって「自分は大丈夫」と動かないことより、むしろ頭が悪いといわれても、危機を察知したら逃げる能力や備える能力がこれから大切になると思います

だちょうさんは恐竜の性質を一番色濃く残していると考えられている、古い生き物です。
彼らは地球環境が変わり、周囲の生態系が変化していく中で自分たちの生き残れる場所を探しつづけ、現代まで生き延びてきました。

私達賢いといわれる人間が文明といわれるような歴史を作り始めてわずか数千年で地球の環境を大きく変え、年々人間や他の生き物が生きにくくなっています。

人間中心の社会で生活を続けると、私たち人間は他の生き物や自然の循環によって生かされているという事実を忘れ、他の生き物への敬意を失ってしまい、安易にだちょうさんを頭が悪いと言ってしまうのかもしれませんね。

しかし、私達人間は頭が悪いと言われるような行動をだちょうさんがどうして取るのかを考え、そこから学ぶ姿勢を持てるかどうかはとても大切だと思います。

自然や生き物から学び、知識を深めていくことで、それぞれの特性を活かし、持続可能な社会を築いていけると思いますし、そのために何ができるのか常に考え、実践していきたいものですね。






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