杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

中村仁信氏は1ミリシーベルトが危険というのは誤解であると言っていた(後編)

2012年01月25日 | リスク
前編で中村氏は、1ミリシーベルトというのは「防護のための線量」であると述べました。
しかしそうすると実際問題として、本当に危険な線量とか、安全な被ばく量とは一体どれぐらいなのかという疑問が湧いてきます。
核心とも言えるその部分についての議論が、これから行われていきます。


〔安全な被ばく量とは?〕
(56分50秒)
中村 「どこまで安全かと聞かれますよね? じゃあ発がんリスクという事を考えて欲しいんですよ。
 
 発がんリスクから見ますと、もっとも多い原因というのは勝手にDNAの複製エラーが出来て、これ10億に一回複製エラーが出来ますから、30億ある一個の細胞の中のDNAに3箇所くらい出来るんです、必ず。自然にどんどん複製エラーという遺伝子異常が出来ますから…。」
宮崎 「ちょっと待って。それは細胞分裂する時に自然に、自然状態で細胞分裂する時に必ずエラーが3箇所は出来ると、そういう意味ですね。」
中村 「そうです。ですから何にもしないでもがんになると思ってもらっていいです。
 で、放射線によるガンは活性酸素の異常ですからDNA損傷、まあ色んなそれによる原因もありますし、その他ウィルスによるがん遺伝子もある。で、遺伝子がまったくどうもないのにがんになる時もある。そういう事を色々考えますと、3割、30%はがんになります。
 
 で、放射線による増加分というのは、100ミリシーベルト慢性ですと0.5%、300ミリシーベルトですと1.5%、これも僅かなもんで、これ以下は分からない。じゃあどこまで安全ですかと言われたときには、正直言うと分からないと言わざるを得ない
 だけどその僅かな量というのは、いろんな原因でがんになりますから、例えば塩分を取り過ぎると胃がんになります。日本人は多いですよね。今週は塩分を余計に取ったと、その場合のリスクというのはあるんだけども分からない。
 赤身の肉をちょっと今週余計に食べたと、で大腸がんになるリスクというのはあるんだけども分からない。ま、その程度のもんですよと言わざるを得ない。
宮崎 「じゃこれね、今日本人はがんになる確率は二人に一人ですよね。そうすると二人に一人ってすごい高確率じゃないですか、50%だから。そこに今回の事故によって、まあ中村先生は否定なされてるけども、今回放出された放射性物質によってがんが発生したっていうのが、統計的にね、増加って事が考えられる?」
武田 「その直線の延長上で計算したら、幼児に限って言えば、20ミリシーベルト浴びたら150倍になる、幼児にだけ限ったら。あの、幼児のがんって結構少ないんですよ。」
宮崎 「150倍という見解ですがどうですか?」
中村 「さっきから何べんも言います様に、そういう線を引いてそこに当てはめる計算はしてはいけないと。分からないんですから。」
宮崎 「という事は分からない?」
中村 「正直言って分からないんですけども、ちょっとホルミシスの方から言えば、私はちょっと減ってもいいと思ってるんですね。」

*               *               *
この後は中村氏からホルミシス効果を裏付ける疫学データが示され、武田教授は
「まったく納得出来ます。」
とそのデータを肯定した後、あの問題の発言を行う訳です。
ではこれ以下は、再び武田教授も交えた討論をお送りしましょう。
*               *               *
(63分45秒)
武田 「問題はね、まさに研究…だからもちろんまさに今、福島原発が起こったタイミングが悪かったという話もありますよ。もうあと30年長かったら、被ばくは健康にいいんだという事になって、そしたらどういう事になるかというとですね、まず先ほどの原発で働いてる人の被ばく量が1ミリシーベルトにしてると同じ様に、原子力発電所の設計自体も変わっちゃうんですよ。
 設計ってのは1年1ミリシーベルトだという事で設計されてるんですよ。それに基づいて全部社会体制が出来てて、且つ従業員も1ミリシーベルトにしている。一般大衆も1ミリシーベルト。」
宮崎 「法律も1ミリシーベルト」
武田 「今の段階でお母さんが自分の子供を考えた時に、放射線浴びた方がいいって決断出来るかって。」
宮崎 「出来ない出来ない。」
武田 「僕は出来ないって思ってる。出来ないと思ったら国はね、1年1ミリシーベルト! 例えば武田説であるならば5ミリシーベルトまでは許すというぐらいでやらないと、不安が広がってねどうにもなんない。やっぱり手続きを踏んで、ちゃんとした放射線のデータを出して、みんな国で合意して、そしてもう利権のやつらはじいて、そしてこれで行くと、いう風に早くやんなきゃいけない。早くやんなきゃいけないけども、今はだめだってのも僕も分かります。」
宮崎 「それはもう、科学的真偽の追求とは別のレベルの議論で、どのように社会的合意を取り付けていって(この合意は専門家の合意じゃなくて社会的合意)、政策を展開していくか、決断して展開していくか、そういうレベルの問題であると。」
武田 「私はね、一年1ミリシーベルトは健康の問題ではない。約束の問題だっつってる。一年1ミリシーベルトで行こうと約束しちゃったんだから仕方がない。
宮崎 「それは社会契約のようなもの。」
武田 「我々が間違ってるんだったら学問的にはね、やっぱり正しくしてかなきゃならない。それには時間がかかる。僕はね、研究データとしては今も明らかかもしれないけど、日本の学者を納得させ、世界の学者を納得させるのにちょっと20年ぐらいかかるんじゃないかと。しょうがない。」
中村 「そうなんですよ、実はね。意外と武田先生と意見が同じですが、世界的に見ると中々納得しない人が随分います。
 例えばイルカの時のグリーンピース、ああいうのがね放射線でもいるんですよ。ECRR(欧州放射線リスク委員会)ね、こういう人達はもう物凄く過激です。何と言うか、ICRPがまともな事言ってても、もうそんなもん違うと言って議論にならないの。」
宮崎 「ECRRっていうのは先ほど仰った、何万人…」
武田 「(死者が)40万人とか20万人とか。」
中村 「ですからね、そういう人達を納得させるのはまず無理です。で、国内でもですね、テレビで色々見てますと、例えばある某名誉教授でも、放射線は少しでも怖いんだからって未だにずぅっと昔の考えで言われてる方もあります
 で、中々それはICRPの罪もあるんですが、あれだけ長い間少しの放射線も怖いとずぅっと言い続けて、本にも書いて、あらゆる教育をして、世界中ですよそれも。ですから日本人はまだ知らない方ですよ。世界的に勉強してる人は少しでも怖いと頭に染み付いてますですから世界の反応の方がキツイですよ。ですからそれを改めるというのは本当に大変です。」

*               *               *
そしてこの後、子供の甲状腺がんは増えるかという質問が提示されますが、中村氏は「増えない」、武田教授は「増える」と、ここでまた意見が分かれる事になります。
武田教授には思わず「今まで言ってた事は一体何だったの?」とツッ込んでしまいそうになりますが、中村氏は
 「あちらは元々ヨウ素欠乏症の人が多く、足らない所にかなりの量が入ってきた。日本ではそんな量は入ってないし、微量分がすでに入ってるのでそんなにばんばん入ってくるはずがない。」
と言い、武田教授は
 「今までの考え方でいくならば増えると考えるべきだ。専門家ではなくて、今までの世界全体の放射線と甲状腺がんに関する、被ばくと甲状腺がんに関するコンセンサスに基づくと増えると。」
と、相変わらず自分の事は置いといて、「今までそう言われているのだから」という観点からの意見をただ述べるだけです。
そしてその様な発言を宮崎さんはこううまくまとめます。
*               *               *
(69分)
宮崎 「専門家集団の従来の合意であるならば出るはずだという事ですね。まあ、望むらくは中村先生の予測の方が当たってて欲しいと思いますね。」
武田 「そうですね。」

*               *               *
以上がこの対談の主な内容ですが、紙面の都合上カットされている部分もある事は断っておきます。
また、中村氏はホルミシス仮説を支持していますが、これはICRPの見解ではなく、あくまで中村氏個人の考えである事が対談の初めで本人の口から語られています。
そのため彼の発言には多少バイアスがかかっているかもしれず、また中での発言そのものの信憑性も、この対談だけでは確認する事は出来ません。ですから私としては、ここでの中村氏の説すべてをこのまま信じてしまうにはちょっと抵抗があります(信じたい気持ちはありますが)。
でも中村氏は、昨年3月27日と4月17日に放送された「たかじんのそこまで言って委員会」の中で、「多少の放射線は体に良い」と発言して物議をかもした訳ですが、その放送後彼は「月刊新医療2011年7月号」にこのような所感を発表しています。
「放射線科医として原発事故放射能漏れに思うこと」(pdf)
(以下引用 ↓)
「もちろん、低線量で健康被害がないからといって、被ばくを減らす努力がいらないわけではない。その理由は、がんの発生には多くの要因が関わっており、放射線だけと考えれば問題のない量であっても、他の要因に上積されて、がんの多くの原因の中の一つになる可能性があるからである。

「最後に、風評被害も含めて原発事故被害の大きさを実感した今、地震大国日本に原発はあわない、時間はかかっても原発のない社会をめざすべきであろうという気になっている。

(↑ 引用終わり)
これを読みますと中村氏は、ただ無条件に安全ばかりを訴えている訳では決してない事が分かりますし、私自身もこの意見には賛同するものです。
この所感は7月に発表されていますが、このDVD特別企画対談は、中で8月末に東電が累積放射線量を発表した件を述べていましたので、多分9月頃に収録されたものと思われます。つまり中村氏は、先の思いを胸にこの対談を行った訳です。
このケンカ討論の大きなテーマは、「怖がるならば正しく怖がる、怖がらないなら正しく怖がらない、そのためにはどうすれば良いのか?」という命題を視聴者に提示するものです。
ですから私達がすべき事は、片一方だけの意見に捕われる事無く事実を冷静に判断する、これに尽きると思います。
例えば、中で語られたホルミシス仮説についても、調べてみると最近では色々と研究が進んでいる様に見えますが、実験はまだマウスの段階ですし、有意であったとする統計のデータでも、見方によっては色々解釈される様なものです。
つまり実際にはまだまだ科学的には未解明な部分も多く、個人的には今の所は様子見というスタンスでいるのが正解ではないかと思います。
それと、調べたサイトでたまたま見つけた「LNT理論に関する論争」というのも中々興味深い内容です。
こういうのを見ますと、低線量での被ばくの影響というのは中村氏の言う通り、未だに(影響があるのかないのか)「分からない」という部分なのだという事が理解出来ます。
私などはこんな時、影響があるのかないのか分からないとするならば、要はそれほどまでに小さな影響でしかないのだなと思ってしまうのですが、これは楽観的過ぎるでしょうか。

それと、ネット内での議論を見て感じるのですが、冷静に放射線の影響を調べて安全であると判断する事と、原発擁護か反原発かという事は別な事です。
ネット内ではしばしば、安全を唱える者は原発推進派の御用学者とか「エア御用」などと揶揄する姿が見受けられますが、そういう人達には「安全を唱える反原発派」というのは、果たしてどういう姿に映っているのでしょうか。
それを「工作員」などと、まるでスパイ小説の読み過ぎかと思える様な決め付けをしている人も見受けられますが、こういう単純な二分法でしか語れぬ様にならぬ様、私達は普段から、様々な視点からものを捉えようとする事が重要なのだと改めて感じるのです。


11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
安全をとなえる反原発派 (とある物理学者)
2012-01-26 17:51:43
いつもおつかれさまです.

こういった生物の問題を考える際,メカニズムを生化学的に研究することと,統計的に有意であったか,つまり疫学調査を行うことは,独立かつ両方とも並行して行う必要があると,私は考えます.

それからもう一つ,低線量被曝とホルミシスの問題は分けて考えなくてはいけないと思います.

と,申しますのも,たとえば,ホルミシス療法だったら,患者さん,というか対象者に不適合であるとみられるような症状があらわれたとき,治療を中止できますよね?
でも,低線量被曝や内部被曝は,中止しようと思っても,生活環境をドラスティックにかえない限りは中止できません.
だから,ホルミシスを低線量被曝のリスクの議論と一緒にするのはまずいと思います.

そもそも私はホルミシスについて完全に理解しているわけではないのですが,健康によい,といっても,おそらく筋トレみたいなものなんだと理解しています.
(勘違いだったらすみません.)

たとえば,健康な人であれば筋トレは健康に非常に有効です.
まず,筋肉に限界近い負荷をかけて,乳酸をだす,つまり筋肉痛状態をわざと作る.
その筋肉痛状態から回復する休息過程で成長ホルモンをあびて筋肥大がおこり,次回はモット強い負荷に耐えられるようになる,
つまり,筋トレに必要なのは負荷をかけることだけではなく,その後の休息過程も必要です.

そのイメージだと,大雑把に放射線ホルミシスは,放射線をつかってわざと細胞にダメージを与える.
ダメージをうけた細胞は,ダメージからの回復後には次に同じくらいの負荷が来たときに耐えられるような免疫力を準備してそなえる.
というサイクルかと思います.

メカニズムから考えれば,筋トレも放射線ホルミシスも,健康なオトナに対しては有効でしょうけど,幼い子供や免疫力の弱っているお年寄りに有効なワケがありません.

どちらも要は,健康状態を把握しながら自分の意志で行ったり中止したりが出来る状態であれば非常に有効だということです.

また,低線量被曝やホルミシスに関して,そもそもラットや動物実験が有用なデータを与えてくれるとは思えません.
ラットの寿命と人間の寿命(細胞分裂サイクルの速さと置き換えても良いかもしれません)を比較しただけでも全然ちがうので,放射線のように複雑かつ長期的な観察が重要な事象には,動物実験は向かいなのではないかと思います.

もし仮にですが,低線量被曝の効果でガンが発現するよりも早くラットが寿命を迎えるとしたら,ラットを用いた動物実験は全く役に立ちませんよね.

加えて,放射線ホルミシスを唱える方は,広島や長崎では,低線量被曝地域の方はむしろ平均より寿命がながい,という主張をされているのも見かけます.
これに関しても,私は,この長寿命な方々というのは,母集団はもともと太平洋戦争と原爆投下という過酷な状況を生き抜くだけの「生命力」が優れた方なのですから,それを一般の寿命と比較すること自体がナンセンスなのではないかという疑問を抱いています.

つまり,放射線を浴びたから長寿命なのではなく,そもそも母集団として長寿命になるポテンシャルを持っていた,生命力の弱い方々は戦時下の過酷な状況で,統計調査をはじめた時点では他の理由ですでに亡くなっているので母集団に入っていないのではないか,ということです.

そもそも,原爆で放出された放射性物質はそれほど多くはなく,低線量被曝を研究する対象としては統計的に十分ではないこと,また放射線障害に関して詳細なところは米軍におさえられてしまっていたこと,などを考えても,広島長崎は被曝の疫学調査の対象にはならない,と私は考えています.

このあたりを考えると,長崎大学医学部から福島県立医大の副学長に異動された某先生が,地元民に対して地元に残るように強調される理由が怖くて仕方がありません.
(もうご存知かもしれませんが,「シュピーゲル,山下俊一」で検索して出てくる記事を読んでいただけると分かると思います)
福島の原発事故で放出された放射性物質の量は,まだ正確にはわかっていませんが,少なくとも広島型原爆の数十倍であろうと推測されています.

嫌な言い方ですが,20万人の福島県民は,今後数十年にわたり非常によい研究材料になるはずです.

低線量被曝に関して私個人は,いまさら避難云々を計画したり実行してもしようがない,と思っています.
唯一,因果関係が疫学的にも明らかな「小児の甲状腺がん」の原因となる放射性ヨウ素は,半減期8日ですので,もうとっくに消えてなくなってしまっているからです.

また私が最近注目しているのは,循環器系疾患やチェルノビル膀胱炎です.
チェルノブイリ事故に関しても,広島長崎同様政治的理由できちんとしたデータが世に出ていない,というのが残念なところなのですが,最近バンダジェフスキーらの仕事が注目され始めましたね.
バンダジェフスキーの英語の論文は批判が多いのですが,私が注目しているのは,ベラルーシでは死因として循環器系疾患が有意に増加している,という点です.
つまり,低線量被曝はガンだけでなく,心臓疾患もひきおこすのではないか,という話題です.
私ももう少し調べたいと思っているのですが.なにぶん原著がロシア語なもので,英語が併記されていたとしてもなかなか思うように進んでいません.
近いうちに翻訳してくださる方が出てくるとは思うのですが.
(もちろん,私の場合本務ではなく机の下の仕事だからではかどりらない,というのもありますが…)
返信する
たびたびすみません (とある物理学者)
2012-01-26 21:18:11
長くなってしまったのとちょっと本業の用事が入ったので分割してしまいました,すみません.

ところで,やはりOSATOさんの書起しを拝見していても感じるのは,武田氏と中村氏,危険派と安全派の対決みたいな構図だと冒頭でおっしゃっていましたが,結局言い方は違っても言っている内容は同じ,というように感じます.

二つ前のエントリーのところのコメントにも書きましたが.ICRPにしても日本の暫定基準にしても,それほど数字に深い意味はないんじゃないか,と思います.

因果関係は結局はっきりしていないし,これを超えたら病気になる,という基準値ではなく,一応ここまでにしておきましょう,という数字だからです.
その陰には,思惑はいろいろあれど…

出典を忘れましたが,311の地震以前,過去には原発作業員で年間5mSv程度で白血病を発病し死亡して,労災認定がでたという話を聞いたことがあります.
この方の場合,放射線業務従事者だったので基準値は100mSv/5yearのはずですが,5mSv/year程度でも労災認定はされたという判例だったとおもいます.

もちろん,現場で作業している時はルクセルバッヂやポケット線量計で絶対に上述の100mSv/5yearは超えないように管理されていたはずです.
ですが,それ以下の被曝でもある程度勤務状況が過酷でると判断されれば,労災認定はでる,ということです.
ここには二つの問題があって,
1. 個人差で,被曝量が基準値以下でも人によっては発病し死亡してしまう(確率論もあるかもしれませんが),
2. 労災っていうのは結局企業のリスクマネジメント(賠償や訴訟というリスクに対する管理)の問題もある,
ということです.

基準内の残業時間だったけど突然死しました,労災認定されますか?っていうケースみたいなものと考えています.

そう考えたときに,暫定基準値の決め方が,きっと前の前のエントリーでコメントしたそろばん勘定なんじゃないか,と.

たとえば,です.
基準を2mSv/yearにしました.
甲状腺がんが発症した児童がいます,
でもその児童の被曝は1mSv/year程度です.
基準値を下回っていますので本来なら賠償金はお支払いできないのですが,わずかながらお見舞金を支払います.
とすれば,患者側の気持ちとしてはなんだか感謝したくなりますよね.
もし,同じ1mSv/yearの被曝でも,基準値が1mSv/yearだったら,賠償金を支払う必要が出て,下手をすれば患者団体が結成されて訴訟がおこる,というシナリオも想定できるわけです.

だから加害者側からすると,基準値は高ければ高いほど良いわけです.
これは,いわゆる「危機管理」ですね.
御用学者と呼ばれる人たちは,気づいてるのかいないのか,そこに加担しているわけです.
ほとんど発病する可能性のない数字ですよ,と強調したいから放射線ホルミシスとか,いろいろな極端なものも引っ張ってきて安全性を強調する.
(この作業の裏では,きちんと数字を計算したり,自分の研究を紹介したり,はたまた原著にあたってデータを調べたりといった作業も必要になってくるので,学者としての自尊心も満たせるのです.)

一方で,危険だと言っている学者さんたちはどうかというと…

震災からもうすこしで一年が経ちます.
人間の心理には安全バイアスっていう厄介なやつがあるので,その安全バイアスや将来の保障問題も含めて,危ない,きをつけろ!と主張したい.
だからできるだけ極端な事例を紹介して危険性を訴え続けたい,と.
(この作業の裏でもやはり,きちんと数字を計算したり,原著にあたってデータを調べたりといった作業も必要になってくので,学者としての自尊心も満たせるのです.)

私は八方美人なので,普段はあまりこういった議論のときは積極的に自分の意見を言わないようにしています,すみません.

震災直後に,「上」から,
「勝手な発言,発表は控えてくれ」
と,圧力をかけられ,何も出来なかった自分に憤りを持っています.
当時,私の所属機関のスタッフもボランティアで緊急被曝スクリーニングを実施しに福島へいっていました.
当初は私も行こうとしたのですが,周りから「若いんだから…」(私アラフォーです)と説得され,結局行きませんでした.
私も結局そんなへたれなんです.
返信する
様々な見方 (OSATO)
2012-01-27 00:07:40
>とある物理学者さん

コメントありがとうございます。
まず、ホルミシス効果についてですが、記事内でも触れましたが、これは今の所はあくまで「仮説」という扱いで見ていようと思っております。
ただし、人体には「復元力(修復力)」というものがあるのもまた事実です。実際人類は放射線だらけのこの地球上で進化してきた訳ですから、元々それなりに抵抗力は得ていると私は思っています。(参考 ↓)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-02-12
ですから尚の事、とある物理学者さんが仰られるように、幼い子供や免疫力の弱っているお年寄りに対しては、余計注意が必要であると思います。

また山下さんについてですが、シュピーゲル紙のインタビューは私も読みましたが、大分誤解されて受け取られている人が多いみたいですね。
最近ではこのような意見も見受けられる様になりましたよ。↓
https://www.evernote.com/shard/s105/sh/0c90e408-d2fd-439f-be03-34e5a00c1ab5/f66be0031f9cc160c4674acbd68b9a92
またついこの間(現在もですが)発売された「通販生活」に山下さんのインタビューが載っており、それはウェブ上でも読めます。
こちらからのリンク先を参照下さい。↓
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak571_575.html#zakkan573

バンダジェフスキーの論文についてはこちらで解説されてますが、私には大分専門的なのでぜひそちらでもご検討下さればと思います。↓
http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110701
(長くなりましたので、一旦切ります。)
返信する
続きです (OSATO)
2012-01-27 00:55:11
暫定基準値については、元々100ミリシーベルト以下の低線量部分についてはよく分かっていない所なのですから、結局その部分は解釈次第となってしまうんでしょうね。
ICRPは放射線防護の立場からかなり安全側に立って放射線量の基準を設定している訳ですが、その詳しい部分が理解されぬまま、ただ数字だけが踊ってしまって混乱をきたしてしまったと思います。
労災認定における基準でも、最近こんな記事が出ましたね。↓
http://www.asahi.com/health/news/TKY201109120571.html
これによりますと、
>【この基準は白血病の発病と被曝線量の因果関係を医学的に証明したものではない。】
とあり、労災認定ではあくまで防護のための被ばく限度量が基準となる訳です。
そうなれば仰る通り、今は一般人は1ミリシーベルトですから、それまでの解釈ならば、それを僅かでも超えていて何か病気になった場合でも訴える事が可能となる訳です。
でも果たしてそれで良いのかという思いはあります。
実際は市民の健康調査のために行っている線量検査も、そうなった時は市民側から、これは賠償逃れのための検査ではないかという疑惑が出てきて、それこそ因果関係を巡る果てしない水掛け論が湧き上がるかも知れません。
果たして政府はこういう疑念を払拭出来るのだろうかと、今から余計な心配をしてしまいます。

ただ、
>「勝手な発言,発表は控えてくれ」
との「上」からの命令とありますが、震災直後ならばまだ十分なデータもなかった頃ですし、上の方もあの有様でしたから、市民に余計な混乱を起こさせない様勝手な発言を控える通達を行う事は理解出来ます。
まあ、控えすぎた感が否めないのは結果論ではありますが。

ただとある物理学者さんも、これからは専門の立場から色々言っても良いと私は思いますよ。
今まであまりにも専門家からの意見が少な過ぎたと私は思っておりますので。


あと、出来ましたらもっと呼びやすいHNに変えていただけたらと…(^^;)。
返信する
いつもありがとうございます (物理学者あらためヘタレ)
2012-01-28 18:44:15
いつもありがとうございます.

バンダジェフスキーの上述の英語の論文は存じ上げていましたが,リンク先の日本語の解説には…ですね.
リンク先の解説者の方は,バンダジェフスキーの論文をもとに,甲状腺にたまったセシウムと甲状腺がんは関係がない,みたいにむすんでいましたが,これこそ恣意的と言わざるを得ないでしょう.
元論文の結論としては,

The Cs-137 burden in the organisms of children
must be further investigated and the pathogenesis
of different diseases intensively studied.
This is an urgent need, as radiocontaminated agricultural
land is being increasingly cultivated and
radiocontaminated food is circulating countrywide.
Schoolchildren in contaminated areas received
radiologically clean food free of charge in
school canteens and spent a month in a sanatorium,
in a clean environment, each year. For reasons of
economy the annual sanatorium stay has been
shortened, and communities in some contaminated
areas have been classified as “clean”, thus
ending the supply of clean food from the state.

です,つまりガンが云々ということはいっさい言っておらず,子供達をクリーンな環境にいさせられるように,という主張です.
たしかに学術論文なのに政治的主張をしているので,いかがなものかという意見も分かりますが、この論文をもって甲状腺がんとセシウムは関係があるかないか,という議論はいっさい出来ないのではないでしょうか?
まぁ,もっとも私もセシウムと甲状腺がんは全く関係がないのではないかと思っていますが.

私が申し上げたバンダジェフスキー氏の仕事,というのは,この論文のことももちろん仕事ですが,彼が実際に過酷な状況のなかでデータをとった,ということが評価されるポイントなのではないかと思います.

また長くなってしまいそうですが,バンダジェフスキー氏はおそらく反政府的な思想を持っていたのでしょう.
その執念でデータをだしてやろう,として一連の仕事になったと思います.
私はまだ検証していませんが,多少偏った解釈や議論の方向性はあるでしょうね.
でも,データのねつ造はないだろうと思っています.
医学部に知り合いは沢山いるので,周りの先生にも話を伺ってみますね.

一般的に,データと,その解釈&解析にはまったく別の意味があるので,元のデータがどういうものなのか,そしてそれをもとにした解釈にムリはないか,(恣意的な解釈があるんじゃないか)と,常に気をつけて情報収集することがいかに大切か,最近のネット社会をみているとよくわかりますね.

学術の世界にも色々な方がいて,貧相なデータをもとにすばらしい理論を展開される方もいらっしゃいます.

たとえば,以前お話しした,私が測定した空間線量のスペクトルに関してですが,ある人は,セシウムのピークをみて,
「これはビスマスや鉛ともとれる」
という言い方をして,原発事故による汚染はない,と主張しようとした方がいらっしゃいました.
私はついイラッときてムキになって論破してしまいましたが…

細かい話になりますが.セシウムや鉛,ビスマスのピークの中にはエネルギーが近いものもあるので,一本のピークだけをみるとそのようなケチの付け方も可能なのです.
しかし実際は,セシウムも,たとえばセシウム137だけみても複数のピークがでますので,ペアで考えれば絶対に見間違えることはありませんし,現段階ではセシウム134も見えますので,半減期からもセシウムの存在は支持できるわけです.
そして,周りに別のピークがないことから,(セシウムのピークからはなれた位置に出るはずの鉛やビスマスのピーク)私が測定した地点での空間線量は,おもにセシウムとカリウムで,セシウムについては134も多く見えるので,最近放出されたもの,と結論づけられるわけです.

あさイチのスペクトルしかりで,ペアがキチンと出ていないのに,ひとつのピークエネルギーだけをみて適当な話をしてえらそうな顔をしても,テレビでは素人にはいっさい分からないので,ありもしない夢物話をかたることも可能になります.

先ほどの私が測定したスペクトルも,もし曖昧な知識しかない,もしくは恣意的な解釈を加えて発表すると,
「これはきっと鉛とビスマスのスペクトルですね,っということは福島原発からは放出されたセシウムは東京では観測されてないということになります.鉛やビスマスはきっと過去の大気核実験の名残でしょう…」
という主張になって,だれからも見破られないかもしれません.

データのクオリティと,虚心坦懐な解釈,そしてそれを広める媒体の三つがきちんとそろわないと,正確な知識は広まっていかないでしょう.

科学者の上述のような考え方がエスカレートすると,科学者対一般人みたいな対決の構図になってしまうのではないか,と,個人的に危惧しています.
たとえば,福島の住民の知的レベルは低いので,きちんと説明してもどうせわからないから,ニコニコしていなさい,という発言をしてしまい,あとでしっぺ返しをくらう,ということも考えられます.

山下先生は,チェルノビルにも自ら出向かれて,立派な先生だと存じていましたが,ちょっとしたうかつな発言で国際的にも評判をおとしてしまわれたのではないかと思います.

こんな事態になったのも,偽科学が流行るのも,ひとえに理科離れが一因を担っているのではないかと思わざるを得ません.

ネットの情報は玉石混淆なのでよくわかりませんが,情報はなるべく原著にあたる,という姿勢で,今後も気をつけて世の中を見守っていきたいと思っています.

いろいろとありがとうございました.
返信する
穴あき事件 (へたれ)
2012-01-28 18:54:35
追伸です:
たとえ震災直後の混乱期でも,セシウムやストロンチウムが関東である程度の量観測されたら,原発に穴があいた,と思わざるを得ないと思うのですが…報道は当時変わらずメルトダウンはありません,炉心は健在です,ばかりだったので,あぁ,こんなものなんだ,と思って脱力していました.

まぁ,原発に穴があいたから避難しろということを聞かされる心理的ストレスの方が命の危機を招く,という判断なら仕方がないか,と思って納得しています.

もう今となっては穴があいているのは常識で,もしかしたらメルトスルーに至っているのではないか,という意見さえありますね.
でも,たとえそれが本当で,原発地下の土壌に大量の燃料棒が解け落ちて汚染されたからと言って,今更どうなるわけでもないし,今後しばらくは確かめるすべもないんですよね.
返信する
説明不足でした (OSATO)
2012-01-29 01:35:51
>へたれさん
(いや、いくらなんでもやっぱりこのHNはちょっと…(^^;)。出来れば「へいた」とか、せめて呼ぶのに抵抗ない名前にしていただければと。)

バンダジェフスキー論文の解釈についてですが、その前コメントで紹介したリンク先のタイトル
「セシウムは甲状腺に集積して、甲状腺癌を引き起こすのか?」
というのは、元々これを言っているのはあそこの管理人さんではなく、セシウムで甲状腺ガンも出ていると言いって、その根拠としてあの論文を持ち出している輩がおりまして、↓
http://www.asyura2.com/11/genpatu13/msg/296.html
あれはその説に対する反論としてのエントリーなのですね。
だからあのエントリーの結論としては、(このバンダジェフスキーの論文は甲状腺がんが増えるという類のものではなく、)
(引用 ↓)
>セシウム137は甲状腺にも若干蓄積する可能性はあるが、飛び抜けて多いわけではない、という論文でした。
(↑ 引用終わり)
という事であるという訳です。
この辺の議論はその前段階から色々な流れがありましたので、そこの所を先に説明すべきでしたね。

あと、事故当時の原発の件ですが、これはまずベント作業というものもありましたし、この時点で多分炉心は損傷していたと思われますが、あの時は詳細なデータもなく、それがどの程度であったかを論じる事は誰にも出来なかったでしょうね。何せ次から次でしたし。
現在もどういう状況であるかは想像でしかない訳ですが、この状況下において我々がなすべき事は、まずは降り積もってしまった放射性物質の量と状況を正しく把握する事と、放射線そのものに対する正しい理解という事しかない様に思います。
原発の修理作業については仰るとおり、我々がどうのこうの言ったってどうしようもなく、ただ現場の人達の頑張りを祈るのみですね。
返信する
おつかれさまです (へたれ改め平蔵@昼休み)
2012-01-30 13:31:25
今私の周りではバンダジェフスキー氏の2009年の論文が参考になるよ,っていう話が出てきていて,私も読んでみようと思っているのですが,我々にとって今は本業が一番繁忙な時期でして,なかなか進んでいないのが現状です.

いや,わたしはそもそもネットに疎くて,いろいろ情報検索するのも手際がわるいので,OSATOさんにもいろいろ教えていただけているので助かっています.

ベント作業についても,当時からずっと疑問だったのですが,そもそもベントしたところで,当時の東電や政府の発言が正しければ,放射化された水蒸気みたいなものはでても良かったとは思うのですが,ウランの崩壊生成物が表に出ていい理由がわかりませんでした(いまでもわかりません).

まぁ,結果的には炉心溶融があることを認めたので今では納得ですが.
当時,炉心のダメージはあったとしても限定的とか言っていた段階では,ベント作業で大量にウランの崩壊生成物が表に出るというのは矛盾に感じていました.

私の考えでは,セシウムもヨウ素も,本来は,燃料棒のペレットの中に存在すべきものだからです.
この辺も,「人(国民)を馬鹿にしているなぁ,」と思ってしまった一因なのですけど.
もし私が間違っていたら教えてください.

まぁ,今となってはどうでも良いことですし,おっしゃる通り今がんばらなくてはいけないのは,これ以上被害を大きくしないことと,復興です.

実は私も親族が被災地で農業を営んでいますので,悩ましいところです.
返信する
地道に (OSATO)
2012-01-30 21:46:23
>平蔵さん
(やっぱりこちらのHNの方がずっといいですね。)

この混沌とした状況下では、自分で出来る事と言えば何よりも正しい情報を見極めるという事ですかね。
私は検索の参考に「はてなブックマーク」を大いに利用させてもらってます。
よろしければ平蔵さんも参考になさっていただければと思います(右欄のタグをクリックすれば項目が絞れます)。↓
http://b.hatena.ne.jp/OSATO/
こういう情報は自分一人ではなく、他の人達の助けを借りながら地道に積み重ねていくものなのかなと思っています。

私も福島には友人も親戚も息子もおりますので、今回の事故については自分の事の様に受け止めております。
まあ実際の所、息子に関してはこんな具合ではありますが(^^;)。↓
http://blog.goo.ne.jp/osato512/e/3e238959fabf2bd0355207e4634316e9
返信する
安全性 (平蔵)
2012-02-02 21:12:21
OSATOさん

ハテブ,ありがとうございます.
いつも学生には「ネットの情報は信じるな,原著にあたれ!」と言っているのに,情けない限りです.

もちろん,玉石混淆ですから,原著にあたるのが基本とは思っていますが,知りたい情報がスピーディに手に入るので,逆におそろいし時代だとも思います.

深夜に大学の集密書架で調べもの,なんてのは,もしかしたら過去の遺物になってしまう時代がくるのかもしれませんね.ちょっと寂しい気もしますが.

私個人は,そもそも新書や文芸書のような本に書いてあることは嘘だと疑って読む(所詮営利目的のための書物だから),ネットはもってのほか(責任の所在がはっきりしない),と思ってきました.
武田邦彦先生の(放射線に関係のないような)文芸書なんか良い例で,かなり一方的なものの書かれ方をされるので私はちょっと武田先生のことを馬鹿にしていました.

学生同士でディベートやディスカッションなんかさせたときに,武田先生の著作を挙げる学生がいたら黄色信号,と思っていたくらいです笑

でも,今回OSATOさんの書起しエントリーを拝読させていただいて,武田先生のこと,だいぶ見直しました.
いやむしろそもそもそれ以前に私何ぞは遠く及ばないのかもしれませんが.

ただ,今回の騒動で私自身ちょっと懸念しているのが,安全論が先行して,学生が線源などの放射性物質をぞんざいに扱うようになった,という点です.

私たちの大学でも,もちろん毎週RIをつかった学生実習を行っていますが,学生の態度というか,雰囲気が変わってきたと実感しています.
話題の流れからすると,
「放射能はよくわかんないけどアブナい」→「311以降,予備校や大学の偉い先生が大丈夫って言っていた」→「取り扱いが神経質なウチの大学の平蔵(私)先生はちょっとイタイ」

みたいなノリです泪.

前もお話ししましたが,私は放射線業務は基本「リスクとベネフィット」の天秤で行動するベキだと思っていたのですが,私の考え方が古いのか…

たしかに,学生時代,フッ酸を肩凝りがするくらい神経質に扱っていたら,化学科の奴に馬鹿にされた,ということもありましたし.

リスクアセスメントって,うぅん,難しい.
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。