杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

中川恵一「被ばくと発がんの真実」を読む

2012年01月15日 | 原発
福島市在住の友人からの薦めもあり、中川恵一著「放射線医が語る 被ばくと発がんの真実」(ベスト新書、税込800円)を読んでみました。
中川さんについては以前からネット内で「team nakagawa」とかTogetterなどで情報は追っていまして、最近もこのようなエントリーがご本人から発信されていた事もあり、待ちに待ったという思いで手にした次第です。

本の中身は、決して専門用語ばかり羅列する事無く誰でも平易に読める様工夫されており、対象としている読者層もあくまで一般市民、特に子を持つ親御さんを意識して書かれている様で、最後まですらすらと一気に読めてしまいます。
ただ、あまりに平易に書き過ぎていて、これまで様々な放射線情報を収集していた人にとっては少々物足りなく感じるかもしれません。
また、どうしても説明内容が駆け足の様に感じられる所もあり、もう少し原典の案内なども載せた方が良かったのかなとも思います。

気になった所では、【論争の的「100ミリシーベルト以下の被ばく」をどう見る】(p.26~p.30)の項目ですが、ここではもう少し「リスク」という言葉に対する説明をしても良かったのではないかと思います。
「発がんのリスクが上昇する」という説明では、多くの解説でこの本も含め以下のようなグラフがよく用いられます(p.29)。
  

これが必要以上の誤解を与えるものと思われるのですが、前回エントリーで取り上げた「超原発論」DVDの中で紹介されていたグラフがより現実的に思えたので、ここで改めて紹介しておきます。
 

つまり、放射線の影響がまったくないとしても、元々ガンで死ぬ割合のベースは常にこれだけ(30%)存在しているという事です。
ですから、本の帯では「フクシマではがんは増えない」などと赤文字ででかでかと書かれていますが、これも「がん患者が出ない」かのごとく誤解されやすいと思えるので、そこは注意が必要だとも感じます。

p.128~129では欧州放射線リスク委員会(ECRR)の事を「国際機関からはほとんど評価されていません。」と一刀両断に切って捨ててしまってますが、この辺りについてはこちらで詳しく述べられていますので、未読の方はぜひお読みになっていただきたいと思います。
また、『クリストファー・バズビー氏が放射線に効くという「サプリメント」の販売に関与していると報じられている』との記述もありましたが、こちらのサイトを見ますと、只今何やら事が進行中の様です。


震災から10ヶ月経過し、当初混乱していた放射線情報も大分落ち着いてきたかと思いきや、未だに偏った情報が氾濫しています。
その事に対して著者の中川恵一さんは「はじめに」の部分で以下のように述べています。
「(事故後25年の状況を分析した結果)、放射能という要因と比較した場合、精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限、事故に関連した物質的損失といった、チェルノブイリ事故による他の影響のほうが、はるかに大きな損害を人々にもたらしたことが明らかになった」
 私は、さまざまな情報が乱れ飛ぶいま、日本において同様の事態が起こりうることを、非常に心配しています。なぜならば、誤った情報によって植え付けられた恐怖心や不安に基づく行動により、さらに別の深刻な被害が生まれる可能性があるからです。専門家でない人たちまでが堂々と「放射線の脅威」を語っていますが、彼らはいったいこのような可能性について考えたことがあるのでしょうか。私はそれに、怒りに近い感情を覚えています。
(p.5~6)
この一文に中川さんの思いが込められています。そしてその「思い」が、行間のあちこちから滲み出ているかの様にも感じます。

p.145には、福島県の農民をオウム信者にたとえて物議をかもした、あの群馬大教授早川由紀夫氏が作成した放射線拡散地図が敢えて掲載されています。
これなどは、中川さんが早川氏に宛てた無言のメッセージの様に見えてしまったのですが、果たしてこれは、私だけの穿った見方なのでしょうか。


8 コメント

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頭が下がります (菅原@仙台)
2012-01-22 17:32:30
はじめまして。
Twitterで紹介されて、辿り着きました。

ブログ拝見しました。
失礼ながら、ご自分で考え、他の人にも分ってもらえるように、よくまとめられたページだと思います。頭が下がります。

我々原子力村(苦笑)の人間が、本来ならば一般市民の皆さんの不安を取り除かなければならないのに、目の前のこと(津波対策とか、原発起動への工作 (^^; など)にかかりっきりで、何もしてこなかったことを謝らなければなりません。

また、福島第一の事故を防ぐことができなかったことを猛省し、どうしたら日本人が、そして世界の人たちが、幸せに暮らすことができるか、ということを考えなければなりません。

私にできたことは、福島市在住の武田教授信者をひとり、改宗させたことくらいかな。彼女は今ちょうど、チャゲアスのASKAライブで武道館にいて、かなり盛り上がっている頃です。

順一氏と早川先生の公開討論会が、近々郡山市で開かれるみたいなので、都合がつけば出席してみたいと思ってます。

ではでは (^^)/。
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情報ありがとうございます (OSATO)
2012-01-22 22:27:14
いらっしゃいませ菅原@仙台さん、初めまして。
コメントを見ますと原発関係者の方でしょうか? いつもご苦労様です。

>かかりっきりで、何もしてこなかったことを謝らなければなりません。

いやいや、原発従事者の方達は本当によくやってくれていると思っております。
最近になってようやくあの過酷な状況などが紹介される様になってきて、正直目の前の事を処理するだけで精一杯だったと思います。
今は一応落ち着いた様に見えますが、依然綱渡り状態である事に変わりはないと思います。
我々一般住民からすれば、健康に留意しつつ、ただただ頑張っていただきたいと願うばかりです。

>順一氏と早川先生の公開討論会

順一氏と言えば、あの「放射線について学ぼう」の人ですね。↓
http://dl.dropbox.com/u/47386394/tw%E5%85%AC%E9%96%8B%E7%94%A8%E3%83%BB%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E6%98%8E%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99.pdf
順一さんのツィッターを見てみますと、近々本当に実現しそうな感じですね。楽しみです。
当日は私も行けるかどうかは分かりませんが、この件については今後も注目していこうと思います。
情報どうもありがとうございました。また当ブログの方も、今後とも宜しくお願い致します。
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Unknown (Werder)
2012-05-09 23:51:04
遅レスですが一番上の図、閾値に関して人体実験データがあり、紹介しておきますね(↓)。
http://m8bolt.iza.ne.jp/blog/entry/2491447/
この家、年間30mSvの放射線が充満していたようです。世田谷区役所の職員が立ち入り調査で携行していたガイガーカウンターの針が「振り切れた」と記者会見していた事件です。家が出来たS28年から、かなり長期で一家5人が被ばくしていたのは間違いなさそうです。まず、婆さんが92歳の今でも生きている。というか、平均寿命を6年オーバーです。さらに爺さんは既に死亡。癌かと思いきや82歳で老衰。さらに注目すべきは子供3人。幼少の頃から結婚して実家を出るまで、この放射線充満ハウスで暮らしていたと。小児癌、甲状腺癌で死んだかというと今、50~60代で健康に異常なし。幼少の子供が放射線浴びると危ないんだ!が一般論ですが、この子供達はセーフだったと。「年20mSvでは駄目だ!」とあの泣き喚いた大学教授はこの”事実”をどう考えるんですかね(笑)。警戒区域が年20mSvでこの一家は1.5倍の年30mを20~50年の長期間、浴びていたんですからね~。

こういう話はサンプル数が多くなければ正確性はないのですが、このような偶然の人体実験例は希少価値があります。

まあ、勿論、この話、外部被曝限定ですが・・・。
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しきい値論争が再燃? (OSATO)
2012-05-10 01:19:09
いらっしゃいませWerderさん、初めまして。
情報提供ありがとうございます。

ご紹介のニュースは当時大きく取り上げられて、私も興味を持って見ていました。
まあ結果、当人にとっては人体実験の様になってしまった訳ですが、いずれにせよ低線量の影響は個人差が大きいと思いますので、この一例だけを挙げてどうこう言うのも無理があると思っております。
ただ、

>外部被曝限定ですが・・・。

この生活状態では内部外部関係なかったのではないかと思われますね。

そう言えばしきい値に関して、最近こんな研究結果が発表されましたね。
「原爆被爆者の死亡率に関する研究 第 14 報 1950–2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要」(pdf) ↓
http://www.rerf.or.jp/library/rr/rr1104.pdf
これによれば、計算上ではしきい値はないという結果になった様ですが、いずれにせよ問題となるのはガン死の【リスク】ですし、放射線より大きな影響があるリスクはたくさんあるという事を忘れてはなりませんね。(参考 ↓)
http://www.gepr.org/ja/contents/20120416-03/

このレポートについてまた武田教授が吠えてますので、これからしきい値論争がまた始まりそうですね。↓
http://takedanet.com/2012/04/post_25e2.html
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Unknown (Werder)
2012-05-10 02:29:47
>この生活状態では内部外部関係なかったのではないかと思われますね。

いや、”瓶”には蓋がしてあっただろう(たぶん?)からラジウム(鉛、ビスマス)の粉は吸いこんでいない(口に入れていない)と推測すれば外部被爆のみ?

>そう言えばしきい値に関して、・・・

医者ではないド素人の私でも簡単に突っ込めそうなところはあります。S20年、8月に被爆した人達が実験データですよね。火垂るの墓に出てくるような栄養失調の人達が多かった時代です。抵抗力の落ちた人達が放射線浴びるのと、S20年当時よりは遥かに栄養状態が良い現代の人達を同じ土俵で比べられるのか?です。抵抗力の弱い、老人ホームでノロウイルスが発生すれば死者発生。大学生の学生寮で発生すれば、下痢、嘔吐⇒入院⇒回復とかみたいな話?

あ、そうそう。ブログ主様は仙台在住ですね。私は大阪在住の仙台人です。先月、墓参りに帰仙したついでに福島市内で除染ボラ、仙台の七郷で農地復旧ボラに行ってきましたよ。福島の、私が行ったところで、通学路で20mSv(局地的、高さ0cm)が一番高い除染場所でしたね。通学の小学生達のあどけなさが救いでもあり、痛々しくもありました。
 七郷の田畑のほうは、大きな瓦礫は撤去されていましたが、よく見ると、小さな瓦礫(石ころ、瓶、屋根瓦、ガラス片、木片等々)がゴロゴロしていて、これじゃ、作付できる状態じゃないですね。ボラ総動員、人海戦術で撤去作業です。TVの映像見て「ああ、片付いた」なんて誤解ですね。
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ボラ感謝です (OSATO)
2012-05-10 12:36:24
>Werderさん

ああ、内部外部被ばくについてのコメントは、あくまで一般論を意識しての発言です。
よく外部被ばくより内部被ばくの方が深刻であるという言説もありますが、私はどちらも変わりないという説を支持しておりますので、今回がたとえ内部被ばくであったとしても、結果は変わりなかったろうなと思っています。

それよりWerderさんはボランティアもなされていたんですね。感謝致します。
特に遠く離れた関西圏では現場の実態が中々理解されていない様です。

>TVの映像見て「ああ、片付いた」なんて誤解ですね。

こういうのはやはり、実際に自分の目で見てみるという事が大事ですね。報道ではほんの一面しか紹介されませんから。
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こんにちは (りらくま)
2012-05-12 12:48:24
私は以前から中川准教授の小冊子を読んで中川准教授のことは知っておりました。
間違った情報で感情論で押し付ける人が大変多いのが残念ながら事実だと思います。中川准教授のように専門に通じてる方の著書を読まれたら本当に励みにもなると思いますし。中川准教授それでも批判がありました。悲しい話だと思いますし、風評被害に負けずに私達も東北の復興を助けて行きたいと思います。

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現状の理解が大切 (OSATO)
2012-05-13 12:46:55
いらっしゃいませりらくまさん、始めまして。

不安を煽る人達からは中川さんも御用学者扱いされてしまって、こういう状況を見るにつけ本当に悲しくなってしまいますね。皆現場で一生懸命やっているというのに。
こういうのは、過去の事故と比べて福島県が今どんな状態なのかという事を理解しない人が多いのが問題であるとも思います。
どこぞの市長さんも随分事実誤認の発言をなされているようですし、本当に困ったものです。↓
http://leika7kgb.blog114.fc2.com/blog-entry-755.html

今度こんな本も読んでみようかと思っていましたので、ついでにここでも紹介させてもらいます。
「福島 嘘と真実―東日本放射線衛生調査からの報告 (高田純の放射線防護学入門シリーズ)」 ↓
http://www.amazon.co.jp/dp/4860034171
ここのカスタマーレビューも読む事をお薦めします。
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