ふと……現れた野々野足軽が視線を向けた気がした。それは小さな野々野小頭に……ではなくて、今の野々野小頭に……だ。一瞬ビクッとしたけど――
(気のせい?)
――そんな風に野々野小頭が思うほどに彼は……兄である野々野足軽は反応することはなかった。まるでたまたま視線が交差したかのように彼はすぐに泣いてる幼い野々野小頭へと視線を向けた。
そして頭をポンポンとする。
「どうした小頭?」
そんな風に接する兄である野々野足軽を見て彼女は思う。無意識にその手を頭を置いて……
(いっつもそれだよね……)
そう思ってた。懐かしい記憶。まあそうはいっても、二年前くらいまではよくやられてた気はする野々野小頭だ。そう、兄である野々野足軽を避けだしたのは野々野小頭が中学に入ってからだ。
そこで周囲に影響されて、家族と必要以上に仲良くするのは恥ずかしいって……思ってしまってた。だから……自分から兄に近づくのをやめるようにしてた。
でも……目の前の自分は……野々野小頭は……
(羨ましい……)
そんな風に思ってる自分がいた。いつの間にかやられなくなってたそのなナデナデ……それは自分の特権で……妹である証だと……そう思ってる野々野小頭だ。
だからこそ……それがたとえ幼いころの自分でも……今の自分でなかったらそれが自分だとしてもやきもちが浮かんでくる。
(なんで……私は……別に今更……あんな奴……)
そんな風にこの胸に湧き上がる思いを否定しようとする野々野小頭。なにせ自分から離れた兄に、今更またかつてのように甘えるなんてできるはずもない。
だからこんな思いはどこかに捨て去りたい……なのに……だ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
そんな事をいってさっきまで泣いてたのに満面の笑みになってる幼い野々野小頭。その顔はとても純真で嬉しそうで……そんな顔を見せないでほしいと思った。今の彼女のはひねくれた感じでしか兄と接することができないから。
そんな事を思ってると、また目が合う。野々野足軽とだ。そして幼い小頭を撫でてる手とは反対の手を差し出してくる。
(なによ……それ)
そんな風に思ったけど、小頭の足は自然と進んでた。そして膝をついて、頭を近づけてた。そして懐かしい感覚。それに身を委ねるように目を閉じて……野々野小頭はいった。
「ごめん。お兄ちゃん」
それはずっと喉につっかえてた言葉だった。
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