私とひよこは午後、テントを持って海へ行った。だが今日の海はあまり美しくなかった。
昨日土砂降りの雨が降ったからだ。残念だ。
そこで私が図書館へ行こうと言った。いいアイデアだ。
ひよこは子供用の本が好きだ。私は大きくて、分厚くて、重くて、立派な本が好きだ。シャチだからな。
図書館はジパング海岸のそばにある。今日のジパング海岸は、海で泳いでいる人でいっぱいだった。濁っているのにな。哀れだ。
ジパング海岸には、とても大きなシャチがいた!
大きいねぇ!とひよこは笑いながら言った。
ひよこよ!あの大きくて立派なシャチを買うのだ!と私は言った。
はあ!?なんで!?とひよこは叫んだ。
私はあの大きなシャチに機種変更する。私は自由なシャチだから簡単だ。SIMフリーだからな。スムーズにデータ移行する。問題ない。
なんかよくわからないけど、あんな大きいの部屋の中に置く場所ないよ!とひよこは言った。
残念だ。
これが我々の愛する図書館だ。
ジパング海岸から自転車で3分ほどだ。
この美しく巨大な図書館と、海が近くにあるというので、我々はこの街に引っ越してきた。建築家は、貴族の書斎をイメージして設計したと言っている。
確かに、この図書館には、いるのだ。ヤツが、棲んでいる。
図書館の奥、我々が到底辿り着けない深部に、本のページとページの間でしか生きる事ができぬ、貴族の末裔が…
多分な。
図書館で私はまた、分厚くて立派な本を借りた。グーグル、ネット覇者の真実、という本だ。
ワクワクするタイトルだ。
ひよこには、紅玉いづきという作家の本をすすめた。お気に入りのフォロワ殿が勧めていたからだ。感謝する。
推薦されていた本はなかったが「青春離婚」という本があった。高校生の恋愛物語だ。スマホやアプリやTwitterが出てくる。ひよこは今ベッドの上で読んでいる。良かったな。
留守番しているクマへのお土産に絵本も1冊借りてやった。ひよこはどんくまさんが大好きだ。昔、サイン会に並んだ事がある。
ついでに近くの直売所に寄り、バラと野菜を買った。
とてつもなく大きなズッキーニがあった!とてもとても大きいのだ!200円だ。
ズッキーニは小さなズッカと言う意味だ。そしてズッカと言うのはかぼちゃのことだ。だがこれはズッカより大きい。
図書館の帰り、わたしとひよこは、とてもいい匂いのするバラの花束と、大きな大きなズッキーニと、素晴らしい三冊の本を持って、満ち足りた幸せな気分で、自転車を走らせていた。
我々の前を、補助輪をつけた小さな自転車が走っていた。
小学一年生位の男の子が乗っている。クジラの描かれた赤いTシャツを着ていた。あのクジラのTシャツかわいいね、とひよこは言った。ふん、クジラか。と私は言った。そして我々の自転車はその子供を追い越した。
だがその直後、子供は自転車を漕ぐスピードを上げた。そして我々を追い抜いた。
私にはわかった。
挑戦状が叩きつけられたのだ!
レースは始まっているのだ!
ひよこよ!もっとしっかりと漕ぐのだ!あの子供に抜かれてはならん!私は言った。
は?ひよこは言って勢いで少しスピード上げた。我々が子供を追い抜いた。
だが、子供は負けていない。再び我々を追い越した。ひよこにも何が起きているかわかったようだ。
補助輪をつけた幼児と侮ってはならん!これは勝負なのだ!真剣勝負だ!あれはただの幼児ではない、おとこだ!漢なのだ!行け!行くのだひよこ!
大学の食堂の横の車通りの少ない車道の左側を、われわれは、抜きつ抜かれつしながら走った。本とズッキーニが重い。だが、本気で走れば勝てるはずだ。相手は年端もいかない小学生、補助輪の音を響かせて走る幼児なのだから!
だが目の前に交差点が迫ったのでひよこは一瞬、躊躇した。突然横から車が現れて我々と子供をひき殺してしまうかもしれない。
ひよこがペダルを漕ぐ足を僅かに緩めたその瞬間、子供は渾身の立ち漕ぎをして、我々を颯爽と抜き去った。
そして私は見たのだ。その直後、交差点を左折した子供がこちらを一瞥して、勝ち誇ったように笑ったのを!白い乳歯がキラリと光った。
NooooooOO!!!
バカめ!何故負けるのだ!敗北だ!完全な敗北ではないか!こんな屈辱があってたまるか!ひよこめ!子供とあなどるからだ!以前、ママチャリに乗った見知らぬ大学生と新橋→品川間を戦って勝ち抜いたお前が!あんな幼児にしてやられるとは!!
ありえん!!!
ひよこは今、何事もなかったように、借りてきた本をよんでいる。気に入ったようだ。感動して少し泣いている。
わたしは泣かない。シャチだからだ。しかし、あのクジラの描かれた赤いTシャツが目の前をチラチラして今夜は眠れそうにない。
ひよこめ!ひよこめ!愚かなひよこめ!子供めぇぇぇ!!
昨日土砂降りの雨が降ったからだ。残念だ。
そこで私が図書館へ行こうと言った。いいアイデアだ。
ひよこは子供用の本が好きだ。私は大きくて、分厚くて、重くて、立派な本が好きだ。シャチだからな。
図書館はジパング海岸のそばにある。今日のジパング海岸は、海で泳いでいる人でいっぱいだった。濁っているのにな。哀れだ。
ジパング海岸には、とても大きなシャチがいた!
大きいねぇ!とひよこは笑いながら言った。
ひよこよ!あの大きくて立派なシャチを買うのだ!と私は言った。
はあ!?なんで!?とひよこは叫んだ。
私はあの大きなシャチに機種変更する。私は自由なシャチだから簡単だ。SIMフリーだからな。スムーズにデータ移行する。問題ない。
なんかよくわからないけど、あんな大きいの部屋の中に置く場所ないよ!とひよこは言った。
残念だ。
これが我々の愛する図書館だ。
ジパング海岸から自転車で3分ほどだ。
この美しく巨大な図書館と、海が近くにあるというので、我々はこの街に引っ越してきた。建築家は、貴族の書斎をイメージして設計したと言っている。
確かに、この図書館には、いるのだ。ヤツが、棲んでいる。
図書館の奥、我々が到底辿り着けない深部に、本のページとページの間でしか生きる事ができぬ、貴族の末裔が…
多分な。
図書館で私はまた、分厚くて立派な本を借りた。グーグル、ネット覇者の真実、という本だ。
ワクワクするタイトルだ。
ひよこには、紅玉いづきという作家の本をすすめた。お気に入りのフォロワ殿が勧めていたからだ。感謝する。
推薦されていた本はなかったが「青春離婚」という本があった。高校生の恋愛物語だ。スマホやアプリやTwitterが出てくる。ひよこは今ベッドの上で読んでいる。良かったな。
留守番しているクマへのお土産に絵本も1冊借りてやった。ひよこはどんくまさんが大好きだ。昔、サイン会に並んだ事がある。
ついでに近くの直売所に寄り、バラと野菜を買った。
とてつもなく大きなズッキーニがあった!とてもとても大きいのだ!200円だ。
ズッキーニは小さなズッカと言う意味だ。そしてズッカと言うのはかぼちゃのことだ。だがこれはズッカより大きい。
図書館の帰り、わたしとひよこは、とてもいい匂いのするバラの花束と、大きな大きなズッキーニと、素晴らしい三冊の本を持って、満ち足りた幸せな気分で、自転車を走らせていた。
我々の前を、補助輪をつけた小さな自転車が走っていた。
小学一年生位の男の子が乗っている。クジラの描かれた赤いTシャツを着ていた。あのクジラのTシャツかわいいね、とひよこは言った。ふん、クジラか。と私は言った。そして我々の自転車はその子供を追い越した。
だがその直後、子供は自転車を漕ぐスピードを上げた。そして我々を追い抜いた。
私にはわかった。
挑戦状が叩きつけられたのだ!
レースは始まっているのだ!
ひよこよ!もっとしっかりと漕ぐのだ!あの子供に抜かれてはならん!私は言った。
は?ひよこは言って勢いで少しスピード上げた。我々が子供を追い抜いた。
だが、子供は負けていない。再び我々を追い越した。ひよこにも何が起きているかわかったようだ。
補助輪をつけた幼児と侮ってはならん!これは勝負なのだ!真剣勝負だ!あれはただの幼児ではない、おとこだ!漢なのだ!行け!行くのだひよこ!
大学の食堂の横の車通りの少ない車道の左側を、われわれは、抜きつ抜かれつしながら走った。本とズッキーニが重い。だが、本気で走れば勝てるはずだ。相手は年端もいかない小学生、補助輪の音を響かせて走る幼児なのだから!
だが目の前に交差点が迫ったのでひよこは一瞬、躊躇した。突然横から車が現れて我々と子供をひき殺してしまうかもしれない。
ひよこがペダルを漕ぐ足を僅かに緩めたその瞬間、子供は渾身の立ち漕ぎをして、我々を颯爽と抜き去った。
そして私は見たのだ。その直後、交差点を左折した子供がこちらを一瞥して、勝ち誇ったように笑ったのを!白い乳歯がキラリと光った。
NooooooOO!!!
バカめ!何故負けるのだ!敗北だ!完全な敗北ではないか!こんな屈辱があってたまるか!ひよこめ!子供とあなどるからだ!以前、ママチャリに乗った見知らぬ大学生と新橋→品川間を戦って勝ち抜いたお前が!あんな幼児にしてやられるとは!!
ありえん!!!
ひよこは今、何事もなかったように、借りてきた本をよんでいる。気に入ったようだ。感動して少し泣いている。
わたしは泣かない。シャチだからだ。しかし、あのクジラの描かれた赤いTシャツが目の前をチラチラして今夜は眠れそうにない。
ひよこめ!ひよこめ!愚かなひよこめ!子供めぇぇぇ!!