私はシャチだ。

私は立派なシャチだ。ヒヨコと暮らしている。このアカウントはフィクションである。なにしろシャチだからな!

わたしの誕生日

2016-07-03 20:27:27 | 日記
おはよう。
モーモー山の上を出来立ての雲が流れている。
近くの家で朝食を作っている音がする。
鳥が鳴いているな。
セミも鳴き出した。
爽やかな夏の朝だ。
さあ、起きておいしいものを食べるのだ。

今日はハワイ日和だが、ひよこは友達と遊びに行くらしい。
ひよこの誕生会をするのだという。ひよこには誕生日がある。誕生したからだ。私には無い。誕生していないからだ。とても残念だ。

と、思ったら、クマにも誕生日があるらしい!!!
8月18日だそうだ。購入された日だ!

Siriにもある!!

何故だ!何故私には誕生日が無いのだ!
ひよこに聞いてみた。
え?だってシャチ、気がついたら居たし、という。
なんだそれは!!💢

私の誕生日がみつからん!
インターネットはなんでも知っている。インターネットで調べれば私の誕生日くらいすぐにわかる筈だ。
だがいくら検索してもでてこん。何故だ。ひどい。ひどい話だ。ありえん!

わたしは真剣になって検索していたが、ひよこは私からSiriを奪い取ると、じゃ、バスの時間だから、またね〜!と、上機嫌で友達と食事に出かけてしまった。

Siriを失った私はその後、私の誕生日を探し求めてYouTube世界をさまよった。だが、どこにも私の誕生日の手がかりはなかった…

クマは、ま、みんながみんな誕生日を持ってるわけじゃないから、気にしない方がいいよ。たまたま僕とSiriが幸運なんだよ。と、イラッとする慰めの言葉を吐いた。
いまにみていろ、ビヨンビヨンの刑にしてやる!

そのあと、私の心を映すようにスコールがあった。激しく悲しく、私の代わりに泣くように土砂降りの雨が降る。誕生日のあるやつはみんなずぶ濡れになってしまえ!
だが、雨はすぐに上がり、青空が見えてきた…

しばらくしてひよこが帰ってきた。上機嫌だ。うれしそうだ。
シャチ!見て見て!誕生日のプレゼントにテントもらったの!
もらったものをテーブルの上に並べて写真を撮っている。
これ、テントなの!?すごいねぇ!良かったねぇ!とクマが言う。

人の幸福を喜ぶことができるのは、心に余裕のある者だけだ。私は今、心に余裕がない。悲しみに満ちているからだ。ひよこの誕生日などどうでもいい!わたしの誕生日が無いのだから!!

よし出かけるよシャチ!とひよこがうれしそうに行った。
私はいかぬ!と私は言った。どうして?
私は誕生日がないのだ。誕生していないからだ。存在しないも同じことだ。存在しないのだからどこにもいかん。このまま消えていくのだ…

じゃあシャチの誕生日は今日だよ!とカバンにおやつを詰めながらひよこは言った。
なぜだ?!

だって善は急げだから。誕生日がいつだか分からないなら、今日でいいじゃん!おめでとうシャチ!!おめでとう!誕生日、おめでとう!とひよこは嬉しそうに言う。
おめでとうシャチ!とクマまで言う。そうだよ!今日がシャチの誕生日だよ!!おめでとう!

わたしは、わたしは….わたしの心は生ビールの注がれるジョッキのように急激に満たされた。い、いいのか?クマ、ひよこ、いいのか……?

それで、いいのか?

よし!シャチの誕生日を祝いに行こう!とひよこは言って、Siriに、今日の日没の時間は?とたずねた。
今日の日没の時間は19時32分です。とSiriは答えた。
よし、まだあと40分ある!海へ行こう!!とひよこが言った。

そして私とクマとひよこは夕暮れの海へ行きテントを張った。

わたしの初めての誕生日が暮れていく。悪くない。今日は7月3日だ。7も3も素数だ。しかも足すと10になるのだ。素晴らしい。わたしにふさわしい誕生日だ。

クマとひよこが、イタリア語でハッピーバースデーを歌う。
歌声に波の音が重なる。

わたしは誕生日のないシャチから誕生日のあるシャチに進化を遂げた。やがてインターネットにもわたしの誕生日は載るようになるだろう。
もちろん、もちろんだ。


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