松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆条例による行政?(三浦半島)

2013-07-04 | 1.研究活動
 要綱設置の懇話会に対する違法判決が続いている。奇妙なことであるし、あまりにも自治の実態とかい離している。

 「法律」による行政は、行政運営の基本である。
 歴史的に見れば、国王の専横を排除するために、市民の代表で構成される議会の許しがなければ、国王は市民に賦課を課し、権利を制限することができないこととした。それゆえ、国民の代表者で構成される国会は、「国権の最高機関」とされ、「唯一の立法機関」とされる(憲法41条)。国王がいなくなった今日でも、行政の専横から市民を守るための原則として意義がある。

 他方、地方自治では様子が異なる。日本の地方自治制度は、二元代表制で、執行機関である市長も、議事機関である議会も、いずれも市民によって直接選挙される。国とは違って、議会だけでなく市長も民主的な裏付けのある市民の代表機関である。議会が最高機関ではない。

 したがって、国権の最高機関である国会がつくる法律と一方の市民代表である議会がつくる条例とは、その優位性において、本質的な違いがある。地方自治では、講学上、条例と規則は対等とされるが、それはこの二元代表制に由来する。ともに市民の代表がつくる法規範であるから、対等になるのである。「条例による行政」という原理は、当然には導き出されるものではない。

 全国で、自治基本条例や市民参加条例を検討するための懇話会が、住民監査の対象となり、住民訴訟が提起されて、違法とされている。たしかに、地方自治法第138条の4第3項で「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより・・・・諮問又は調査のための機関を置くことができる」とされているが、何でもかんでも条例設置でなければいけないという結論は、国のシステムと混同しているか、あるいは地方自治がよく分かっていないかというべきだろう。

 議会は何でもできるわけではないのは、地方自治法第96条の議決事項を見ればわかる。議会の議決事項は限定列挙されているが、これは議会は、執行権の自律性を侵害することはできず、議決の対象となるのは、市政に関係する基本的事項に限られているということである。
 同じことは、執行部が設置した懇話会についても言うことができる。何でもかんでも議会の承認が必要にはならないのである。

 では、どんな場合に条例設置するのか、そのメルクマールは、いくつか考えられる。
 ・市政の重要事項に関する検討は条例設置というのも一つだろう。
 ・私は、議会に裁量がないものについては条例設置、他方、議会が判断でき、修正ができるものについては、条例設置である必要はないと考えている。
 少なくとも、執行部の自律権に属するような事項について、それについても、議会の承認=条例設置というのは、地方自治法の趣旨に反することになるのである。

 もし判決の論理で行けば、行政が政策決定の判断材料とするために行っている要綱設置の懇話会、委員会はすべて違法ということになってしまう。そうすると実務はストップしてしまうだろう。そうなると、広く外部の知見を求めることができず、政策判断も浅薄なものになってしまう。これは市民全体にとってハッピーなものではないことは言うまでもない。さまざまな視点から、検討の素材を出してもらい、判断材料とした方がずっとよいと思う。

 ただ、この問題に対する行政側の反応は弱いようである。もし誰かが、要綱設置の委員会に対して、ことごとく監査請求をして、ショック療法を与えれば、自治体もあわてて、国への改正要望に動くのかもしれない。しかし、それでは、政策マンの立つ瀬がない。問題に気づいたら、自らただしていくのが政策マンの矜持である。
 ここでは政策法務の出番である。たしかに文言は、「条例の定めるところにより・・・・」であるが、趣旨を踏まえて、限定解釈すれば穏当な結論になるだろう。

 全国の自治体職員が集まった政策法務研究会というのがあり、私もメンバーである。今年も8月に大津で開催される。しかし、私は、最近、足が遠のいてしまっている(今年は先約があるため)。それは、政策法務が当初のダイナミックさを失い、霞が関法務の二番煎じのようなことをやっているように感じているからである。むろん、ただでさえ、自治体職員の自主研究環境が厳しくなっているなか、こうした研究会に出席する自治体職員には、本当に、「ごくろうさま、大いに頑張ってほしいと」と思っているが、それでも、昨今の政策法務の動向を残念に思っているのも事実である。

 ただ、人のことをあれこれ言うのは趣味に合わず、自ら範を示すべきと考えているので、私もこのテーマに関する論文を早く書かないといけない。「書くぞ、書くぞ」といってそば屋の出前のようなことを言ってきたが、有言実行で書くのみだろう。ともかくがんばろう。
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2 コメント

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附属機関の問題 (hoti-ak)
2013-07-06 19:06:44
御無沙汰しています。
私自身それほど政策法務の動向を注視しているわけではありませんが、無難で穏当な解釈を求めるような傾向になってきている感じは受けています。それは、上記の例もそうですが、最近の裁判所の判断はよく分からないものもあり、それも原因なのかと勝手に思ったりしています。
附属機関の問題は関心を持ってみていましたので、その判例についても考えてみたいと思います。
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問題は監査委員からですね (マロン教授)
2013-07-06 22:48:55
 こんにちは。お忙しいですか?hoti-akさんに、声をかけようと考えた企画があったのですが、音沙汰がない状態で、ちょっとペンディングです。
 さて、この問題は、裁判所の問題もありますが、その前段で、監査請求を受けた監査委員が、裁判所と同じような判断をしますね。
 それと、対応策として付属機関設置取りまとめ条例がありますが、これもよく分からないですね。
 研究、楽しみにしています。
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